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耳鳴り(キーン・ジーという音)が続くのに検査では異常なし——原因と自律神経・ストレス・聴覚過敏との関係

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.06.28編集方針

「耳鼻科で検査をしたのに、何も見つからなかった。でも耳の中でキーン、ジーという音が止まらない」——そんな経験をお持ちの方は少なくありません。検査で異常が出ないからこそ、原因がわからず途方に暮れることも多いでしょう。この記事では、なぜ検査に引っかからないのか、自律神経・ストレス・聴覚過敏・難聴との関係はどうなっているのか、そして日常でできることと受診の目安について、研究知見をもとに解説します。

耳鼻科の検査で「異常なし」になる理由

耳鼻科の標準的な検査は、主に器質的な異常(構造上の問題)を探すことを目的としています。鼓膜の状態、中耳の空気圧、標準純音聴力検査——これらは「耳の組織や骨・神経に壊れた箇所があるか」を調べるものです。

一方で、耳鳴りは必ずしも耳の「壊れ」から起きるわけではありません。耳鳴りは大きく「自覚的耳鳴り(本人にしか聞こえない)」と「他覚的耳鳴り(聴診器などで他者にも確認できる)」に分類されます。大多数の耳鳴りは前者の自覚的耳鳴りに分類されており[1][6]、内耳への血流変化や聴覚神経の興奮パターンの変化、さらには脳の聴覚処理領域の過活動など、機能的な変化によって起きると考えられています。こうした機能的な変動は、標準的な聴力検査では捉えられないことが多いのです。

また、耳鳴り全体の約40%の患者が、明確な原因を特定できないと報告されています[2]。これは耳鳴りが単一の原因ではなく、複数の要因が重なって生じる「多因子性」の症状であることを示しています。「異常なし」は「問題なし」ではなく、「標準的な検査の範囲では原因が特定できない」という意味に過ぎません。

耳の器質的検査と機能的変化の違いを示す図解
図1:標準的な耳鼻科検査では器質的な異常を検出するが、血流変化や神経の機能的変動は捉えにくい

自律神経と耳鳴りの関係——ストレスが音を作り出す仕組み

耳鳴りとストレス・自律神経の関係は、近年の研究で少しずつ解明されてきています。慢性的なストレスにさらされると、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸と呼ばれるストレス応答システムが常に稼働し続けます。さらに、自律神経の交感神経系が過剰に興奮した状態が持続することで、耳鳴りの発生に関与するとされています[2]

そのメカニズムとして次のような経路が考えられています。

  • 内耳の血流変化:交感神経の過緊張が血管を収縮させ、内耳への血流が不安定になる。内耳(蝸牛)は酸素・栄養の需要が高く、わずかな血流変化でも機能が揺らぎやすい。
  • 聴覚皮質の興奮性上昇:ストレスホルモン(コルチゾール)の慢性的な上昇が、脳の聴覚処理領域の感受性を高め、本来ならば無視されるはずのノイズを「音」として知覚させやすくする。
  • 神経可塑性の変化:慢性ストレスは海馬などのシナプス可塑性を変化させ、聴覚中枢のバランス(抑制/興奮比)が崩れると報告されています[2]

ある研究では、心理社会的ストレスが、職業性騒音暴露とほぼ同程度の耳鳴り発症リスクをもたらす可能性が示唆されています。また、高ストレス状態と騒音の両方にさらされると耳鳴りの発症リスクが2倍になるとも報告されています[2]。これは耳鳴りが単に耳だけの問題ではなく、全身のストレス応答と深く結びついていることを示しています。

ストレスと自律神経、HPAaxis、耳鳴りの関係を示す概念図
図2:Patilら(2023)の報告をもとに作図。ストレス→HPA軸活性化→交感神経過緊張→内耳血流変化→耳鳴りという経路の概念図[2]

聴覚過敏(音への敏感さ)と耳鳴りの重なり

「静かな部屋でキーンという音が特に気になる」「普通の音が妙に大きく響く」という場合、聴覚過敏(音への感受性の増大)が耳鳴りに重なっていることがあります。

耳鳴りと聴覚過敏はしばしば合併します。その背景にあるのが、中枢ゲイン(中枢系の音の増幅率)の上昇という概念です。内耳や聴神経からの入力が減少すると、脳がその不足を補おうとして中枢系の感受性を上げる——この適応反応が行き過ぎると、外部の音を過剰に知覚したり(聴覚過敏)、存在しない音を生成したり(耳鳴り)することになるとされています[3]

