毎年夏になると、「熱中症で救急搬送」のニュースが相次ぎます。消防庁の調べでは、2023年(令和5年)の1シーズン(5月〜9月)における全国の熱中症救急搬送人員は91,467人にのぼり[1]、そのうち死亡者は年間1,000人を超える状況が続いています。暑さが本格化する7〜8月はとくに搬送件数が増え、年によっては単月で3万人超になることもあります。
熱中症は正しい知識があれば、多くのケースで予防できる状態です。また、万一なってしまったときも、早い段階で適切に対処することで、重症化するリスクを大きく下げられると考えられています。この記事では、熱中症の分類・症状・リスク要因から、予防の具体策・応急処置・セルフケアまでを、公的機関や学会のガイドラインをもとに整理します。
図1:熱中症は屋外だけでなく室内でも発生する。高温・高湿度・弱風という環境条件が重なるほどリスクが高まる。
熱中症とはどのような状態か――分類と症状の整理
「熱中症」は以前、熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病などと種類別に呼ばれていましたが、1999年ごろから日本では「熱中症」という総称で統一されるようになりました。日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」[2]では、重症度に応じてⅠ度からⅣ度(新設)の4段階で分類されています。
- Ⅰ度(軽症):めまい、立ちくらみ、こむら返り(足などの筋肉のけいれん)、大量の発汗。いわゆる「熱失神」「熱けいれん」が含まれる。現場での応急処置(涼しい場所への移動・水分・塩分補給)で多くは回復する。
- Ⅱ度(中等症):頭痛・吐き気・倦怠感・体がだるい感覚。いわゆる「熱疲労」にあたる。自力での水分摂取ができなかったり、症状が改善しない場合は医療機関での対応が必要。
- Ⅲ度(重症):意識障害(呼びかけに反応が鈍い、おかしなことを言う)、肝・腎障害、血液凝固異常(DIC)など。入院治療が必要。
- Ⅳ度(最重症・2024年新設):深部体温40.0℃以上かつ意識レベルが高度に低下(GCS≦8)した最も危険な状態。いわゆる「熱射病」に相当し、集中的な冷却と集学的治療が必要[2]。
日常でよく見られるのはⅠ〜Ⅱ度ですが、「ちょっと頭が痛い」「なんとなくだるい」という段階でも熱中症の可能性があります。自己判断で「まだ大丈夫」と思ったまま症状が進み、重症化するケースが報告されています。早め早めに涼しい場所へ移動することが大切です。
なぜ体温が上がりすぎてしまうのか――発症のメカニズム
人の体は通常、体温が上昇すると皮膚の血管を広げて熱を放散し、汗をかいて気化熱で体を冷やすことで体温を調節しています。この体温調節の仕組みが崩れるのが熱中症です。
環境省の熱中症予防情報サイト[3]では、熱中症を引き起こす3つの要因として以下を挙げています。
- 環境の要因:気温が高い、湿度が高い、直射日光が強い、風が弱い、閉め切った室内など。
- からだの要因:暑さへの慣れが不十分(暑熱非順化)、高齢・乳幼児、体調不良(下痢・発熱・睡眠不足など)、基礎疾患(心疾患・糖尿病など)。
- 行動の要因:激しい運動・労働、水分補給ができない状況、厚着・肥満など。
湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、気化熱による冷却効率が落ちます。「気温は35℃でないのにおかしい」と感じる場合も、湿度が高ければ熱中症リスクは上がります。また、室内でも締め切った空間や台所では温度が急上昇することがあり、「屋内なら安全」とはいえません[4]。
高齢者は体内水分量が若年者より少なく(体重の約50〜55%程度)、温度感覚も鈍くなりやすいため、知らないうちに脱水が進んで熱中症になることが多いとされています。救急搬送された熱中症患者のうち、65歳以上では屋内での発症が50%(女性では70%)を超えているとも報告されています[4]。
図2:体温調節のメカニズム。湿度上昇で発汗冷却が低下し、体内に熱がたまることが熱中症の主な経路(日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」[2]などをもとに作図)。
暑さ指数(WBGT)の活用――リスクを数値で把握する
「どのくらいの暑さから危険か」を判断する目安として、暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)が活用されています。WBGTは1954年にアメリカで提案された指標で、気温・湿度・日射・輻射熱の3要素を組み合わせて算出します[3]。単位は℃と同じですが、気温より低い値になることが多いため、気温と混同しないよう注意が必要です。
日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」(2022年)[3]によると、指針の目安は次のとおりです。
- WBGT 31以上(危険):すべての生活活動で発生する危険性がある。高齢者は安静状態でも危険。外出はなるべく避け、涼しい室内へ。
- WBGT 28〜31(厳重警戒):外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意。
- WBGT 25〜28(警戒):中等度以上の生活活動で危険性がある。定期的に休息をとる。
- WBGT 25未満(注意):一般的に危険性は少ないが、激しい運動・重労働では発生することがある。
また、公財)日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019年)[3]では、WBGT31以上では原則として運動を中止するよう推奨しています。スポーツ中の子どもはとくに体温調節能力が未発達なため、大人より厳しい判断が必要とされています。
環境省の熱中症予防情報サイト(https://www.wbgt.env.go.jp/)では、全国各地の暑さ指数のリアルタイムデータを公開しています。外出前や運動前にチェックする習慣をつけると、リスクの事前把握に役立ちます。
予防のポイント――暑熱順化・水分塩分補給・服装と環境づくり
熱中症の予防には、大きく分けて「体を暑さに慣らす(暑熱順化)」「こまめな水分・塩分補給」「暑い環境を避ける」の3つのアプローチが有効とされています。
