予防・健診

夏の食中毒を家庭で防ぐ——手洗い・加熱・冷蔵・作り置きの基本知識

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.03最終更新 2026.07.02編集方針

「お弁当を職場に持っていったら、昼ごろお腹が痛くなった」「作り置きのおかずで家族が体調を崩した」——夏になると、そんな経験を身近で耳にする機会が増えます。食中毒は飲食店だけの問題ではなく、毎日の家庭の食事でも起こりうるものです。厚生労働省の統計では、家庭での発生件数は全体の1割程度とされていますが[1]、症状が軽かったり家族の中で1〜2人しか発症しなかったりするため、風邪や寝冷えと思われてしまいやすいことも指摘されています。実際は認識されずに終わっているケースが多いとも考えられています。この記事では、夏に食中毒が増える背景と、家庭でできる具体的な予防のポイントをわかりやすくまとめます。

なぜ夏は食中毒が増えるのか——気温・湿度と細菌の関係

食中毒の原因は細菌、ウイルス、寄生虫、自然毒と多岐にわたりますが、夏季(6〜8月)に急増するのは主に細菌性食中毒です[1]。細菌が食品の中で増殖しやすい条件は、適温(多くは30〜40℃)と湿度です。気温が30℃を超え、湿度も高くなる梅雨から盛夏にかけては、その条件が揃いやすくなります。厚生労働省の令和7年食中毒発生状況の概要によれば、令和7年の食中毒患者数は約24,727人で、令和6年比で約1.7倍に増加したとされています[5]。食中毒を軽視せず、日常の予防行動を続けることの重要性が示されています。

特に夏場に注意が求められる代表的な原因菌を以下に示します。

  • カンピロバクター——鶏肉や牛・豚の腸管に生息。加熱不十分な食肉から感染しやすく、件数では例年トップクラスです。潜伏期間が1〜7日と比較的長く、発熱・腹痛・下痢のほか、頭痛や筋肉痛をともなうことがあります。
  • 腸管出血性大腸菌(O157・O111等)——牛などの家畜の腸管に存在。食品安全委員会の資料によると、7〜8℃から増殖し始め、35〜40℃で最も活発になるとされています[3]。乳幼児・高齢者では溶血性尿毒症症候群(HUS)など重篤な合併症が起きることもあります。
  • サルモネラ属菌——食肉や卵が主な原因食品。摂食後6〜48時間で胃腸症状が出ることが多いとされています。卵を生や半熟で食べる機会の多い夏のバーベキューなどは特に注意が必要です。
  • 黄色ブドウ球菌——人の皮膚や鼻腔に広く存在。傷のある手で調理すると食品を汚染するリスクがあります。産生された毒素は加熱しても壊れにくいという特徴があります。
  • ウエルシュ菌——土壌や腸管に広く生息。カレー・シチューなど大鍋の煮込み料理で増殖しやすく、作り置きのリスクが高い菌です。嫌気性菌(酸素が少ない環境を好む)のため、大量の煮込み料理の底に繁殖しやすいとされています。
  • セレウス菌——チャーハンや炒飯など米・穀類を使った料理が原因になることが多い菌です。加熱によっても死滅しにくい芽胞をつくります。作り置きのご飯や翌日のチャーハン、麺類のつけ汁などで発症した例が報告されています。
夏の食中毒リスクを示す図解:細菌の増殖と温度・湿度の関係
図1:夏季(6〜8月)に細菌性食中毒が増える背景。気温30〜40℃・高湿度が細菌の増殖を促す(厚生労働省食中毒統計資料をもとに作図)

食中毒予防の三原則——「つけない・増やさない・やっつける」

厚生労働省は家庭での食中毒予防を「細菌を食べ物につけない、食べ物に付着した細菌を増やさない、食べ物や調理器具に付着した細菌をやっつける」という三原則で整理しています[1]。この原則は、購入から保存・調理・食事・残り物の処理まで、すべての場面に通じる基本的な考え方です。

  • つけない——手洗い、まな板・包丁の使い分け、食材の分別保存。生肉や生魚からの汁が他の食材につかないよう、調理の段取りを工夫することも大切です。
  • 増やさない——冷蔵庫を適正温度(10℃以下)に保ち、室温に長時間置かない。調理した食品はできるだけ早く食べるか、すぐに冷蔵保存するのが基本です。
  • やっつける——中心部まで十分に加熱する(75℃1分間以上が目安[2])。ただし、黄色ブドウ球菌やセレウス菌が産生する毒素の一部は加熱で不活化されにくいため、「食品に菌を増殖させない」ことが合わせて重要です。

