法人・健康経営

職場のメンタルヘルス対策ガイド|企業が取り組む4つのケアとストレスチェック義務化への対応

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.06.29編集方針

従業員のメンタルヘルス不調は、企業が直面する経営課題の一つとなっています。精神障害等による労働災害の請求件数は増加傾向にあり、メンタルヘルス対策は法令上の義務を超えた経営戦略として捉える必要があります[1]。本記事では、企業の経営者・人事・総務担当者に向けて、職場のメンタルヘルス対策の制度的背景と、実務で活用できる具体的な取り組みを整理します。

職場メンタルヘルス対策が経営課題となっている背景

令和3年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる割合は、労働者数50人以上の事業場では94.4%に達しています。一方、50人未満の小規模事業場では30〜49人規模で70.7%、10〜29人規模では49.6%にとどまっており、規模が小さくなるほど対策が遅れる傾向があります[1]

精神障害等による労働災害の請求件数は増加傾向にあります。加えて、メンタルヘルス不調によるプレゼンティーズム(出勤はしているが心身の不調で生産性が低下している状態)の経済損失も看過できません。日本の労働者を対象とした2025年の大規模調査(27,507人を対象)では、メンタルヘルス関連のプレゼンティーズムによる生産性損失は約468億ドル相当と推計されており、これはGDPの1.1%、精神疾患の医療費の7倍以上に相当するとされています[2]

こうした状況を受け、企業の経営者・人事担当者は「従業員が体の問題を抱えながら出勤し続けている」状態を放置することが、中長期的な企業競争力の低下につながるリスクとして認識することが求められています。

事業場規模別メンタルヘルス対策取組率と経済損失の概念図
図1:事業場規模別メンタルヘルス対策取組率のイメージ(厚生労働省調査をもとに作図)

企業が押さえるべき4つのケアの枠組み

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)では、職場におけるメンタルヘルスケアは4つのケアを継続的・計画的に推進することが基本とされています[1]

  • セルフケア:労働者自身がストレスに気づき、対処する能力を高める(研修・セルフチェックツールの提供など)
  • ラインによるケア:管理監督者(上司)が職場環境の整備と部下の相談対応を行う(1on1面談・声かけの習慣化)
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医・保健師・人事労務担当者が連携してサポートする
  • 事業場外資源によるケア:外部EAP(従業員支援プログラム)・地域産業保健センター等を活用する

特に中小企業では専任の産業保健スタッフを配置することが難しい場合もありますが、各都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)地域産業保健センター(地さんぽ)が、50人未満の小規模事業場を対象に産業保健サービスを無料で提供しています[1]。これらの外部資源を積極的に活用することが、ケアの継続性を維持するうえで有効とされています。

4つのケアの関係性を示す概念図(セルフ・ライン・社内・社外)
図2:4つのケアの枠組み(厚生労働省「メンタルヘルス指針」をもとに作図)

ストレスチェック制度:全事業場への義務化が決定

ストレスチェック制度は、2015年(平成27年)12月に労働安全衛生法に基づき導入されました。これまで労働者数50人以上の事業場に実施が義務付けられていましたが(50人未満は努力義務)、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)により、50人未満の事業場にも義務化が拡大されることとなりました[3]。施行日は公布後3年以内に政令で定められる予定です。

ストレスチェック制度の主な流れは以下のとおりです。

  • 質問票の配布・記入(年1回以上)
  • ストレス状況の評価・医師の面接指導の要否の判定
  • 本人への結果通知(事業者への個別結果の通知は本人同意が必要)
  • 高ストレス者への医師による面接指導の実施
  • 集団分析による職場環境改善(努力義務)

50人未満の事業場では、小規模事業者が円滑に制度に対応できるよう、地域産業保健センターの体制拡充など支援策が講じられる予定です。施行に先立ち、今から準備体制を整えることが望ましいとされています。なお、ストレスチェックの結果を理由に不利益取扱いを行うことは法令で禁止されており、労働者のプライバシー保護に十分配慮した運用が求められます。また、改正法の附帯決議では、集団分析・職場環境改善の着実な推進や、中小零細企業への体制整備支援についても言及されています[3]

