十分に眠ったつもりなのに、翌朝からすでにだるい。仕事は何とかこなせているが、以前のような活力が戻らない。病院で血液検査を受けたが「異常なし」と言われた——。そんな状態が数週間、あるいは数ヵ月続いているとしたら、それは「慢性疲労」と呼ばれる状態に近いかもしれません。
慢性的な疲れには、単純な「睡眠不足」や「働きすぎ」では説明しきれない背景が重なっていることがあります。本記事では、自律神経の仕組み・栄養状態・睡眠の質・ストレス応答といった複数の視点から、「疲れがとれない」状態の背景を整理し、日常でできる対処の考え方と、医療機関への相談を検討するタイミングをお伝えします。
「疲れがとれない」の背景——慢性疲労とはどのような状態か
厚生労働省の研究班(2017年)がまとめたME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)の臨床診断基準では、「6ヵ月以上持続または繰り返す倦怠感を伴う日常活動能力の低下」「活動後に強い疲労・倦怠感が出る」「睡眠障害または熟睡感のない睡眠」を主要な評価項目として挙げています[5] 。
もっとも、日常的に感じる「疲れがとれない」状態の多くは、この診断に至らない軽〜中程度のものです。それでも、持続する疲労感は生活の質を下げ、集中力の低下・気力の減退・情緒の不安定といった形でじわじわと影響します。
大切なのは「疲れている自分がおかしい」と責めるのではなく、身体が何らかのサインを出していると受け取ることです。特に、休んでも疲れが抜けない、睡眠時間を確保しているのに翌朝すっきりしない、という場合には、以下に挙げる複数の要因を一つひとつ確認してみることが助けになります。
図1:慢性疲労の背景には、自律神経の乱れ・栄養不足・睡眠の質低下・ストレス応答という複数の要因が絡み合っていると考えられています
自律神経が乱れると「眠っても疲れが残る」しくみ
身体の疲れを回復させる中心的な役割を担っているのが、自律神経 です。自律神経には「交感神経(活動・緊張)」と「副交感神経(休息・回復)」の2系統があり、睡眠中は副交感神経が優位になることで身体の修復が進むとされています。
慢性疲労症候群(CFS)の患者と疲れを訴える対照群を比較した睡眠研究(Orjatsalo ら、2018年)では、CFS患者の深い眠り(ノンレム睡眠のN3段階)において、副交感神経の活動を反映する心拍変動の高周波成分(HF)が対照群と比べて有意に低く、反対に交感神経活動を反映する低周波成分(LF)が睡眠中を通して高いことが報告されています[1] 。
つまり、「眠れているのに疲れが抜けない」 という状態の背景には、深眠り中も交感神経が抑制されず、副交感神経による身体修復が十分に機能しない可能性があるとされています。睡眠時間を確保するだけでなく、睡眠の「深さ(質)」が重要になる理由がここにあります。
自律神経の乱れは、慢性的なストレス・不規則な生活・過剰な情報刺激・運動不足などで起こりやすくなるとされています。特に現代の生活環境では、スマートフォンやSNSによる夜間の刺激、仕事の持ち込みによる休息の分断が、自律神経の切り替えを妨げる要因になりやすいと指摘されています。
図2:Orjatsaloら(2018年)の報告をもとに作図。深い睡眠(N3)中に副交感神経が十分に高まらない場合、身体の回復が妨げられるとされています[1]
見落とされやすい栄養面の要因——鉄・ビタミンB・甲状腺機能
「検査で異常なし」と言われる慢性疲労の背景には、血液検査の基準範囲内でも機能的な問題になりうる栄養状態の偏り が関わっていることがあります。特に注目されているのが、鉄・ビタミンB群・甲状腺ホルモンです。
鉄(フェリチン)と疲労の関係
鉄は赤血球のヘモグロビンを構成し、全身への酸素供給を担います。鉄欠乏性貧血はよく知られた疲労の原因ですが、それ以前の「貯蔵鉄(フェリチン)が低い」段階でも疲労感が現れやすいとされています。鉄代謝の低下とCFS症状の関連を検討した研究(Świątczakら、2022年)では、鉄代謝の指標が低下した患者群において、慢性疲労症候群の症状評価スコアが高いことが報告されています[2] 。
特に月経のある女性、食事量が少ない方、植物性食品中心の食生活の方は、フェリチン値を確認することが助けになることがあります。通常の血液検査では貧血の有無(ヘモグロビン値)が主に確認されますが、フェリチンは別途オーダーが必要なことが多いため、気になる場合は医師に相談してみるとよいでしょう。
ビタミンB群(特にB12)と神経疲労
ビタミンB12は神経の正常な機能と赤血球の産生に必要な栄養素です。B12欠乏と疲労・神経症状の関連を調べた研究(Gonzálezら、2022年)では、B12値が低い患者群では、疲労感の頻度や重症度が高い傾向が報告されています[4] 。B12は主に動物性食品(肉・魚・卵・乳製品)に含まれ、ビーガン・ベジタリアンの方、胃腸の吸収機能が低下している高齢者などで欠乏しやすいとされています。
