「頭が重い」「締め付けられる」「ズキズキと脈打つ」——頭痛は日常でよく経験する症状でありながら、検査をしても原因がはっきりしないと感じる方は多いのではないでしょうか。日本頭痛学会によれば、緊張型頭痛は国民の約22%、片頭痛は約8%に見られると報告されており[4] 、いずれも「検査で構造的な異常が見つからない一次性頭痛」に分類されます。本記事では、筋膜とトリガーポイントの観点から頭痛のメカニズムを整理し、日常で取り組みやすいセルフケアの考え方をご紹介します。
国民の4人に1人が悩む頭痛——種類と筋膜との関係
頭痛は大きく「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分けられます。一次性頭痛は脳・血管・神経に器質的な原因が確認されないもので、緊張型頭痛・片頭痛・群発頭痛 が代表的です。二次性頭痛はくも膜下出血や髄膜炎など別の疾患に伴うもので、緊急性を要する場合があります(後述「受診を検討したいサイン」を参照)。
一次性頭痛のうち最も多い緊張型頭痛は「後頭部から前頭部にかけての締め付け感・重さ」が特徴で、片頭痛は「ズキズキした拍動性の痛み、光・音への過敏、吐き気」を伴うことが典型的です。群発頭痛は「片目の周りに集中する激しい痛みが一定期間繰り返す」もので、比較的まれです。
これらの一次性頭痛では、筋肉や筋膜に形成されるトリガーポイント が関与していることが複数の研究で示されています。特に後頭下筋・僧帽筋・側頭筋・咬筋・胸鎖乳突筋といった頭頸部の筋肉が注目されており、これらの筋肉の状態を整えることが予防的セルフケアの入口となり得ます。首こりや肩こりが続いているときに頭痛が起きやすいと感じる方は、この筋膜的な関連が背景にある可能性があります。
図1:一次性頭痛の主な種類と有病率のイメージ(日本頭痛学会ガイドライン2021[4]をもとに作図)
後頭下筋・僧帽筋・側頭筋に潜むトリガーポイントとは
トリガーポイントとは、筋肉内に生じる「過活動状態の硬結(しこり)」のことです。この部位を圧迫すると、局所の痛みだけでなく離れた場所に痛みが再現される「関連痛」 を生じることが知られています。Do らが2018年に発表した系統的レビューでは、片頭痛患者の93.9%がトリガーポイントへの圧迫で頭痛と同様のパターンの関連痛を再現し、緊張型頭痛患者においてはコントロール群と比べて活動型トリガーポイントが顕著に多く確認されたと報告されています[1] 。
頭痛に関連する主な筋肉とトリガーポイントの特徴を以下に示します。
後頭下筋群 (大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋):頭と頸椎C1・C2をつなぐ後頭部深層の4つの小筋群。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用による前傾姿勢で持続的な負荷を受けやすく、トリガーポイントが形成されると後頭部から前頭部・目の奥にかけての広がる痛みが生じることがあります。
僧帽筋(上部線維) :肩から首・後頭部にかけて広がる大きな筋肉。肩こりの代表的な場所であり、上部のトリガーポイントは側頭部・後頭部への関連痛と結びつくことがあります。
側頭筋 :こめかみ周辺を覆う扇状の筋肉。歯ぎしり・食いしばりや長時間の集中作業で緊張しやすく、こめかみから歯・頬への関連痛が生じることがあります。
咬筋 :顎を閉じる主要筋。夜間のブラキシズム(食いしばり)が関係する場合があり、こめかみ・頬・歯周囲への関連痛と結びつくことがあります。
胸鎖乳突筋 :首の前側を走る筋肉。トリガーポイントは前頭部・眼窩周囲・耳への関連痛を生じさせ、めまいを伴うこともあるとされています。
これらのトリガーポイントは、不良姿勢・精神的緊張・睡眠不足・目の疲れ・食いしばりなどが重なることで形成されやすいと考えられています。
首から頭に痛みが広がる仕組み——筋硬膜ブリッジと神経収束
「なぜ首の筋肉の緊張が頭痛につながるのか」を理解するうえで重要なのが、三叉神経頸髄収束(Trigeminocervical Convergence) という神経学的メカニズムです[5] 。
頭・顔面の感覚を担う三叉神経と、頸椎上位(C1〜C3)からの感覚神経は、脳幹の「三叉神経頸髄複合体」という領域で同一のニューロンに収束しています。このため、首や後頭部の筋肉から発した痛みの信号が、脳では「頭や顔の痛み」として認識される ことがあります。逆に頭痛の際に首や肩のこりを強く感じやすくなるのも、この神経収束の双方向性によるものと考えられています。