ストレスチェック制度の実施フロー図
図3:ストレスチェック制度の流れ(厚生労働省資料をもとに作図)

人事・管理職が取り組める職場メンタルヘルス対策の具体例

制度対応とあわせて、日常的な職場環境の整備が従業員のメンタルヘルス維持に寄与するとされています。以下は管理職・人事が比較的取り組みやすい実践例です。

  • 定期的な1on1面談の実施:月1回程度、上司と部下が業務以外の話も含めて対話する時間を設けることで、不調の早期把握につながりやすいとされています
  • 相談窓口の周知:社内外の相談窓口(EAP、こころの耳相談窓口等)を定期的に周知し、「相談しやすい環境」を整備する
  • 過重労働の管理:長時間労働は精神的健康リスクの一因とされており、時間外労働の管理と有給休暇の取得促進が基本的な対策の一つとなります
  • 管理職向けメンタルヘルス研修:厚生労働省の「こころの耳」では、「eラーニングで学ぶ『15分でわかるラインによるケア』」などを無料で提供しています。管理職が部下のサインを把握できるよう、定期的な研修機会を設けることが推奨されています[1]
  • 職場環境改善のアクションチェックリスト活用:作業管理・職場の人間関係・職場の文化・働き方の柔軟性など複数の観点から職場環境を点検し、改善策を検討するためのツールが各機関から提供されています
  • 心の健康づくり計画の策定:メンタルヘルス指針では、「心の健康づくり計画」を策定し、事業場全体で推進体制を整備することが求められています[1]

2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシス(81のRCT、25,500人を対象)では、職場向けデジタルメンタルヘルス介入において、マインドフルネスやストレスマネジメントアプローチ、専門家が関与するデザイン、人によるサポートの組み合わせが、うつ・不安・ストレス指標に対して小さいが有意な効果を示したことが報告されています[4]。ただし調査の82.7%でバイアスリスクが高いとされており、解釈には注意が必要です。社内施策を検討する際の参考の一つとして参照できます。

管理職と従業員の1on1面談のイメージイラスト
図4:管理職による定期的な個別面談が早期対応の基盤となるとされています

健康経営優良法人認定との関係と経営上の位置づけ

経済産業省が推進する健康経営優良法人認定制度では、大規模法人部門・中小規模法人部門それぞれで優良な健康経営の取り組みを認定しています[5]。2026年3月の認定では、大規模法人部門に3,765法人、中小規模法人部門に23,085法人が認定されています。

メンタルヘルス対策は、健康経営優良法人の認定要件の一部を構成しています。認定制度の目的は「従業員の健康保持・増進への取り組みを将来的な収益性向上への投資と捉え、健康管理を経営的視点から戦略的に実践すること」とされています[5]。認定を受けることで以下のような位置づけが得られるとされています(個別の成果を保証するものではありません)。

  • 採用活動における企業の取り組みの可視化(求職者へのシグナル)
  • 一部の自治体・金融機関における優遇(低利融資・入札加点など)の対象となる可能性
  • 離職率低下や定着率向上を支援する環境整備の促進
  • プレゼンティーズムの把握を通じた健康課題の早期発見

健康経営の実践において重要なのは、認定取得を目標とするのではなく、従業員の健康課題を経営課題として継続的にモニタリングし、PDCAサイクルを回す体制を構築することです。「心の健康づくり計画」の策定と推進は、その出発点となります。

プレゼンティーズムとアブセンティーズムによる生産性損失の比較イメージ図(原著論文Hara et al. 2025の知見をもとに作図)
図5:Haraら(2025)の報告をもとに作図 ― 日本における精神的健康問題によるプレゼンティーズム損失はアブセンティーズムの約25倍と推計されています[2]

