「テレワークを導入してから、従業員の腰痛や体重増加の訴えが増えた」「リモート勤務が続く中でメンタル不調による休職者が出た」——人事・総務担当者から、こうした相談が増えています。テレワークは通勤時間の削減や育児との両立など多くのメリットをもたらした一方で、身体活動の著しい減少、孤立感、そして監督者とのコミュニケーション不足による職場ストレスといった健康課題を企業に突きつけています。本記事では、国内外の調査・論文をもとにテレワーク下の主要な健康課題を整理し、企業の経営者・人事・総務担当者が今すぐ着手できる対策の方向性を解説します。
テレワーク従業員が抱える健康課題:最新データが示す実態
厚生労働科学研究(甲斐裕子ら、2022〜2024年度)による約25%のテレワーク実施率を持つ労働者の調査では、テレワークの頻度が高いほど客観的な身体活動量が少なく、座位時間が長く、体力水準が低下する という相関が確認されました[1] 。さらに脂質代謝指標の悪化と筋骨格系疼痛の増加も報告されており、在宅勤務は生活習慣病リスクと身体的不調の双方に影響を与えることが示されています。
一方メンタルヘルスについては、産業環境保健大学の池上和則らが2020〜2021年にかけて6,956名の就業者を追跡した前向きコホート研究で、週4日以上テレワークする高頻度WFHグループは、上司や同僚からのサポートが低下し、職場ストレスが高まるリスクがある ことを示しました[2] 。同研究は「週3日以内のテレワークと出社の組み合わせが職場ストレス管理に適している可能性がある」と述べています。
国内調査でも、NIRA総合研究開発機構の第10回テレワーク実態調査(2023年10月時点)によると、全国のテレワーク実施率は13%(首都圏22%)で一定の定着を見せており[3] 、テレワーカーの健康管理は多くの企業にとって継続的な経営課題となっています。
図1:テレワーク下で企業が直面する主な健康課題の全体像
身体への影響:筋骨格系障害と運動不足が最大の懸念
テレワーク固有のリスクとして筋骨格系障害(腰痛・肩こり・首こり)が広く報告されています。2025年にJournal of Occupational Healthに発表されたTELEWORK研究(和田彩・金森悟・甲斐裕子ら)は、日本の成人500名を対象とした無作為化比較試験として、身体活動量、腰痛の強度・障害度、作業環境の質、労働生産性 を複合的に評価する設計を採用しています[4] 。同研究プロトコルでは、テレワーカーが在宅勤務日の主要な健康問題として「座位時間の延長」と「低背部痛」を抱えていることを示す先行文献を整理しています。
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」は職種を問わず長時間の座位姿勢を腰痛リスクとして位置づけており、適切な作業台の高さ(肘角度約90度)の確保、定期的な休憩とストレッチの実施、必要に応じた医師による腰痛健康診断の実施を推奨しています[5] 。在宅環境では事業場のような環境整備が行き届かないため、企業側からの能動的な支援が必要です。
座り続けによるリスク :長時間の連続座位は椎間板への負荷を高め、腰部・頸部の筋緊張を誘発しやすい。
作業環境の不備 :自宅での作業台・椅子・モニター位置が最適でないケースが多く、不良姿勢が慢性化しやすい。
通勤移動の喪失 :通勤に伴う歩行が日常の身体活動源として失われ、1日の総歩数が大幅に減少する。
運動習慣の二極化 :積極的に運動時間を確保する人とほぼ動かない人とで健康状態の格差が拡大しやすい。
プレゼンティーズム(出勤・出社しているが健康問題で生産性が低下している状態)の観点からも、腰痛・肩こり等の身体的訴えは企業の生産性損失に直結します。厚生労働省の研究では、腰痛によるプレゼンティーズム損失が職場の生産性向上を妨げる要因として挙げられており、企業が対策コストを投じることの意義が示唆されています。
図2:テレワーク頻度と身体活動量・座位時間の相関(甲斐ら[1]の報告をもとに作図)
メンタルヘルスへの影響:孤立・コミュニケーション不足・ストレスの構造
テレワーク下のメンタルヘルス問題は「孤立」「コミュニケーション不全」「仕事とプライベートの境界曖昧化」という三層構造で理解できます。
2025年にPLOS ONEに掲載された大阪公立大学・出口泰靖らの研究では、テレワーク導入オフィスと非導入オフィスの精神疾患による長期疾病欠勤(LTSA-MD)を比較した結果、テレワーク導入オフィスでは精神疾患(特にうつ病)による新規LTSA-MD発生率が名目上低下する傾向 が示されました[6] 。ただし統計的有意差には達しておらず、テレワークの精神的保護効果は限定的・状況依存的である点に注意が必要です。
