暑い日が続くと、「なんとなくふらつく」「頭が痛い」「水を飲んでいるはずなのに体がだるい」といった症状が現れることがあります。熱中症や脱水症は、屋外だけでなく室内でも起こり、高齢者や小さな子どもは特に注意が必要とされています。この記事では、熱中症・脱水症の仕組みから、WBGT(暑さ指数)の見方、年代別の予防のポイント、応急処置と受診の目安まで、公的機関や学術ガイドラインをもとに整理します。
熱中症・脱水症とはどのような状態か
熱中症とは、高温環境のもとで体内の水分・塩分バランスが乱れ、体温調節がうまく機能しなくなることで生じる一連の症状の総称です[1] 。かつては「熱疲労」「熱射病」「熱失神」「熱けいれん」などに分類されていましたが、1999年から日本では「熱中症」として統一されました。
日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」では、重症度を以下の3段階に整理しています[1] 。
Ⅰ度(軽症): めまい・立ちくらみ・大量の発汗・こむら返り(筋肉のけいれん)など。日陰での安静と水分・塩分補給で対応できる場合が多い。
Ⅱ度(中等症): 頭痛・吐き気・倦怠感・体のだるさなど。医療機関への受診が望ましい。
Ⅲ度(重症): 意識障害・けいれん・高体温(40℃以上の目安)・発汗停止など。直ちに救急搬送が必要。
脱水症は、発汗や水分摂取不足によって体内の水分量が減少した状態です。脱水が進むと、血液の循環が悪化し、熱中症を誘発・悪化させる要因になります[2] 。口の渇きを自覚する前から脱水が始まっていることが多く、のどの渇きを感じてからでは遅い場合もあるとされています。
図1:熱中症は屋外の炎天下だけでなく、室内でも発症しうる。高齢者・子どもは特に注意が必要。
なぜ高齢者と子どもに多く起こるのか
熱中症による救急搬送者の約半数は65歳以上の高齢者とされています[2] 。高齢者が熱中症になりやすい理由として、以下のような身体特性が挙げられています。
暑さや渇きの感覚が低下: 気温や湿度の変化に気づきにくく、のどの渇きも感じにくくなるため、水分補給が遅れやすい。
発汗機能の低下: 汗をかきにくくなるため、体内の熱を逃がしにくい。
腎臓の水分調節力の低下: 体内の水分・電解質バランスを維持する力が弱まっている。
一人暮らしやエアコン非使用: 独居高齢者は気づかれにくく、エアコンを使わない傾向がある。日本の研究では、一人暮らしの高齢者は熱中症リスクが約2.5倍になると報告されています[3] 。
子ども(特に乳幼児・未就学児)も熱中症リスクが高い理由があります。
体温調節機能が未発達: 発汗による放熱能力が大人ほど発達していない。
地面に近い位置にいる: 身長が低いため、地面からの輻射熱を受けやすい。晴天時のアスファルト近くは大人の顔の位置より気温が高いことがある。
自ら申告できない: 特に乳幼児は体調の変化を言葉で伝えられない。
また、車内への置き去り(閉じ込め事故)による乳幼児の重篤な熱中症・死亡事例が国内外で報告されており、わずか数分で命に関わる危険な高温になりえます[1] 。絶対に子どもを車内に置き去りにしないことが基本です。
WBGT(暑さ指数)の仕組みと活用のしかた
熱中症予防の指標として、環境省は「WBGT(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)」の利用を推奨しています[4] 。WBGTは気温だけでなく、湿度・輻射熱(日光や地面・壁からの熱)を総合的に数値化したもので、単純な気温より体感的な暑さに近い指標とされています[1] 。
WBGTの目安は以下の通りです(日常生活・運動時)。
21未満(ほぼ安全): 通常の活動が可能。適時水分補給を。
21〜25未満(注意): 積極的に水分補給し、激しい運動は中断することも考慮。
25〜28未満(警戒): こまめな休息が必要。
28〜31未満(厳重警戒): 激しい運動や屋外作業は中止を検討。
31以上(危険): 屋外での運動は原則中止。
