法人・健康経営

職場の熱中症対策が義務化|2025年6月施行・事業者が整備すべき体制と実務ステップ

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.04最終更新 2026.07.03編集方針

近年、職場における熱中症は深刻な労働安全上の課題となっています。厚生労働省の発表によると、令和7年(2025年)の職場での熱中症による死傷者数は1,803人と統計開始以来の最多を更新しました[1]。建設業・製造業など屋外作業だけでなく、屋内の工場や厨房でも発生が相次いでいます。さらに2025年6月1日からは改正労働安全衛生規則が施行され、事業者による熱中症対策体制の整備が法的義務となりました[2]。本記事では、経営者・人事・総務担当者が知っておくべき義務化の内容と、具体的な対策体制の構築方法を解説します。

なぜ今、職場の熱中症対策が義務化されたのか

職場における熱中症の被害は年々増加しています。令和6年(2024年)の死傷者数は1,257人で前年比約14%増、令和7年(2025年)はさらに43%増の1,803人と過去最多を更新しました[1]。死亡事故も毎年発生しており、令和6年だけで31人の労働者が命を落としています。

業種別では、建設業と製造業が全体の約4割を占めているとされていますが[1]、屋内の工場、厨房、倉庫など密閉された高温環境でも被害が後を絶ちません。気象庁によると令和7年の夏(6〜8月)の平均気温偏差は統計開始以来最高の+2.36℃を記録しており[1]、地球温暖化の進行により今後も高温環境での労働リスクは高まると考えられています。

こうした背景を受け、厚生労働省は2025年4月15日に改正省令を公布し、同年6月1日から施行しました。これまで努力義務とされていた熱中症対策の一部が、法的義務(罰則付き)に格上げされたことで、事業者の責任は一段と重くなっています。

職場の熱中症 死傷者数の推移と業種別発生割合を示す図解
図1:職場における熱中症死傷者数の推移(厚生労働省データ[1]をもとに作図)

2025年6月施行|改正労働安全衛生規則の具体的義務内容

改正労働安全衛生規則では、事業者に対して以下の3つの義務が課されています[2]。対象となる作業は「WBGT(暑さ指数)28℃以上または気温31℃以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間超の作業」とされています。

  • ①報告体制の整備と周知:熱中症の自覚症状がある労働者、またはそのおそれがある労働者を見つけた者が報告できる体制を事業場ごとに整備し、関係者に周知する。
  • ②悪化防止措置の手順作成と周知:作業からの離脱、身体の冷却、医師の診察・処置を受けさせるまでの具体的な手順を定め、関係者に周知する。
  • ③体制・手順の実際の運用:整備・作成した体制・手順を実際に機能させること。マニュアルが「紙の上だけ」では義務履行とはみなされない。

罰則は6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています[2]。違反が発覚した場合、刑事罰に加えて労働基準監督署による是正勧告や業務停止命令が科される可能性もあるとされています。

重要なのは、義務化の対象が屋外作業だけではない点です。溶鉱炉や蒸気を扱う工場の製造ライン、空調が十分でない倉庫・厨房・印刷工場なども対象に含まれると考えられます。事業者はまず自社の作業環境を点検し、対象に該当するかどうかを確認することが先決です。

暑さ指数(WBGT)の把握と管理体制の構築

改正規則の中核となる指標が暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)です。WBGTは1954年にアメリカで開発された熱ストレス評価指標で、湿度・気温・輻射熱の3要素を組み合わせて人体への熱負荷を数値化します[3]。単純な気温よりも実際の暑さの過酷さを正確に反映する点が特徴です。

厚生労働省は身体作業強度に応じたWBGT基準値を次のように示しています[3]

  • 安静・低強度作業(事務作業・軽い手作業など):WBGT 30〜33℃
  • 中程度強度作業(立位での機械操作・農作業など):WBGT 28℃
  • 高強度作業(建設作業・重量物運搬など):WBGT 25〜26℃

熱に順化(暑さへの体の慣れ)していない労働者の場合、基準値はさらに低くなります。事業者はWBGT計を導入して定期的に測定・記録する体制を整え、基準値超過時には以下の対策を組み合わせて実施することが推奨されています[3]

  • 作業環境管理:スポットクーラー・送風機の設置、日よけ・遮熱シートの活用、休憩室・クールダウンスペースの確保
  • 作業管理:連続作業時間の短縮と定期的な休憩の義務化、交代制の導入、早朝・夜間帯へのシフト変更
  • 暑熱順化対応:夏季初めは軽作業から始め、1〜2週間かけて体を暑さに慣らす計画を立てる
暑さ指数WBGTの計算要素と作業強度別基準値を示すメカニズム図解
図2:WBGT(暑さ指数)の構成要素と作業強度別基準値(厚生労働省・環境省データ[3]をもとに作図)

実務的な対策体制の整備ステップ

改正規則への対応を「コンプライアンス対応」として最小限に済ませるのではなく、従業員の健康と生産性を守る経営投資として捉えることが重要です。以下は実務担当者が具体的に進めるべきステップです。

