予防・健診

熱中症予防の正しい知識――水分・塩分補給から高齢者・室内対策まで

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.20編集方針

夏になると、屋外での作業やスポーツ中、あるいは自宅でじっとしているだけでも、体調を崩して救急搬送されるケースが毎年報告されています。熱中症は「暑い場所にいたから」という単純な話ではなく、体の水分・塩分バランスの乱れと体温調節の破綻が絡み合った状態です。この記事では、正確な予防知識と、もしもの時のために知っておくべき応急処置の手順を、公的ガイドライン・研究をもとに整理します。

熱中症とは何か――体の中で何が起きているか

熱中症とは、暑熱環境にさらされることで生じる体温調節の破綻と、それに伴う臓器障害の総称です。体は汗をかくことで気化熱を利用し深部体温を下げようとしますが、気温・湿度が高く、十分な水分・塩分が補給されない状況では、この調節機能が追いつかなくなります[1]。

重症度によって病態は大きく3つに分類されます。

  • 熱けいれん:大量発汗により血液中のナトリウム濃度が低下し、腕・脚・腹部に痛みを伴うけいれんが起こります。意識は保たれており、適切な塩分・水分補給で回復できることが多いとされています[1]。
  • 熱疲労:発汗による脱水と、皮膚血管が過度に拡張することで循環が不全になった状態です。強い倦怠感、めまい、頭痛、吐き気、顔面蒼白などが現れます。体温は高くないか軽度上昇にとどまる場合が多いですが、適切な対応をしないと熱射病に進行する可能性があります[1]。
  • 熱射病:最も重篤な病型です。深部体温が39〜40℃以上に上昇し、脳への障害から意識障害(呼びかけへの反応が鈍い・言動がおかしい・意識がない)が生じます。多臓器不全を伴うことがあり、迅速な冷却と救急搬送が不可欠です[1]。

2024年に日本救急医学会が改訂した熱中症診療ガイドラインでは、重症度分類がⅠ度(軽症)・Ⅱ度(中等症)・Ⅲa度・Ⅲb度(重症)の4段階に整理されました。Ⅲ度が従来より細分化されたことで、集中治療が必要な超重症例の早期認識が促されています[1]。

熱中症の重症度と体の変化を示す図解
図1:熱けいれん・熱疲労・熱射病の違いと体内の変化のイメージ(日本救急医学会ガイドライン[1]をもとに作図)

暑さ指数(WBGT)を知る――屋外作業・スポーツでの判断基準

熱中症リスクを客観的に評価するために、国際的に用いられている指標が暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)です。気温だけでなく、湿度・輻射熱・風速を組み合わせた総合的な暑熱環境の指標で、スポーツ現場や職場での活動判断に活用されています[2]。

計算式は屋外では「WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度」で表されます。この中でも湿球温度(湿度の要素)が70%のウェイトを占めることが、「気温が30℃を超えていなくても、湿度が高いと熱中症になりやすい」理由を示しています[2]。

環境省が公表しているWBGTと行動指針の目安は以下のとおりです[2]。

  • WBGT 31以上(危険):運動は原則中止。高齢者や持病のある方は外出自体を避けることが望ましいとされています。
  • WBGT 28〜31未満(厳重警戒):激しい運動や重労働は中止。こまめな休憩・水分補給を優先します。
  • WBGT 25〜28未満(警戒):積極的に休憩をとり、水分・塩分補給を心がけます。
  • WBGT 21〜25未満(注意):積極的に水分補給をしながら活動できます。
  • WBGT 21未満(ほぼ安全):通常の水分補給で問題ないとされています。

日本スポーツ協会のガイドラインでは、WBGT28℃以上で「激しい運動の原則中止」、31℃以上で「運動は中止」とされており、学校体育・部活動・競技スポーツの現場でも同様の基準が適用されています[3]。

屋外で作業する場合、特に農業・建設・警備などの職種では、WBGTの実測が困難な場合もあります。米国疾病管理予防センター(CDC)の推奨では、温度計が使えない場合のHeat Index(気温と相対湿度から算出した体感温度)の閾値として29.4℃(85°F)が代替基準として示されています[4]。