一方、前述の池上らの研究では高頻度テレワーカーの職場サポート低下という課題が明確に示されています。孤立感は単なる気持ちの問題ではなく、作業効率・意欲・心理的安全性に影響を与え、長期的には離職リスクを高める可能性があります。
上司との関係性希薄化 :日常的な声かけや雑談がなくなり、業務外の悩みを相談しにくくなる。
チームの一体感低下 :同僚とのインフォーマルな交流が減り、帰属意識・エンゲージメントが下がりやすい。
長時間労働・オフ切替困難 :自宅では業務終了の区切りが曖昧になり、意図せず長時間労働に陥るリスクがある。
育児・介護との複合ストレス :家庭責任と業務が同空間で重なる場合、休息と業務の境界設定が難しくなる。
ストレスチェック制度については、2025年4月施行の改正労働安全衛生法により従業員50人未満の事業場にも実施が義務化 されました[7] 。テレワーク下では従来の集合実施が難しいため、オンライン実施ツールの活用と、結果の集団分析をテレワーク実施状況別に行う工夫が求められます。
企業が取るべき対策:段階的アプローチと実務チェックポイント
テレワーク下の健康管理は「環境整備」「運動機会の確保」「コミュニケーション設計」「ストレス把握と専門家連携」の4本柱で体系化できます。それぞれの実務的な取り組みポイントを整理します。
1. 在宅作業環境の整備支援
テレワーク開始前に事業者用・労働者用チェックリスト(厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」付属)の配布と回収を実施する。
作業台・椅子・外付けモニターの購入補助制度を設ける。肘角度約90度・画面上端が目線の高さになるよう指導する。
1〜2時間に1回の立位休憩・ストレッチを業務手順に組み込む(例:オンライン会議の合間に5分のブレイク)。
2. 身体活動の維持・促進
歩数目標を設定したウォーキングチャレンジ(チームでの歩数競争)を四半期ごとに実施する。TELEWORK研究では社会文化的要素(チームでの歩数競争)が身体活動促進に有効と設計されています[4] 。
フィットネスジムや運動施設との法人契約・利用補助を検討する。
昼休み中のオンライン体操・ストレッチ動画配信をイントラネットで提供する。
3. コミュニケーション・帰属意識の設計
週1回以上のオンライン1on1を制度化し、業務進捗だけでなくコンディションも確認する(「最近元気ですか?」から始まる5分)。
業務時間外のカジュアルなオンライン交流(バーチャルコーヒーブレイク等)を公式に認め、参加を奨励する。
出社とテレワークのハイブリッド運用を設計し、週3日以内テレワーク・週1〜2日出社を目安とする。池上らの研究では週3日以内テレワークが職場ストレス管理に適しているとされています[2] 。
4. ストレスチェックと産業医連携
ストレスチェックの集団分析結果をテレワーク実施頻度別に集計し、高頻度テレワーカーのリスク部署を特定する。
産業医・産業保健スタッフとオンライン面談の仕組みを整備し、高ストレス判定者が速やかに相談できる体制を維持する。
メンタルヘルス不調の早期サインを管理職に教育する(遅刻・欠勤増加、チャット返信の遅延、ビデオオフ参加の継続等)。
健康経営優良法人認定との接続:テレワーク対策が評価される理由
健康経営優良法人認定制度(経済産業省・日本健康会議)は、従業員の健康管理に優れた企業を認定する制度です。2026年度認定では大規模法人部門3,765社・中小規模法人部門23,085社が認定されており、年々裾野が広がっています[8] 。テレワーク下の健康管理策は同認定の評価項目「健康保持・増進の取組」「メンタルヘルス対策」「従業員の健康課題の把握」に直結します。
認定取得のメリットとしては、採用力向上(求職者へのホワイト企業アピール)、金融機関からの評価向上、取引先選定での優位性などが挙げられます。テレワーク健康対策に投じるコストを「認定のための投資」と位置づけることで、経営層への予算申請が通りやすくなるケースも増えています。
なお、認定基準は毎年改定されるため、申請時点での最新要件を「ACTION!健康経営」公式ポータルで確認することが必要です。「認定が確実」「取り組めば確実に評価される」といった保証はできませんが、テレワーク下の体系的な健康管理策は認定評価の土台となるものです。
受診を検討したいサイン(テレワーク従業員・管理職が注目すべきレッドフラッグ)
以下のサインが従業員に見られる場合、個人での対処を超えている可能性があります。産業医・かかりつけ医への相談を早めに勧めてください。
