2022年にSleep Medicine Reviews誌に掲載されたDressleらのシステマティックレビューとメタ分析では、慢性不眠の患者は健常な眠りの人に比べてコルチゾール(ストレスホルモン)が統計的に有意に高く(効果量SMD=0.50)、血液検査を用いた研究に限るとその差はさらに大きくなること(SMD=0.67)が示されています[1]。コルチゾールは覚醒を促すホルモンであり、夜間にこれが高止まりしていると、身体が「疲れた」と感じていても脳が「起きろ」と命令し続ける状態になります。
Sleep Medicine Reviews誌(2022)のメタ分析では、この現象が20件のケースコントロール研究(不眠患者449名・健常対照者357名)の統合解析によって裏付けられています[1]。コルチゾールが高止まりすると、体温の低下・心拍数の減少・副交感神経の優位化といった「入眠のための準備」が妨げられます。
また、アドレナリン(エピネフリン)やノルアドレナリンといった交感神経系の伝達物質も、HPA軸と連動して増加します。これらは「今すぐ動け」という緊急シグナルであり、就寝前に分泌が高まると、身体は疲弊していても頭だけが冴えた状態(英語では"tired but wired")に陥りやすくなります。日本語でいえば「ぐったりしているのに頭が回る」という、不眠に悩む方が頻繁に訴える状態です。
また、睡眠制限療法(Sleep Restriction Therapy)と刺激制御療法(Stimulus Control Therapy)の2つが、CBT-Iの主要な行動的アプローチです。刺激制御療法では、「ベッドは眠るためだけに使う」「眠くなってから横になる」「15〜20分眠れなければベッドから出る」といった手順で、ベッドと覚醒の条件付けを解除することが目標になります。
Dressle RJ, Feige B, Spiegelhalder K, et al.(2022)「HPA axis activity in patients with chronic insomnia: A systematic review and meta-analysis of case-control studies」Sleep Medicine Reviews. PubMed PMID: 35091194 ― 本記事での引用箇所:「慢性不眠患者のコルチゾール値が健常者より有意に高い(SMD=0.50〜0.67)」の根拠(見出し1・2で使用)
Roehrs T, Roth T(2019)「Hyperarousal in insomnia: pre-sleep and diurnal cortisol levels in response to chronic zolpidem treatment」Sleep Medicine. PubMed PMID: 31255482 ― 本記事での引用箇所:「過覚醒の高い不眠患者では日中の尿中コルチゾールが有意に高い(p<0.03)」の根拠(見出し1で使用)
PMC8412030(2021)「Depression and sleep: what has the treatment research revealed and could the HPA axis be a potential mechanism?」Current Psychiatry Reports. PMC8412030 ― 本記事での引用箇所:「慢性ストレスと睡眠の双方向関係、HPA軸の過活性が不眠を悪化させる悪循環」の根拠(見出し2で使用)
Kay DB, Buysse DJ(2017)「Hyperarousal and Beyond: New Insights to the Pathophysiology of Insomnia Disorder through Functional Neuroimaging Studies」Brain Sciences. PMC5366822 ― 本記事での引用箇所:「不眠患者の脳では辺縁系の代謝が異なるパターン、GABA系の機能低下が関与」の根拠(見出し3で使用)
Walker J, Muench A, Perlis M, Vargas I(2022)「Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia (CBT-I): A Primer」Klin Spec Psihol / Clinical and Special Psychology. PMC10002474 ― 本記事での引用箇所:「CBT-Iの効果量1.0〜1.2・約50%の症状改善、条件付き覚醒が慢性不眠の持続要因」の根拠(見出し4で使用)