水分補給・塩分補給・経口補水液の正しい使い方

熱中症予防の基本は「のどが渇く前に、こまめに補給する」ことです。人は1%程度の体液が失われてもすでに軽い脱水が始まっており、のどの渇きを感じる時点では2%程度の脱水が進んでいるとされています。特に高齢者はのどの渇きを感じにくくなるため、時間を決めて定期的に水分をとることが大切です[5]。

屋外作業・スポーツ時の水分補給の目安として、米国NIHおよびCDCの推奨では、高温環境下での中強度作業(2時間未満)の場合、15〜20分ごとに約200〜240mL(コップ1杯程度)を補給することが示されています。長時間の発汗が続く場合は、電解質(ナトリウム等)を含むスポーツドリンクや経口補水液が推奨されます[4]。ただし、水分摂取量が過剰になると低ナトリウム血症(水中毒)のリスクが生じるため、1時間あたり6カップ(約1.4L)を上限の目安とすることも報告されています[4]。

厚生労働省・労働基準局では職場の熱中症対策として、WBGT基準値を超える環境では、0.1〜0.2%の食塩水またはナトリウム含有量40〜80mg/100mLのスポーツドリンク・経口補水液を20〜30分ごとにコップ1〜2杯摂取することを推奨しています[5]。

水分補給の頻度・量とWBGTレベルの関係を示す図解
図2:WBGTレベルと推奨水分補給量の関係(CDC/NIH推奨[4]をもとに作図)

経口補水液(ORS)は、水と塩分・糖分を適切な比率で組み合わせることで、消化管からの吸収速度を最大化した飲料です。WHOが定める組成(低浸透圧ORS:ブドウ糖75mmol/L、ナトリウム75mmol/L)は、ナトリウムとブドウ糖が小腸で共輸送されることを利用しており、通常の水よりも素早く体内に吸収されるとされています。

ただし、経口補水液はナトリウム含有量が多いため、腎臓病・心臓病・高血圧で食塩制限を指示されている方が使用する際は、事前に主治医に相談することが重要です。また、熱中症の予防段階では通常のスポーツドリンクや麦茶+少量の塩分で十分な場合も多く、経口補水液は「熱中症が疑われる・軽症の応急処置」に適した位置づけです。

高齢者・子どもが特に注意すべき理由

高齢者は複数の生理的変化が重なるため、熱中症の「ハイリスク群」とされています。加齢に伴い体温調節機能が低下し、同じ暑熱環境でも深部体温が上がりやすくなります。また、体内の水分量自体が若年者より少なく、のどの渇きを感じにくくなるため、気づかないうちに脱水が進むことが多いとされています[6]。

海外の系統的レビューでは、「高齢者は加齢による生理的衰退と体温調節機能の低下から、暑熱への適応能力が低下している」と報告されており、気温上昇1℃ごとに全死因死亡率が2〜5%増加するという推計も示されています[6]。

日本国内の統計では、熱中症による死亡者の約8割が65歳以上の高齢者とされており、そのうちの4分の3以上がエアコンを使用しておらず、4割が睡眠中に亡くなっているというデータもあります。室内で安静にしていても発症・死亡する「室内熱中症」が深刻な課題であることがわかります[5]。

子ども(特に乳幼児・就学前)は体重に対する体表面積が大きいため、環境温度の影響を受けやすく、発汗機能も未発達です。暑さをうまく言葉で伝えられない場合も多く、外から気づいてあげることが重要です。チャイルドシート内の高温には特に注意が必要で、炎天下に止めた車内は10分で10℃以上上昇することがあります。

  • 乳幼児:ベビーカーの日よけを活用し、地面に近い高温の熱気を受けやすい点に注意する
  • 就学児:運動時に自ら水分補給を行う習慣をつける。WBGT31以上では屋外活動の中止を検討する
  • 思春期以降:部活動やスポーツ中の「無理」が重症化につながりやすい。違和感を感じたら早めに申し出る環境づくりが大切とされています

室内熱中症の実態とエアコン・涼みスポットの活用

室内熱中症は、屋外ではなく家の中や施設内で発症する熱中症です。「エアコンがあるから大丈夫」と思いがちですが、エアコンを使わないまま過ごした高齢者が亡くなるケースが毎年報告されています。「電気代がもったいない」「ちょっとくらい暑くても平気」という認識のずれが命取りになることがあります。

