予防・健診

猛暑の熱中症——仕組みから予防・応急処置までのセルフケア解説

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.06最終更新 2026.07.05編集方針

7月に入り、全国各地で最高気温35℃を超える猛暑日が続いています。「水分補給は気をつけているのに、なぜかだるい」「少し外にいただけで頭が痛くなった」——そんな経験をお持ちの方は少なくないはずです。熱中症は、炎天下での屋外作業だけで起きるものではありません。室内でも、体の状態しだいで誰にでも起こりうる急性の体調変化です。この記事では、熱中症が体の中でどのように起きるのか、どう予防・対処するかを、公的機関のデータと診療ガイドラインをもとに丁寧に解説します。

熱中症とは何か——体の中で起きていること

熱中症は、高温多湿の環境で体の熱調節機能が追いつかなくなり、体内の水分・電解質バランスが崩れたり、体温調節系そのものが破綻することで起こる、幅広い症候群の総称です[1]。私たちの体は通常、発汗と皮膚からの放熱によって深部体温(中核体温)を一定に保っています。しかし気温が高く、湿度も高い環境では、汗が蒸発しにくくなり、この放熱経路が機能しにくくなります。

体温が上昇し始めると、心拍数が増え、皮膚血管が拡張して熱放散を試みますが、同時に大量の発汗で体液が失われます。体液量が不足すると、汗をかく余裕もなくなり、体温はさらに上昇します。こうした悪循環が進むと、脳・肝臓・腎臓などの臓器に影響が及ぶ「熱射病」という重篤な状態になり、生命に危険をおよぼすことがあります。

熱中症を引き起こしやすい条件は大きく3つに整理されています。(1)環境条件——気温が高い、湿度が高い、日差しが強い、風が弱い。(2)体の条件——高齢者、乳幼児、暑さに慣れていない、睡眠不足、体調不良、肥満。(3)行動条件——激しい屋外作業、長時間の運動、水分補給なしの活動。この3つが重なるほどリスクが高まります[2]

熱中症の発症リスクを3つの要因(環境・体の状態・行動)で示した概念図
図1:熱中症の発症に関わる3つのリスク要因(環境・身体条件・行動条件)の相互関係

2024年の統計——どこで、誰が、どれだけ発症しているか

総務省消防庁の発表によれば、2024年5月〜9月の熱中症による救急搬送患者数は97,578人で、2008年の調査開始以来、過去最高となりました[3]。前年同期比で6.7%増、死亡者は120名に上ります。

年齢別では、65歳以上の高齢者が57.4%を占め、最も多い層です。しかし18〜64歳の成人も33.0%を占めており、「高齢者だけの問題」ではありません。7〜17歳の少年も9.0%を占め、部活動や屋外活動中の発症が含まれます[3]

発生場所を見ると、住居が38.0%と最多です。「屋外で倒れる」というイメージが先行しがちですが、室内——特にエアコンを使わない高温の部屋——でも多く発症しています。高齢者では、「電気代がかかる」「人工的な風が不快」といった理由でエアコンを使わない傾向があり、また暑さを感じにくくなるため、体温上昇や脱水に気づかないことが少なくありません。

室内での熱中症対策として、エアコンを上手に使うことは重要とされています。ただし、エアコンによる冷えすぎが体調不良につながることもあります。室内外の温度差の管理や冷房病への注意については、夏の冷房病(クーラー病)——冷えと自律神経の乱れを理解するセルフケアの考え方もご参照ください。

重症度の分類——I度・II度・III度で何が違うのか

日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2015」では、熱中症の重症度をI度・II度・III度の3段階に分類しています[1]。この分類は現場での対応判断の目安として広く使われています(2024年改訂版ではIV度が追加されましたが、一般向けの基本理解としてはI〜III度が重要です)。

  • I度(軽症):めまい・立ちくらみ(熱失神)、大量の発汗、筋肉のこむら返り(熱けいれん)、生あくびなど。意識は清明で、一般市民が現場で応急処置できるレベルとされています。
  • II度(中等症):頭痛、吐き気・嘔吐、倦怠感、集中力や判断力の低下(熱疲労)。自力で水分が摂れない場合や、I度の応急処置で回復しない場合は医療機関への受診が必要とされています。
  • III度(重症・熱射病):意識障害、けいれん、呼びかけへの反応がない、高体温(39℃以上の場合もある)。肝臓・腎臓・血液凝固の異常など臓器障害を伴うことがあり、緊急搬送が必要な状態です。

I度とII度の境目として重要なのは、「自力で水が飲めるかどうか」です。嘔吐があったり、ぼんやりして飲めない場合は、ためらわずに119番通報することが推奨されています。また、最初から意識がおかしい・けいれんがある場合はすぐに救急車を呼ぶことが重要です[4]

なお、暑さによる疲労感や睡眠の質の低下も夏季に起きやすい体調変化です。夜間の寝苦しさや睡眠の問題については、夏の寝苦しさ・睡眠の質低下——熱帯夜と深部体温の関係を理解してセルフケアをもあわせてご覧ください。

暑熱順化——夏の体への「準備」が大切な理由

熱中症予防において注目されているのが、暑熱順化(しょねつじゅんか)という考え方です。これは「体を暑さに慣らすこと」で、夏本番の前に高温環境で適度に汗をかく習慣をつけることで、体温調節機能を整えておくアプローチです[5]

暑熱順化によって体に起きる変化として、次のようなことが報告されています。発汗開始のタイミングが早くなること、単位時間あたりの発汗量が増えること(体が効率よく熱を放散できるようになるとされます)、汗に含まれる塩分濃度が下がること(電解質の温存につながるとされます)、心拍数が安定すること、などです[5]