さらに解剖学的な面では、後頭下筋群と硬膜(脳・脊髄を包む膜)をつなぐ結合組織の橋渡し構造「筋硬膜ブリッジ(Myodural Bridge) 」が確認されています。Sillevis と Hogg(2020年)の解剖学研究では、7体の献体を用いた組織学的解析により後頭下筋群と硬膜の間に広範な結合組織の接続が実証され、後頭下筋群の張力上昇が硬膜に直接的な緊張をもたらす可能性が示されました[2] 。後頭部の深層筋が慢性的に緊張した状態にあると、この経路を通じて頭痛が生じやすくなる可能性が研究者の間で注目されています。
図2:後頭下筋の緊張が頭痛につながる経路——筋硬膜ブリッジと三叉神経頸髄収束の模式図(Sillevis & Hogg 2020[2]・PMC3821111[5]をもとに作図)
緊張型頭痛・片頭痛ごとのセルフケアの考え方
頭痛の種類によってセルフケアの方向性が変わります。まず自分の頭痛がどのタイプに近いかを把握することが第一歩です。
緊張型頭痛に関連するセルフケアの考え方
姿勢の見直し :長時間の前傾姿勢は後頭下筋群・僧帽筋に持続的な負荷をかけます。1時間に1回は頭・首・肩を動かし、姿勢をリセットする習慣が有益と考えられています。
温熱 :首後部や肩を温めると筋の緊張が和らぐ場合があります。入浴やホットタオルが補助的手段として活用されることがあります。
ストレス管理 :緊張型頭痛は精神的緊張が誘因となることがあります。深呼吸・漸進的筋弛緩法・マインドフルネスなどのリラクゼーション法が補助的に取り上げられることがあります。
目の休息 :長時間の画面作業は眼輪筋・側頭筋・後頭下筋を間接的に緊張させることがあるため、適切な休息が勧められます。
片頭痛に関連するセルフケアの考え方
誘因の記録 :睡眠不足・空腹・光と音の刺激・月経周期・天候変化など個人の誘因を把握し、できる範囲で回避することが「頭痛の診療ガイドライン2021」でも推奨されています[4] 。頭痛ダイアリーの活用が勧められることがあります。
発作中の対応 :暗く静かな環境での休息、冷却(患部を冷やす)が不快感を和らげる場合があります。ただし温熱が逆効果になることもあるため、自身の反応を観察してください。
規則的な生活リズム :睡眠時間・食事時間を一定に保つことで誘因となる身体的ストレスを減らせる可能性があるとされています。
薬物療法との併用 :片頭痛では医師・薬剤師が処方・推奨するトリプタン系薬やNSAIDsが有効とされており、適切な医療受診が重要です。
なお、頭痛が強い発作中に強いストレッチを行うことは推奨されていません 。首・肩周辺のストレッチや筋膜リリースは、症状が軽い時期・予防的なケアとして活用することが基本的な考え方です。
首・後頭部のセルフストレッチと筋力ケアの実践
頸部・肩周りの筋力トレーニングが緊張型頭痛の頭痛強度・持続時間に対して有意な変化をもたらした無作為化比較試験が報告されています。Martín-Vera らの2023年の研究(12週間・週3日のプログラム)では、介入群の頭痛強度がVASスケールで平均6.9±1.3から5.1±2.1へ、月間頭痛持続時間が18.3±7.5時間から11.3±8.7時間へと変化したことが示されています(p<0.001)[3] 。ただし、短期間での変化を保証するものではなく、継続的な取り組みと、必要に応じて医療専門家の指導のもとで行うことが推奨されます。
以下に一般的に紹介されることが多い頸部・頭周辺のセルフケア動作を示します。強い痛みがある際や、後述の受診を要するサインに該当する場合は行わずに医療機関にご相談ください。
後頭下筋ストレッチ(チンタック) :椅子に座り背筋を伸ばした状態で、アゴを軽く引き後頭部をうしろに引くようなイメージで保持。両手を後頭部に添えて5〜10秒の力比べを行う「等尺性収縮」も有益と報告されることがあります。首を勢いよく回したり強く引っ張ったりしない。
側頭筋セルフリリース :こめかみ付近の筋肉に指腹を当て、ゆっくり円を描くように圧を加える。顎をゆるめた状態で、歯を食いしばらずに行う。
僧帽筋上部ストレッチ :右耳を右肩に近づけるように頭を傾け、右手を頭の左側に軽く添えて重みを加える(引っ張らない)。15〜30秒保持後、反対側も同様に行う。
