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胃の不調・胃もたれが続くのに「異常なし」——機能性ディスペプシアの正体と対処の考え方

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.06.28編集方針

「胃がもたれる」「みぞおちが重い」「食後にすぐ満腹になる」——そんな不快な症状が続くのに、内視鏡検査(胃カメラ)でも血液検査でも「異常なし」と告げられた経験はないでしょうか。検査結果が正常であれば安心できるはずなのに、むしろ「どうして原因が分からないのだろう」と不安が深まってしまう方も少なくありません。この記事では、そうした状況の背景にある「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia: FD)」という概念と、現時点で分かっていることを、信頼できる根拠に基づいて解説します。

「検査で異常なし」でも起こる胃の不調——機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシア(FD)とは、胃カメラや画像検査で胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの器質的な病気が見つからないにもかかわらず、「みぞおちの痛みや灼熱感」「食後のもたれ感や膨満感」「少し食べるだけで満腹になってしまう(早期飽満感)」といった症状が6か月以上続く状態を指します。国際的な診断基準「ローマIV基準」に基づいて定義されており、日本消化器病学会も2021年に改訂された診療ガイドラインを公表しています[1]

FDは決して珍しい状態ではありません。2025年に発表されたローマ財団グローバル疫学研究(26か国・約54,000人対象のインターネット調査)によると、ローマIV基準を満たすFDの世界全体の有病率は約7.2%(95%信頼区間 7.0〜7.4%)とされています[2]。女性は男性と比べて罹患リスクが約1.6倍高く(オッズ比 1.56)、若い年代ほど有病率が高い傾向があるとされています。

FDはローマIV基準で大きく2つのサブタイプに分類されます。

  • 食後愁訴症候群(PDS):食後の膨満感・もたれ感・早期飽満感が主な症状。FD全体の約66.6%を占めます[2]
  • 心窩部痛症候群(EPS):食事とは比較的無関係なみぞおちの痛みや灼熱感が主症状。

なお、同研究でFDを持つ方の約26.1%に過敏性腸症候群(IBS)が重複していることも示されており、消化管の機能的な問題が複合的に起こることも少なくないとされています[2]

機能性ディスペプシアの2つのサブタイプ(PDS・EPS)と主な症状の違いを示す図解
図1:機能性ディスペプシアの分類——食後愁訴症候群(PDS)と心窩部痛症候群(EPS)の主な症状

なぜ検査で異常が見つからないのか——FDの病態メカニズム

「検査で異常がないのになぜ不調が起きるのか」は、多くの方が抱く疑問です。現時点の研究では、FDは単一の原因ではなく、複数のメカニズムが絡み合って生じる多因子疾患と考えられています[1]。主なものを以下に整理します。

  • 胃の適応性弛緩障害・排出遅延:食後に胃が適切に膨らまず、少量の食事でも強い圧迫感や早期飽満感が生じることがあります。FD患者の30〜60%に何らかの胃運動機能異常があるとする報告もあります[3]
  • 内臓知覚過敏:胃や十二指腸の感覚神経が過敏な状態となり、健康な人では感じない程度の刺激(食物の通過・膨張など)を強い不快感として認識することがあると考えられています。
  • 脳腸相関の乱れ・自律神経の不均衡:大阪市立大学(現 大阪公立大学)の研究では、FD患者の86.7%に24時間心拍変動検査で自律神経機能の異常(副交感神経活動の低下・交感神経優位)が確認されたと報告されています[3]。脳と腸は自律神経や迷走神経を介して双方向に情報をやり取りしており(脳腸相関)、ストレスや不安が消化管機能に影響を及ぼすことが知られています。
  • 十二指腸の微小炎症・透過性亢進:近年の研究では、十二指腸粘膜における好酸球やマスト細胞の浸潤(微小炎症)がFDの病態に関わる可能性も指摘されています。
  • 感染後FD:ローマ財団の調査では、FDを持つ方の35.8%が感染性胃腸炎の罹患後に症状が始まったと報告しています[2]。ウイルス性胃腸炎などの後に機能的な不調が続くケースは「感染後FD」と呼ばれます。

これらのメカニズムは互いに重なり合うことが多く、「どれか1つが原因」というわけではなく、複数の要因が組み合わさって症状が生じると理解されています。

脳腸相関と自律神経が胃の機能に影響を与えるメカニズムを示す模式図
図2:脳腸相関——脳(自律神経・ストレス)と胃腸が双方向に影響し合うメカニズムの概略図(Tominagaら [3] の知見をもとに作図)

器質的疾患との見分け方——どんな検査が必要か

「異常なし」と言われるまでには、胃の器質的な病気(構造的・組織的な異変)を除外することが必要です。機能性ディスペプシアの診断は、消化管の器質的疾患を除外したうえで初めて成り立つという考え方が基本です[1]。除外すべき主な疾患には以下のものがあります。

