「最近、外出するのが億劫になってきた」「コミュニティ活動に顔を出す機会が減った」——そんな変化を感じている方は少なくないかもしれません。こうした社会的なつながりの薄れが、実は身体や心の健康を静かに蝕む「フレイル(虚弱)」の入り口になることが、複数の研究から示されています。本記事では、フレイルの基本的な考え方から、社会参加がその予防にどう関わるのかを、現在入手できる科学的知見をもとに解説します。
フレイルとは何か——健康と要介護の間にある「揺れ戻せる段階」
フレイル(Frailty)とは、加齢とともに心身の活力が低下し、ストレスに対する回復力が弱まった状態を指します。厚生労働省は、フレイルを「健康な状態と要介護状態の中間」と定義しており、適切な介入によって健康な方向へ戻す可能性がある「可逆性」が特徴とされています[1] 。
フレイルには大きく3つの側面があると考えられています。
身体的フレイル :筋力低下(サルコペニア)、歩行速度の低下、体重減少など運動機能の衰え。
精神・心理的フレイル :定年退職や配偶者との死別を機に生じる意欲低下やうつ状態。
社会的フレイル :地域とのつながりが希薄になることで生じる孤立、独居、閉じこもり。
飯島勝矢・東京大学高齢社会総合研究機構長が提唱する「フレイル・ドミノ」の概念では、これら3つは互いに連鎖します[1] 。社会的なつながりが薄れると外出機会が減り、身体活動が低下し、食欲も落ちやすくなる——という悪循環が生まれやすいとされています。どこが最初の入り口になるかは人それぞれですが、社会参加の減少が連鎖の起点になりやすい点は多くの研究で指摘されています。
日本では65歳以上の高齢者のうち一定割合がフレイルまたはプレフレイル(フレイルの前段階)の状態にあるとされており[2] 、超高齢社会を迎えた今、予防的観点からのアプローチが重視されています。
図1:フレイルの3つの側面と「フレイル・ドミノ」の連鎖——社会参加の減少が入り口になりやすいとされています
社会参加とフレイル——研究が示す関係
「社会参加がフレイル予防につながる」という考えは、複数の大規模縦断研究によって裏付けられています。
国内最大規模のエビデンスの一つが、日本老年学的評価研究(JAGES)の2016〜2019年パネル調査です。28市町の高齢者59,545人を対象とした分析では、スポーツへの参加(リスク比0.80)、趣味のグループ(0.81)、特技・経験の伝達(0.85)、ボランティア(0.87)など、老人クラブを除く8種類の社会参加が、いずれも3年後のフレイル発症リスク低下と有意な関連を示しました[3] 。さらに、参加する種類数が多いほどリスク低下が大きいことも示され(P for trend <0.001)、「多様な社会参加」の重要性が浮かび上がっています。
中国の65歳以上の成人を対象にした縦断研究(CHARLS)でも、週1回以上の社会参加がフレイルスコアの低下と関連し、毎日参加する群では将来のフレイル発症リスクが24%低かった(HR=0.76、95%CI:0.69–0.84)という結果が報告されています[4] 。なかでも、友人との交流、麻雀・チェス等の知的活動、コミュニティ体操などが有効な参加形態として示されました。
こうした研究は、社会参加が「いつ参加するか」「どんな活動か」という頻度・種類の両面でフレイルに影響することを示唆しています。特定の活動が誰にでも同じ効果をもたらすわけではありませんが、「定期的に・多様に・自発的に」参加することが鍵とされています。
なぜ社会参加がフレイル予防につながるのか——考えられるメカニズム
社会参加がフレイルの予防に関わるとされる経路は複数あると考えられています。完全に解明されたわけではありませんが、現在想定されている主な経路を整理します。
外出・身体活動の維持 :コミュニティ活動やグループへの参加は、外出する動機を生み出します。移動能力が低下した高齢者において、地域活動への参加や人と会う機会が、外出頻度の維持に関与するとした研究もあります[5] 。
自己効力感(自信)の維持 :外出頻度が多いフレイルな高齢者ほど、転倒予防や健康管理に対する自己効力感が維持されやすいとした報告があります[5] 。
社会的サポートの受領 :人との交流が情報や情緒的サポートの受け取りを促し、孤立感を和らげるとされています。フレイルな高齢者においてQOLに最も強く関連する要因は「社会的なつながり」だったとする質的研究もあります[5] 。
