予防・健診

熱中症を予防するために——水分補給と暑熱順化の基本知識

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.02編集方針

「のどが渇いてから水を飲む」では、夏の高温環境では間に合わない場合があります。総務省消防庁の統計によれば、令和6年(2024年)5月〜9月の熱中症による救急搬送人員は約9万1,467人に上り[1]、そのうち約半数が65歳以上の高齢者でした[2]。熱中症は運動中のアスリートだけの問題ではなく、自宅でエアコンをつけずに過ごす高齢者や、夏の屋内で仕事をする人にも起こりえます。

気候変動の影響で夏の平均気温は年々上昇しており、熱中症のリスクは以前より高まっているとされています。この記事では、熱中症が起こる仕組みと、日常生活で無理なく続けられる水分・塩分補給のポイント、暑熱順化の考え方、そして受診が必要なサインについて、公的機関のガイドラインと研究知見をもとに整理します。

熱中症はなぜ起こるのか——体温調節の仕組みと限界

人体は代謝によって常に熱を産生しています。安静時でも肝臓・心臓・骨格筋などが熱を生み出しており、体温は37℃前後に維持されています。暑い環境では体の外に熱を逃がすため、皮膚の血管を広げて血流を増やし(対流冷却)、同時に発汗によって蒸発冷却を行います。これが体温調節の主要な仕組みです[4]

しかし気温が高く、さらに湿度が高い状況では、汗が蒸発しにくくなり、蒸発冷却の効率が大きく落ちます。産生された熱が体外へ逃げなくなり、体内に熱が蓄積されていく——これが熱中症の本質的な状態です。

環境省は熱中症の発生に関わる環境指標としてWBGT(湿球黒球温度)を重視しています[2]。WBGTは気温だけでなく、湿度・日射・風速を加味した指数で、25〜28℃で「警戒」、28〜31℃で「厳重警戒」、31℃以上で「危険(運動は原則中止)」とされています。室内であっても風通しが悪く湿度が高い環境ではWBGTが上昇しやすく、高齢者が自宅で熱中症になるケースがあります。

  • 気温・湿度の複合:湿度が高いと汗の蒸発が妨げられ、体内に熱がこもりやすくなる
  • 輻射熱:アスファルトや壁・屋根からの輻射熱が加わり、実感温度が気温より高くなる
  • 無風状態:汗を蒸発させる気流がないと蒸発冷却が働かない
  • 個人差:高齢者・乳幼児・体調不良者は体温調節機能が低下しがち
  • 体調の影響:睡眠不足・前日の飲酒・下痢・発熱があると脱水が進みやすく、熱中症リスクが高まる

特に高齢者は暑さや口渇の感覚が鈍りやすく、体内の水分が不足していても「のどが渇かない」と感じることが多いと報告されています。これが高齢者の熱中症リスクを高める主要な一因とされています[2]。日本の高齢化と夏の気温上昇が重なり、近年は高齢者の室内熱中症が特に注目されています。

高温多湿の環境で人体の体温調節が追いつかず熱が蓄積される様子の図解
図1:熱中症が発生するメカニズム——高温・高湿度・無風の環境下で体温調節が追いつかなくなると体内に熱が蓄積される

水だけでは不十分——水分と電解質のバランスが鍵

発汗によって失われるのは水分だけではありません。汗にはナトリウム(塩分)・カリウム・マグネシウムなどの電解質が含まれています。大量に汗をかいた後に水だけを補給し続けると、血液中のナトリウム濃度が下がる「低ナトリウム血症(希釈性低ナトリウム血症)」のリスクが生じます。この状態では頭痛・吐き気・倦怠感が起こる可能性があり、重症化すると意識障害にも至ります[4]

日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024は、軽症〜中等症(Ⅰ〜Ⅱ度)には水分・電解質の経口補給が有用とされています[5]。水分と塩分をバランスよく補給できる方法として、次のものが挙げられます。

  • 経口補水液(ORS):市販のORSの多くは水1Lに塩約3g・ブドウ糖20〜30gを含む組成。手作りする場合は水1Lに食塩3g+砂糖40g。体への吸収が速いとされています[5]
  • スポーツドリンク:ナトリウムを含み、糖分もあるため吸収を助ける。活動量が多い場面での補給に向いています
  • 塩分を含む食品と水の組み合わせ:梅干し・塩飴・みそ汁・漬物などとあわせて水を飲む方法

一方で、カフェインを多く含む飲み物(コーヒー・エナジードリンクなど)は利尿作用があるため、メインの水分補給には不向きとされています。アルコールも利尿作用があり、飲酒後は脱水状態になりやすいことに注意が必要です。

活動中の補給の目安として、1時間以上の屋外活動や肉体労働では20〜30分ごとに150〜250mLずつこまめに補給することが一般的に推奨されています[2]。また、活動前後の体重を測定し、体重の1%以上減少している場合は脱水の目安として追加補給を検討するとよいとされています[4]

