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燃え尽き症候群(バーンアウト)の兆候とセルフケア——WHO ICD-11の定義から学ぶ

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.05最終更新 2026.07.06編集方針

「最近、仕事のやる気がまったく湧かない」「以前は楽しかった仕事なのに、今は出勤するだけで消耗してしまう」——そんな状態が続いているとしたら、それは燃え尽き症候群(バーンアウト)のサインかもしれません。世界保健機関(WHO)は2019年、バーンアウトを国際疾病分類(ICD-11)に職業性の現象として位置づけました。本記事では、WHOの定義に基づいてバーンアウトとは何かを正確に整理し、気づきにくい初期サインと、日常に取り入れやすいセルフケアの考え方をお伝えします。

WHOが定義するバーンアウト——「疾病」ではなく「職業性現象」

バーンアウトについて知るうえで、まずWHOの正確な定義を押さえておくことが重要です。ICD-11(コードQD85)では、バーンアウトを次のように定義しています。

「うまく管理されなかった慢性的な職場ストレスによって生じる症候群」[1]

この定義で注目すべき点が2つあります。第一に、バーンアウトは職業上の文脈に限定された現象とされており、仕事以外の領域(家族関係・趣味・日常生活)での消耗感を説明するためには使わないとWHOは明示しています。第二に、ICD-11においてバーンアウトは「疾病(病気)」ではなく、「健康状態に影響する要因」の章に分類されており、医学的疾患のカテゴリには含まれていません[1]

WHOはバーンアウトを3つの次元で特徴づけています。

  • エネルギーの枯渇・疲弊感:身体的・精神的な疲労が蓄積し、回復しにくくなる状態
  • 仕事への心理的距離の増大、またはネガティブ・シニカルな態度:職務や職場に対する意欲・関与が低下し、冷淡・疎外感が生じる状態
  • 職業的有能感の低下:「自分はこの仕事で成果を出せていない」という感覚が強まり、自己評価が下がる状態

この3次元モデルはMaslachらが開発した職業的燃え尽き尺度(Maslach Burnout Inventory:MBI)の構造とも対応しており、確認的因子分析によって3因子モデルの妥当性が支持されています[2]

バーンアウトの3次元:エネルギー枯渇・心理的距離・有能感低下を表す全体像図解
図1:WHO ICD-11が定めるバーンアウトの3次元(エネルギー枯渇・仕事への心理的距離・有能感低下)

日本の職場でのバーンアウトの現状

バーンアウトは特定の職種だけの問題ではありません。2026年に実施されたマイナビキャリアリサーチLabの調査(対象:20〜50代正社員4,096名)では、現在バーンアウト状態にあると回答した正社員は17.3%、過去に経験したことがある人を含めると29.3%に達しました[3]。20〜30代の若年層では18.4%、若年層の管理職では36.3%と、3人に1人以上がバーンアウト状態とされています[3]

国際的なデータをみても、欧州では労働者の約7〜9%が臨床的なバーンアウト症状を報告しているとされています[4]。医療職など特定の職種では50%前後に達する研究報告もあり、職種・業種を問わず広く関係する問題として認識されるようになっています[4]

日本では、厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査」が公表されており、職場のストレス要因として「仕事の量・負担」「対人関係」が引き続き上位に挙がっています[5]。長時間労働はバーンアウトの最も強いリスク要因の一つとされており、週60時間以上勤務する医療職は週40時間未満の医療職と比べてバーンアウトリスクが2.52倍高いという報告もあります[6]

見逃しやすいバーンアウトの初期サイン——心と体の変化

バーンアウトは突然訪れるものではなく、慢性的な職場ストレスが積み重なることで段階的に進行します。初期サインに気づくことが、早期の対応につながります。

心理・感情面のサイン:

  • 月曜日の朝、職場のことを考えると強い憂鬱感・不安感が生じる
  • 小さなミスや批判に対して必要以上に落ち込む、または逆に無反応になる
  • 同僚やクライアントへの共感が薄れ、「どうでもいい」という感覚が増える(シニシズム)
  • 以前は達成感を感じていた業務が、今は義務感だけでこなしている

認知・行動面のサイン:

  • 集中力が続かず、単純な作業に時間がかかるようになった
  • 意思決定が難しくなり、些細なことも判断できない感覚がある
  • 重要な業務を先延ばしにしたり、完璧主義が強まったりする
  • 退勤後や休日も「仕事のこと」が頭から離れず、休めている感覚がない

身体面のサイン:

  • 十分な睡眠をとっても疲れが取れない(非回復性睡眠)
  • 入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒など睡眠の質が下がった
  • 頭痛・肩こり・胃腸不快感などが増えた
  • 免疫が落ちたように感じる(風邪をひきやすくなった等)

近年の研究では、バーンアウトが神経生理学的な変化と関連している可能性が示されています。慢性ストレスによって視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸が乱れ、コルチゾール分泌の調節障害が生じるとともに、扁桃体の過活動が前頭前皮質の感情調節機能を圧倒することが報告されています[4]。また、臨床的なバーンアウト状態では炎症性サイトカインの上昇と関連する可能性が示唆されています[4]。ただし、これらはまだ研究段階の知見であり、すべてのバーンアウト状態に当てはまるものではありません。

バーンアウトの進行プロセスとHPAストレス軸への影響を示すメカニズム図解
図2:慢性職場ストレスがバーンアウトにつながるメカニズムの概念図(Khammissa RA et al., PMC9478693をもとに作図[4]

バーンアウトとうつ病——似ているようで違う点

バーンアウトとうつ病は症状が重なる部分があるため、混同されることがあります。両者を区別することは、適切な対応を選ぶために重要です[7]

共通する症状:疲労感、意欲・興味の低下、集中困難、睡眠障害

区別のポイント(あくまで参考であり、診断は医療職が行います):

  • 症状の文脈:バーンアウトは「仕事(または強い職業的関与のある活動)」に関連して生じやすい。休暇中や離職後に症状が和らぐ場合、バーンアウトの可能性が考えられます。うつ病では、場所や状況を問わず持続的・広範な気分の落ち込みが生じやすいとされています[7]
  • 快感消失(アンヘドニア):趣味や仕事以外の活動でも喜びを感じられない状態(アンヘドニア)が続く場合は、うつ病との鑑別が重要とされています[7]
  • シニシズムの向き:バーンアウトでは「仕事への冷淡さ」が中心的。うつ病では自己否定・無価値感・絶望感が広範に及ぶ傾向があります。

これらはあくまで傾向であり、バーンアウトとうつ病が同時に存在することもあります。「これはどちらだろう」と自己判断を続けるより、症状が続く場合は医療機関への相談が重要です。

日常に取り入れやすいセルフケアの考え方

バーンアウトの回復・予防には、個人レベルのセルフケアと、職場の構造的な変化(労働量・公平性・サポート体制の改善)が組み合わさることで、より効果が期待されるとされています[4]。ここでは個人が日常から取り組める方法をお伝えします。

1. 意図的な「切り替え」の時間をつくる
退勤後・休日に仕事から頭を切り離す時間(心理的脱却)を意図的に確保することが、疲労回復の観点から重要だとされています。決まった「終業の儀式」(片付け・着替え・散歩など)を設けることで、オン/オフの境界をつくりやすくなります。

2. 睡眠の質を優先する
睡眠とバーンアウトは双方向の関係にあることが示されており、睡眠不足がバーンアウトを悪化させ、バーンアウトが睡眠を乱すという循環が報告されています[4]。就寝・起床時刻をそろえる、就寝前1〜2時間はスマートフォンやパソコンを控えるなど、睡眠環境の整備が睡眠の質の維持に役立つとされています。

3. マインドフルネスをベースとしたアプローチ
複数のランダム化比較試験(RCT)を統合したメタ分析では、マインドフルネスに基づく介入(MBI)が、MBIの情動疲弊スコアを平均5.89点低下させ(SMD=-0.54)、脱人格化の改善も示したと報告されています[8]。介入は1回10〜45分・5日〜8週間のプログラムが対象とされており、専門的なプログラムへの参加が困難な場合でも、深呼吸・ボディスキャン・短時間の瞑想などを日常に取り入れることから始められます。ただし、MBIの研究にはバイアスリスクがあることが指摘されており、短期間で症状が変化しない場合もあります[8]

