法人・健康経営

企業が知るべき更年期対策——職場の健康課題が生産性に与える影響と実践的な支援ステップ

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.02編集方針

労働人口に占める女性の割合が4割を超えた現在、企業が女性特有の健康課題に向き合わずに「人材の定着」も「生産性の維持」も語ることはできません。なかでも、40〜50代の中堅・管理職世代が直面しやすい更年期症状は、本人が声を上げにくいまま職場で抱え込みがちな課題です。本記事では、経営者・人事・総務担当者を対象に、更年期が企業に与えるコスト構造を整理し、今すぐ着手できる職場環境整備のポイントを解説します。

なぜ今、企業が更年期対策を求められているのか

経済産業省は2024年2月、女性特有の健康課題(月経随伴症・更年期症状・婦人科がん・不妊治療)による社会全体の経済損失を年間約3.4兆円と試算しました[1]。このうち更年期症状が占める損失は約1.9兆円にのぼり、欠勤・パフォーマンス低下・離職といった形で企業に直接跳ね返ってきます。

また、経済産業省の調査(2018年)によれば、女性従業員の約50%が「女性特有の健康課題で勤務先に困った経験がある」と回答し、約40%が「健康課題を理由にキャリアや担当業務をあきらめた経験がある」と答えています[2]。これは企業にとって、育成コストをかけた人材が本来の力を発揮できないリスクを抱えていることを意味します。

さらに2025年6月に改正された女性活躍推進法では、女性の活躍推進に際して「女性の健康上の特性に配慮して行われるべき」旨が基本原則として明記されました[3]。従業員数101人以上の企業は一般事業主行動計画の策定・届出が義務付けられており、更年期を含む女性の健康課題への対応は、今後の策定指針でも示されています。

健康経営優良法人の認定要件においても、2023年度より女性の健康に関する設問(ヘルスリテラシー向上の取組 Q56、行動変容促進の取組 Q57)が認定要件として組み込まれました。更年期対策は「人事福祉の善意」ではなく、経営上の義務と評価軸に変わりつつあります。

更年期症状による企業への影響:欠勤・パフォーマンス低下・離職リスクの概念図
図1:更年期症状が職場にもたらす3つのコスト(経産省試算([1])をもとに作図)

更年期症状とは何か——企業担当者が知っておくべき基礎知識

更年期とは、閉経の前後5年(おおむね40〜60歳)の計10年間を指します。日本人女性の閉経年齢の中央値は50.54歳とされており、この時期にエストロゲン(女性ホルモン)の急激な低下によって多彩な症状が現れます[4]

日本産科婦人科学会の定義では、更年期に現れる多種多様な症状のうち「器質的変化に起因しない症状」を更年期症状と呼び、そのなかで「日常生活に支障を来す病態」を更年期障害と区別しています。症状の種類は300以上あるともいわれ、一人ひとりの出方は大きく異なります。

企業の管理職が「怠けている」「精神的に弱い」と誤解しやすい症状として、以下が代表的です:

  • 血管運動神経症状:ほてり・のぼせ・発汗(ホットフラッシュ)・動悸
  • 精神神経症状:イライラ・抑うつ・不安・集中力の低下
  • 身体症状:疲れやすさ・肩こり・関節痛・頭痛・不眠
  • 泌尿生殖器症状:頻尿・性交痛(業務上の問題につながりにくいが当事者の苦痛は大きい)

日本人女性の場合、欧米に比べてホットフラッシュよりも易疲労感・肩こり・精神症状が上位に現れやすいことも知られています[4]。「なんとなく体の調子が悪い」状態が長引き、本人も症状の原因を把握しないまま職場で無理をし続けるケースが少なくありません。

40〜59歳の女性のうち、軽度の症状を含めれば60〜80%が何らかの症状を有するともいわれており、管理職・中堅社員が集中するこの年代の健康課題を放置することは、組織の中核を担う人材を消耗させるリスクと同義です[4]

プレゼンティーズムが企業業績を蝕む——データで見る職場支援の効果

産業衛生学の観点から近年注目されているのが、プレゼンティーズム(出勤はしているが体調不良でパフォーマンスが落ちている状態)への影響です。

産業医科大学(UOEH)の研究チームが2023年10月、同一企業の40〜60代女性労働者881人を対象に行った横断研究では、更年期症状の重症度と業務機能障害の出現率に明確な関連が認められました[5]