この三原則を、買い物・保存・下準備・調理・食事・残った食品の6つの場面に落とし込む形で実践すると、食中毒のリスクをより下げやすくなると考えられています。どれか一つを実践するだけでなく、複数の対策を組み合わせることが大切です。

手洗いの実践——「石鹸で30秒もみ洗い」が目安とされる理由

手洗いは最もシンプルな予防策のひとつです。厚生労働省の資料[4]が引用する研究では、手洗いをしない場合に比べ、流水だけの15秒手洗いでウイルス残存量が約1%に、石鹸で10〜30秒もみ洗いした後に流水ですすぐと約0.01%にまで減少するとされています(森功次ら、感染症学雑誌、2006年)。石鹸の泡立てともみ洗いが重要であることが読み取れます。

調理前・食事前に加え、以下のタイミングでも手洗いを心がけることが推奨されています。

  • 生の肉・魚・卵を触った直後
  • トイレの後
  • 外出から帰宅した後
  • 料理の途中で別の食材や器具に触れる前
  • 残り物を保存したり盛り付けたりする前

指の間や爪の周りは洗い残しになりやすい部位とされています。石鹸をよく泡立て、指の間・爪の先まで丁寧に洗ったうえで、十分にすすぐのが基本です。アルコール手指消毒液は多くのウイルスや細菌に有効とされていますが、ノロウイルスに対しては効果が限定的とされるため、石鹸と流水での手洗いが基本とされています。

手洗い方法とウイルス残存量を比較した図解(2006年研究データをもとに作図)
図2:手洗い方法とウイルス残存量の比較(森功次ら・感染症学雑誌2006年 [4] をもとに作図)。石鹸によるもみ洗いの追加でウイルス量が大幅に減少することが示されています。

加熱・冷蔵・作り置きの注意点

家庭での食中毒のリスクが特に高まる場面は、作り置きお弁当です。高温多湿の夏に、調理した食品を室温に置いておくと、細菌が急速に増殖する可能性があります。以下のポイントを参考にしてみてください。

  • 加熱の目安——肉・魚は中心部が75℃に達するよう1分以上加熱することが目安とされています[2]。電子レンジを使う場合は、加熱ムラが生じないよう途中でかき混ぜるか向きを変えることが推奨されています。厚みのある肉は断面を確認し、ピンク色が残っていないことを確かめることも大切です。
  • 冷蔵庫の適正温度——冷蔵室は10℃以下、冷凍室は−15℃以下が目安です[2]。詰め込みすぎると冷気の流れが妨げられ、設定温度を保てなくなることがあります。7割を目安に余裕を持たせることが推奨されています。夏場は冷蔵庫の開け閉めを減らすことも内部温度を保つ一助になります。
  • 作り置きの保存——調理後は粗熱を取り、できるだけ早く冷蔵庫に入れることが基本です。常温で長時間(特に2時間以上)放置しないよう心がけると良いとされています。熱いまま入れると冷蔵庫内の温度が上がり、他の食品にも影響するため、小分け容器に入れて早めに冷ますのが一般的な方法です。
  • 再加熱——作り置きを食べるときは、中心部まで十分に加熱し直すことが大切です。カレーやシチューなどの煮込み料理は、ウエルシュ菌が繁殖しやすい食品として知られています。大鍋のまま保存せず、小分けにして冷蔵・冷凍することが望ましいとされています。
  • お弁当——梅雨〜夏は特に傷みやすい季節です。おかずを完全に冷ましてから蓋をする、保冷剤を使う、梅干しなど傷みにくいとされる食材を活用する、といった方法が一般的に推奨されています。ただし、梅干し単体で食中毒を完全に防げることを保証するものではなく、複合的な対策の一部として捉えることが重要です。

冷蔵庫の過信も注意が必要です。多くの細菌は10℃以下では増殖が遅くなりますが、リステリアなど一部の細菌は低温でも増殖できることが知られています。冷蔵庫に入れれば安心というわけではなく、保存期間にも注意を払うことが大切です。

まな板・調理器具の衛生管理と食材の取り扱い

食材の汚染が広がる原因のひとつに、調理器具を介した二次汚染(交差汚染)があります。生の肉や魚を扱ったまな板・包丁を、生で食べる野菜やすでに調理した食品に使うと、菌が移ってしまう可能性があります。以下の点を参考にしてみてください。