深部頸部屈筋のアクティベーション :仰向けに横たわり、アゴを軽く引いて後頭部を床方向に軽く押す動作(チンタック)を5〜10秒×10回。深部の頸椎安定筋を意識して行う。
胸鎖乳突筋ストレッチ :首を横に傾けながら反対側に少し回転させ、胸鎖乳突筋を穏やかに伸ばす。15〜20秒保持。強く引っ張らない。
めまいや自律神経症状を伴う頭痛については、「検査で異常なしのふわふわめまい——自律神経の視点から向き合う」 も参考にしてください。検査で原因が見つからない体調不良全般については「病院で異常なしと言われても体調が悪い理由」 もあわせてご覧ください。
受診を検討したいサイン
以下のいずれかに該当する場合は、自己判断でのケアを続けずに速やかに医療機関(神経内科・脳神経内科・頭痛外来など)にご相談ください。
「これまでに経験したことのないような突然の激しい頭痛」(くも膜下出血が疑われます)
発熱・項部硬直(首が動かない・後ろに曲がらない)を伴う頭痛(髄膜炎が疑われます)
意識の混濁・ろれつが回らない・手足の麻痺・言語障害を伴う頭痛
50歳以降に初めて出現した、または急に変化した頭痛
月に15日以上頭痛が続く(慢性連日性頭痛・薬物乱用頭痛の可能性)
市販の鎮痛薬を週3日以上、3か月以上継続使用している(薬物乱用頭痛のリスク)
視野の欠け・複視・顔面のしびれを伴う頭痛
体を動かすたびに頭痛が起きる・咳や力み・前かがみで頭痛が悪化する
がんや免疫機能低下などの既往がある方に新しく出現した頭痛
図3:セルフケアの実践ポイントと受診を検討したいサインの整理
参考文献
Do TP, Heldarskard GF, Kolding LT, Hvedstrup J, Schytz HW(2018) 「Myofascial trigger points in migraine and tension-type headache」The Journal of Headache and Pain 19(1):84. PMC6134706 ― 本記事での引用箇所:片頭痛患者の93.9%でトリガーポイント圧迫による関連痛の再現、緊張型頭痛患者におけるトリガーポイントの有病率
Sillevis R, Hogg R(2020) 「Anatomy and clinical relevance of sub occipital soft tissue connections with the dura mater in the upper cervical spine」PeerJ 8:e9716. PMC7425638 ― 本記事での引用箇所:後頭下筋群と硬膜をつなぐ筋硬膜ブリッジの解剖学的証拠
Martín-Vera D, Sánchez-Sierra A, González-de-la-Flor Á et al.(2023) 「Efficacy of a strength-based exercise program in patients with chronic tension type headache: a randomized controlled trial」Frontiers in Neurology 14:1239834. PMC10543698 ― 本記事での引用箇所:12週間筋力プログラムによる頭痛強度(VAS 6.9→5.1)・月間持続時間(18.3→11.3時間)の変化
日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会(2021) 「頭痛の診療ガイドライン2021」医学書院. Mindsガイドラインライブラリ ― 本記事での引用箇所:頭痛の有病率(緊張型頭痛約22%・片頭痛約8%)・片頭痛誘因の記録・非薬物療法の推奨
Chua NHL, Suijlekom HV, Wilder-Smith OH, Vissers KCP(2012) 「Understanding Cervicogenic Headache」Anesthesiology and Pain Medicine 2(1):58-59. PMC3821111 ― 本記事での引用箇所:三叉神経頸髄収束メカニズムと頸部から頭部への関連痛の説明
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。頭痛の症状が続く・悪化する場合や、新しいタイプの頭痛が出現した場合は、速やかに医療機関にご相談ください。