受診を検討したいサイン

企業としての対策を講じていても、個々の従業員に専門的なサポートが必要なサインが現れる場合があります。以下のような状態が続く場合は、産業医・主治医・精神科・心療内科等への相談を促すことが望ましいとされています。あくまで目安であり、医学的診断を行うものではありません。

  • 2週間以上にわたって気分の落ち込みや意欲の著しい低下が続いている
  • 出勤が著しく困難になっている、または欠勤が増加している
  • 業務上のミスが急増したり、集中力の著しい低下が見られる
  • 自分を傷つけたい、消えてしまいたいといった言動が見られる(緊急の専門的対応が必要です)
  • 身体症状(頭痛・腹痛・不眠など)が続き、内科的な検査で明らかな異常が認められない
  • 職場での対人関係に著しい変化があり、孤立が続いている

管理職が「いつもと違う」と感じた場合は、早めに声をかけ、産業保健スタッフや人事担当者と連携することが重要です。本人が受診をためらっている場合は、社内外の相談窓口を案内し、受診の選択を支援する姿勢が求められます。なお、産業保健総合支援センター(全国47都道府県設置)では事業主・人事担当者向けに相談・訪問支援を無料で行っています[1]

職場での精神的健康の危険サインを示すイメージイラスト
図6:従業員の変化に早期に気づき、専門機関へつなぐことが大切です

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参考文献

  1. 厚生労働省(2021)「こころの耳:中小企業の事業主の方へ〜メンタルヘルスケアに役立つコンテンツ〜」厚生労働省. https://kokoro.mhlw.go.jp/sme/
    ― 本記事での引用箇所:事業場規模別のメンタルヘルス対策取組率(50人以上94.4%、10〜29人49.6%)、4つのケアの枠組み、地域産業保健センターの活用、管理職向けeラーニングの提供、産業保健総合支援センターによる無料支援
  2. Hara K, Nagata T, Matoba M, Miyazaki T(2025)「The Impact of Productivity Loss From Presenteeism and Absenteeism on Mental Health in Japan」J Occup Environ Med. 2025;67(9):699. doi: 10.1097/JOM.0000000000003431. PMC12379787
    ― 本記事での引用箇所:日本の労働者27,507人を対象とした調査でのプレゼンティーズムによる生産性損失約468億ドル(GDP比1.1%)、医療費の7倍以上という推計値
  3. 厚生労働省(2025)「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」厚生労働省 労働基準局安全衛生部労働衛生課. 厚生労働省PDF
    ― 本記事での引用箇所:50人未満事業場へのストレスチェック義務化の法改正(2025年5月公布、令和7年法律第33号)、附帯決議の内容(集団分析推進・中小企業支援等)
  4. Stratton E, Morris RW, Milton A, Deady M, Choi I, Glozier N(2025)「Optimizing Workplace Digital Mental Health Interventions: Systematic Review and Meta-Analysis」J Med Internet Res. 2025 Nov 17:27:e71253. doi: 10.2196/71253. PubMed PMID: 41247788
    ― 本記事での引用箇所:81のRCT・25,500人を対象としたメタアナリシスで、マインドフルネス・ストレスマネジメント・人的サポートの組み合わせがうつ・不安・ストレスに有意な小さい効果を示したという知見(82.7%の試験でバイアスリスク高)
  5. 経済産業省(2026)「健康経営優良法人認定制度」経済産業省. https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
    ― 本記事での引用箇所:健康経営優良法人2026の認定法人数(大規模3,765法人・中小規模23,085法人)、制度の概要と目的、健康経営の定義

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。従業員の健康問題や職場でのメンタルヘルス対策については、産業医・産業保健スタッフ・専門の医療機関にご相談ください。記事中の数値・法令情報は執筆時点(2026年6月)のものであり、最新の情報は各公的機関の公式サイトをご確認ください。

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