  • STEP1:実態把握 自社のどの作業場・業務が義務化対象に該当するかをリスクアセスメントで洗い出す。WBGT計または気温計を導入し、測定箇所・頻度・記録方法を決める。
  • STEP2:報告体制の整備 「誰が・どこに・どのように」報告するかを明文化したフローチャートを作成し、掲示物やデジタル共有で全員に周知する。バディ制(2人1組)の導入も有効とされています。
  • STEP3:応急処置手順の策定 発症から救急搬送までの手順(冷却方法・連絡先・担当者)をA4一枚のマニュアルに落とし込み、作業現場に掲示する。AED設置場所と合わせて周知する。
  • STEP4:労働衛生教育の実施 新規雇用時・夏季前に熱中症予防の教育を実施し、受講記録を保管する。特定の監督者・管理者には熱中症対策に関するリーダー研修が推奨されます。
  • STEP5:健康管理の強化 作業前に体調確認を行い、睡眠不足・前日の飲酒・持病(心疾患・糖尿病など)がある労働者には就業配慮を検討する。定期健康診断の結果を活用し、熱中症リスクが高い従業員を把握しておく。
  • STEP6:記録と見直し WBGT測定記録、教育実施記録、ヒヤリハット報告を蓄積し、毎年シーズン前に対策を見直す。記録は労働基準監督署の立入調査時の証跡にもなります。

水分・塩分補給については、作業前・作業中の定期的な摂取が推奨されています。特に1時間に200〜250ml程度の水分を目安に、適度な塩分(電解質)を含む飲料の活用が考えられます。ただし心疾患・腎臓病のある労働者には医師の指示に基づく個別対応が必要です。

よくある落とし穴と中小企業が陥りやすいリスク

対策を整備した企業でも、現場の実態との乖離が生じることがあります。以下は実務でよく見られる課題です。

  • 「マニュアルを作ったが周知されていない」:報告体制や応急処置手順が文書化されているだけで、現場労働者に伝わっていないケース。義務化では「周知」まで求められており、形骸化した対策は義務不履行とみなされる可能性があります。
  • 「監督者が異変に気づかない」:特に夏季の繁忙期は、現場のリーダーが業務効率を優先して体調不良の申告を受け流してしまうことがあります。「我慢させない文化づくり」が経営の姿勢として問われます。
  • 「夏に初めて順化を考える」:熱順化(暑さへの慣れ)には約1〜2週間かかるとされています[4]。6月に入ってから急に長時間の炎天下作業を始めると、まだ体が慣れていない段階でリスクが最大化します。5月中からの段階的な対応が重要です。
  • 「クーラーがあれば安心」と思い込む」:屋内でも機械や炉の熱で局所的にWBGTが急上昇することがあります。空調設備の定期的なメンテナンスと、スポット測定による「見えない高温域」の把握が必要です。
  • 「一人で抱え込むリスク」:中小企業では担当者が一人でマニュアル作成・教育・測定を担う場合も多く、担当者の退職・異動で体制が崩壊するリスクがあります。外部支援の活用や体制の複数人化を検討することが勧められます。

受診を検討したいサイン

熱中症は初期対応の速度が重症化リスクを左右するとされています。以下のサインが見られた場合は、速やかに対応することが重要です[5]

  • 大量の発汗・顔面蒼白・めまい・立ちくらみ → まず涼しい場所に移動し、水分・塩分を補給。症状が軽快しない場合は医療機関へ。
  • 頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感が続く → 救急車を要請するか、速やかに医療機関を受診させる。
  • 意識が朦朧としている・呼びかけへの反応が鈍い・痙攣している → 直ちに119番に連絡。到着まで身体を冷却し続ける。
  • 自力で水が飲めない、または口から水を飲もうとしない → 経口補水が不可能なため、すぐに救急車を呼ぶ。
  • 体温が38℃を超えていて下がらない → 重症の可能性があるため、医療機関での対応が必要とされています。
熱中症の重症度別サインと受診・救急車要請の判断目安を示すフロー図
図3:職場での熱中症対応フロー(応急処置手順から救急要請まで。厚生労働省資料[5]をもとに作図)

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参考文献

  1. 厚生労働省(2026年)「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」厚生労働省. 厚生労働省サイト
    ― 本記事での引用箇所:死傷者数1,803人・前年比43%増・統計開始以来最多、令和7年の夏の平均気温偏差+2.36℃の記述の根拠
  2. 厚生労働省(2025年)「職場における熱中症対策の強化について〜令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行されます〜」鹿児島労働局. 厚生労働省 鹿児島労働局
    ― 本記事での引用箇所:2025年6月1日施行・事業者義務(報告体制整備・悪化防止措置手順作成・周知)の3義務の根拠
  3. 環境省・厚生労働省(2023年)「暑さ指数(WBGT)について」職場における熱中症予防情報サイト(厚生労働省). neccyusho.mhlw.go.jp
    ― 本記事での引用箇所:WBGT計算式(屋外0.7×湿球+0.2×気温+0.1×黒球)、身体作業強度別WBGT基準値(安静33℃〜高強度26℃)の根拠
  4. 厚生労働省(2023年)「職場における熱中症の予防について」職場のあんぜんサイト. mhlw.go.jp
    ― 本記事での引用箇所:暑熱順化に約1〜2週間かかるとされること、作業環境管理・作業管理・健康管理の3本柱の根拠
  5. 厚生労働省(年次更新)「熱中症が疑われる人を見かけたら 応急処置」厚生労働省. mhlw.go.jp
    ― 本記事での引用箇所:応急処置の3ステップ(涼しい場所への移動・身体冷却・水分補給)、「自力で水が飲めない・意識がない場合はすぐ救急車」の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。職場の熱中症対策については、最新の法令・ガイドラインを確認するとともに、産業医・社会保険労務士・労働基準監督署等の専門家にご相談ください。症状が続く・悪化する場合は速やかに医療機関にご相談ください。

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