「背中がピリピリして、何かおかしい」と感じて数日後、気づいたら片側だけに赤い発疹が帯状に広がっていた——帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、そのような経過をたどることが多い感染症です。子どもの頃に水ぼうそうにかかったことがある方なら、誰でも将来発症するリスクがあります。特に50歳を過ぎると発症率が上がるとされており[1] 、疲れやストレスが引き金になることもあります。この記事では、帯状疱疹のしくみと症状、早期受診の大切さ、帯状疱疹後神経痛(PHN)のリスク、ワクチンによる予防、そして日常のセルフケアについて、公的機関や学会の情報をもとに解説します。
帯状疱疹とは何か——VZVの再活性化と年代別の発症リスク
帯状疱疹は、子どもの頃に水ぼうそう(水痘)を引き起こした水痘帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella Zoster Virus)が原因です。水ぼうそうが治った後も、VZVは体内の脊髄後根神経節(神経の細胞体が集まる場所)に潜伏感染 した状態で残り続けます。健康な状態では免疫がウイルスを抑え込んでいますが、何らかのきっかけで免疫力が低下すると、潜んでいたVZVが再び活動を始めます。これを「再活性化」と呼び、帯状疱疹として発症します。
再活性化の主な誘因として知られているのが、次のような要因です。
加齢 :年齢とともにVZVに対する細胞性免疫が自然に低下するとされています
過労・睡眠不足 :身体的な疲れが免疫機能に影響すると考えられています
精神的ストレス :強いストレスが続くと免疫バランスが変化するとされています
基礎疾患・免疫抑制状態 :悪性腫瘍、ステロイド内服、化学療法、HIV感染症などは発症リスクを高める要因として挙げられています
水ぼうそうに罹患したことがある成人は、ほぼ全員がVZVを体内に保持しています。発症頻度は年齢とともに上昇することが大規模研究で示されており、日本で行われた地域コホート研究「SHEZ研究」では50歳以上の発症率は1,000人年あたり10.9例と報告されています[1] 。さらに大規模レセプトデータベース研究によると、70〜79歳では1,000人年あたり約18例、80歳以上では約19例に上るとされています[2] 。「いつか帯状疱疹になるかもしれない」という前提で、50代以降は特に注意が必要です。
図1:VZVが神経節に潜伏し、加齢や免疫低下により再活性化して帯状疱疹を発症するしくみの概念図
図2:年齢別の帯状疱疹・PHN発症率(大規模レセプトデータベース研究[2] をもとに作図)。70代以降で発症率が顕著に上昇する。
帯状疱疹の症状と経過——前駆期から回復期まで
帯状疱疹の経過は大きく3つの段階に分かれます。症状の流れを知っておくと、早期発見・早期受診につながります。
前駆期(発疹が出る前)
発疹が現れる数日〜1週間ほど前から、皮膚の異常な感覚が現れることが多いとされています。「ピリピリする」「ジンジンする」「ズキズキする」といった、特定のひとつの神経に沿った痛みやかゆみです。発熱やリンパ節の腫れを伴うこともあります。この段階では皮膚の変化がないため、「筋肉痛か」「肋間神経痛か」と他の症状と区別しにくいことがあります。
発症期(発疹・水ぶくれの出現)
痛みが出た部位に赤い発疹(紅斑)が現れ、その後、小さな水ぶくれ(水疱)の集まりへと変化します。水疱は新旧が混在した状態で、体の片側だけ に出るのが帯状疱疹の大きな特徴です。左右どちらか一方の神経の走行に沿って、帯状(ベルト状)に分布します。部位は胸・腹・背中(上肢〜胸背部が約31%、腹背部が約20%)が多いとされますが[3] 、顔・頭部・首にも出ることがあります。
回復期
発疹が出てから1週間ほどで水ぶくれが破れてかさぶたになり、皮膚症状は多くの場合3週間程度で治まるとされています。ただし、一部の患者では色素沈着や傷跡が残ることもあります。
注意すべき合併症として、目の周辺(眼周囲)に発症した場合は角膜炎・結膜炎など眼科的な合併症のリスクがあるとされており、顔面・頭部の発症は顔面麻痺・難聴・めまいを引き起こす「ラムゼイ・ハント症候群」の可能性もあると報告されています[3] 。これらの部位に症状が出た場合は、特に速やかな受診が望まれます。
帯状疱疹後神経痛(PHN)——長引く痛みを防ぐために早期治療が重要
帯状疱疹の最も深刻な後遺症が、帯状疱疹後神経痛(PHN:Post-Herpetic Neuralgia) です。帯状疱疹の皮疹が消えた後も、神経の損傷が残ることで痛みが持続する状態で、皮疹消失後90日以上も強い痛み(VAS値40mm以上の中等度以上の痛み)が続く場合にPHNと診断されます。
SHEZ研究では、帯状疱疹患者の約19%がPHNへ移行したと報告されています[1] 。また、PHNを発症した患者の痛みは「焼けつくような」「電気が走るような」として表現されることが多く、日常生活や睡眠に大きな支障をきたすことがあります。
PHNの予防に重要とされているのが、発疹出現後できるだけ早い時期——目安として72時間(3日)以内 ——に抗ウイルス薬による治療を開始することです。早期の投薬でウイルスの増殖を抑え、神経へのダメージを少なく抑えることができると考えられています[3] 。ただし、抗ウイルス薬によるPHN予防効果については、すべての研究で一致した結論が得られているわけではなく、帯状疱疹診療ガイドライン2025においても引き続き課題として認識されています[4] 。
いずれにせよ、「発疹が出た」「片側が痛い」と気づいたら、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
帯状疱疹ワクチンによる予防——2025年から定期接種化
帯状疱疹を予防する手段として、ワクチン接種が有効とされています。2025年4月から日本でも65歳を対象とした定期接種が開始され、公費(自己負担あり)で接種を受けられるようになりました[5] 。
