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頭がぼーっとする・集中できない「ブレインフォグ」——検査で異常なしでも起きる認知のもやの正体

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.06.28編集方針

「仕事中なのに頭がぼーっとして考えがまとまらない」「言いたい言葉がすぐに出てこない」「人の話を聞いていても頭に入ってこない気がする」——そんな経験が続いているのに、病院で検査を受けても「異常なし」と言われた方は少なくありません。この状態は近年「ブレインフォグ(brain fog)」と呼ばれ、倦怠感や気力低下とは異なる認知機能のもやとして注目されています。本記事では、ブレインフォグとは何か、なぜ検査で見つかりにくいのか、背景にある生理的メカニズムと、日常生活で気をつけられることを根拠ベースで解説します。

ブレインフォグとは——「疲れ」ではなく「認知のもや」

ブレインフォグは医学的な正式診断名ではなく、思考の遅さ・集中困難・言語的なもたつき・記憶の引き出しにくさなどが重なる主観的な状態を指す総称です。2023年に Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry に掲載された研究(McWhirter ら)では、Reddit の投稿1,663件を分析し、ブレインフォグが表す体験として「物忘れ(51件)」「集中困難(43件)」「思考の遅さと過度の精神的努力(26件)」「言葉が出にくい(22件)」が上位を占めることが示されています[1]

ここで重要なのは、ブレインフォグは「やる気が出ない」「体がだるい」という感覚とは異なる軸の症状だという点です。気力の低下や倦怠感は動機づけ・エネルギー面の問題として現れますが、ブレインフォグは思考・注意・記憶・言語という認知機能の次元で生じます。同じ人が両方を経験することはありますが、メカニズムは異なるため、区別して考えることが対処の糸口になります。

また、ブレインフォグは特定の疾患の専売特許ではなく、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)・線維筋痛症・甲状腺機能低下症・長期にわたるCOVID後遺症など複数の状態で共通して報告されています。「検査では異常なし」とされても、こうした機能的な変化が認知面の不具合として現れることは十分にあり得ます。

ブレインフォグの主な症状——集中困難・記憶の引き出しにくさ・言葉が出にくいなど認知機能の複数の次元
図1:ブレインフォグが影響する認知機能の各領域(集中・記憶・言語・処理速度)

なぜ検査で「異常なし」になるのか——機能的変化と構造的変化の違い

一般的な血液検査・MRI・CT検査は、臓器の構造的な異常や大きな炎症マーカーを検出するために設計されています。ブレインフォグの背景として考えられているメカニズムの多くは神経細胞同士のシグナル伝達の変化、神経炎症の微細な亢進、脳の局所的な血流の微妙な変動といった「機能的変化」であり、通常の検査では数値に反映されにくいのが現状です。

2022年に Oxford Open Immunology に掲載された Kavanagh らのレビュー[2]では、ブレインフォグの神経炎症仮説として以下のメカニズムが整理されています。まず、脳内の免疫細胞であるミクログリア(microglia)が過剰に活性化すると、IL-1β・IL-6 などの炎症性サイトカインを長時間にわたって放出し続けます。これにより、ニューロン間のシナプス可塑性(長期増強・長期抑圧)が損なわれ、海馬での神経新生が低下するとされています。また、サイトカインの上昇は BDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を抑制するとも報告されており[2]、これが記憶の固定や注意の持続に関わると考えられています。

さらに、同レビューでは血液脳関門(BBB)の障害が神経炎症の入口になりうると指摘しています。末梢の炎症が持続すると、本来は脳を有害物質から守るBBBの透過性が高まり、炎症性物質が脳内に侵入しやすくなる可能性があります[2]。このような変化は通常の画像検査では可視化されません。

神経炎症のメカニズム——ミクログリアの活性化と炎症性サイトカインの放出がニューロン間のシグナル伝達に影響する
図2:Kavanagh ら(2022)[2] をもとに作図——ミクログリア活性化→サイトカイン放出→シナプス可塑性低下の経路

ME/CFS研究が示す認知機能低下のパターン

ブレインフォグが最も系統的に研究されているのは、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)領域です。Sebaiti らが2022年に Scientific Reports に発表したメタ分析(33研究、ME/CFS 1,086名・健康対照968名)では、ME/CFS 患者の89%が記憶と集中の問題を報告しており、神経心理学的検査では以下の領域で中〜大の効果量の低下が示されています[3]

  • 視空間即時記憶(効果量 g = −0.55、p = 0.007)
  • 読字速度(g = −0.82、p = 0.0001)——情報処理速度の低下を反映
  • 反応時間(g = 0.66、p = 0.0001)——注意・処理速度の遅延
  • エピソード記憶の貯蔵・想起・再認、および視覚記憶の想起にも障害

