健康診断の結果に「血圧が高め」「要観察」と書かれていても、自覚症状がないために後回しにしてしまう方は少なくありません。しかし、高血圧は「沈黙の病」とも呼ばれ、長期にわたって血管や臓器に負担をかけ続けることが知られています。日本では推計4,300万人が高血圧状態にあるとされており[1]、国民病の一つといえます。この記事では、高血圧の基準や種類、血圧が変動する仕組み、家庭での正しい測り方、そして食事・運動などのセルフケアについて、2025年に改訂された最新のガイドラインをもとに解説します。
健診で「要注意」と言われたら:高血圧の基準と種類を整理する
2025年8月、日本高血圧学会は「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を発刊しました[2]。6年ぶりの改訂で、高血圧の診断基準は従来どおり診察室血圧140/90 mmHg以上、家庭血圧135/85 mmHg以上が維持されましたが、降圧目標は全年齢で統一されました。以前は年齢や合併症によって目標値が異なっていましたが、今回から診察室血圧130/80 mmHg未満(家庭血圧125/75 mmHg未満)が一律の目標とされています[2]。
高血圧は血圧の高さによって3段階に分類されます。
- Ⅰ度高血圧:140〜159/90〜99 mmHg
- Ⅱ度高血圧:160〜179/100〜109 mmHg
- Ⅲ度高血圧:180/110 mmHg以上
また、診察室での血圧と家庭での血圧が一致しないケースがあります。代表的なのが白衣高血圧と仮面高血圧の2種類です。白衣高血圧は、診察室では血圧が高く出るものの、家庭では正常範囲になる状態で、高血圧全体の約15〜30%に見られるとされています。以前は「問題なし」と判断されることもありましたが、近年の研究から、白衣高血圧でも将来的に持続性高血圧に移行しやすいことが示されており、経過観察が必要とされています。
一方、仮面高血圧は診察室では正常でも、日常生活(特に早朝や夜間・職場など)では血圧が高くなる状態です。臓器障害のリスクは持続性高血圧と同程度と考えられており、見逃されやすい点で注意が必要です。どちらの判断にも、家庭血圧の記録が欠かせません。
図1:高血圧の分類と白衣高血圧・仮面高血圧の概念。家庭血圧と診察室血圧の乖離がある場合、家庭血圧を優先して評価することがJSH2025で推奨されています。
なぜ血圧は変動するのか:自律神経とストレスの関係
血圧は一定ではなく、1日の中で大きく変動します。この変動を調節しているのが自律神経です。自律神経には交感神経と副交感神経があり、緊張・興奮・ストレスを感じると交感神経が優位になり、心拍数の増加や血管収縮が起きて血圧が上昇します。反対に、安静・睡眠時には副交感神経が優位になり、血圧は下がります。
特に問題になるのが早朝高血圧(モーニングサージ)です。起床後の数時間は、交感神経の活性化・血液の濃縮(睡眠中の発汗)・体位変換などの影響を受け、血圧が急激に上昇しやすい時間帯です。脳卒中の発症が午前6時〜10時に集中しやすいことは、この早朝血圧の急上昇と関連があるとされています[4]。
慢性的なストレスも血圧を押し上げる要因の一つとされています。職場や家庭でのプレッシャーが続くと、交感神経が慢性的に優位な状態になりやすく、これが血圧の持続的な上昇につながることがあります。ただし、ストレスが血圧に及ぼす影響の程度は個人差が大きく、ストレスを「解消すれば血圧が下がる」という単純な関係ではありません。ストレス管理はあくまでセルフケアの一部として位置づけることが大切です。
また、睡眠不足や不規則な生活リズムも自律神経のバランスを崩す要因とされており、十分な睡眠(目安7〜8時間)と規則正しい起床・就寝時刻を保つことが、血圧の安定した管理につながると考えられています。
家庭血圧の正しい測り方:見逃しやすい高血圧を発見するために
JSH2025では、家庭血圧が診察室血圧よりも高く評価されています。その理由は、日常の血圧状態をより正確に反映し、白衣高血圧や仮面高血圧の発見にも役立つからです[2]。家庭血圧は、以下の手順で正確に測ることが推奨されています。
- タイミング:朝(起床後1時間以内・排尿後・朝食前・服薬前)と夜(就寝前)の2回
- 姿勢:椅子に座り、背もたれに背中をつけて1〜2分安静にしてから測定
- 体勢:上腕式血圧計を使用し、カフを心臓の高さに合わせる
- 回数:1回の測定機会に2回計測し、平均値を記録する
- 記録:毎日継続して記録し、医師に見せられるようにする
手首式の血圧計は体位のずれで誤差が出やすく、上腕式が推奨されています。健診の結果が気になる方や「自分は大丈夫」と思っている方も、まず家庭血圧を1週間継続して測ってみることが出発点になります。日本高血圧学会は2025年から「血圧朝活キャンペーン」を実施し、早朝の家庭血圧測定と記録の習慣化を呼びかけています[4]。
図2:JSH2025が推奨する家庭血圧の測定タイミングと手順([2]をもとに作図)。朝起床後1時間以内と夜就寝前の2回測定が基本とされています。
生活習慣の見直し:DASH食・減塩・有酸素運動の実践ポイント
JSH2025では、薬物療法の前提として「生活習慣の改善」が治療の基本と位置づけられています[2]。特に効果のある3つの柱を具体的に見ていきます。
① 減塩(1日6g未満が目標)
食塩摂取量を減らすことは、最も根拠が蓄積された降圧法の一つです。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、メタアナリシスの結果として「食塩を1g/日減らすと収縮期血圧が約1 mmHg低下する」という関係が報告されており[3]、ガイドラインでは高血圧患者の減塩目標を1日6g未満としています。令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査では、日本人の平均食塩摂取量は男性10.7g、女性9.1gとされており[1]、目標値との差は大きく、まず「汁物は1日1杯まで」「加工食品・外食を減らす」「出汁を活用して塩分を感じやすくする」といった小さな工夫の積み重ねが現実的です。