特に注目されているのが、「無難聴性耳鳴り(聴力検査では正常なのに耳鳴りがある状態)」です。これは、標準的な聴力検査の範囲(125〜8,000Hz)では捉えられない超高音域(8,000Hz以上)の微細な聴力変化や、内耳の有毛細胞のダメージが背景にある可能性が指摘されています。また、脳の聴覚野が「静寂」を補うように自発的な電気活動を増やすという仮説も提唱されており、これが耳鳴り感覚の神経基盤の一つと考えられています[3]

聴覚過敏がある場合、静かすぎる環境(完全な無音)かえって耳鳴りを意識させやすいことがあります。適度な環境音(ホワイトノイズや自然音)を流すことで、耳鳴りへの注意が分散されやすくなると報告されています。

中枢ゲイン上昇による聴覚過敏と耳鳴りの発生を示す図解
図3:Zengら(2020)の知見をもとに作図。中枢ゲインの上昇が聴覚過敏と耳鳴りの両方に関与するとされる[3]

耳鳴りと睡眠・生活の質への影響

耳鳴りが持続することで生活の質に与える影響は、軽視できません。耳鳴りがある方の72.2%が睡眠の質を「不良」と自己評価し、60%が中等度〜重篤な支障を感じると報告されています[4]。また、耳鳴りの支障度と不眠の重症度には有意な正の相関(r=0.499)があることも示されています[4]

ここで問題になるのが悪循環です。耳鳴りが気になって眠れない→睡眠不足で交感神経が高まる→耳鳴りが意識されやすくなる、というループが形成されやすいとされています。また、慢性的な耳鳴りを持つ患者の10〜60%に抑うつ障害28〜45%に不安症状が認められるという報告もあります[2]。これは耳鳴りが「耳だけの問題」ではなく、精神的・身体的な状態全体に関わることを示しています。

耳鳴りが続く時期に生活の質が大幅に下がる場合は、耳鳴り単独のケアだけでなく、睡眠やメンタルの状態も含めて医療機関に相談することが望ましいといえます。なお、耳鳴りと睡眠・精神状態の関係についてはこちらの記事も参考になります: 病院で「異常なし」と言われても体調が悪い理由

耳鳴りと睡眠不良、ストレスが相互に悪化させる悪循環の図解
図4:耳鳴りと睡眠不良・精神的ストレスが相互に強め合う悪循環の概念図

日常生活でできるセルフケアの考え方

耳鳴りに対するアプローチとして、医療機関では「耳鳴り再訓練療法(TRT)」や「認知行動療法(CBT)」などが用いられることがあります。自宅でも取り入れやすい考え方として、以下のポイントが参考になることがあります(ただし、即効性を約束するものではなく、あくまで生活の土台づくりとして位置づけてください)。

  • 完全な静寂を避ける:耳鳴りは静かな環境でより強く感じられやすいとされています。小さなBGMや自然音など、適度な環境音を取り入れることで耳鳴りへの注意が分散されやすくなることがあります。
  • 睡眠の質を整える工夫:睡眠不足は自律神経の乱れを招きやすく、耳鳴りへの感受性を高める可能性があります。就寝前のブルーライト制限、規則正しい起床時間の確保など、睡眠衛生に関する基本的な取り組みが役立つことがあります。
  • ストレスを溜めすぎない意識:慢性的なストレスと耳鳴りには関連が示されています[2]。深呼吸、軽いウォーキング、趣味の時間など、自分がリラックスできる時間を定期的に作ることが生活の土台として重要とされています。
  • 耳鳴りに「注意を向けすぎない」練習:耳鳴りを強く意識すればするほど、脳の注意資源がそこに集中し、感じやすくなる可能性があります。「音があってもいい、今日は○○に集中する」と意図的に注意を切り替える練習を続けることが、耳鳴りとの付き合い方の一つとして報告されています。
  • カフェイン・アルコール・ニコチンの見直し:これらは血管の収縮・拡張に影響し、一部の方では耳鳴りの変動と関連することが経験的に報告されています。自分で記録をつけて傾向を把握することも一つの手段です。
耳鳴りのセルフケアとして環境音、睡眠、ストレスケアを示す図解
図5:耳鳴りとの付き合い方の基本——静寂を避ける、睡眠を整える、注意のコントロール