室内での対策のポイントは以下のとおりです。

  • 室温の目安:室温28℃を超えたらエアコンをつける。温度計・湿度計を目に見える場所に置き、感覚に頼らない。
  • エアコンの使い方:設定温度を下げすぎると冷えすぎて体調不良になることもあるため、室温が28℃以下になるよう調整することが基本とされています。扇風機との併用で体感温度を下げる方法も有効とされています。
  • 夜間の対策:夜間でも外気温が下がらない「熱帯夜」では、エアコンをつけたまま眠ることが推奨されます。睡眠中は発汗しても目が覚めにくいため、就寝前に水分をとることも大切です。
  • 涼みスポットの活用:自宅のエアコンが故障している・高齢で単身の場合は、市区町村が指定する「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」を活用することが選択肢として広がっています。図書館・公民館・ショッピングモールなどが指定される例も増えています。

熱中症警戒アラートが発令された日は、不要不急の外出を避け、ほぼ1日中エアコンの効いた室内で過ごすことを優先することが、環境省・気象庁の連名で呼びかけられています。

受診を検討したいサイン

以下のサインが一つでも見られる場合は、自己判断での様子見を続けずに救急車の手配または医療機関への搬送を検討してください。

  • 意識がない・呼びかけに反応しない・言動がおかしい(熱射病の疑い。ためらわずに救急要請)
  • 体温が39℃以上の高熱がある
  • 全身のけいれんが止まらない
  • 自分で水分が飲めない(嘔吐が続く・意識が低下している)
  • 涼しい場所で安静にして水分・塩分を補給しても30分以上たっても症状が改善しない
  • 高齢者・乳幼児・慢性疾患(心疾患・糖尿病・腎臓病など)のある方で、ぐったりしている
  • 皮膚が乾いて赤い・発汗が止まっている(重症のサイン)

意識があり自分で飲める状態の軽症であれば、涼しい場所への移動→体を冷やす(首・脇の下・足の付け根などに氷や保冷剤)→経口補水液・スポーツドリンクの補給→安静、という応急処置から始めます。それでも30分以内に回復しない場合は医療機関を受診してください。

熱中症の受診すべきサインと応急処置の手順を示す図解
図3:熱中症の重症度別サインと応急処置フロー

参考文献

  1. 日本救急医学会(2024)「熱中症診療ガイドライン 2024」日本救急医学会. 日本救急医学会 PDF
    ― 本記事での引用箇所:熱けいれん・熱疲労・熱射病の病態分類、新重症度4段階分類(Ⅰ度〜Ⅲb度)の説明
  2. 環境省(2024)「熱中症予防情報サイト(WBGT・暑さ指数)」環境省. 環境省 WBGT情報
    ― 本記事での引用箇所:WBGTの5段階基準値(21未満〜31以上)と行動指針
  3. 日本スポーツ協会(2023)「熱中症予防のための運動指針」日本スポーツ協会. 日本スポーツ協会
    ― 本記事での引用箇所:WBGT28℃以上で激しい運動原則中止・31℃以上で運動中止の基準
  4. 著者ほか (2024)「Summarizing Recommendations for the Prevention of Occupational Heat-Related Illness in Outdoor Workers: A Scoping Review」PMC12101872. PMC
    ― 本記事での引用箇所:屋外労働者の水分補給推奨(15〜20分ごと・200〜240mL)、1時間あたりの上限、Heat Index代替基準29.4℃(OSHA/NIOSH勧告の体系的まとめ)
  5. 厚生労働省(2024)「職場における熱中症予防対策・熱中症にご注意ください」厚生労働省. 厚生労働省
    ― 本記事での引用箇所:0.1〜0.2%食塩水・スポーツドリンク20〜30分ごと補給の推奨、高齢者死亡統計(8割が65歳以上・4割が睡眠中)
  6. Sorensen C, et al. (2019)「Heat Health Prevention Measures and Adaptation in Older Populations—A Systematic Review」International Journal of Environmental Research and Public Health. PMC6888447
    ― 本記事での引用箇所:高齢者の体温調節機能低下のエビデンス、気温上昇1℃あたり全死因死亡率2〜5%増加の推計

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合、または記事中に挙げた受診すべきサインに該当する場合は、速やかに医療機関にご相談ください。

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