暑熱順化とは、暑い環境に少しずつ体を慣らしていくことです。毎年夏の初め、急に暑くなった時期や梅雨明け直後は、体がまだ暑さに順応していないため熱中症が多発しやすいとされています[2]。本格的な暑さが来る前から軽い有酸素運動や入浴(湯船につかること)を取り入れて、発汗機能を整えておくことが大切です。
水分・塩分補給のポイントは以下のとおりです。
- のどが渇く前にこまめに補給する(のどの渇きは脱水が始まっているサインともいわれる)。
- 一度にたくさん飲むより、少量を頻繁に飲む方が体に吸収されやすい。
- 大量に汗をかいたときは、水だけでなく塩分(ナトリウム)も補う。スポーツドリンクや経口補水液、梅干しなどが選択肢となる。
- アルコールや過度のカフェインは利尿作用があるため、水分補給の代わりにはならない。
- 運動前・中・後それぞれで補給タイミングを意識する。
服装と環境の工夫については以下が参考になります。
- 屋外では帽子(つばが広いもの)や日傘で直射日光を避ける。
- 通気性・吸湿速乾性のある素材の服を選ぶ。
- 室内では室温28℃以下を目安にエアコンを使用する(高齢者の場合は「暑くなくても」つけることが推奨されている)。
- エアコンのない場所や、冷房が効きにくい空間(台所・脱衣所など)にいる時間を短くする。
- 熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒情報(熱中症特別警戒アラート)が発表されている日は、不要な外出を控える。
万一のときの応急処置――冷やす・飲ませる・救急車を呼ぶ
熱中症が疑われる人を見かけたとき、あるいは自分自身の症状に気づいたとき、迅速な対応が重症化防止につながると考えられています。環境省の普及啓発資料[3]および消防庁の情報[1]をもとに、応急処置の手順を整理します。
まず「意識があるか」を確認する
呼びかけても反応がない・ぐったりしている・けいれんを起こしているなど、意識が乏しい場合はすぐに119番へ通報し、救急車を待つ間も体を冷やし続けてください。
涼しい場所へ移動させる
風通しのよい日陰、または冷房のある室内へ移動します。自力で動けない場合は周囲に協力を求める。
衣服をゆるめ、体を冷やす
首のボタンやベルトをゆるめ、体から熱を逃がします。皮膚を水で濡らしてうちわや扇風機で風を当てるのが効果的です。氷袋や冷却パックがあれば、首・脇の下・太ももの付け根(大きな動脈が走っている部位)に当てると冷却しやすくなります[5]。
自力で飲める場合は水分・塩分を補給する
意識がはっきりしていて、自力で飲める状態であれば、スポーツドリンクや経口補水液などを少しずつ飲んでもらいます。飲み込みが難しい・意識が薄い場合は無理に飲ませてはいけません(気道に入る危険がある)。
応急処置で症状が回復したように見えても、その後しばらくは無理をせず、体調の変化に注意してください。軽快した後も数時間は涼しい環境で安静にすることが大切とされています。
受診を検討したいサイン
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で様子を見るのではなく、速やかに医療機関を受診するか、状況に応じて119番へ連絡することを検討してください。
- 呼びかけに反応しない、または反応が鈍い(意識障害)
- けいれんを起こしている
- 体の一部がおかしい(ろれつが回らない、手足の動かし方が変)
- 水を飲ませようとしても飲み込めない・うまく飲めない
- 涼しい場所に移動して30分経っても症状が改善しない
- 体温が非常に高い(38℃以上の体温が続く、皮膚が熱い)
- 大量の嘔吐・下痢を伴い水分が補えない状態が続いている
- 乳幼児・高齢者・基礎疾患(心臓病・糖尿病など)がある人が熱中症と思われる症状を呈している
図3:熱中症が疑われるときのフローチャート。意識の有無を最初に確認し、なければ即119番。あれば涼しい場所へ移動・冷却・水分補給を行う。
「少し休めば大丈夫だろう」と思っていても、熱中症は急速に重症化することがあります。とくに高齢者・乳幼児・持病のある方は、軽い症状でも早めに専門家へ相談することをおすすめします。
参考文献
- 総務省消防庁(2023)「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」消防庁報道発表. 消防庁 熱中症情報ページ
― 本記事での引用箇所:2023年の年間搬送者数91,467人・死亡者年間1,000人超の根拠
- 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024タスクフォース(2024)「熱中症診療ガイドライン2024」日本救急医学会. PDF全文(日本救急医学会)
― 本記事での引用箇所:熱中症の重症度分類Ⅰ〜Ⅳ度・Ⅳ度(最重症)の定義(深部体温40℃以上かつGCS≦8)・暑熱順化の有用性
- 環境省(2022・2019)「暑さ指数(WBGT)について」「熱中症の予防方法と対処方法」環境省 熱中症予防情報サイト. 環境省WBGTサイト(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」2022・公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」2019をもとに記載)
― 本記事での引用箇所:WBGT指針の数値(31以上・28〜31・25〜28・25未満の4区分)・運動指針・熱中症の3要因(環境・からだ・行動)
- 環境省(2018)「熱中症環境保健マニュアル2018」環境省. 環境省 普及啓発資料ページ(三宅康史先生監修・熱中症ゼロへサイトでも引用)
― 本記事での引用箇所:65歳以上の熱中症患者では屋内発症が50%超(女性70%超)
- 消防庁(令和5年度版)「熱中症対策リーフレット(応急手当の方法)」総務省消防庁. 消防庁 熱中症情報ページ
― 本記事での引用箇所:応急処置(涼しい環境への移動・首・脇・太もも付け根冷却・スポーツドリンク補給・119番通報の目安)の記述根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合や、意識の変化・高熱・けいれんなど重症が疑われる場合は、ただちに119番へ連絡するか、医療機関にご相談ください。個人の状況によって適切な対応は異なります。