予防・健診

熱中症を夏に防ぐためのセルフケア——予防・応急処置・受診の目安を解説

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.03編集方針

夏の暑い時期に体がだるい、ふらつく、頭が痛いと感じたことはないでしょうか。こうした症状は、熱中症のサインである可能性があります。熱中症は、高温多湿の環境下で体温調節がうまく機能しなくなることで起こる健康障害の総称です。毎年多くの方が救急搬送されており、適切な知識と予防行動が命を守るうえで欠かせません。この記事では、熱中症の仕組み・重症度の分類・予防のセルフケア・応急処置の方法を、公的機関や学術論文の情報をもとに解説します。

熱中症とは何か——なぜ夏に体調が崩れるのか

熱中症は、体が熱を外に逃がしきれなくなったときに起こります。健康な状態では、発汗や皮膚の血流増加によって体熱を外気に放散する「体温調節機能」が働いています。ところが、気温が高い・湿度が高い・風が弱い・直射日光が強いといった環境条件が重なると、この仕組みが追いつかなくなります[1]

日本では、暑さ指数(WBGT) が熱中症リスクの目安として広く使われています。WBGTとは、気温・湿度・日射・輻射熱・風速を組み合わせた指標で、環境省は以下の基準を公表しています[2]

  • 21未満:ほぼ安全(適度な水分補給は引き続き必要)
  • 21〜25未満:注意(激しい運動でも熱中症死亡事例が生じうる)
  • 25〜28未満:警戒(30分ごとの休憩、水分・電解質補給を推奨)
  • 28〜31未満:厳重警戒(激しい持久性運動は避ける、10〜20分ごとに休憩)
  • 31以上:危険(すべての生活活動でリスク。高齢者は安静時でも要注意)

とくに65歳以上の高齢者乳幼児は体温調節機能が未熟・低下しており、リスクが高いとされています。2024年5〜9月の救急搬送患者のうち、65歳以上が57.4%を占めたとの報告があります[3]

夏の高温多湿環境と体温上昇の模式図
図1:高温多湿環境が体温調節に与える影響の概念図

熱中症の重症度分類——I度・II度・III度を知っておく

熱中症は重症度によってI度(軽症)・II度(中等症)・III度(重症)に分類されます。全日本病院協会の整理をもとに各段階の特徴を確認しましょう[4]

I度(軽症)は、立ちくらみ・めまい・大量発汗・こむら返り(筋けいれん)が主な症状です。意識は清明で、体温が上昇しているとは限りません。涼しい場所への移動と水分・電解質補給で多くの場合は回復します。

II度(中等症)では、頭痛・吐き気・倦怠感・集中力低下が生じます。体温がやや上昇し、JCSで1桁程度の軽い意識混濁を伴う場合もあります。自力で水分が飲めるかどうかが判断の目安となりますが、症状が改善しない場合は医療機関の受診が必要です。

III度(重症)は熱射病に相当します。体温が40℃を超え、意識障害(JCS 2桁以上・GCS 8以下)、けいれん、多臓器障害(肝・腎機能障害)、血液凝固異常(DIC)などを呈します。緊急の救急対応が求められます[5]

旧来の「熱疲労」「熱けいれん」「熱射病」という分類は今も用いられますが、現代の臨床現場ではI〜III度の重症度分類を基軸に対応を決定するのが一般的とされています。慶應義塾大学病院のKOMPASをはじめ、複数の医療機関も同様の整理を採用しています[4]

熱中症の重症度分類(I度〜III度)の症状比較図
図2:熱中症重症度分類の概念図(全日本病院協会の整理[4]をもとに作図)

水分・電解質補給の考え方——ただの「水」では不十分なこともある

熱中症予防の基本は水分補給ですが、多量に発汗した場合は水だけでは体液のナトリウム濃度が下がり、筋けいれん(熱けいれん)を起こしやすくなると報告されています[6]。体液と同程度の電解質バランスを持つ飲料の選択が重要です。

経口補水液(ORS: Oral Rehydration Solution)は、WHO基準に基づいた水・ナトリウム・ブドウ糖の配合飲料で、脱水状態での素早い吸収が期待できるとされています。スポーツドリンクはORSに比べて糖分が多くナトリウムが少ない傾向があるため、軽度の水分補給には適していますが、明らかな脱水状態にはORSがより適切とされています。

日常的な予防には、以下の点を意識することが勧められています[2]

  • のどが渇く前にこまめに補給する(目安として1日あたり1.2〜1.5L程度の水分を食事以外で)
  • スポーツや屋外作業時は水分に加えて塩分(ナトリウム)を補う
  • アルコールやカフェイン飲料は利尿作用があるため、水分補給の代わりにはならない
  • 高齢者は口渇感が低下しているため、時間を決めて定期的に補給する

食塩の摂取制限がある方(腎疾患・心疾患など)は、経口補水液の使用前に医師に相談してください。

環境を整える——エアコンと暑さ指数の活用

熱中症の発生場所のうち、住居(自宅)が約38%と最も多いことが消防庁の報告から示されています[3]。「外出しなければ大丈夫」という認識は誤りで、室内での熱中症も深刻な問題です。