  • 症状なし群と比較して、中等度症状群では業務機能障害の有病率比が5.12倍(95%CI: 2.28–11.5)
  • 重度症状群では13.8倍(95%CI: 6.15–31.0)
  • 職場支援を受けていない労働者は、支援を受けている群に比べて業務機能障害の有病率比が3.16倍(95%CI: 2.05–4.89)

この研究が示す最も重要なメッセージは、「職場支援の有無が、更年期症状によるパフォーマンス低下を左右する」という点です。つまり、企業が適切な支援を行えば、同じ症状を持つ従業員でも職場での機能を維持できる可能性があるということです。

また、日本産科婦人科学会の2023年調査(40〜59歳の有職女性1,031人対象)では、更年期症状に対して最初にとった対処が「がまん」だった女性が管理職・非管理職ともに55%以上にのぼり、何らかの支援を求めるニーズがあるにもかかわらず職場に言い出せていない実態が浮き彫りになりました[6]

更年期症状の重症度別プレゼンティーズムリスク比較図(産業医科大学研究)
図2:症状重症度別の業務機能障害リスク(Nagai et al., Journal of UOEH 2025([5])をもとに作図)

企業が今すぐ始められる3つの対策ステップ

「更年期対策」と聞くと大規模な制度整備を想像しがちですが、経産省の2025年3月の事例集(令和7年版)では、中小企業でもコストをかけずに着手できる取組が多数紹介されています[7]。以下の3ステップが、実務的な出発点として参考になります。

ステップ1:管理職・経営層の理解促進(コスト:低)

「症状を正しく知らないと、職場での誤解が生まれる」という前提に立ち、まず管理職向けの勉強会や研修を実施します。更年期症状の特性と、声を上げにくい従業員へのアプローチ方法を共有するだけで、職場の心理的安全性が高まります。厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」では職場で使える無料の研修用動画・資料を提供しています[3]

ステップ2:柔軟な働き方制度の整備(コスト:中)

更年期症状のある従業員が「今日は体調が悪い」と感じたとき、無理に出勤しなくて済む環境が重要です。具体的には:

  • フレックスタイム制・時差出勤の導入(体調に合わせた始業時間の調整)
  • テレワーク推進(ほてりや発汗がある日でも在宅で業務を継続できる)
  • 「体調不良時に使える特別休暇」の整備(病名を問わず取得しやすい名称に)

日本産科婦人科学会の調査では、更年期症状を抱える有職女性が職場に最も求める支援は「休暇制度」であり、管理職・非管理職ともに3割超がこれを求めています[6]

ステップ3:産業保健体制の充実と外部サービス活用(コスト:中〜高)

産業医や産業保健師との連携を強化し、更年期症状の相談窓口として機能させます。50人未満の企業では産業医の選任義務がないため、健保組合の保健師や外部の健康支援サービスを活用する方法もあります。女性医師・産婦人科医への紹介パスを用意しておくと、症状の深刻化を防ぎやすくなります。

健康経営優良法人認定との接続——人事施策と評価軸の一体化

経済産業省の「健康経営優良法人」認定制度では、2023年度より女性の健康に関する2項目が認定必須要件となっています[1]

  • Q56:女性の健康課題に関する認知向上のための取組(研修・情報提供など)
  • Q57:行動変容を促す取組(受診勧奨・支援サービス導入など)

この2項目に回答し、対応策を実施・開示することが求められます。更年期対策はこれらの要件を充足する取組として直接カウントされます。認定取得企業は投資家・取引先・求職者へのシグナルとして活用でき、採用力の向上や企業ブランドの強化にもつながるとされています。

また、東京証券取引所と経済産業省が選定する「健康経営銘柄」や「なでしこ銘柄」(女性活躍推進に優れた上場企業の選定)でも、女性の健康課題への対応は評価項目に含まれており、特に女性従業員比率の高い企業や採用競争の激しい業界では、対応の先進性が中長期の企業価値に直結します。

