熱中症は毎年夏を中心に多くの人が救急搬送される身近な健康リスクです。「水を飲めば大丈夫」「自分は元気だから平気」と軽く見がちですが、症状は急速に悪化することがあります。この記事では、熱中症の種類・重症度分類の基本知識から、なぜ高齢者や子どもがとくにリスクが高いのか、水分と電解質の補給の根拠、そして今日から実践できる予防のポイントと応急処置の手順までを、公的機関・学術論文の一次情報をもとに解説します。
熱中症とは――主な病型・重症度分類と日本の発生状況
熱中症とは、暑熱環境下で体の熱の産生と放散のバランスが崩れ、体温が上昇することで起こる症状・病態の総称です。その中には「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」という段階があり、いずれも放置すると悪化するリスクがあります。
総務省消防庁の集計によると、2023年(令和5年)5〜9月に熱中症で救急搬送された人数は全国で91,467人 にのぼりました。このうち65歳以上の高齢者は約50,173人(全体の54.9% )と過半数を占め、死亡例は107件です[1] 。翌2024年(5〜9月)は97,578人と過去最多を記録し、120名が死亡したと報告されています[1] 。
日本救急医学会は熱中症の重症度をI〜III度に分類しており、2024年公表の診療ガイドラインで新たにIV度が追加されました[3] 。
I度(軽症) :めまい・立ちくらみ・大量発汗・筋肉痛・こむら返りがみられるが意識障害はない。現場での対応(涼しい場所への移動・水分補給)で対処できる場合があるとされています。
II度(中等症) :頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感・集中力や判断力の低下。速やかな医療機関受診が推奨されます。
III度(重症) :意識障害(JCS2以上)・小脳症状・けいれん、または肝・腎機能障害、血液凝固異常(急性DIC)を伴う状態。入院・集学的治療が必要です。
IV度(最重症・2024年新設) :深部体温40.0℃以上かつGCS8点以下。アクティブクーリングを含む集学的治療が不可欠です。
この分類の理解が重要なのは、症状の見極めが行動の選択に直結するためです。I度で軽症に見えても、放置するとII度・III度に急変することがあります。
図1:熱中症の主な病型(熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病)と重症度分類(I〜IV度)の概要
なぜ高齢者・子どもはリスクが高いのか
熱中症搬送者の半数以上が高齢者であることは前述のとおりです。その背景には、加齢に伴う生理的な変化があります。
Núñez-Rodríguezらが2025年に発表した系統的レビュー(60歳以上を対象とした9件の研究を分析)によると、加齢により皮膚血流の増加能力と発汗機能が低下 し、熱を体外に逃がす効率が若年層と比べて著しく低下すると報告されています[4] 。また、高齢者は口渇感が鈍化しているため、体内の水分が失われても「のどが渇いた」という感覚が出にくく、脱水が知らないうちに進行しやすい傾向があります。さらに高血圧や糖尿病の薬剤の中には発汗や血管拡張反応に影響するものがあり、リスクを高める要因となりえます。
同レビューでは、熱ストレス予防教育の実施によって「安全」と評価された割合が26.7%から45.0%へと上昇し、高リスク状態にある者の割合が有意に低下したとも報告されています[4] 。知識を持って行動することで、リスクを下げられる可能性があることを示しています。
子どもの場合は、体重あたりの体表面積が大きく外気温の影響を受けやすい点が特徴です。また体温調節機構が成人ほど発達していないため、炎天下の車内・屋外での遊びなど環境温度が急激に上昇する状況での注意が求められます。
水分・電解質補給の科学的根拠
「水を飲む」だけでは不十分なケースがあります。汗には水分だけでなく、ナトリウム(Na)・カリウム(K)・塩素(Cl)などの電解質も含まれているためです。大量発汗後に水のみを多量に摂取すると、血液中のナトリウム濃度が薄まり、低ナトリウム血症(水中毒)を招くリスクがあります。
Ishikawaらが2010年に発表した無作為クロスオーバー試験では、平均WBGT(暑さ指数)が30℃の環境での屋外作業中に経口補水液(ORS)を摂取した群は、自由飲料群(お茶・コーヒー等)と比べて疲労感の視覚的アナログスケール(VAS)が有意に低かった と報告されています[5] 。この結果は、熱中症予防において電解質を含む飲料の選択が重要であることを示しています。
図2:WBGT30℃の屋外作業におけるORS摂取群と自由飲料群の疲労VAS比較(Ishikawa et al. 2010[5] をもとに作図)
補給の目安として参考にされている考え方を以下にまとめます(個人差があるため一般的な参考値として)。
水分 :のどが渇く前にこまめに補給する。屋外や運動中は1時間ごとに200〜300ml程度が目安とされています。
塩分(電解質) :大量発汗時はNaを含む経口補水液や薄めのスポーツドリンクを活用する。アルコールは利尿作用があるため水分補給にはなりません。
スポーツドリンクとORSの違い :一般的なスポーツドリンクはORSよりも糖質が多く電解質が少ない傾向があります。大量に発汗する状況ではORSや0.1〜0.2%程度の食塩水のほうが適しているとされています。