現在利用できる帯状疱疹ワクチンは、大きく2種類です。
生ワクチン(弱毒生水痘ウイルスワクチン) :皮下に1回接種。接種後1年時点で6割程度の発症予防効果とされており、5年後は約4割まで低下するとされています[5] 。
組換えサブユニットワクチン(シングリックス) :2か月以上の間隔をあけて2回筋肉内に接種。50歳以上での発症予防効果は約97%、70歳以上でも約90%と報告されており、PHN予防効果も高いとされています。接種後10年時点でも約91%の有効性が示されています[5] 。
2025年度の定期接種の対象は、その年度内に65歳になる方が基本です。経過措置として、70・75・80・85・90・95・100歳になる方も2029年度までの5年間は対象となります。また、HIV感染症等により免疫が著しく低下している60〜64歳の方も対象です。接種費用は自治体によって異なりますので、お住まいの市区町村の窓口に確認してください[5] 。
なお、どちらのワクチンを選ぶかは年齢・健康状態・既往歴・費用などを踏まえて医師と相談することが望まれます。免疫抑制状態の方は生ワクチンが接種できない場合があります。
日常のセルフケアと感染予防——免疫の土台を整える
帯状疱疹は再発することもある病気です。発症後・発症前を問わず、日常生活の中でできることを考えてみましょう。
急性期の過ごし方
発症中は体力・免疫力が低下している状態です。できるだけ休息を優先しましょう。
入浴・シャワーは問題ありませんが、石鹸で患部をやさしく洗い清潔を保つことが大切です。水ぶくれは潰さないようにしましょう。
患部を温めることで痛みが和らぐ場合があるとされています(蒸しタオル・入浴など)。冷やすと逆効果になる場合があるとされています。
抗ウイルス薬を服用中は、腎臓への負担を軽減するため十分な水分摂取が推奨されています。
水ぼうそうにかかったことのない乳幼児・妊婦との密接な接触は控えましょう(VZVが水ぼうそうとして感染するリスクがあります)。
普段からできる予防
十分な睡眠 :睡眠中に免疫細胞の修復・活性化が促されるとされています。成人では1日7〜8時間程度の睡眠が目安とされています。
ストレスの管理 :慢性的なストレスは免疫機能に影響すると考えられています。趣味や休養など自分なりの発散方法を持つことが大切です。
バランスのよい食事 :特定の食品や栄養素が帯状疱疹を予防するという医学的根拠は確立されていませんが、偏りのない食事で体の土台を整えることは全般的な健康管理に役立つとされています。
無理のない運動 :過度な運動は逆に免疫を低下させる可能性があるとされています。日常的な適度な運動が望ましいとされています。
ワクチン接種 :65歳になったら定期接種の機会を活用することを医師に相談してみましょう。
図3:帯状疱疹の予防・急性期管理・受診目安の整理図
受診を検討したいサイン
次のような症状がある場合は、速やかに皮膚科または内科への受診をご検討ください。受診を遅らせると、72時間の早期治療の窓を逃してしまう可能性があります。
体の片側だけに、ひりひり・ピリピリする痛みやかゆみが数日以上続く
痛みが出た部位に赤い発疹や水ぶくれが帯状に現れた
顔・目の周辺・耳の周辺に発疹・痛みが出た(眼症状・顔面麻痺・難聴のリスクあり)
発疹の出現から72時間(3日)以内(早期治療を開始できる大切なタイミング)
高熱・ひどい頭痛・意識の変化を伴っている
糖尿病・がん・ステロイド使用など免疫が低下した状態にある
皮疹が治まったにもかかわらず、3か月以上ひどい痛みが続いている(PHNの可能性)
参考文献
Shiraki K, et al. (2015) 「Incidences of Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Japanese Adults Aged 50 Years and Older From a Community-based Prospective Cohort Study: The SHEZ Study」Journal of Epidemiology . PubMed / J-STAGE ― 本記事での引用箇所:「50歳以上の帯状疱疹発症率10.9/1,000人年」「PHNへの移行率約19%」の根拠
Takahashi K, et al. (2026) 「Epidemiology of herpes zoster and postherpetic neuralgia in Japan: analysis of a large-scale claims database」BMC Infectious Diseases . PMC ― 本記事での引用箇所:「年齢別の帯状疱疹・PHN発症率(70〜79歳で約18例、80歳以上で約19例)」の根拠
日本帯状疱疹予防啓発委員会「帯状疱疹予防.jp」 「帯状疱疹の症状」帯状疱疹予防.jp ― 本記事での引用箇所:「部位別分布(頭部〜顔面17.6%、上肢〜胸背部31.2%等)」「眼・顔面合併症のリスク」「72時間以内治療の重要性」の根拠
日本皮膚科学会(2025) 「帯状疱疹診療ガイドライン2025」皮膚科の臨床 . J-STAGE ― 本記事での引用箇所:「早期抗ウイルス薬投与の推奨」「PHNへの抗ウイルス薬効果の課題」の根拠
厚生労働省(2025) 「帯状疱疹ワクチン」厚生労働省 ― 本記事での引用箇所:「2025年定期接種化・65歳対象」「生ワクチンと組換えワクチンの有効性比較」「対象年齢の経過措置」の根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療・予防効果を確約するものではありません。症状が続く・悪化する場合や、受診を迷っている場合は、医療機関(皮膚科・内科)にご相談ください。ワクチン接種の適否については、かかりつけ医にご確認ください。