順化には5〜10日間の継続が目安とされており、梅雨が明ける前の6〜7月上旬から始めると安全とされています。ウォーキングなどで汗ばむ程度の運動を毎日続けること、湯船にゆっくりと浸かることが、暑熱順化を促すと考えられています[5]。ただし、体調が悪い日や発熱時は避け、水分・塩分補給を行いながら無理のない範囲で取り組むことが大切です。

暑熱順化の前後で発汗機能・心拍数・体温調節能力がどのように変化するかを示した図解
図2:暑熱順化による生理的変化——済生会の解説([5])をもとに作図。順化後は発汗開始が早まり、心拍数も安定するとされています

水分・電解質補給の正しい考え方

「水分補給が大事」とよく言われますが、「何を、どれだけ、どのタイミングで」飲むかは、状況によって異なります。

予防段階(発症前)では、こまめに水やお茶を飲むことが基本です。喉が乾く前に飲む習慣が推奨されています。屋外活動や運動時には、水に少量の塩分を加えた飲料も選択肢のひとつとされています[4]

I度の症状が出たとき(軽症の応急処置段階)では、水と塩分を同時に補給することが重要とされています。「水だけ」を大量に飲むと、体液の塩分濃度が薄まり、むしろ体がその水分を排出しようとする「自発性脱水」が起きることがあります。この段階では、スポーツドリンク(ナトリウムを含む)または経口補水液(ORS)が推奨されます。

経口補水液(ORS)は、WHO基準に基づき水・ナトリウム・ブドウ糖の比を最適化したもので、腸からの水分吸収を促しやすい設計とされています。ただし、塩分と糖分が多いため、日常的な水代わりや予防目的での多量摂取は推奨されていません。飲む量や頻度については、商品の指示に従うことが大切です[4]

なお、市販薬の適切な管理も夏の健康管理において重要な要素です。高温環境での薬の変質リスクについては、夏の薬の保管、大丈夫ですか?市販薬・処方薬・インスリンを変質から守るポイントもご覧ください。

受診を検討したいサイン

以下の症状が1つでもあれば、すぐに119番通報するか、速やかに医療機関を受診することを検討してください。

  • 意識がない、または呼びかけに反応が鈍い——緊急度が高い状態です。すぐに救急車を呼んでください。
  • 自力で水が飲めない(嘔吐で受け付けない、ぼんやりして飲み込めない)——自宅での応急処置の限界を超えています。
  • けいれんが起きている——III度の可能性がある緊急状態です。
  • 高体温(体温計で39℃以上)——臓器障害のリスクがあります。
  • I度の応急処置(涼しい場所・水分補給・体の冷却)を30分以上行っても改善しない——II度と判断し、受診を検討してください。
  • 高齢者・乳幼児・基礎疾患のある方で、軽症に見えても悪化の可能性がある場合——早めの受診が安全とされています。

周囲の人が倒れているのを発見した場合の応急処置の手順:(1)涼しい場所に移動させる(エアコンの効いた室内、または日陰)。(2)衣服をゆるめる。(3)首の両脇・脇の下・足の付け根(鼠径部)を保冷剤や冷たいペットボトルで冷やす(大きな血管が体表近くを通るため、体温を下げやすいとされています)[4]。(4)意識があり飲める場合は経口補水液や塩分入り飲料を与える。(5)意識がない・水を飲めない場合はすぐに119番通報する。

熱中症の重症度別対応フローチャート:軽症は自宅でのセルフケア、中等症以上は速やかに医療機関へ
図3:熱中症の重症度別・対応の判断フロー——厚生労働省の応急処置ガイド([4])をもとに作図

参考文献

  1. 日本救急医学会(2015)「熱中症診療ガイドライン2015」日本救急医学会・厚生労働省. 厚生労働省掲載PDF
    ― 本記事での引用箇所:熱中症の定義(体温調節機能の破綻・水分電解質バランスの崩れ)、重症度分類I度(熱失神・熱けいれん)・II度(熱疲労)・III度(熱射病)の症状と対応基準
  2. 日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクト「熱中症の原因・なりやすい環境や暑さ指数(WBGT)について知ろう」. 熱中症ゼロへ
    ― 本記事での引用箇所:熱中症の3つの発症条件(環境条件・体の条件・行動条件)の整理
  3. 総務省消防庁(2024)「2024年5〜9月の熱中症による救急搬送状況」総務省消防庁. 総務省消防庁 熱中症情報
    ― 本記事での引用箇所:2024年救急搬送者数97,578人・過去最高、年齢別割合(高齢者57.4%・成人33.0%・少年9.0%)、発生場所別(住居38.0%)
  4. 厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら(応急処置)」厚生労働省 熱中症予防情報サイト. 厚生労働省
    ― 本記事での引用箇所:応急処置の3ステップ(涼しい場所・冷却・水分補給)、救急車要請の判断基準(意識がない・自力で水が飲めない)、首・脇・鼠径部の冷却の根拠、経口補水液の活用
  5. 済生会(2024)「今年も暑い夏が到来!熱中症対策に有効な『暑熱順化』を知っていますか?」済生会. 済生会
    ― 本記事での引用箇所:暑熱順化の定義・期間の目安(5〜10日)・具体的な方法(ウォーキング・入浴)・生理的変化(発汗開始時期の早期化・発汗量の変化・心拍数の安定)

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。掲載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の医学的知見とは異なる場合があります。症状が気になる場合や、体調が悪化している場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関にご相談ください。緊急性の高い症状(意識がない・自力で水が飲めない・けいれん)があれば、ためらわず119番通報してください。

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