産婦健康診査とは?制度の目的と背景
佐藤
産婦健康診査の公費助成って、最近よく耳にするんですけど、これって産後のお母さんのための制度ですか?
室谷
そうです。産後間もない時期のお母さん、つまり「産婦」を対象に、健康診査の費用を国と市区町村が一緒に助成してくれる制度です。産後うつの早期発見と予防を大きな目的としています。
佐藤
産後うつって、どれくらいの方がなるんですか?
室谷
こども家庭庁の調査(令和5年度)によると、産後1か月までの産婦のうち、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)で9点以上を示した割合は約9.8%でした。10人に1人近くが「うつのリスクあり」という判定を受けているんです。
佐藤
えっ、10人に1人? それは知らなかったです。
室谷
産後のホルモン変化、睡眠不足、初めての育児不安——こうした要素が重なりやすい時期だからこそ、早い段階で専門家がキャッチして支援につなぐことが大切なんです。この制度はその「最初の網」の役割を担っています。
佐藤
なるほど、ただ体の回復を診るだけじゃなくて、心のケアも含まれているんですね。
室谷
まさにそうです。健診を受けた結果は自治体に提出され、必要に応じて産後ケア事業や家庭訪問などの支援につなげる仕組みになっています。制度が「受診して終わり」ではなく、支援の入口になるのが大きな特徴です。
佐藤
この制度はいつから始まったんですか?
室谷
産婦健康診査への公費助成は平成29年度(2017年度)から国の補助事業として始まり、令和元年度(2019年度)からは法定化されました。母子保健法の改正によって、市区町村が実施する事業として位置付けられたんです。
佐藤
割と最近の制度なんですね。
室谷
そうです。それまでの産後健診は、産後1か月健診だけが公費の対象で、産後2週間という「一番きつい時期」の健診は自費でした。研究や現場の声によって「2週間健診こそ大事」という認識が広まり、制度として整備されていったんです。

助成の仕組みと助成額
佐藤
実際にいくら助成してもらえるんですか?
室谷
1回の受診につき上限5,000円の助成が受けられます。産後2週間ごろと産後1か月ごろ、それぞれ1回ずつ、合計2回まで対象になります。つまり最大で合計10,000円の助成ということになります。
佐藤
2回で最大1万円ですか。でも、健診費用が5,000円を超えた分は自己負担になるんですよね?
室谷
そうです。医療機関によっては5,000円を超える場合もあって、超過分は自己負担になります。ただ、保険診療外の健診が対象なので、通常の保険診療とは別の枠組みです。
佐藤
費用の負担は国と自治体が半分ずつって聞いたんですが?
室谷
正確にはそうです。助成額の財源は国と市区町村が1/2ずつ負担しています。お母さんから見れば「自治体が助成してくれる制度」ですが、その半分は国のお金で賄われているわけです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 1回につき上限5,000円 |
| 受診回数 | 産後2週間ごろ・産後1か月ごろ、各1回(合計2回) |
| 最大助成合計 | 10,000円(5,000円×2回) |
| 財源 | 国1/2・市区町村1/2 |
| 超過分 | 自己負担 |
| 対象外 | 健康保険が適用される診療・検査 |
佐藤
じゃあ、健診費用が3,000円だった場合は3,000円の助成になるんですか?
室谷
そうです。助成額は「上限5,000円」ですが、実際の費用が5,000円未満だった場合は、かかった費用がそのまま助成されます。「5,000円もらえる」というより「5,000円を上限に費用を助成してもらえる」というイメージです。
佐藤
自治体によって助成の仕方は違うんですか?
室谷
基本的な助成額(1回5,000円上限)は国の制度で定められていますが、自治体によっては上乗せ助成をしているケースもあります。たとえば一部の自治体では市独自の予算で上限額を引き上げたり、追加の健診項目を公費負担にしたりしています。お住まいの自治体のホームページで確認してみると、思ったより手厚いことがある場合も。
佐藤
そうなんですね!じゃあ、あと対象者・申請要件はどうなっていますか?
対象者と申請要件
室谷
対象になるのは、主に2つの要件を満たすお母さんです。1つ目は健診を受診する日に市区町村に住民登録があること。2つ目は受診結果を自治体に提出し、必要に応じた支援を受けることに同意することです。
佐藤
住民登録のある市区町村の健診じゃないといけないんですか?里帰り出産の場合はどうなるんでしょう。
室谷
里帰り出産の場合は少し注意が必要です。原則として住民票のある自治体から交付された受診票を使って受診することが前提ですが、里帰り先の医療機関で受診票が使えなかった場合は、後日、実費を支払って還付申請する方法が多くの自治体で認められています。
佐藤
里帰り先でも受けられるなら安心ですね。申請の期限はありますか?
