「最近、外出が減った」「話し相手が少なくなった」——そんな感覚を覚える高齢の方やそのご家族は少なくありません。体の不調がなくても、社会とのつながりが薄れると、心身の健康にじわじわと影響が出ることが研究で示されています。そこで注目されているのが、地域の中で定期的に集まる「通いの場」です。本記事では、通いの場とは何か、なぜ健康に良いとされているのか、どのように参加できるかを、公的機関や学術研究の知見をもとに解説します。
「通いの場」とは何か──定義と国の位置づけ
「通いの場」とは、厚生労働省が介護予防施策の一環として推進している、住民同士が定期的に集まり、生きがいや仲間づくりを行う地域の活動拠点 です[1] 。集会所や公民館、寺社の一角など身近な場所で開催され、体操・茶話会・趣味活動・認知症予防プログラムなど、内容は地域によって多彩です。
国が推奨する開催頻度は「週1回以上」。難しい場合でも月複数回の継続が望ましいとされています。重要なのは、要介護認定を受けた方やフレイル(虚弱)状態の方でも参加できるよう、敷居を低く保つことです。医療・介護のプロが常駐していなくても成立し、住民自身が運営を担う点が従来の行政主導の事業と異なります。
2022年度(令和4年度)の厚生労働省調査では、全市町村の97.6%(1,699市町村) で通いの場の活動が実施され、全国で14万5,641か所 、約222万人 が参加したと報告されています[1] 。運営の中心は住民グループ(70.5%)や個人ボランティア(18.0%)であり、地域住民が主役です。
通いの場は2015年(平成27年)の介護保険法改正によって制度上の位置づけが明確化され、「一般介護予防事業」の中核として全国展開が進みました。それ以前も地域の老人クラブや住民サロンといった活動は各地にありましたが、国が明確に「住民主体の場」として後押しする枠組みが整ったことで、急速に広がったとされています。
図1:通いの場のイメージ──地域の身近な場所で住民が集い、体操や交流を行う
なぜ「通いの場」は健康に良いとされるのか──社会参加と心身の関係
通いの場への参加が健康に関連するとされる背景には、「社会参加」と「孤立予防」という2つのメカニズムがあると考えられています。
社会参加の側面: 人と会い、話し、役割を持つことは、脳への刺激となり、生活リズムの維持に役立つとされています。千葉大学予防医学センターの近藤克則教授らによるJAGES(日本老年学的評価研究)の縦断研究では、28市町59,545人の高齢者を対象に調査したところ、スポーツ(リスク比0.80)、趣味(0.81)、ボランティア(0.87)など複数の社会参加がフレイル発症リスクの低下と関連していたことが報告されています[2] 。「社会参加の種類が多い人ほど3年後のフレイル発症リスクが低かった」という結論も示されています。
孤立予防の側面: 社会的孤立は「家族やコミュニティとほとんど接触がない状態」と定義され、心身の健康に負の影響を及ぼすことが複数の研究で指摘されています。通いの場は、ひとり暮らしや外出機会が少ない高齢者が定期的に「顔を合わせる場」になることで、孤立のリスクを和らげると考えられています[3] 。
注目すべき点として、高齢者サロンへの参加(月1回程度)が、参加していない群と比べて要介護リスクと関連するとする研究報告があります。また、参加者は非参加者の約2.5倍の割合で、2年後の主観的健康感が高かったとの調査データも報告されています[3] 。ただし、これらは観察研究であり、参加が直接的な原因とは断定できません。もともと健康意識が高い人が参加しやすいという選択バイアスの可能性も研究者から指摘されています。
長寿科学振興財団が2025年に公表した資料では、神奈川県松田町を対象とした調査で、通いの場の参加者は非参加者と比べて物忘れのリスクが44%低かったとも報告されています[3] 。同時に、物忘れリスクが低い参加者はその後の地域組織への参加が増えるなど、通いの場が「社会参加のハブ」として機能している側面も指摘されています。こうした連鎖的な効果の可能性は、単なる体操の場を超えた通いの場の意義として注目されています。
通いの場の種類と活動内容──どんなことをしているのか