4. 社会的なつながりを維持する
バーンアウト状態では、人と関わること自体が疲弊の原因に感じられ、孤立しやすくなります。しかし信頼できる同僚・友人・家族との会話や、仕事以外のコミュニティへの参加は、心理的リソースの補充につながるとされています。「聞いてもらう」という行動だけでも、孤立感の軽減に役立つことがあります。

5. 「できること・できないこと」の境界を整理する
バーンアウトに陥りやすい人には、責任感が強く断ることが苦手という傾向が報告されています。自分の業務量や役割について、信頼できる上司や同僚と話し合い、無理のある引き受け過ぎを見直す機会をもつことが、長期的な消耗の予防につながると考えられています。

受診を検討したいサイン

以下のような状態が2週間以上続く場合や、日常生活・業務に支障が出ている場合は、自己判断を続けず、かかりつけ医・精神科・心療内科などへの相談をご検討ください。

  • 休日・長期休暇をとっても疲労感・消耗感がまったく回復しない
  • 食欲の著しい低下や過食が続いている
  • 「消えたい」「もう働けない」などのひどい絶望感・希死念慮が生じている
  • 仕事・日常生活への意欲が失われ、以前楽しめた活動にも喜びを感じられない(アンヘドニア)
  • 集中困難・記憶力の低下が著しく、通常の業務・生活に大きく影響している
  • 身体症状(頭痛・胃腸症状・動悸等)が強く、内科的な検査で異常が見当たらない場合
  • アルコール・睡眠薬などへの依存傾向が出てきた
バーンアウトの回復ステップとセルフケア・受診目安の整理図
図3:セルフケアと受診目安の整理(症状の持続・生活支障の有無が受診を検討する目安)

参考文献

  1. World Health Organization(2019)「Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases」WHO News. WHO公式サイト
    ― 本記事での引用箇所:バーンアウトのWHO ICD-11定義、3次元の定義、職業性現象・疾病でない旨
  2. Lee RT, Ashforth BE(1990)「On the Meaning of Maslach's Three Dimensions of Burnout」Journal of Applied Psychology. PubMed
    ― 本記事での引用箇所:MBIの3因子モデル(情動疲弊・脱人格化・個人的達成感)の妥当性を支持する確認的因子分析
  3. マイナビキャリアリサーチLab(2026)「正社員の"バーンアウト(燃え尽き症候群)"に関する実態調査」マイナビキャリアリサーチLab. 調査ページ
    ― 本記事での引用箇所:日本正社員のバーンアウト現在率17.3%、累積率29.3%、若年管理職36.3%のデータ
  4. Khammissa RA et al.(2022)「Burnout phenomenon: neurophysiological factors, clinical features, and aspects of management」PMC9478693. PMC
    ― 本記事での引用箇所:バーンアウトの神経生理学的機序(HPA軸・扁桃体・炎症マーカー)、欧州の有病率7〜9%・一部医療職50%、睡眠との双方向関係、回復支援の複合的アプローチ
  5. 厚生労働省(2025)「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」厚生労働省. 厚生労働省PDF
    ― 本記事での引用箇所:日本の職場ストレス要因統計(仕事の量・負担、対人関係が上位)
  6. Mori K et al.(2022)「Burnout and its associated factors among healthcare workers and the general working population in Japan during the COVID-19 pandemic」BMJ Open; PMC9692140. PMC
    ― 本記事での引用箇所:週60時間以上労働の医療職でバーンアウトリスク2.52倍、一般職1.26倍の報告
  7. Parker G, Tavella G(2021)「Distinguishing burnout from clinical depression: A theoretical differentiation template」Journal of Affective Disorders; PMID 33321382. PubMed
    ― 本記事での引用箇所:バーンアウトとうつ病(特に非メランコリー型)の違い——症状の文脈依存性、アンヘドニアの有無
  8. Luken M, Sammons A(2016)「Systematic Review of Mindfulness Practice for Reducing Job Burnout; PMC8544467」American Journal of Occupational Therapy / PMC. PMC
    ― 本記事での引用箇所:MBIメタ分析——MBIが情動疲弊をSMD=-0.54低下(平均5.89点減)、10研究417名の分析結果

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合や、日常生活・業務に支障が出ている場合は、かかりつけ医・精神科・心療内科などの医療機関にご相談ください。

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