② DASH食(野菜・果物・低脂肪乳製品を中心にした食事パターン)
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、米国の大規模研究から生まれた食事パターンで、血圧を下げる効果が複数の研究で報告されています[3]。ポイントは特定の食品を食べるのではなく、食事全体のパターンを整えることです。
- 野菜・果物・低脂肪乳製品・全粒穀物を豊富に摂る(カリウム・カルシウム・マグネシウムが豊富)
- 青魚・大豆製品など不飽和脂肪酸を多く含む食品を増やす
- 脂身の多い肉類・スナック菓子・加工食品(飽和脂肪酸・トランス脂肪酸)を控える
- アルコールは少量にとどめる(男性20〜30 mL/日以下、女性10〜20 mL/日以下が目安)
③ 有酸素運動(中等度・週150分以上が目安)
ウォーキング・水泳・サイクリング・スロージョギングなどの有酸素運動は、継続することで血圧を下げる効果があると報告されています。JSH2025のもとになったエビデンスでは、習慣的な有酸素運動によって収縮期血圧を8.3 mmHg、拡張期血圧を5.2 mmHg低下させる可能性が示されています[4]。ただしこの効果は個人差が大きく、すべての方に同程度の変化が現れるわけではありません。運動強度の目安は「ややきつい」と感じる程度(うっすら汗ばむ早歩き)で、1日合計30分を目標に、まず週3日から始めることが推奨されています。収縮期血圧180 mmHg以上または拡張期血圧110 mmHg以上の方は、まず医療機関に相談してから運動を始めてください。
降圧薬との上手な付き合い方:始める前と続ける上での疑問
「血圧の薬は一度飲み始めると一生飲み続けなければならない」という誤解は根強くあります。降圧薬の服用が必要かどうかは、血圧の値だけでなく、年齢・合併症(糖尿病・慢性腎臓病・心疾患など)・脳心血管リスクを総合的に判断して決まります。JSH2025では、生活習慣改善を1〜3か月間試みても降圧目標に達しない場合に薬物療法を開始する流れが示されており[2]、高リスク者ではより早期の開始が推奨されています。
降圧薬には複数の種類があり、個々の状態に合わせて選ばれます。JSH2025では主要降圧薬として①カルシウム拮抗薬②ARB・ACE阻害薬(レニン-アンジオテンシン系阻害薬)③サイアザイド系利尿薬④β遮断薬の4種が挙げられています[2]。自分に合った薬を見つけるまでに調整が必要なこともありますが、勝手に服用を中断したり量を変えたりするのは血圧の急上昇につながることがあるため避けてください。
服薬中の方でセルフケアを取り入れる場合、食事・運動・減塩の効果で血圧が下がり、薬の量が見直せることもあります。ただし薬の減量・中断は必ず医師と相談の上で行ってください。
受診を検討したいサイン
以下のような状態が続く場合は、自己管理だけで対応しようとせず、早めに内科・循環器科への受診を検討してください。
- 家庭血圧が継続して135/85 mmHg以上、または診察室血圧が140/90 mmHg以上
- 収縮期血圧が180 mmHg以上、あるいは拡張期血圧が110 mmHg以上
- 激しい頭痛・嘔吐・視力の変化・呂律の回りにくさ・手足のしびれなど神経症状が現れた
- 胸の痛み・動悸・息切れが強くなってきた
- 降圧薬を服用中でも血圧が目標値に達しない状態が続いている
- 健診で蛋白尿・クレアチニン高値・心電図異常などを指摘された
- 若年(40歳未満)で高血圧と診断された(二次性高血圧の可能性あり)
図3:セルフケアの実践ポイントと、医療機関への受診を検討するサインの整理。
参考文献
- 日本生活習慣病予防協会(2024年更新)「高血圧の統計・疫学データ」生活習慣病の調査・統計. https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/disease/hypertension/
― 本記事での引用箇所:日本の高血圧推計患者数4,300万人、食塩摂取量の平均値(2023年国民健康・栄養調査)
- 阿部雅紀(2025)「高血圧管理・治療ガイドライン2025 ~改訂ポイント~」日大医誌 84(6): 257–261. J-STAGE
― 本記事での引用箇所:高血圧の診断基準・降圧目標(全年齢で130/80未満)・主要降圧薬の分類(G1〜3)・薬物療法の開始タイミング
- 厚生労働省(2020)「日本人の食事摂取基準2020年版」生活習慣病(高血圧)と栄養素の関連. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586583.pdf
― 本記事での引用箇所:食塩1g減少あたり収縮期血圧約1 mmHg低下、DASH食の降圧効果、カリウム摂取と脳卒中リスク
- 日本高血圧学会(2025)「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」日本高血圧学会公式サイト. https://www.jpnsh.jp/guideline.html
― 本記事での引用箇所:早朝高血圧と脳卒中リスク、有酸素運動による降圧効果(収縮期8.3 mmHg・拡張期5.2 mmHg)、「血圧朝活キャンペーン」
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。血圧や健康状態に不安がある場合、また症状が続く・悪化する場合は速やかに医療機関にご相談ください。