一口に「通いの場」といっても、内容は地域によって大きく異なります。厚生労働省の分類では、目的別に大きく3つのタイプが想定されています。
タイプI:生きがい・楽しみを主目的とした場 ——趣味活動(手芸・囲碁・読書会など)や文化交流が中心。
タイプII:交流・孤立予防を主目的とした場 ——茶話会や世代間交流など、「集まること」そのものに価値を置く。
タイプIII:心身機能の維持・向上を主目的とした場 ——ロコモ予防体操・口腔体操・認知症予防プログラムなどを取り入れる。
実際の活動内容で最も多いのは「体操・運動」(53.9%)で、次いで趣味活動(20.7%)、茶話会(13.0%)、認知症予防(3.6%)となっています[1] 。単一の活動ではなく、複数を組み合わせる場も増えています。
参加しているのは元気な高齢者だけではありません。要支援・要介護の認定を受けた方、フレイル状態の方も参加できるよう設計されているのが特徴です。「体が少し不自由でも、気軽に顔を出せる」ことが目標とされています。
また、通いの場は活動内容の固定にこだわらないことも特徴です。たとえば、体操だけでなく「笑いのヨガ」「音楽療法的な歌」「世代間交流」「農作業」など、地域の資源や住民の希望を反映した多様な場が各地で生まれています。参加者が自分で内容を提案し、運営に関わることで「自分たちの場」としての意識が育まれ、継続につながると考えられています。厚生労働省も、住民自身が活動を企画・運営する形を「住民主体」と呼び、行政からの押し付けにならないよう、自治体に対してサポート役に徹することを求めています。
図2:JAGES研究(近藤ら、2022)をもとに作図──社会参加の種類と3年後のフレイル発症リスク比の関連
地域間の健康格差と通いの場──エコロジカル研究から見えてきたこと
通いの場の推進が、地域レベルの健康格差にどのような影響をもたらすかを検証した研究もあります。神戸市の78圏域(中学校区単位)を対象とした8年間のエコロジカル研究では、地域診断で要介護リスクが高い地域を特定したうえで住民主体の通いの場を集中的に支援したところ、モデル地区では非モデル地区と比べて社会参加率(趣味グループ参加:29.7%→35.2%)や情緒的サポートの提供、うつ傾向(31.4%→18.6%)などで数値の変化が確認されたと報告されています[4] 。
この研究はエコロジカルデザイン(集団レベルの比較)であり、個人への直接的な因果関係を証明するものではありません。しかし「地域ぐるみで通いの場を支援することが、健康格差の縮小と関連する可能性がある」という視点は、政策立案においても注目されています。
また、通いの場が「社会経済的な影響を受けず参加しやすい」点も特徴とされています。JAGESの研究では、サロン(茶話会型の通いの場)については、所得や学歴による参加率の差が有意に確認されなかったと報告されており[5] 、収入が少ない方や学歴が低い方でも比較的利用しやすい場であると考えられています。スポーツや趣味活動では所得・学歴格差が見られたことと対比すると、通いの場(サロン型)の特性が際立ちます。
一方、課題として「継続率」と「多様性の確保」が挙げられています。参加者の固定化(常連ばかりで新規参加者が入りにくい)や、リーダー役の負担増加、高齢化による運営者不足なども現場では問題視されています。また、フレイルや認知症が進んだ方の参加が難しくなるケースもあり、よりさまざまな状態の方が継続して参加できる場づくりが求められています。こうした課題を受けて厚生労働省は2024年(令和6年)3月に「通いの場の課題解決に向けたマニュアル」を公表し、継続参加の工夫や多様性のある場づくりのポイントを整理しています。
参加するには──近くの通いの場を探す方法
通いの場を探すには、まずお住まいの市区町村の窓口(高齢者福祉課・介護保険課・地域包括支援センターなど)に問い合わせる方法が最も確実です。多くの自治体では、通いの場の一覧や情報をWebサイトや窓口で公開しています。
また、厚生労働省が運営する「地域がいきいき 集まろう!通いの場」(https://kayoinoba.mhlw.go.jp/)サイトでは、全国の通いの場に関する情報や体操の紹介動画なども掲載されています[1] 。
実際に参加する前に確認しておくと安心なポイントを整理します。