環境省の熱中症予防情報サイト(wbgt.env.go.jp)では、全国の実況値・予測値がリアルタイムで確認できます[4] 。熱中症警戒アラートや熱中症特別警戒アラートが発令された際は、外出を控え、エアコンを使って室内を涼しく保つことが推奨されています。
図2:過剰な発汗が続くと電解質バランスが乱れ、熱中症を誘発しやすくなる(神田ら Kanda et al. PLoS One 2021[6]をもとに作図)
水分・塩分・経口補水液——正しい補給の基本
熱中症・脱水症の予防において、適切な水分補給は最も基本的な対策です。
1日の水分摂取目安(成人): 食事以外に約1.2リットルを目安に摂ることが推奨されています(厚生労働省[2] )。ただし、激しい運動・作業時や高温多湿な環境では、それ以上の補給が必要になる場合があります。
塩分も同時に補給する理由: 大量に発汗すると水分だけでなくナトリウム(塩分)も失われます。水だけを多量に飲むと、血中のナトリウム濃度が下がり「低ナトリウム血症」になる可能性があります。こむら返り(筋肉のけいれん)が起きているときは、電解質の不足が関係していることがあります。
経口補水液(ORS)の役割: 経口補水液は、水・ナトリウム・糖などをWHOが推奨する比率で配合した液体です。通常の水分補給には汗と同程度の電解質を含むスポーツドリンクや経口補水液が活用されます[5] 。ただし、経口補水液は軽度〜中等度の脱水の補給に適しており、重症の場合は医療機関での点滴が必要になります[6] 。
小児の水分補給: 子どもは体重あたりの必要水分量が多く、脱水に至るスピードが速いとされています。日本救急医学会のガイドラインでは、小児の水分補給は活動前・中・後にこまめに行うことを推奨しています[1] 。
なお、カフェインを多く含む飲料(コーヒー・緑茶など)やアルコールは、利尿作用があるため水分補給には適しません。水、麦茶、スポーツドリンク、経口補水液などが適切です。
暑熱順化とセルフケア——体を夏仕様にするために
暑熱順化とは: 徐々に暑さに慣れる「暑熱順化」のプロセスを経ることで、体が高温環境に適応し、発汗能力が高まると考えられています[1] 。日本救急医学会のガイドラインでは、暑熱順化は熱中症の発症・重症化リスクの低減に有用とされています(FRQ2-02)[1] 。梅雨明け直後や急に暑くなった日は体が慣れておらず、特にリスクが高まるため注意が必要です。
暑熱順化の一般的な目安として、1〜2週間かけて毎日30〜60分程度の中強度の運動を行う方法が参考にされています。ただし、高齢者や体調不良の方は無理をせず、熱中症リスクの低い早朝や涼しい室内での実施が望ましいとされています。
日常のセルフケアのポイント:
室内環境の管理: エアコンや扇風機を使い、室温28℃以下・湿度50〜60%を目安に保つ。遮光カーテンやすだれも有効。室温をこまめに確認する(特に高齢者の方は感覚に頼らず温度計・湿度計を使用)。
屋外での行動: 日中の外出をなるべく避け(特に10〜15時)、外出時は帽子・日傘を使用。日陰でこまめに休憩。
こまめな水分補給: のどが渇く前から、1時間ごとにコップ1杯程度を目安に。
衣服の工夫: 通気性・吸湿性・速乾性のある素材を選ぶ。
相互の見守り: 高齢者・子どもの周囲にいる方が、エアコン使用・水分摂取の状況を確認する習慣をつける。
睡眠不足・過労・体調不良・飲酒などは熱中症のリスクを高める要因と考えられています。前日の体調管理も大切です。
熱中症が疑われるときの応急処置
本人または周囲の人が熱中症を疑われる状態になった場合、以下の手順が推奨されています(厚生労働省・日本救急医学会[2] [1] )。
ステップ1: 涼しい場所に移動する
エアコンの効いた室内、または風通しのよい日陰に速やかに移動します。衣服を緩め、体への圧迫を取り除きます。
ステップ2: 体を冷やす
ぬれたタオル・保冷剤・氷などを使い、首・脇の下・鼠径部(足の付け根)など太い血管が通る部分を冷やします。うちわや扇風機で風を送ることも有効です。重症(Ⅲ度)の場合、早期に積極的な冷却を行うことで予後に差が生じる可能性があるとされています[6] 。
