夏になると肌が気になる方は多いものです。「日焼けしないようにしたい」「シミやシワが気になってきた」という声はよく聞かれます。紫外線(UV)は毎年4〜9月を中心に強くなり、日常的な積み重ねが肌の変化に関わるとされています。しかし、どのように対策すればよいのか、何が根拠なのかを整理して知る機会はなかなかありません。この記事では、紫外線の種類と皮膚への影響、日焼け止めの選び方と使い方、曇りの日や特別な配慮が必要な方への対策、そして日焼け後のケアまでを、公的機関や学術文献をもとに解説します。
UVA・UVBの違いと皮膚への影響
太陽から届く紫外線には波長の違いにより主にUVA(波長315〜400nm)とUVB(波長280〜315nm)があります。それぞれ皮膚への作用が異なり、対策の考え方も変わります[1] 。
UVBは「急性の日焼け(サンバーン)」の主な原因 とされています。皮膚の表皮に強く作用し、メラノサイト(色素細胞)を刺激してメラニンを過剰に産生させます。このメラニンが表皮細胞内に蓄積されることが、シミ・そばかすにつながる経路の一つとされています[1] 。また、UVBはDNA損傷を直接引き起こすことが知られており、長期的な累積曝露が皮膚がんのリスクと関連するとされています[2] 。
UVAは「光老化」の主要な要因 です。地表に届く紫外線の約95%をUVAが占め、ガラスを透過して室内にも届き、曇りの日でも降り注ぎます。UVBより波長が長いため、表皮を通過して真皮まで到達します。真皮にはコラーゲンや弾性線維(エラスチン)が存在しており、UVAによって活性化したマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)がこれらを分解することで、シワ・たるみといった光老化が起こるとされています[3] 。
図1:UVAは真皮まで到達してコラーゲン破壊に関わり、UVBは表皮でメラニン産生を促すとされている(公的資料をもとに作図)
なお、UVCは大気中のオゾン層で吸収されるため、通常の地表には届きません。日常の紫外線対策で意識すべきは主にUVAとUVBです。
光老化のメカニズム:なぜ紫外線でシミ・しわができるのか
「光老化(photoaging)」とは、加齢による自然な老化とは別に、紫外線の累積曝露によって生じる皮膚の変化です。シミ・しわ・たるみ・毛細血管拡張などとして現れます[3] 。
分子レベルでのメカニズムは以下のようなものとされています。
紫外線照射により皮膚細胞でROS(活性酸素種)が過剰産生され、酸化ストレスが生じる
炎症性転写因子(NF-κB、AP-1)が活性化し、コラーゲンを分解するMMP(特にMMP-1、MMP-3、MMP-9)の発現が増加する[3]
同時に、コラーゲン合成に関与するTGF-β/Smadシグナル経路がUVA曝露によって抑制され、コラーゲンの新規産生も低下するとされている[3]
この「分解増加×産生低下」の二重の作用が、真皮コラーゲンの減少につながる
シミのメカニズムについては、UVBが表皮内のメラノサイトに直接作用してメラニン産生を促すほか、UVAも表皮のメラノサイトを刺激してメラニン生成に関与するとされています[1] 。いったん蓄積したメラニンは、代謝のサイクルに乗って排出されることもありますが、紫外線を繰り返し浴び続けると蓄積が進むとされています。
図2:紫外線がMMPを活性化してコラーゲンを分解する光老化の経路(Sander et al. 2020[2] 、Chung et al. 2001[3] をもとに作図)
皮膚老化の原因の多くが紫外線に由来するという指摘は古くからあり、光老化は適切な対策で一定程度の進行を緩やかにできる可能性があるとされています。ただし、すでに生じた変化を「治す」「元に戻す」という効果については、根拠とともに慎重に考える必要があります。
日焼け止め(サンスクリーン)の選び方と使い方
日焼け止めは紫外線対策の中でも研究が積み重なっている方法の一つです。適切な製品を正しく使うことが、その効果を引き出すために重要とされています[2] 。
SPFとPAの意味
SPF(Sun Protection Factor) :主にUVBを防ぐ指標です。数値が高いほど防止効果が高くなります。ただし、SPF30とSPF50の差はUVBカット率にして約1.3%程度(SPF30で約97%、SPF50で約98%)です。数値が2倍でも効果が2倍になるわけではありません[4] 。
PA(Protection Grade of UVA) :主にUVAを防ぐ指標で、PA+からPA++++の4段階で表されます。光老化対策としてはPA値も重要です[4] 。