室内の熱中症を防ぐためには、エアコンや扇風機を適切に活用して室温を管理することが重要です。環境省は「室温28℃以下」を目安として示しており、高齢者や乳幼児のいる家庭では、本人が暑さを感じていない場合でも積極的にエアコンを使用することが勧められています[2]

また、環境省の「熱中症予防情報サイト」では都道府県別のWBGT予測値を無料で公開しています。外出前にWBGTを確認し、31以上の「危険」レベルであれば不要な外出を控えることも一つの対策です。運動・屋外作業をする場合はWBGT 25〜27の「警戒」レベルでも積極的な休憩と水分補給が推奨されています[2]

日差しの強い時間帯(おおむね10〜15時)を避け、帽子や日傘で直射日光を遮ること、通気性・吸湿速乾性のある衣類を選ぶことも補助的な対策として有効とされています。

熱中症が疑われるときの応急処置

周囲の人が熱中症の症状(ふらつき・大量発汗・頭痛・意識の変化など)を示したとき、速やかな対応が重要です。Edelman et al. のレビューは「迅速な認識と積極的な初期対応が罹患率・死亡率を低下させる」と強調しています[5]。以下の手順が推奨されています。

  1. 涼しい場所へ移動させる——エアコンの効いた室内や日陰に移動。
  2. 体を冷やす——首・脇・太ももの付け根(大きな血管が走る部位)に冷たいタオルや保冷剤を当てる。水をかけて風を送る蒸発冷却も有効とされています[4]
  3. 意識がある場合は水分・塩分を補給する——経口補水液やスポーツドリンクを少量ずつ飲ませる。
  4. 意識が不明瞭・反応が鈍い場合はすぐに119番通報する——自力で水が飲めない、呼びかけへの反応が薄い場合は躊躇わずに救急車を要請してください。

なお、意識がない人に無理に飲み物を飲ませると誤嚥の危険があります。経口補給を行う前に、意識・嚥下状態を確認することが大切です。

受診を検討したいサイン

以下の状態が見られる場合は、自己対処を優先せず、すみやかに医療機関を受診するか、119番に連絡することを検討してください。

  • 意識が朦朧としている、ぼんやりしている、会話がかみ合わない
  • 体温が40℃を超えている、または体が非常に熱い
  • けいれんが起きている
  • 自力で水が飲めない、または嘔吐が続く
  • 30分以上涼しい場所で安静にしても症状が改善しない
  • 高齢者・乳幼児・基礎疾患(心疾患・腎疾患・糖尿病など)のある方が症状を呈している
  • 利尿薬・抗コリン薬・β遮断薬・向精神薬など体温調節に影響する薬を服用中に症状が出た

熱射病(III度)は生命を脅かす緊急状態です。「少し休めばよくなるだろう」という自己判断は避け、上記サインを一つでも認めたら迷わず救急要請してください。

熱中症のセルフケア手順と受診すべきサインの整理図
図3:熱中症の応急処置フローと受診サインの整理

参考文献

  1. 環境省(2024)「熱中症予防情報サイト 熱中症を防ぐための日常生活での注意事項」環境省大臣官房環境保健部. https://www.wbgt.env.go.jp/
    ― 本記事での引用箇所:高温多湿の環境条件が体温調節に与える影響、WBGT各レベルの行動指針の根拠
  2. 環境省(2024)「暑さ指数(WBGT)とは」環境省熱中症予防情報サイト. https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php
    ― 本記事での引用箇所:WBGT各レベル(注意〜危険)の数値基準と行動指針、エアコン管理・水分補給に関する推奨事項
  3. 総務省消防庁(2024)「令和6年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」総務省消防庁. https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/
    ― 本記事での引用箇所:救急搬送患者97,578人中65歳以上が57.4%・住居が約38%という統計データの根拠
  4. 公益社団法人全日本病院協会(2023)「熱中症について:みんなの医療ガイド」. https://www.ajha.or.jp/guide/23.html
    ― 本記事での引用箇所:I度・II度・III度の重症度分類と各段階の症状・処置の整理、応急処置の蒸発冷却の記述
  5. Edelman DA, White MT, Tyburski JG, et al.(2021)"Evidence-Based Heatstroke Management in the Emergency Department." Western Journal of Emergency Medicine. PMC7972371. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7972371/
    ― 本記事での引用箇所:高齢者・小児・基礎疾患者・服薬者が重症化リスク高いこと、迅速対応の重要性
  6. Noakes TD(1998)"Fluid and electrolyte disturbances in heat illness." International Journal of Sports Medicine. 19 Suppl 2:S146-9. PMID 9694423. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9694423/
    ― 本記事での引用箇所:多量発汗後に水のみ補給した場合の電解質(ナトリウム)低下と熱けいれんの機序

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。また、特定の疾患(腎疾患・心疾患など)や服薬中の方は、水分・塩分補給について事前に主治医にご確認ください。

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