一方で、言語・計算・視空間構成などの道具的機能は保たれる傾向にあることが報告されています[3]。これはブレインフォグの特徴的なプロフィールであり、「全体的な知能低下」ではなく「処理の速さ・記憶の出し入れ・持続的注意」に選択的に影響が出やすいことを示しています。

また、ブレインフォグは「気のせい」や「心理的な問題」と片付けられがちですが、上記の神経心理学的検査では客観的なスコア低下として測定可能です。ME/CFS の患者は、休息後も同様の低下が見られるという点で、単純な「疲れによる集中力低下」とは区別されます。

ME/CFS患者における認知機能低下の領域別データ——処理速度・記憶・注意力で中〜大の効果量が示されている
図3:Sebaiti ら(2022)[3] のメタ分析をもとに作図——ME/CFS における認知領域別の低下パターン

睡眠・ストレス・甲状腺——日常生活で重なりやすい3つの背景

ブレインフォグはME/CFSのような特定の疾患がなくとも、日常的な複数の要因が重なることで現れやすくなります。特に注目されるのが、睡眠の問題・慢性的なストレス・甲状腺機能の変化の3つです。

睡眠不足と認知機能:García らが2021年に Sleep Science に発表した研究(PMID 34381574)では、24時間の睡眠剥奪後に選択的注意が有意に低下し(正答率 82.5% → 69.9%、効果量 ηp2 = 0.41)、認知的抑制(余分な情報を無視する能力)も低下することが示されています[4]。特筆すべきは「1回の回復睡眠でこれらの影響が回復した」という知見であり、睡眠の質が認知機能に直結していることを示しています。

慢性ストレスとワーキングメモリ:Shields らが2016年に Neuroscience & Biobehavioral Reviews に発表したメタ分析(PMID 27371161)では、急性ストレスがワーキングメモリを有意に低下させ(g = −0.197、p = 0.005)、認知的柔軟性にも負の影響を与えること(g = −0.300、p = 0.039)が示されています[5]。コルチゾールは海馬と前頭前皮質のグルコルチコイド受容体に作用するため、記憶の引き出しと目標に向けた思考の両方に影響が及ぶとされています。

甲状腺機能低下とブレインフォグ:Samuels と Bernstein が2022年に Thyroid 誌に発表したレビュー(PMID 35414261)では、甲状腺機能低下症の患者が「疲労・気分の落ち込み・記憶と実行機能の認知的困難」からなるブレインフォグを訴えることが整理されています[6]。TSH が正常範囲内であっても「潜在性甲状腺機能低下」の状態では微細な認知低下が測定されることがあり、通常の血液検査で見落とされやすい領域です。

ブレインフォグの背景要因——睡眠不足・慢性ストレス・甲状腺機能低下の3つが脳の認知機能に影響するルート
図4:睡眠・ストレス・甲状腺という3つの要因が認知機能に影響するルート

日常生活でできる認知機能の土台づくり

ブレインフォグを「即座に取り除く」方法は存在せず、特定の食品や習慣が劇的な変化をもたらすことを保証するものではありません。しかし、神経炎症・腸脳相関・睡眠という3つの軸を支えることが、認知機能の土台として機能する可能性が研究から示唆されています。

睡眠の質を整える:前述のように睡眠は認知機能の回復と直結しています。就寝・起床時刻を一定にすること、就寝前の強い光(特にブルーライト)への曝露を控えることが睡眠の質に関わるとされています。「8時間眠れているのにぼーっとする」という場合は、睡眠の深さや連続性に問題がある可能性もあります。

腸内環境と脳のつながり(腸脳相関):Altınsoy らが2026年に Current Nutrition Reports に発表したレビュー(PMID 41961405)では、消化器疾患患者の50%以上にブレインフォグが認められ、消化器症状がブレインフォグを有意に予測することが示されています[7]。腸内環境を支えるものとして、同レビューでは地中海食(野菜・果物・全粒穀物・豆類・ナッツ・魚)が神経炎症・腸脳相関・睡眠の質の3つのルートに横断的に作用するとされています。一方、高脂肪・高糖分の食事は海馬依存の学習・記憶機能を低下させる可能性も示されています[7]

身体活動と脳血流:軽度から中程度の有酸素運動は脳血流を促進し、BDNF の分泌に関わるとする研究が複数あります。ただし、ME/CFS の場合は「運動後不快感(PEM)」があり、強度のある運動がかえって症状を悪化させることが知られています。自身の体調と相談しながら、無理のない範囲で活動量を検討することが大切です。