室谷
還付申請の期限は自治体によって差がありますが、出産日から1年以内としているところが多いです。里帰り中の領収書は必ず保管しておきましょう。
佐藤
他に申請条件で気をつけることはありますか?
室谷
同意要件について、もう少し具体的に説明しますね。「受診結果を自治体に提出し、必要に応じて支援につなげることに同意する」というのは、健診でEPDSスコアが高かったり、育児環境で気になる点があったりした場合に、保健師さんが連絡してくることを了解するということです。「プライバシーが心配」という方もいますが、これは支援をより早く届けるための仕組みで、強制的に何かをされるわけではありません。
:::warning{title="里帰り出産の方は要確認"}
- 住民票のある自治体の受診票が使えない医療機関で受診した場合は「還付申請」が必要
- 申請には領収書・明細書の原本が必要(紛失すると申請不可の場合あり)
- 還付申請期限は多くの自治体で出産日から1年以内
- 受診前に必ず住民票のある市区町村の母子保健窓口に確認する :::
佐藤
なるほど、領収書は絶対に捨てちゃダメですね。それと、健診項目も教えてもらえますか?
健診で受けられる項目
室谷
産婦健康診査で受けられる主な健診項目は次のとおりです。身体面と心理面の両方をチェックするのが特徴です。
| 分類 | 主な健診項目 |
|---|---|
| 身体面 | 問診・診察(子宮復古・悪露・乳房の状態確認)、体重測定、血圧測定、尿検査(尿蛋白・尿糖) |
| 授乳・育児 | 授乳状況の確認、育児環境・生活環境の問診 |
| 精神面 | エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)の実施 |
佐藤
エジンバラ産後うつ病質問票というのは、どういう検査ですか?
室谷
10項目の質問に答えるセルフチェック式の問診票です。「気分が落ち込んだり、惨めな気持ちになっていますか」など、産後の精神状態を確認する問いが並んでいます。点数が9点以上だとうつのリスクがあると判定され、医師や保健師が詳しく話を聞いたり、サポートにつないでくれたりします。
佐藤
自分でうつだと思っていなくても、点数に出ることがあるんですね。
室谷
あります。「なんとなくしんどい」「育児が楽しくない気がする」という感覚でも点数に出てくることがあります。だからこそ、産後2週間という早い時期に専門家が関わることに意味があるんです。
佐藤
EPDSで高い点数が出た場合、その後どうなるんですか?
室谷
まず担当の医師から直接話を聞いてもらえます。「どんな状況か」「誰かサポートできる人はいるか」などを確認したうえで、自治体の保健師に受診結果が共有されます。保健師から電話連絡や訪問があり、必要に応じて産後ケア事業の施設利用や、精神科・産婦人科へのつなぎが行われます。
佐藤
「点数が高かったから即入院」とかじゃなくて、段階的なフォローが入るんですね。
室谷
そうです。まずは「話を聞いてもらう」ことが最初のステップです。EPDSはあくまでスクリーニングツールで、点数が高い=産後うつと診断されるわけではありません。でも「誰かに話す機会」を作るための大切なきっかけになります。
:::pointbox{title="EPDSのポイント"}
- エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale)は1987年にイギリスで開発された国際標準のスクリーニングツール
- 日本語版は1996年に三重大学の研究者が翻訳・検証
- 10項目の自記式質問票で、所要時間は5分程度
- 9点以上で「うつのリスクあり」として専門的フォローの対象
- 受診票と一緒に渡される「お母さんの気持ち質問票」がこれに相当する自治体も多い :::
佐藤
健診項目が決まっているんですね。じゃあ、受けられる内容は全国共通なんですか?
室谷
基本的な項目は国が定めていますが、実施時期や受診票の具体的な取り扱いは自治体によって異なります。たとえば産後2週間健診を実施していない医療機関もあるので、かかりつけの産院に事前に確認することをおすすめします。
佐藤
実施していない病院もあるんですか。それは気をつけないといけないですね。どうやって受診票を手に入れるんですか?
受診票の取得と申請の流れ

室谷
ほとんどの場合、母子健康手帳の交付時に一緒に受診票を渡してもらえます。「産婦健康診査受診票」が母子健康手帳の別冊についているのが一般的です。
佐藤
直接請求方式なら、病院の窓口で受診票を渡すだけで助成が受けられるんですね。
室谷
そうです。大多数の自治体ではこの方式を採用しているので、お母さんが後から申請手続きをする必要はありません。受診票を忘れずに持参するだけでOKです。
佐藤
シンプルで助かりますね。ちなみに、受診票を紛失した場合はどうなるんですか?