開催場所と頻度 ——自宅から無理なく通える範囲か、週1回程度の頻度か。
活動内容 ——体操中心か、茶話会か、趣味活動か。自分の興味・体力に合うか。
参加費 ——多くは無料または100円程度の実費。事前確認が安心。
健康状態の確認 ——持病がある場合、かかりつけ医に相談してから参加すると安心。
介護認定の有無 ——要介護認定があっても参加できる場合が多い。事前に運営者に確認を。
「なんとなく気が引ける」「知り合いがいないから心配」という声はよく聞かれます。初回は見学だけでも構わない場がほとんどです。地域包括支援センターのスタッフが一緒に見学に行くサービスを提供している自治体もあります。
ご家族が高齢の親を通いの場に誘う場合は、「行ってほしい」という指示より「一緒に見に行ってみない?」という誘い方が受け入れられやすいといわれています。また、本人が「行ってみたい」と思えるような興味・趣味の話題から入ることが、継続につながりやすいとされています。一度参加してみて合わなければ別の場を探す、という気軽さで選ぶのが、長続きの秘訣かもしれません。
受診を検討したいサイン
通いの場への参加は、あくまで日常の活動であり、医療の代わりにはなりません。以下のようなサインがある場合は、自己判断せず医療機関への相談をお勧めします。
最近、物忘れが急に増えた、日付や場所がわからなくなることがある
外出しようとすると強い不安や恐怖感がある(外出恐怖・社会不安)
体操参加中に胸痛・息切れ・めまい・ふらつきが起きた
2週間以上、気分がひどく落ち込んでいる、何もやる気が起きない
体重が急激に減少した、食欲がほとんどない
転倒・骨折後のリハビリが必要な状況である
歩行が不安定になり、通いの場への移動自体が困難になってきた
上記に当てはまる場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談することを検討してください。必要に応じて、専門の医療機関(整形外科・精神科・神経内科など)への紹介を受けることができます。
図3:通いの場への参加フローと受診を検討したいサインの整理
参考文献
厚生労働省(2024) 「地域がいきいき 集まろう!通いの場」厚生労働省公式サイト . 厚生労働省 通いの場 ― 本記事での引用箇所:通いの場の定義・全国実施状況(97.6%・14万5,641か所・約222万人参加)・活動内容割合
竹内寛貴、近藤克則ら(2022) 「高齢者の社会参加とフレイルとの関連:JAGES2016-2019縦断研究」日本公衆衛生雑誌(Journal of Public Health) . J-STAGE ― 本記事での引用箇所:社会参加の種類別フレイル発症リスク比(スポーツ0.80・趣味0.81・ボランティア0.87)、28市町59,545人の縦断データ
公益財団法人 長寿科学振興財団(2025) 「通いの場の推進と社会的孤立」老化と健康 第33巻4号 . 長寿科学振興財団 ― 本記事での引用箇所:2022年度97.5%の自治体が実施・高齢者サロン参加と要介護リスクの関連・参加者の主観的健康感が2.5倍・物忘れリスク44%低下(松田町研究)
通いの場づくりによる介護予防(J-STAGE掲載、日本公衆衛生雑誌) 「通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究」. J-STAGE ― 本記事での引用箇所:神戸市78圏域・趣味グループ参加率29.7%→35.2%・うつ傾向31.4%→18.6%への変化
JAGES研究グループ(2021) 「高齢者における通いの場参加と社会経済階層」日本老年社会科学会誌(老年社会科学)第43巻3号 . J-STAGE ― 本記事での引用箇所:サロン参加と所得・学歴の関連が有意でなく、社会経済格差が小さい
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。体の状態や持病によっては通いの場への参加が適さない場合もあります。参加を検討される際は、かかりつけ医や地域包括支援センターにご相談ください。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。