一方で、中小企業においても取り組みの入り口は低コストで設定できます。まず「健康経営宣言」の策定と公表を行い、女性の健康課題に関する研修を年1回実施するだけでも、従業員に対して組織の姿勢を示すことができます。

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受診を検討したいサイン

本記事は企業の担当者向けの情報提供を目的としていますが、当事者の従業員が以下のようなサインを示している場合は、専門の医療機関(婦人科・産婦人科)への受診を検討するよう案内することが重要です。更年期症状に似た症状でも、背後に甲状腺疾患・うつ病・婦人科疾患などが隠れているケースがあり、医師による除外診断が必要です。

  • ほてり・動悸・発汗が強く、業務に集中できない状態が2週間以上続いている
  • 不眠が続き、休日明けでも疲労が回復しない
  • 抑うつ気分・強い不安・気力の著しい低下が認められる
  • 体重の急激な変化、異常な口渇、むくみ(甲状腺疾患・糖尿病・心疾患の可能性)
  • 不正出血・腹部の痛み・腫れ(婦人科疾患の可能性)
  • 産婦人科を受診しても原因が特定されず、症状が改善しない

産業医・保健師がいる職場では産業保健スタッフへの相談を促し、いない場合は外部のかかりつけ婦人科・地域の産業保健センターへの案内が有効です。

更年期症状の受診目安と企業サポートのフローチャート
図3:従業員からのSOSサイン発見から医療機関紹介までの対応フロー(概念図)

参考文献

  1. 経済産業省 ヘルスケア産業課(2024年2月)「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」経済産業省. PDF(経済産業省)
    ― 本記事での引用箇所:女性特有の健康課題による年間3.4兆円(更年期症状分1.9兆円)の経済損失試算・健康経営優良法人の認定要件
  2. 経済産業省(2018年)「働く女性の健康推進に関する実態調査2018」経済産業省(厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト掲載). 厚生労働省 母性ナビ
    ― 本記事での引用箇所:女性従業員の約50%が困った経験あり・約40%がキャリアをあきらめた経験あり
  3. 厚生労働省(2025年)「職場における女性の健康支援の取組のポイント」働く女性の心とからだの応援サイト(母性ナビ). 厚生労働省 母性ナビ
    ― 本記事での引用箇所:女性活躍推進法改正(2025年6月)で女性の健康上の特性への配慮が基本原則に明記・無料研修資料の提供
  4. 高松潔(2022年)「更年期障害 外来診療クイックリファレンス」日経メディカル(産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2017、HRTガイドライン2017年度版等をもとに解説). 日経メディカル
    ― 本記事での引用箇所:更年期の定義(閉経前後5年)、閉経年齢中央値50.54歳、40〜60歳の60〜80%が症状を有するとの推計、日本人の症状の特徴(易疲労感・精神症状が上位)
  5. Nagai M et al.(2025年)「Impact of Workplace Support Among Workers With Presenteeism Associated With Menopausal Symptoms in Japan: A Cross-Sectional Study」Journal of UOEH(産業医科大学雑誌)47(4):181-189. PubMed
    ― 本記事での引用箇所:中等度症状での業務機能障害リスク5.12倍・重度13.8倍、職場支援なし群での業務機能障害リスク3.16倍
  6. 日本産科婦人科学会 女性ヘルスケア委員会(2024年)「職種・役職・就労環境と更年期症状の関連調査」日本産科婦人科学会雑誌76巻6号:682-683. 日本産科婦人科学会雑誌
    ― 本記事での引用箇所:更年期症状への対処で「がまん」を選んだ女性が55%以上・職場に最も求める支援が「休暇制度」(管理職・非管理職ともに3割超)
  7. 経済産業省(2025年3月)「健康経営における女性の健康課題に対する取組事例集」令和6年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業. PDF(経済産業省)
    ― 本記事での引用箇所:中小企業を含む女性健康課題への具体的取組事例(費用補助・休暇制度・研修プログラム等)

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。また、法律・制度に関する記述は2026年7月時点の情報をもとにしており、今後の改正により内容が変わる可能性があります。個別の状況については、産業医、産業保健師、弁護士、社会保険労務士など専門家にご相談ください。

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