室谷
自治体によっては再発行ができない場合もあります。受診票は母子健康手帳と一緒に大切に保管してください。もし紛失したと気づいたら、早めに市区町村の母子保健担当窓口に相談することをおすすめします。
:::warning{title="受診票を紛失した場合の注意"}
- 自治体によっては受診票の再発行ができない場合がある
- 紛失に気づいたら、すぐに住民票のある市区町村の母子保健窓口に相談
- 再発行不可の場合は自費で受診→還付申請のルートになることがある
- 還付申請は出産日から1年以内が多いが、自治体によって異なるため必ず確認 :::
よくある注意点と審査・活用のコツ
佐藤
何かこの制度を活用するうえで気をつけることはありますか?
室谷
いくつか注意点があります。まず、健康保険が適用される診察や検査は助成の対象外です。たとえば産後に傷口が化膿して治療が必要になった場合、その治療費は保険診療なので受診票では賄えません。
佐藤
なるほど、健診の費用専用なんですね。それ以外は?
室谷
赤ちゃんの健診費用も対象外です。産婦健康診査はあくまでもお母さんの健康診査のための助成なので、赤ちゃんの体重測定や診察が同時に行われた場合でも、その部分は助成対象にならない自治体がほとんどです。
佐藤
お母さん専用の助成なんですね。じゃあ、産後2週間健診を受けようとしたら病院が対応していなかった、という場合はどうするんですか?
室谷
その場合は、産後2週間健診が実施できる近くの医療機関を探す必要があります。一部の自治体では、産後2週間健診は実施している医療機関が限られているため、出産前から受診先を確認しておくのが賢い方法です。かかりつけの産院に確認するのが一番早いです。
佐藤
外国籍の方でも対象になりますか?
室谷
住民票がある方であれば、外国籍の方でも対象です。EPDSの質問票についても、多くの言語に翻訳されたバージョンが存在しています。言語の不安がある場合は、受診前に自治体の母子保健窓口に相談してみてください。通訳サービスを手配してもらえる自治体もあります。
:::pointbox{title="制度をうまく活用するための3つのポイント"}
- ①受診票は出産前に母子健康手帳と一緒に受け取っておく — 産後の忙しい時期に探し回らないよう、交付時にセットで準備
- ②産後2週間健診の対応可否を出産前に産院に確認する — 実施していない場合は別の医療機関を産前に探しておく
- ③里帰り中の領収書はすべて保管する — 「あとで捨てよう」は厳禁。還付申請に必ず使う :::
佐藤
事前の準備が大事なんですね。そういえば、EPDSで9点以上になった場合は、その後どんな支援が受けられるんですか?
室谷
受診結果が自治体の母子保健担当部門に共有され、保健師や助産師が電話連絡や家庭訪問で状況を確認してくれます。必要に応じて産後ケア事業のケアセンター利用や、医療機関への受診勧奨なども行われます。
佐藤
健診で終わりじゃなくて、そこからの支援につながるんですね。
室谷
それがこの制度の一番の価値だと思います。「受けるだけで意味がある」制度ではなく、支援のきっかけを作るための健診として設計されているんです。精神的にキツイとき、「大丈夫ですか?」と声をかけてもらえるだけで変わることがありますから。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 産婦健康診査の公費助成 |
| 実施主体 | 市区町村 |
| 対象者 | 受診日に市区町村に住民登録がある産婦 |
| 対象時期 | 産後2週間ごろ・産後1か月ごろ(各1回、合計2回) |
| 助成額 | 1回につき上限5,000円(合計最大10,000円) |
| 財源 | 国1/2・市区町村1/2 |
| 受診票の入手 | 市区町村窓口で母子健康手帳交付時に受け取る |
| 申請方法 | 多くは直接請求方式(受診票を医療機関に提出) |
| 里帰りの場合 | 自費受診後、還付申請が可能(出産日から1年以内が多い) |
| 問い合わせ先 | お住まいの市区町村 母子保健担当窓口 |
| 公式情報URL | 厚生労働省 出産なび |
:::pointbox{title="お問い合わせ先"}
- お住まいの市区町村の母子保健担当窓口(保健センター・市区町村役所の子育て担当課等)
- 厚生労働省 出産なびサイト :::
産後を支える関連制度との比較
佐藤
この制度と似たような産後の支援制度が他にもあると聞いたんですが、どう違うんですか?