  • 胃・十二指腸潰瘍:みぞおちの痛みや空腹時の灼熱感が典型的です。
  • 胃がん・食道がん:長引く症状、体重減少、嚥下困難などを伴う場合は特に注意が必要です。
  • 胃食道逆流症(GERD):胸やけ・呑酸が主症状ですが、みぞおちの不快感を伴うこともあります。
  • ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)感染:FDとの関連が指摘されており、日本消化器病学会のガイドラインでは除菌後にディスペプシア症状が軽快する可能性があるとされています[1]。ピロリ菌検査は現在、内視鏡所見がある場合などに保険適用となります。
  • 膵臓・胆道疾患:みぞおちから背中への放散痛がある場合は鑑別が重要です。

日本消化器病学会のガイドラインでは、ディスペプシア症状がある場合の上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の実施が推奨されています。血液検査(貧血、炎症反応、肝・胆・膵機能など)や腹部超音波検査も、他の疾患を除外するために重要です。特に「警戒すべきサイン(アラームサイン)」がある場合は速やかな精密検査が必要です(詳細は最後のセクションをご覧ください)。

機能性ディスペプシアと除外すべき器質的疾患(胃潰瘍・胃がん・逆流性食道炎等)の関係を示す図
図3:FDと器質的疾患の関係——内視鏡検査などで器質的な病気を除外した後にFDの診断に至る流れ

食事・生活習慣とFD——日常でできることの土台

FDの診療ガイドラインでは、生活習慣の見直しや食事療法がまず検討される初期アプローチのひとつとされています[1]。ただし、「これをすれば症状が確実に楽になる」という科学的根拠が確立された方法は現時点では限られており、個人差も大きいとされています[4]。以下はエビデンスを踏まえた一般的な考え方であり、個人の状況に合わせて担当医と相談しながら進めることが大切です。

  • 食事量を少なく、回数を多く:胃の適応性弛緩障害がある方では、一度に大量に食べることが症状を誘発しやすいことが示唆されています。少量をゆっくりと、回数を増やして食べる工夫が一定の助けになる可能性があるとされています[4]
  • 高脂肪食を控える:脂肪分の多い食事は、コレシストキニン(CCK)の分泌を通じて胃排出を遅らせ、FD症状を誘発しやすいと考えられています[4]。揚げ物や脂の多い肉料理を食べた後に症状が出やすい方は、食事内容の見直しを検討することが一案です。
  • 刺激物・アルコール・カフェインに注意:辛い食べ物(カプサイシン)、コーヒー、アルコールなどが症状の引き金になりやすいとする報告があります。ただし個人差が大きく、一律に禁止する必要はありません[4]
  • 食事の時間・食べ方を整える:不規則な食事習慣(食事の抜き、夜食、外食の多用など)がFDと関連するとする研究もあります[4]。規則的な食事時間を保ち、ゆっくりよく噛んで食べることは消化機能の土台として多くの医師が推奨するアプローチです。
  • 禁煙・適度な運動:喫煙は消化管の血流や機能に悪影響を与えるとされています。また、適度な有酸素運動がストレス軽減や消化管運動の維持に関わるとする見解があります。

大切なのは、症状への過度な「食の制限」は栄養バランスを崩したり、食事への不安感(過覚醒)を強めてかえって内臓知覚過敏を増強してしまう恐れもあるという点です。自己判断で極端な除去食を長期に続けることは、専門家の指導なしには推奨されません[4]

FDに関係する食事・生活習慣の要因(高脂肪食・不規則な食事・ストレスなど)を整理した図解
図4:FDと関連する食事・生活習慣の要因——高脂肪食や不規則な食習慣が症状に関わりうることを示す概念図(Pesceら [4] の知見をもとに作図)

心理・ストレスとの深い関係——こころと胃をつなぐ双方向の影響

FDは身体的な問題だけでなく、心理的・精神的な要因とも深く関わっていることが複数の研究で示されています。香港で行われたコミュニティ研究(2011人対象)では、ローマIII基準によるディスペプシアを持つ方は、そうでない方と比べて、全般性不安障害(GAD)のリスクが約2倍(オッズ比 2.03)、大うつ病エピソードのリスクが約3.6倍(オッズ比 3.56)高いと報告されています[5]

また、オーストラリアの12年間の前向き縦断研究では、脳腸相関が「脳(不安)から腸」「腸から脳(不安・うつ)」の双方向に働くことが示されています[5]。つまり、ストレスや不安が胃の症状を引き起こすことも、胃の症状が続くことで不安やうつが生じることもある、という双方向の影響関係が確認されています。

これは「気のせい」という意味ではありません。脳と腸をつなぐ自律神経・迷走神経・腸管神経系の実際の機能的な変化が関わっていると考えられており、心理的なアプローチ(認知行動療法など)が一部の患者さんのQOL向上に寄与するとする報告もあります[1]。ただし、これらのアプローチの有効性には個人差があり、適応を含めて専門家との相談が必要です。