高齢者の場合、食事でのみそ汁や漬物からの塩分補給も有効ですが、高血圧・心疾患・腎疾患がある方は塩分摂取量の管理が必要なため、主治医に相談のうえ個別に対応を検討することが重要です。

暑熱順化——体を少しずつ暑さに慣らす

梅雨明け直後や夏休み明けの運動再開など、急に真夏の暑さにさらされると熱中症リスクが高まります。これは「暑熱順化」が未完了の状態であることが一因です。暑熱順化とは、繰り返し暑い環境で体を動かすことで、生理的に熱への適応が起こる過程を指します[3]

具体的な生理的変化として、Périard らのレビュー(2015年)では以下が示されています[3]

  • 発汗開始体温が低下する(より早く・多く汗をかくようになる)
  • 1回の発汗量が増加し、蒸発冷却が効率よく行われるようになる
  • 汗中のナトリウム濃度が低下し、電解質の損失が減る(電解質節約)
  • 心拍数の上昇が抑制され、心臓への負担が軽くなる
  • 血漿量が増加し、脱水に対する耐容性が高まる

これらの適応は7〜14日間の段階的な暑熱曝露で現れ始めると報告されています。一般的な日常生活での暑熱順化のアプローチとして、次のような点が参考になります。

  • 早朝や夕方の涼しい時間帯から少しずつ屋外での活動時間を増やす
  • 最初は15〜20分程度の軽い散歩などから始め、徐々に時間・強度を増やす
  • 体調が悪い日は無理に屋外に出ない
  • 暑熱順化中も水分・電解質補給は欠かさず行う

なお、暑熱順化が進んでも水分補給の必要性はなくならず、むしろ発汗量が増えるため、引き続き十分な水分・電解質補給が必要です。また、かぜ・発熱・下痢などで体調を崩すと順化による適応が失われる場合があるため、体調回復後は再度段階的に慣らすことが推奨されます。

暑熱順化によって発汗開始体温が低下し体温上昇が抑制されることを示す模式図(Périardら2015の知見をもとに作図)
図2:暑熱順化の生理的変化——7〜14日間の段階的暑熱曝露で発汗効率が上がり体温上昇が抑制されるとされています(Périard ら(2015)[3]をもとに作図)

年齢・状況別の注意点——高齢者・子ども・室内熱中症

熱中症は屋外での運動中だけに起こるものではありません。発生場所を分類すると、室内(住宅・集合住宅)での発生が全体の約4割を占めるという報告もあり[2]、日常的な室内環境での対策も重要です。

高齢者は体内の総水分量が若年者より少なく、腎臓の水分保持機能も低下しています[4]。口渇感覚が鈍化しているため、脱水が進んでも気づきにくい状態が続きます。「一日中クーラーをつけていない」「水分補給を意識していない」という状況が重なると、室内にいても熱中症になる可能性があります。Takahashiらが長崎市で行ったコミュニティ介入試験(2015年)では、高齢者に対して熱健康警告を届けることが予防行動を促すうえで有効だったと報告されています[6]

子どもは体表面積あたりの体重が大きく、地面の輻射熱を受けやすい体格特性があります。体温調節機能が未発達のため、暑い屋外での活動は大人より早く影響が出ます。遊びや運動に集中していると自分で「休もう」としないことが多く、保護者や指導者の声かけと定期的な水分補給の促しが重要です。

室内熱中症への対策として、次の点が特に重要です。

  • エアコンは設定温度28℃以下を目安に(ただし外気温に応じて調整)
  • カーテンや遮光ブラインドで直射日光を遮り、室温上昇を防ぐ
  • 室内温度計(できれば湿度計つき)でこまめにWBGTを確認する
  • 夜間も熱帯夜(最低気温25℃以上)の日はエアコンをつけたまま就寝する
  • 体調不良(下痢・発熱・二日酔いなど)の日は特に暑熱環境を避ける
  • 一人暮らしの高齢者は地域の見守りや声かけが早期発見に有効

日常生活で続けやすい水分補給のルーティン

「のどが渇いてから飲む」では遅い場合があります。体内の水分が体重の1〜2%失われただけで集中力・持久力の低下が始まり、3%を超えると熱中症症状が出やすくなると報告されています[4]。口渇感覚を頼りにするだけでなく、時刻やルーティンに組み込んで積極的に飲む習慣が重要です。

一日を通じた水分補給の目安として、食事以外からの摂取量を1〜1.5L程度(気温・活動量・体格によって異なる)とし、暑い日や運動時はさらに追加するとよいとされています[2]

  • 朝起きたとき:コップ1杯(約200mL)の水か白湯。睡眠中の不感蒸泄(約400〜500mL)を補う
  • 外出前・運動前:あらかじめコップ1〜2杯を飲んでから出かける
  • 活動中:20〜30分ごとに150〜250mLをこまめに補給。アラームやリマインダーを活用すると忘れにくい
  • 入浴前後:入浴で200〜300mLの発汗があるため、入浴前後それぞれにコップ1杯を飲む
  • 就寝前・夜中:コップ1杯の水を枕元に置く。夜中に目が覚めたときも少量補給する