意識がない・嘔吐がある場合は飲ませない :口から飲めない状況では無理に水分を与えず、速やかに救急要請してください。
今日からできる熱中症予防のポイント
環境省の熱中症予防情報サイトでは、暑さ指数(WBGT)に基づいた行動指針が公開されています[2] 。WBGTは気温・湿度・日射などを総合的に考慮した指標で、28以上で「厳重警戒」、31以上で「危険」 とされ、激しい運動の中止が推奨されます。また「熱中症警戒アラート」が発令された日は、外出を可能なかぎり控えることが推奨されています。
①WBGT・熱中症警戒アラートを確認する :環境省の情報サイトや天気アプリで毎朝確認する習慣をつける。アラート発令時は屋外活動を見直す。
②涼しい服装を選ぶ :吸湿速乾素材・白や淡色の衣服を選び、帽子や日傘で直射日光を防ぐ。
③こまめな水分・電解質補給を習慣化する :のどが渇く前に補給。特に屋外作業・運動中はORSや電解質入り飲料を活用する。
④日陰・換気を積極的に使う :直射日光の下での長時間作業・運動は避け、定期的に冷所で休憩する。
⑤室内でもエアコンを適切に使う :「もったいない」という感覚から冷房を使わない高齢者も多いですが、室内の高温多湿環境も発症リスクとなります。室温28℃以下を目安に。
⑥屋外作業・運動時は特別な配慮をする :建設・農業・配達など屋外での労働は休憩インターバルを短く設定し、作業スケジュールに無理がないか確認する。
⑦周囲の人の様子にも気をつける :高齢者・子ども・持病がある人は症状を自覚しにくいことがあります。周囲の人が気にかけることが重要です。
応急処置:熱中症が疑われたときの初期対応
本人や周囲の人がめまい・頭痛・気分不良・顔面紅潮などの症状を示した場合、以下の手順で対処します。
①涼しい場所へ移す :エアコンの効いた室内や日陰・風通しのよい場所へすぐに移動させる。
②衣服をゆるめる :首周り・ベルト・上着をゆるめ、体の熱放散を助ける。
③体を冷やす :首・腋の下(腋窩)・太もも付け根(鼠径部)に保冷剤や冷たいタオルを当てる。体を濡らしてうちわで扇ぐ「蒸発冷却」も有効とされています。
④意識がある場合は水分・塩分を補給する :経口補水液やスポーツドリンク、0.1〜0.2%食塩水などを飲ませる。
⑤症状が回復しない・意識がない場合は119番へ :30分以上経っても回復しない、意識が混濁している、嘔吐が続く場合は迷わず救急要請する。
受診を検討したいサイン
以下の症状が1つでも見られる場合は、自己対処にとどまらず医療機関への受診または救急要請(119番)を検討してください。判断に迷う場合は#7119(救急安心センター)への電話相談も有用です。
意識がぼんやりする・呼びかけに反応が鈍い
嘔吐が続いている・口から水分を飲めない
体が熱く、汗が止まっている(体温が著しく高い)
けいれんが起きている
顔色が悪く(蒼白)、脈が速く弱い
涼しい場所に移しても30分以上経っても回復の気配がない
高齢者・乳幼児・持病のある方で症状がある(重症化しやすいため早めに受診を)
図3:熱中症が疑われた際の応急処置フローと受診・救急要請のサイン
参考文献
総務省消防庁(2023) 「令和5年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況(確定値)」消防庁報告 . 消防庁PDF / 2024年の97,578人(過去最多)・120名死亡の報告も消防庁発表に準拠。 ― 本記事での引用箇所:2023年・2024年の搬送人数、高齢者割合(54.9%)、死亡者数の根拠
環境省(随時更新) 「熱中症予防情報サイト 普及啓発資料」. 環境省 WBGT サイト ― 本記事での引用箇所:WBGT(暑さ指数)の基準値(28:厳重警戒・31:危険)、熱中症警戒アラートの発表基準
日本救急医学会(2024) 「熱中症診療ガイドライン2024」. JAAM PDF ― 本記事での引用箇所:I〜III度の重症度分類の定義、2024年改定でIV度(深部体温40℃以上・GCS≦8)が新設されたという根拠
Núñez-Rodríguez S, et al. (2025) "Thermoregulation and Heat Stroke Prevention in Older Adults: Advances in Emerging Technologies and Interventions." Sensors (Basel) . PMC12656532. PMC ― 本記事での引用箇所:高齢者で皮膚血流・発汗機能が低下し熱放散能力が低下するという機序の根拠、予防教育で「安全」分類が26.7%→45.0%に上昇したというデータ
Ishikawa T, et al. (2010) "Effect of oral rehydration solution on fatigue during outdoor work in a hot environment: a randomized crossover study." J Occup Health . 52(3):154-60. PMID: 20551583. PubMed ― 本記事での引用箇所:WBGT30℃の屋外作業でORS摂取群が自由飲料群より疲労VASが有意に低下した(電解質補給の有効性)根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の診断・治療に代わるものではありません。熱中症が疑われる場合や症状が続く・悪化する場合は、速やかに医療機関または救急(119番)にご相談ください。