腰痛・頸部痛が2週間以上続く、または安静にしても軽快しない
下肢のしびれ・脱力感がある(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄等のサインの可能性)
2週間以上、気分が沈んで職務意欲がほぼ消失している
睡眠障害(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)が2週間以上続く
体重が1〜3か月で5%以上増減した
ストレスチェックで高ストレス判定が2年連続して出ている
業務外も仕事のことが頭から離れず、休息が取れていない状態が続く
図3:テレワーク下での健康リスク対策4本柱と受診勧奨の目安
【法人の方へ】貴社のテレワーク健康課題、まずは無料でご相談ください。 従業員数・業種に合わせたテレワーク下の腰痛対策・メンタルヘルス支援・ストレスチェック支援プランと概算お見積り、導入事例資料を無料でお渡しします。→ 和ごころの法人向けサービス /無料相談・資料請求はこちら
参考文献
甲斐裕子ら(2022〜2024年) 「テレワークの常態化による労働者の筋骨格系への影響や生活習慣病との関連性を踏まえた具体的方策に資する研究」厚生労働科学研究成果データベース . 厚労科研DB ― 本記事での引用箇所:テレワーク頻度と身体活動量・座位時間・体力・筋骨格系疼痛の相関
Ikegami K et al.(2023) 「Job stress and work from home during the COVID-19 pandemic among Japanese workers: a prospective cohort study」Health Psychology and Behavioral Medicine . PMC9946318 ― 本記事での引用箇所:週4日以上テレワーカーの上司・同僚サポート低下・職場ストレス増加、週3日以内テレワークとの比較
NIRA総合研究開発機構(2024年) 「第10回テレワークに関する就業者実態調査(速報)」. NIRA ― 本記事での引用箇所:2023年10月時点のテレワーク実施率13%(首都圏22%)
Wada A, Kim J, Kai Y et al.(2025) 「Multicomponent occupational lifestyle intervention to improve physical activity, musculoskeletal health, and work environment among Japanese teleworkers (TELEWORK study): protocol for a cluster randomized controlled trial」Journal of Occupational Health . PMC11985020 ― 本記事での引用箇所:チームでの歩数競争など社会文化的要素が身体活動促進に有効な介入設計
厚生労働省(2013年、2024年改訂版確認) 「職場における腰痛予防対策指針及び解説」. 厚生労働省 ― 本記事での引用箇所:長時間座位による腰痛リスク、作業台の高さ確保、定期ストレッチ、腰痛健康診断の推奨
Deguchi Y et al.(2025) 「Remote work and long-term sickness absence due to mental disorder trends among Japanese workers pre/post COVID-19」PLOS ONE . PLOS ONE ― 本記事での引用箇所:テレワーク導入オフィスでのうつ病による長期疾病欠勤の名目上の低下傾向
厚生労働省(2025年) 「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」(改正労働安全衛生法による50人未満事業場への義務拡大). 厚生労働省 ― 本記事での引用箇所:2025年4月施行によるストレスチェック義務の50人未満事業場への拡大
経済産業省・日本健康会議(2026年) 「健康経営優良法人2026認定法人一覧」ACTION!健康経営ポータルサイト . 健康経営ポータル ― 本記事での引用箇所:2026年度認定数(大規模法人部門3,765社・中小規模部門23,085社)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。従業員に健康上の懸念が生じた場合は、産業医または医療機関へのご相談をおすすめします。記載の法制度情報は2026年7月時点のものです。最新情報は各省庁の公式サイトにてご確認ください。