屋外活動が多い場合は、携帯できる水筒やボトルを持ち歩く習慣が実用的です。また、梅干しや塩飴など塩分を含む食品をバッグに入れておくと、水分と同時に電解質を補給しやすくなります。

室内でも午後2〜4時頃は外気温が最も高く、窓からの輻射熱でWBGTが上昇しやすい時間帯です。特にこの時間帯にはエアコンを適切に活用し、こまめな水分補給を意識することが望まれます。また夜間も気温が下がらない「熱帯夜」(最低気温25℃以上)には、就寝中の発汗で脱水が起こる可能性があるため、寝室の温度管理と就寝前の水分補給が重要です。

受診を検討したいサイン

熱中症は重症度によって対応が大きく異なります。次のような症状が出た場合は、自己判断で「様子を見る」のではなく、速やかに涼しい場所へ移動するとともに、症状の程度に応じて医療機関への受診や救急連絡を検討してください。

  • 強い頭痛・激しいめまいがあり、横になっても和らがない
  • 吐き気・嘔吐が続いており、水分が飲めない状態が続く
  • 呼びかけに反応が鈍い・意識がぼんやりしている・会話がかみ合わない
  • 体が熱く、汗が出ていない(熱射病の疑い——特に緊急)
  • 自分で水が飲めない・飲もうとしない
  • 手足のけいれんや筋肉の硬直がある
  • 水分補給・涼しい場所での安静後も30分以上症状が続く
  • 高齢者・心疾患・腎疾患・糖尿病のある方が上記の症状を呈した場合
  • 自宅内で動けなくなっていた・ぐったりしていた

特に「意識がぼんやりしている・呼びかけへの反応がない」「体が熱く汗が出ていない」場合はためらわず119番に連絡してください。これらは熱射病のサインであり、数時間以内に生命を脅かす状態に進展する可能性があります。救急車が来るまでの間も、体を冷やす(首・わきの下・足の付け根に保冷剤・氷を当てる・水をかけてうちわで扇ぐ)応急処置を続けてください。

熱中症の重症度と受診・救急連絡の目安を整理した図
図3:熱中症の重症度と対応の目安——自己対応できる段階と医療機関・救急連絡が必要な段階の整理

参考文献

  1. 総務省消防庁(2024年10月29日)「令和6年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」総務省消防庁. 総務省報道資料
    ― 本記事での引用箇所:「令和6年(2024年)5月〜9月の熱中症による救急搬送人員は約9万1,467人」の根拠
  2. 環境省(2022年改訂)「熱中症環境保健マニュアル2022」環境省. 環境省 熱中症対策
    ― 本記事での引用箇所:「高齢者が患者の約半数」「WBGTの警戒基準(28℃・31℃)」「高齢者の口渇感覚の鈍化」「20〜30分ごとの補給目安」の根拠
  3. Périard JD, Racinais S, Sawka MN(2015)"Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: Applications for competitive athletes and sports." Scand J Med Sci Sports, 25 Suppl 1:20-38. doi: 10.1111/sms.12408. PubMed PMID: 25943654
    ― 本記事での引用箇所:「暑熱順化で発汗効率が高まり体温上昇が抑制される」「7〜14日間の段階的適応」「発汗開始体温低下・血漿量増加・電解質節約」の根拠
  4. Sawka MN, Montain SJ(2000)"Fluid and electrolyte supplementation for exercise heat stress." Am J Clin Nutr, 72(2 Suppl):564S-72S. doi: 10.1093/ajcn/72.2.564S. PubMed PMID: 10919961
    ― 本記事での引用箇所:「水分1〜2%喪失でパフォーマンス低下」「水だけ補給による低ナトリウム血症リスク」「電解質補充の必要性」「体重1%減少を脱水の目安」の根拠
  5. 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024タスクフォース(2024年7月)「熱中症診療ガイドライン2024」日本救急医学会. 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024
    ― 本記事での引用箇所:「軽症〜中等症(Ⅰ〜Ⅱ度)に経口水分・電解質補給が有用とされる」の根拠
  6. Takahashi N, Nakao R, Ueda K, et al.(2015)"Community Trial on Heat Related-Illness Prevention Behaviors and Knowledge for the Elderly." Int J Environ Res Public Health, 12(3):3188-3214. doi: 10.3390/ijerph120303188. PMC4377959
    ― 本記事での引用箇所:「高齢者への熱健康警告の周知が予防行動を促すうえで有効」の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。熱中症の予防法や対処法については個人差があり、症状が強い・長引く・悪化する場合は速やかに医療機関にご相談ください。緊急の場合は119番にご連絡ください。高血圧・心疾患・腎疾患・糖尿病などの慢性疾患をお持ちの方は、水分・塩分補給の目安について主治医にご確認ください。

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