認知的刺激 :麻雀や学習活動などの知的に要求される活動が脳を刺激し、認知機能の維持に関与する可能性が研究で示されています[4] 。
社会的役割の存在 :ボランティアや特技の伝達など、「誰かの役に立てる」という感覚は精神的な活力の維持につながるとされています[3] 。
図2:竹内ら(2023)[3]・Sun ら(2022)[4]の報告をもとに作図——社会参加がフレイル予防に関わると考えられる複数の経路
どんな活動が、どれくらいの頻度で——参加のポイント
「何でもいいから参加すればよい」というわけではなく、活動の種類・頻度・自発性がポイントとなることが示されています。
種類について :趣味・スポーツ・ボランティア・学習活動などの参加者同士の上下関係が少なく、目的が明確な活動ほど健康維持に関連するとされています[5] 。「楽しいからやる」という本人の動機に基づいた参加であることが重要な点です。
頻度について :趣味・学習・ボランティアへの月1回以上の参加が、将来の生活機能維持と関連していたとする研究があります[5] 。また、過度な参加は利益を単純に大きくするとは限らないという報告もあり、ボランティア活動では年間100時間(週2〜3時間程度)でウェルビーイングが最大になるとした研究があります[5] 。フレイルが進んだ段階では、無理をせず「月1回以上、気楽に続ける」ことを目標にすることが現実的とされています。
多様性について :1種類の活動よりも、複数の活動に関わる方がフレイル予防の観点から望ましい可能性が示されています[3] 。特定の活動に限定せず、複数の場を持つことが一つの考え方です。
地域環境の役割 :社会参加を支えるのは個人の努力だけではありません。公共交通機関の整備や近隣の商店の充実といった物理的環境、住民同士のつながりや地域の「場」の存在といった社会的環境も、フレイルな高齢者の社会参加に影響することが報告されています[5] 。また、社会的フレイルへの対応策として、余暇活動・身体活動・ICTを活用した社会参加支援などを含む多様な介入が有効性を示しているとする系統的スコーピングレビューもあります[6] 。
フレイルが進んでからでも——社会参加の意味を考える
「もうフレイルになってしまったら手遅れでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、フレイルが進んだ後でも社会参加を続けることに意味があるとする見方があります。
村山洋史・東京都健康長寿医療センター研究所の論考によれば、フレイル期には健常期と比較して社会的ネットワークが縮小しやすく(孤独感が高まる・サポートを受けにくくなる)、だからこそ社会参加が重要になるとされています[5] 。フレイルな高齢者にとってのQOLに最も強く関連する要因が「社会的なつながり」だったとする研究も引用されており、健常期とは異なる意味で、つながりの重要性が浮かび上がっています。
フレイル期の社会参加では、以前と同じペースで活動することが難しくなることもあります。そうした場合は、形を変えながら継続する視点が求められます。例えば、移動が困難であれば送迎付きの活動を選ぶ、あるいはオンライン手段を活用するといった工夫が考えられます。SNSやオンラインコミュニケーションツールは、既存の対面のつながりを補完する役割を持つとされており、単独で現実のつながりに代わるものではないとされながらも、特に移動が難しい時期の「気軽な接点」として位置づけられる可能性があります[5] 。
地域の「通いの場」は、こうしたフレイル期の社会参加を支える代表的な環境の一つです。厚生労働省は2019年に「健康寿命延伸プラン」を策定し、2040年までに男女ともに健康寿命の3年以上延伸を目標に掲げており、地域の「通いの場」の拡充を重点施策として位置づけています[1] 。高齢者の孤立予防についてはこちらの記事「高齢者の孤立を防ぐには——地域のつながりが健康を守る理由と具体的な対策」 もあわせてご覧ください。
受診を検討したいサイン
以下の状態が続く・気になる場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターへの相談を検討してください。フレイルは自己判断での対処が難しい場合があります。
体重が半年で2〜3kg以上減った(意図しない体重減少)
以前より歩く速度が遅くなった、疲れやすくなった
握力が低下してきた(物を持つ力が明らかに弱くなった)