室谷
いくつか組み合わせて利用できる制度があります。整理してみましょう。
| 制度名 | 対象 | 内容 | 助成額の目安 |
|---|---|---|---|
| 産婦健康診査の公費助成 | お母さん | 産後2週間・1か月の健康診査 | 1回最大5,000円×2回 |
| 産後ケア事業の利用料助成 | お母さん・赤ちゃん | 宿泊型・通所型・訪問型ケア | 自治体ごとに異なる |
| 新生児聴覚検査の費用助成 | 赤ちゃん | 先天性難聴のスクリーニング | 自治体ごとに異なる |
| 1か月児健康診査の費用助成 | 赤ちゃん | 生後1か月の発育確認健診 | 自治体ごとに異なる |
佐藤
産後ケア事業はどう違うんですか?
室谷
産婦健康診査が「医療機関で短時間の健診を受ける」ものなのに対し、産後ケア事業は「助産師や看護師のいる施設に泊まったり通ったりして、育児サポートを受ける」サービスです。育児の実践的なサポートを受けたい場合は産後ケア事業の方が向いています。
佐藤
赤ちゃんの健診は別の制度なんですね。
室谷
佐藤
じゃあ産後は、お母さんの健診・赤ちゃんの健診・産後ケアと、3つの柱があるわけですね。
室谷
まさに。産婦健康診査で心身の状態をチェックして、産後ケア事業でしっかりと休める環境を作って、赤ちゃんの健診はそれぞれの専門の健診で——というように、制度を組み合わせて使うことで産後を乗り越えやすくなるんです。
佐藤
「使えるものは全部使う」という発想が大切なんですね。
室谷
特に初産のお母さんは「こんな制度があるなんて知らなかった」という方が多いです。妊娠届を出した時点で「何の受診票をもらえるか」「どんなサービスが使えるか」を一覧で確認しておくといいですよ。
よくある質問
佐藤
いくつか細かい質問もしていいですか?
室谷
もちろんです!
佐藤
帝王切開でも対象になりますか?
室谷
なります。産婦健康診査は経膣分娩・帝王切開に関わらず、産後間もない産婦が対象です。帝王切開後の回復を確認するうえでも、産後2週間の健診は特に重要です。
佐藤
流産・死産の場合はどうですか?
室谷
これは自治体によって対応が分かれます。国の制度上は「産後の産婦」が対象ですが、流産・死産後のグリーフケア(悲嘆のケア)として特別な対応をしている自治体もあります。詳しくは住民票のある市区町村に確認してください。
佐藤
多胎妊娠(双子など)の場合は回数が増えたりしますか?
室谷
産婦健康診査については、双子であっても受診回数はお母さん1人につき2回です。ただし双子の場合は体への負担が大きいため、医師の判断によって追加の健診が入ることはあります。その場合の費用は別途相談が必要です。
佐藤
受診票の期限はありますか?出産前に受け取っておいて、産後に忘れていた場合は?
室谷
受診票には有効期限があることが多いです。多くは「産後○か月以内」という設定になっています。自治体によって異なりますので、交付時に確認しておくか、使い忘れがないよう母子健康手帳の目立つ場所に挟んでおきましょう。
佐藤
2回目の産後1か月健診は、出産した産院で受けるのが普通ですか?
室谷
多くの場合は出産した医療機関で受けるパターンが多いですが、かかりつけの婦人科や産婦人科でも受診できることがあります。受診票が使える医療機関かどうかを事前に確認しておくのが安心です。
佐藤
産後パパ育休などを取っているパートナーが、健診に同席することはできますか?
室谷
一般的には同席できる医療機関がほとんどです。育児の不安をパートナーと一緒に確認できるので、可能であれば一緒に行くことをおすすめします。EPDSの結果をパートナーも知ることで、サポート体制を一緒に考えられますから。
佐藤
なるほど、家族で一緒に受けるメリットもあるんですね。
室谷
産後うつは本人だけの問題ではなく、家族全体で向き合うことが大切です。健診をきっかけに「どんな状態か」「何が一番しんどいか」を言語化する機会にもなります。
佐藤
丁寧に教えてもらえて、よくわかりました。産婦健康診査って、受診票を持って産院に行くだけでOKというシンプルな制度なのに、こんなに大事な役割を持っているんですね。
室谷
そうです。シンプルな仕組みながら、産後の一番つらい時期に「見えない不安」をキャッチするための大切な安全網です。受診票は捨てずに、必ず2回使いきるようにしてください。
佐藤
受診票は宝物ですね。ありがとうございました!
室谷
ぜひ詳細はお住まいの市区町村の母子保健窓口、または厚生労働省の出産なびサイトで確認してみてください。産後の一番きつい時期を、使える制度を最大限に活用して乗り越えてください!