  • まな板や包丁は肉用・魚用・野菜用に分けて使うことが推奨されています。色分けされた製品を使うと管理しやすいでしょう。
  • 使用後の調理器具は、洗剤でよく洗い、熱湯をかけるか漂白剤溶液で消毒する方法が一般的です。特に生肉・生魚を切ったあとのまな板や包丁は念入りに洗浄することが大切です。
  • ふきんやスポンジは細菌が繁殖しやすいとされています。使用後はよく絞り、乾燥させることが基本です。定期的に煮沸消毒や漂白剤での処理を行うことが推奨されています。
  • 冷蔵庫の中でも、生肉・生魚は密閉容器や袋に入れ、ほかの食品への汁の漏れを防ぐことが大切です。生肉・生魚は冷蔵庫の下段に置くのが一般的な整理法です。
  • 冷凍食品の解凍は冷蔵庫や電子レンジで行うことが推奨されています。室温での自然解凍は表面に細菌が増殖しやすくなるため、特に夏季は注意が求められます。

買い物のタイミングでも注意が必要です。生鮮食品や冷凍食品はなるべく最後に購入し、保冷バッグを活用して持ち帰るとよいとされています。購入後は寄り道を減らし、できるだけ早く帰宅して冷蔵・冷凍保存することが基本的な対策として知られています。また、外食・テイクアウト・デリバリーでは調理から食べるまでの時間が長くなることがあり、気温の高い時期は特に注意が必要です。

受診を検討したいサイン

食中毒の多くは自然に回復することもありますが、以下のような症状や状況がある場合は、医療機関への受診を検討することが大切です。自己判断での市販の止瀉薬(下痢止め)の使用は、原因物質の排出を抑えてしまう可能性があるため、受診の前に医師や薬剤師への相談が推奨されています。

  • 激しい腹痛や血便、血尿がある
  • 高熱(38.5℃以上)が続く、または熱が下がらない
  • 嘔吐や下痢が激しく、水分が口から摂れない(脱水のリスク)
  • 症状が2〜3日以上続く、または悪化している
  • 乳幼児・高齢者・妊婦・免疫機能が低下している方で消化器症状がある
  • 複数の家族や同じ食事をした人が同時に同様の症状を訴えている
  • O157(腸管出血性大腸菌)感染が疑われる場合(出血性下痢など)——重篤化のリスクがあり、早期の受診が重要です[3]

食中毒が疑われる場合は、受診時に「いつ・何を食べたか」「同じものを食べた人はいるか」「どんな症状がいつから出たか」をメモして医師に伝えると、診断・治療の参考になります。

夏の食中毒予防と受診目安を整理した図解
図3:夏の食中毒予防セルフケアの手順と受診を検討するサインの整理

参考文献

  1. 厚生労働省(2024年)「食中毒」厚生労働省 食品安全ページ. 厚生労働省公式サイト
    ― 本記事での引用箇所:「家庭での食中毒の発生件数は全体の1割程度」「三原則(つけない・増やさない・やっつける)」の根拠
  2. 政府広報オンライン(2025年更新)「食中毒予防の原則と6つのポイント」. 政府広報オンライン
    ― 本記事での引用箇所:「中心部75℃1分間以上の加熱」「冷蔵庫は10℃以下・冷凍庫は−15℃以下」「6つのポイント」の根拠
  3. 食品安全委員会(2010年)「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル〜牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌〜(改訂版)」. 食品安全委員会 PDF
    ― 本記事での引用箇所:「O157は7〜8℃から増殖し35〜40℃で最も活発」「乳幼児・高齢者では重篤化のリスク」の根拠
  4. 厚生労働省(2016年)「ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について」(食品安全部資料). 厚生労働省 PDF
    ― 本記事での引用箇所:「石鹸でもみ洗いするとウイルス残存量が約0.01%に低下」(森功次ら・感染症学雑誌2006年の引用)の根拠
  5. 厚生労働省(2025年3月)「令和7年食中毒発生状況の概要」. 厚生労働省 統計 PDF
    ― 本記事での引用箇所:「令和7年の食中毒患者数は約24,727人(令和6年比約1.7倍)」の統計根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合や、乳幼児・高齢者・免疫機能の低下している方に症状が出た場合は、早めに医療機関にご相談ください。

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