シーン別の選び方の目安 (日本小児皮膚科学会・皮膚科専門家の情報をもとに)[4]
日常の外出・通勤通学:SPF15〜30、PA++程度
屋外でのスポーツ・レジャー・海・山:SPF30〜50、PA+++〜PA++++程度
子ども(集団生活):SPF15以上で十分とされています
使い方のポイント
外出の15〜30分前に塗布する
顔・耳・首・胸元・手の甲など、露出する部位を忘れずに塗る
2〜3時間ごとに塗り直す。汗・水・摩擦でSPF効果は低下するため、塗り直しの習慣が防御力の維持に大きく関わるとされている[4]
十分な量を塗る(少量では表示のSPF値が得られない場合がある)
なお、日焼け止めの有効成分のうち一部は皮膚から微量に吸収されることが報告されています。長期使用に関する安全性の研究は継続されており、不安のある方は皮膚科医や薬剤師に相談することが勧められます[2] 。
紫外線対策の基本:帽子・日傘・衣類・時間帯・日陰
日焼け止めと合わせて、物理的な対策を組み合わせることが紫外線曝露量の低減につながるとされています。気象庁・環境省の資料[5] をもとに、実践しやすい対策をまとめます。
時間帯の工夫 は効果的な方法の一つです。紫外線の強さは午前10時〜午後2時頃に最も高くなる傾向があります。この時間帯の長時間の屋外活動を避ける、または短時間にとどめることが有用とされています[5] 。
UVインデックス(UVI)の活用
UVインデックスとは、紫外線が人体に及ぼす影響の度合いを0〜11+で数値化した指標です(気象庁・WHO)[5] 。日本では気象庁のウェブサイトで確認できます。数値が高いほど対策の優先度が上がります。
物理的な遮蔽の組み合わせ
帽子:つばが広いものほど顔・首への直達日光を遮る。UVカット加工の素材はより効果的とされる
日傘:顔・肩周りへの紫外線を減らすとされる。UVカット加工が施されたものを選ぶ
衣類:長袖・UVカット素材の着用が遮蔽に役立つ
サングラス:目・目周辺の皮膚を紫外線から守る。UVカット対応品を使用する
日陰の活用:直達日光だけでなく散乱光にも注意。木陰やビルの陰なども有効
曇りの日も対策が必要
曇りの日の紫外線量は、晴天時の約6割程度とされています(気象庁)[5] 。完全になくなるわけではなく、UVAはとくに雲を透過しやすい性質があります。「曇りだから大丈夫」と対策を省略することには注意が必要です。
子ども・乳幼児への対策
乳幼児の皮膚はデリケートで、UV吸収剤に対して反応が出やすいことがあるとされています[4] 。生後6ヶ月未満は日焼け止めよりも衣類・帽子・日陰・外出時間帯の工夫による物理的対策が基本とされています。生後6ヶ月以降は、紫外線散乱剤主体(「ノンケミカル」「紫外線吸収剤不使用」)の製品を選ぶことが一般的に勧められています[4] 。高齢の方は皮膚のバリア機能が低下しているため、保湿との組み合わせや塗り方の工夫について皮膚科医に相談することも一つの選択肢です。
日焼け後のセルフケアとビタミンDとの関係
うっかり日焼けしてしまった場合のセルフケアの基本ステップは「冷却→保湿→水分補給」とされています。
クールダウン(冷却) :日焼けは皮膚の炎症反応です。まず冷たいタオルや流水などで穏やかに冷やし、炎症を落ち着かせることが勧められています。氷を直接当てることは凍傷のリスクがあるため避けます
保湿 :日焼けした皮膚はバリア機能が低下して乾燥しやすくなります。刺激の少ない保湿剤を使い、水分を補給することが有用とされています
水分補給 :日焼け後は皮膚からの水分蒸散が増えます。こまめな水分補給を心がけることが大切です
アルコールを含む製品・強い刺激成分は炎症した皮膚への使用を避ける
皮むけが起きた場合は無理に剥がさず、保湿を続けながら自然なターンオーバーを待つ
ビタミンDと紫外線の関係
紫外線(UVB)は皮膚でのビタミンD合成に必要です。「紫外線対策をしすぎるとビタミンD不足になる」という疑問を持つ方もいます。国立環境研究所等の研究では、ビタミンDの必要量(目安:食事摂取基準2020年版で成人8.5μg/日)を皮膚で合成するために必要な紫外線量は、日焼け(サンバーン)を起こす量よりも少なくて済むとされています[6] 。また、日焼け止めを完全に塗り切れていない部位(顔・手の甲)からも一定の紫外線が当たることを考慮すると、日常的な対策でビタミンD合成が全くゼロになるわけではないとされています[6] 。ただし、北海道など高緯度地域の冬季や、ほとんど屋外に出ない生活環境では、食事やサプリメントによる補給を考慮することがあります。詳細は医療機関や管理栄養士に相談することが勧められます。