受診を検討したいサイン

耳鳴りは多くの場合、すぐに生命を脅かすものではありませんが、以下のサインがある場合は早めに耳鼻科・神経内科・かかりつけ医への相談を検討してください。

  • 片耳だけの耳鳴りが持続する:聴神経腫瘍など要因が潜む場合があります。特に片側だけ、かつ進行性の場合は精密検査が推奨されます。
  • 突然始まった激しい耳鳴り:突発性難聴の可能性があります。聴力の急激な低下を伴う場合、早期の治療が重要とされており、症状出現後できる限り早く(目安は72時間以内)受診することが望ましいとされています。
  • 耳鳴りとともに激しいめまい・吐き気が繰り返し起こる:メニエール病などの可能性があります。
  • 耳鳴りに合わせてドキドキという脈打つ感覚(拍動性耳鳴り)がある:血管性の原因(動静脈奇形、高血圧など)を除外するための検査が必要です。
  • 耳鳴りとともに耳の詰まり感・難聴が続く:中耳炎や耳管の異常などが考えられます。
  • 睡眠が著しく妨げられ、日常生活に支障が出ている:耳鳴りの苦痛度が高い場合は、専門的なサポートや認知行動療法の適応を医師に相談することが選択肢になります。
  • 気分の落ち込みや強い不安が伴っている:耳鳴りに抑うつや不安症状が重なる場合は、メンタルヘルスの専門家(心療内科・精神科)への相談も視野に入れてください。
耳鳴りで受診を急ぐべきサインをまとめた図解
図6:早めの受診を検討したい耳鳴りのサイン(レッドフラッグ)

参考文献

  1. 山口耳鼻咽喉科クリニック「耳鳴りと難聴」yamaguchient.com. https://yamaguchient.com/naze12.htm
    ― 本記事での引用箇所:「自覚的耳鳴り・他覚的耳鳴りの分類(大多数は前者)」「無難聴性耳鳴り」「自律神経失調との関係」の解説根拠
  2. Patil JD, Alrashid MA, Eltabbakh A, Fredericks S.(2023)「The association between stress, emotional states, and tinnitus: a mini-review」Front Aging Neurosci. 15:1131979. doi: 10.3389/fnagi.2023.1131979. PMID: 37207076. PMC
    ― 本記事での引用箇所:「約40%に原因不明」「慢性ストレスと耳鳴り発症の関係(HPA軸・交感神経系過活動)」「心理社会的ストレスと職業性騒音の比較」「抑うつ・不安の合併率」の根拠
  3. Zeng FG.(2020)「Tinnitus and hyperacusis: Central noise, gain and variance」Curr Opin Physiol. 18:123. doi: 10.1016/j.cophys.2020.10.009. PMC
    ― 本記事での引用箇所:「中枢ゲインの上昇が耳鳴りと聴覚過敏の両方に関与する」という神経科学的知見の根拠
  4. Freitas A et al.(2023)「Effect of Tinnitus on Sleep Quality and Insomnia」Int Arch Otorhinolaryngol. PMC10147471. PMC
    ― 本記事での引用箇所:「耳鳴り患者の72.2%が睡眠の質不良と自己評価」「不眠重症度と耳鳴り支障度の正の相関(r=0.499)」の数値根拠
  5. Fujii K, Nagata C, Nakamura K, et al.(2011)「Prevalence of Tinnitus in Community-Dwelling Japanese Adults」J Epidemiol. 21(4):299. doi: 10.2188/jea.JE20100124. PMC
    ― 本記事での引用箇所: 日本人を対象とした耳鳴り有病率の参考資料
  6. Han BI, Lee HW, Kim TY, Lim JS, Shin KS.(2009)「Tinnitus: Characteristics, Causes, Mechanisms, and Treatments」J Clin Neurol. 5(1):11. doi: 10.3988/jcn.2009.5.1.11. PMID: 19513328. PMC
    ― 本記事での引用箇所:「自覚的耳鳴りは本人にのみ聞こえ、他覚的耳鳴りは他者にも確認できるという分類」および「大多数の耳鳴りが自覚的であること」の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合や、日常生活に大きな支障をきたしている場合は、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。

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