認知的負荷の分散:思考のもやがある状態で複数タスクを並行してこなそうとすると、ワーキングメモリへの負荷がさらに高まります。メモやリストを積極的に活用し、一度に処理する情報量を意図的に絞ることが、日常のパフォーマンスを支える実践的な工夫として挙げられます。

認知機能の土台——規則的な睡眠・腸内環境のケア・適度な身体活動・ストレス管理の4本柱
図5:認知機能を支える生活の4つの柱(睡眠・腸内環境・身体活動・ストレス管理)

受診を検討したいサイン

ブレインフォグの症状は多くの場合、生活習慣の変化や休息によって変動しますが、以下のようなサインが見られる場合は、自己判断を続けずに医療機関への受診を検討することをお勧めします。

  • 急に症状が始まったり、急速に悪化している(数日〜数週間以内の急激な変化)
  • 頭痛・視覚の変化・言語障害・手足のしびれを伴う(脳神経疾患との鑑別が必要)
  • 日常生活・仕事・学業が継続できないレベルの支障が続いている
  • 3〜4週間以上症状が持続しており、睡眠や休息で変化がない
  • 気分の落ち込み・希死念慮・強い不安を伴っている(精神科・心療内科への相談も選択肢)
  • 新型コロナウイルス感染後にブレインフォグが始まった、または悪化した(COVID後遺症の可能性
  • 体重の増減・寒がり・脱毛・動悸などが重なっている(甲状腺機能のより詳しい評価が有用な場合がある)

また、「検査で異常なし」と言われても症状が続く場合は、機能性疾患・自律神経の問題・ME/CFS を専門とする内科や神経内科、あるいは睡眠専門外来への相談が一つの選択肢になります。詳しい病態評価については「病院で異常なしと言われても体調が悪い理由」も参考にしてください。

受診を検討したいサイン——急激な変化・日常生活への支障・神経症状の併発など
図6:ブレインフォグで医療機関への相談を検討したいサイン

参考文献

  1. McWhirter L, Smyth H, Hoeritzauer I, Couturier A, Stone J, Carson AJ(2023)「What is brain fog?」Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. PubMed PMID: 36600580
    ― 本記事での引用箇所:ブレインフォグの定義と主要症状(物忘れ51件、集中困難43件、思考の遅さ26件、言語的もたつき22件)
  2. Kavanagh E(2022)「Long Covid brain fog: a neuroinflammation phenomenon?」Oxford Open Immunology, 3(1):iqac007. PMC9914477
    ― 本記事での引用箇所:ミクログリア活性化→サイトカイン→シナプス可塑性低下・BDNF減少のメカニズム、血液脳関門障害の説明
  3. Sebaiti MA, Hainselin M, Gounden Y, Sirbu CA, Sekulic S, Lorusso L, Nacul L, Authier FJ(2022)「Systematic review and meta-analysis of cognitive impairment in myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome (ME/CFS)」Scientific Reports. PubMed PMID: 35140252
    ― 本記事での引用箇所:ME/CFS患者の89%が記憶・集中の問題を報告、視空間記憶・読字速度・反応時間の効果量データ
  4. García A, Del Angel J, Borrani J, Ramirez C, Valdez P(2021)「Sleep deprivation effects on basic cognitive processes: which components of attention, working memory, and executive functions are more susceptible to the lack of sleep?」Sleep Science. PubMed PMID: 34381574
    ― 本記事での引用箇所:睡眠剥奪による選択的注意の低下(正答率82.5%→69.9%、ηp2=0.41)と1回の回復睡眠による回復
  5. Shields GS, Sazma MA, Yonelinas AP(2016)「The effects of acute stress on core executive functions: A meta-analysis and comparison with cortisol」Neuroscience & Biobehavioral Reviews. PubMed PMID: 27371161
    ― 本記事での引用箇所:急性ストレスによるワーキングメモリ低下(g=−0.197)および認知的柔軟性低下(g=−0.300)のメタ分析データ
  6. Samuels MH, Bernstein LJ(2022)「Brain Fog in Hypothyroidism: What Is It, How Is It Measured, and What Can Be Done About It」Thyroid. PubMed PMID: 35414261
    ― 本記事での引用箇所:甲状腺機能低下症患者のブレインフォグ(記憶・実行機能の認知的困難)の定義と、通常検査では見落とされやすいという知見
  7. Altınsoy C, Kahramanoğlu Aksoy E, Özgül S, Dikmen D(2026)「Nutritional Approaches to Managing Brain Fog: Insights Into Neuroinflammation, the Gut-brain Axis, and Sleep」Current Nutrition Reports. PubMed PMID: 41961405
    ― 本記事での引用箇所:消化器疾患患者の50%以上にブレインフォグが認められること、地中海食の3経路への作用、高脂肪・高糖食の海馬機能への負の影響

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。

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