ほとんど毎日、外に出なくなった(閉じこもり状態)
人と話す機会が週に1回もない状態が続いている
食欲がなく、食事量が著しく減った
強い意欲の低下、気分の落ち込みが2週間以上続いている
転倒や転倒しそうになることが繰り返しある
これらの状態は複数の病気が背景にある場合もあります。「年のせいだから」と自己判断せず、専門家に相談することをお勧めします。
図3:フレイルに気づくためのサインと、社会参加を続けるための考え方の整理
参考文献
厚生労働省WEBマガジン「厚生労働」(2021年11月) 「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」飯島勝矢・東京大学高齢社会総合研究機構長解説。厚生労働省 ― 本記事での引用箇所:フレイルの定義(健康と要介護の中間)、3種類のフレイル(身体的・精神的・社会的)、フレイル・ドミノの概念、予防の3本柱(栄養・身体活動・社会参加)、健康寿命延伸プランの目標。
村山洋史ら(2020) 「National prevalence of frailty in the older Japanese population: findings from a nationally representative survey」Arch Gerontol Geriatr 2020; 91: 104220. PubMed ― 本記事での引用箇所:日本の高齢者におけるフレイル有病率の記述。
竹内寛貴ら(2023) 「高齢者の社会参加とフレイルとの関連:JAGES2016-2019縦断研究」日本公衆衛生雑誌 2023; 70(9): 529-543. DOI: 10.11236/jph.22-088. J-STAGE ― 本記事での引用箇所:59,545人の縦断分析で8種類の社会参加が3年後のフレイル発症リスク低下と有意に関連(スポーツRR=0.80、趣味RR=0.81等)、参加種類数が多いほどリスク低下(P for trend <0.001)。
Sun J et al. (2022) 「Does social participation decrease the risk of frailty? Impacts of diversity in frequency and types of social participation on frailty in middle-aged and older populations」BMC Geriatrics 2022; 22: 553. DOI: 10.1186/s12877-022-03219-9. PubMed ― 本記事での引用箇所:毎日の社会参加群でフレイル発症リスクがHR=0.76(95%CI:0.69–0.84)。友人との交流・知的活動・コミュニティ体操が特に有効な活動として示された。
村山洋史(2024) 「フレイル期の社会参加と健康長寿」公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット(2020年公開・2024年更新)。健康長寿ネット ― 本記事での引用箇所:フレイル期の社会関係の縮小、外出頻度・自己効力感との関連、社会参加促進の環境要因(物理的・社会的環境)、月1回以上参加の目安、QOLに最も関連する要因が社会的つながりだったこと、SNSと現実のつながりの関係。
Kastner M et al. (2024) 「Interventions that have potential to help older adults living with social frailty: a systematic scoping review」BMC Geriatrics 2024; 24: 521. DOI: 10.1186/s12877-024-05096-w. PubMed ― 本記事での引用箇所:263研究・495介入を対象にした系統的スコーピングレビュー。余暇活動・身体活動・ICTを含む多様な介入が社会的フレイルへの有効性を示したこと。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。記載した研究知見はすべての方に同様の結果をもたらすことを保証するものではなく、個人の状況によって異なります。症状が続く、気になる場合はかかりつけ医や地域包括支援センターにご相談ください。