受診を検討したいサイン
日焼けやシミ・シワが気になるほとんどのケースはセルフケアで様子を見られますが、以下のような場合は皮膚科への受診を検討してください。
日焼け後に水ぶくれ(水疱) が生じた場合:II度熱傷(日焼け)の可能性があり、適切な処置が必要なことがあります
広範囲にわたる強い発赤・熱感・痛みが続く場合
発熱・悪寒・吐き気などの全身症状を伴う場合
シミが急に大きくなった・形が不整・色が不均一・出血するなど、皮膚がん(悪性黒色腫・有棘細胞がん・基底細胞がんなど)が疑われる変化 がある場合[2]
以前と異なるほくろや皮膚の変化に気づいた場合
日光過敏症(光線過敏症)の診断がある方や、薬を内服中の方で日焼けしやすくなったと感じる場合
子どもが広範囲に日焼けして機嫌が悪い・水分を取れない場合
図3:日焼け後のセルフケアの手順と受診を検討するタイミングの目安
なお、国立がん研究センターのがん統計によれば、2023年の皮膚がんの新規診断例は27,353例(男性14,364例・女性12,989例)で、年齢とともにリスクが高まる傾向があります[7] 。早期発見・早期対応が重要とされています。「何か変だな」と思ったら、自己判断で様子を見続けるよりも皮膚科を受診することが安心です。
参考文献
光老化啓発プロジェクト(日本皮膚科学会関連) 「紫外線の肌への影響:UVBとメラニン・UVAと光老化」光老化啓発プロジェクト公式サイト . https://www.hikari-rouka.org/ ― 本記事での引用箇所:「UVBがメラノサイトを刺激してメラニンを産生し、シミの一因となる」「UVAが真皮まで到達してコラーゲン破壊に関わる」の根拠
Sander M, Sander M, Burbidge T, Beecker J(2020) 「The efficacy and safety of sunscreen use for the prevention of skin cancer」CMAJ Vol.192, Issue 50. PMC7759112 ― 本記事での引用箇所:「日焼け止めの定期使用により有棘細胞がんのリスクが約40%低下(rate ratio 0.61)」「メラノーマのリスクが有意に低下(HR 0.27)」の根拠、UVBがDNA損傷の直接原因となる背景
Chung JH, Hanft VN, Kang S(2001) 「Aging and photoaging」Journal of the American Academy of Dermatology . PubMed 11598374 ― 本記事での引用箇所:「紫外線がMMP-1/3/9を活性化してコラーゲンを分解する」「TGF-β/Smadシグナル抑制によるコラーゲン産生低下」の根拠
日本小児皮膚科学会 「こどもの紫外線対策について」日本小児皮膚科学会 公式Q&A . https://jspd.umin.jp/qa/03_uv.html ― 本記事での引用箇所:「日常生活ではSPF15〜20・PA++」「2〜3時間ごとに塗り直し推奨」「生後6ヶ月未満は物理的対策が基本」「SPFとPAの意味と選び方」の根拠
気象庁 「雲と紫外線」「UVインデックスとは」気象庁 ウェブサイト . https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/env/uvhp/3-73uvindex_mini.html ― 本記事での引用箇所:「曇りの日の紫外線量は晴天時の約6割」「UVインデックスの説明」「午前10時〜午後2時が最も紫外線が強い時間帯」の根拠
国立環境研究所・地球環境研究センター(2020) 「日光によるビタミンDの生成」ビタミン 94巻9号. J-STAGE ― 本記事での引用箇所:「ビタミンD合成に必要な紫外線量はサンバーンを起こす量より少ない」「日常的な対策でビタミンDがゼロになるわけではない」の根拠
国立がん研究センター がん情報サービス(2023年統計) 「皮膚がん罹患・死亡統計」がん情報サービス . https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/13_skin.html ― 本記事での引用箇所:「2023年の皮膚がん新規診断例27,353例」の根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。個々の症状・体質・生活環境によって適切な対策は異なります。皮膚に気になる変化がある場合や、持病・内服薬がある場合は、皮膚科・医療機関にご相談ください。