「検査で異常がない」と言われた後も不安が続く場合、その不安自体が症状を維持・増強させる一因になりうることも、ガイドラインは指摘しています[1]。良好な医師患者関係のなかで症状を丁寧に説明してもらい、不安を軽減することも治療の一環とされています。

ストレス・不安とFD症状が双方向に影響し合うことを示す脳腸相関の概念図
図5:心理的ストレスとFDの双方向の関係——不安・うつがFDのリスクを高め、FDがさらに不安を引き起こしうる悪循環(Makら・Koloskiら [5] の知見をもとに作図)

受診を検討したいサイン

機能性ディスペプシアの診断は、あくまで「器質的な疾患を除外した後」に成り立つものです。以下の「警戒すべきサイン(アラームサイン)」がある場合は、自己判断で様子を見ることなく、速やかに消化器科・内科を受診されることをお勧めします。

  • 体重が意図せず急に減っている(目安として3〜6か月で体重の5%以上)
  • 黒いタール状の便、または血便・嘔血がある
  • 飲み込みにくさ(嚥下困難)や、食物が詰まる感じがある
  • みぞおちや腹部に触れるしこり・腫れがある
  • 貧血の症状(顔色が悪い・立ちくらみ・息切れ)が続く
  • 持続する発熱を伴うみぞおちの痛みがある
  • 背中への強い放散痛がある(膵炎・胆道疾患の可能性)
  • 症状が急激に悪化した、またはこれまでと違う性質の痛みが出た
  • 症状が数週間以上続いているのに未受診、または以前受けた検査から1年以上経過している
  • 50歳以上で新たにみぞおちの痛みや膨満感が始まった場合(胃がんのリスクが高まる年代です)

これらのサインがなくても、症状が生活の質(QOL)に著しく影響している場合や、不安が続いている場合は、消化器内科や内科への相談をためらう必要はありません。「また検査しても無駄かも」と感じる方も多いのですが、症状の変化を定期的に医師に伝え、必要に応じて検査を見直してもらうことが大切です。また、同カテゴリの関連記事として、病院で「異常なし」と言われても体調が悪い理由や、喉の違和感・つまり感が続くのに「異常なし」の場合も参考にしてください。

機能性ディスペプシアで受診を急ぐべきアラームサイン(体重減少・血便・嚥下困難等)をリスト化した図解
図6:受診を急ぐべきアラームサイン——これらの症状がある場合は速やかに消化器科・内科へ

参考文献

  1. 日本消化器病学会編(2021)「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版」南江堂. Mindsガイドラインライブラリ掲載 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00643/
    ― 本記事での引用箇所:FDの定義・診断基準・病態・治療方針(生活習慣指導、H.pylori検査推奨)の根拠
  2. Tack J et al.(2025)「Functional Dyspepsia and Its Subgroups: Prevalence and Impact in the Rome IV Global Epidemiology Study」Alimentary Pharmacology & Therapeutics 62(3):330. doi: 10.1111/apt.70189 PMC12239946
    ― 本記事での引用箇所:FDのグローバル有病率7.2%・女性優位・PDSが66.6%・感染後FD35.8%・IBS重複26.1%の根拠
  3. Tominaga K et al.(2016)「Disorder of autonomic nervous system and its vulnerability to external stimulation in functional dyspepsia」Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition 58(2):161. doi: 10.3164/jcbn.15-140 PMC4788403
    ― 本記事での引用箇所:FD患者の86.7%に自律神経機能異常(副交感神経低下)・胃運動遅延30〜60%・脳腸相関の関与の根拠
  4. Pesce M et al.(2020)「Diet and functional dyspepsia: Clinical correlates and therapeutic perspectives」World Journal of Gastroenterology 26(5):456. doi: 10.3748/wjg.v26.i5.456 PMC7015717
    ― 本記事での引用箇所:高脂肪食・少量頻回食・不規則な食習慣とFD症状の関連、極端な除去食のリスクの根拠
  5. Mak AD et al.(2012)「Dyspepsia is strongly associated with major depression and generalised anxiety disorder - a community study」Alimentary Pharmacology & Therapeutics 36(8):800. PMID: 22957985; Koloski NA et al.(2012)「The brain-gut pathway in functional gastrointestinal disorders is bidirectional: a 12-year prospective population-based study」Gut 61(9):1284. PMID: 22234979 PubMed 22957985 / PubMed 22234979
    ― 本記事での引用箇所:ディスペプシアとGAD(OR 2.03)・MDE(OR 3.56)の関連、脳腸相関の双方向性の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。胃の不調が続く場合や、上記のアラームサインに該当する症状がある場合は、消化器科・内科などの医療機関にご相談ください。

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