ステップ3: 意識がある場合は水分・塩分を補給する
意識がはっきりしていて飲み込める状態であれば、スポーツドリンクや経口補水液を少しずつ飲ませます。
ステップ4: 回復しない・悪化する場合は直ちに119番
意識がない、けいれんしている、または涼しい場所でしばらく安静にしても回復しない場合は、ためらわずに119番に連絡してください。
図3:熱中症の重症度別対応の流れ。軽症は安静・冷却・水分補給、重症は迷わず救急(119番)へ。
受診を検討したいサイン
以下の症状があれば、救急・医療機関の受診が必要と考えられます。自己判断での様子見は避けてください。
意識がない・もうろうとしている・呼びかけへの反応がおかしい
けいれん・ひきつけが起きている
体が非常に熱く、発汗が止まっている(または異常に少ない)
涼しい場所で安静にして30分以上経っても症状が改善しない
頭痛・吐き気・嘔吐が続いている
自分で飲食できない状態になっている
体温が38〜39℃以上ある
持病(糖尿病・心疾患・腎疾患・認知症など)がある場合は、軽症でも早めに相談
特に乳幼児や高齢者は、症状が急速に悪化する場合があります。「少し様子を見よう」と思っても、しばらく改善しない・むしろ悪化しているようであれば、早めに119番または救急外来へ。
参考文献
日本救急医学会 熱中症ガイドラインタスクフォース(2024) 「熱中症診療ガイドライン2024」日本救急医学会 . PDF(日本救急医学会公式) ― 本記事での引用箇所:熱中症重症度分類(Ⅰ〜Ⅲ度)、WBGT基準、暑熱順化(FRQ2-02)、小児・乳幼児の注意点、車内閉じ込め対策
厚生労働省(2023) 「熱中症予防のための情報・資料サイト(予防の行動)」厚生労働省 . 厚生労働省公式ページ ― 本記事での引用箇所:高齢者が熱中症患者の約半数・1日水分摂取目安1.2L・応急処置の基本手順
Fujimoto M et al.(2023) 「Possible adaptation measures for climate change in preventing heatstroke among older adults in Japan」Front. Public Health. DOI: 10.3389/fpubh.2023.1184963. PMC全文(PMC10556232) ― 本記事での引用箇所:一人暮らし高齢者の熱中症リスク(調整オッズ比 2.5、95%CI 1.2-5.4)
環境省(2024) 「暑さ指数(WBGT)について・熱中症予防情報サイト」環境省 . 環境省 熱中症予防情報サイト ― 本記事での引用箇所:WBGTの区分(21〜31)、熱中症警戒アラートの概要・推奨行動
Aghsaeifard Z, Heidari G, Alizadeh R(2022) 「Understanding the use of oral rehydration therapy: A narrative review from clinical practice to main recommendations」Health Sci Rep. 2022;5(5):e827. PMC全文 ― 本記事での引用箇所:経口補水液(ORS)の組成・適応・脱水補給における位置づけ
Kanda J et al.(2021) 「Association between active cooling and lower mortality among patients with heat stroke and heat exhaustion」PLoS One. 2021;16(11):e0259441. PubMed ― 本記事での引用箇所:重症熱中症に対する積極的冷却療法が死亡率低下と関連(調整オッズ比3.29、95%CI 1.21-8.90)、経口補水液のみでは重症例に不十分
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合、または緊急性があると感じた場合は、速やかに医療機関または救急(119番)にご相談ください。