その他、ビタミンB1(糖質からエネルギーを産生する補酵素)・B6・葉酸なども、エネルギー代謝や神経伝達物質の合成に関わります。食事が偏りがちな時期や、アルコールを習慣的に摂取している場合はB群全体の摂取を意識することが望ましいとされています。
甲状腺機能低下症と疲労
甲状腺ホルモンは全身の代謝速度を調節します。甲状腺の機能が低下すると(甲状腺機能低下症)、基礎代謝が下がり、倦怠感・気力の低下・寒がり・体重増加・集中力の低下などの症状が現れやすくなります。治療中の甲状腺機能低下症患者における疲労の有病率と重症度を調査した英国の調査(Grixtiら、2025年)では、ホルモン補充療法を受けている患者のなかでも、相当数の方が持続する疲労症状を訴えていることが報告されています[3] 。
甲状腺機能は血液検査(TSH・FT4)で確認できます。「疲れがとれない」が主な訴えで、内科での一般検査でも異常が見つからない場合、甲状腺機能を確認することが一つの選択肢になります。
睡眠の質を整えるセルフケアの考え方
慢性疲労への対処として、睡眠の「量」だけでなく「質」を意識したアプローチが有用とされています。以下のポイントは、自律神経の切り替えを助ける日常習慣の基本として広く推奨されています。
起床時刻を一定にする :体内時計のリズムを安定させるために、休日も起床時刻をできるだけ一定に保つことが勧められています。就寝時刻を無理に早めるより、起床時刻から逆算してリズムを作る方法がとりやすいとされています。
就寝1〜2時間前のスクリーン使用を控える :スマートフォンやパソコンの画面から出るブルーライトは、睡眠を促すメラトニンの分泌を抑制する可能性が指摘されています。夜間はナイトモードの活用や、30分程度の「スクリーンなし時間」を設けることが助けになると考えられています。
就寝前の過ごし方を「切り替え」に使う :入浴(就寝90分前に38〜40度の湯につかる)・読書・軽いストレッチなど、交感神経から副交感神経への切り替えを促す行動を取り入れることが、深眠りを得やすくするとされています。
朝に自然光を浴びる :起床後に外光(または窓越しの光)を浴びることで、体内時計のリセットが促され、夜間のメラトニン分泌タイミングが整いやすくなるとされています。可能であれば起床後30分以内の光刺激が推奨されています。
適度な身体活動を日課に :運動不足は自律神経の調節機能を低下させる要因の一つとされています。ただし、CFS傾向が強い場合、過剰な運動は症状を悪化させることがあるため、軽いウォーキングや屋外での散歩程度から始め、「翌日に疲れが残らない」強度を目安にすることが勧められています。
また、栄養面では、鉄分(赤身の肉・魚・大豆製品・緑黄色野菜)・ビタミンB群(豚肉・鶏肉・魚・卵・乳製品・全粒穀物)・たんぱく質のバランスを意識することが、エネルギー代謝を支える土台づくりに役立つとされています。食欲がない・食事量が減っているという場合は、その背景(ストレス・消化器の不調など)も含めて確認することが大切です。
ストレスと慢性疲労——HPA軸とコルチゾールの役割
慢性的なストレスは、視床下部・下垂体・副腎が連携するHPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)を通じて、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌パターンを変化させます。短期的なストレスに対してはこの仕組みが適応的に機能しますが、長期的・持続的なストレス下では、コルチゾールの分泌リズムが乱れ、慢性疲労・気力の低下・睡眠の浅さに影響することがあるとされています。
「副腎疲労」という概念は保険診療上の正式な疾患名ではなく、学術的には「HPA軸機能障害」として研究が進められています。エビデンスが整理される過程にある領域でもあるため、治療として何かを「とれば症状が消える」という断定的な情報には注意が必要です。ストレス管理・休養の確保・睡眠の質向上という基本的なアプローチが、HPA軸の安定を支える土台になるとされています。
心理的なストレスへの対処として、認知行動療法や問題解決型のアプローチが、慢性疲労症状に対して有用とされている側面もあります。日常的にストレスを「感じにくくなっている」「気づいたら限界だった」という場合は、心療内科や精神科への相談も一つの選択肢です。
受診を検討したいサイン
以下のいずれかに当てはまる場合は、セルフケアだけで対処を続けるのではなく、医療機関(内科・心療内科・甲状腺専門外来など)への相談を検討することが勧められます。
疲労感・倦怠感が6週間以上 続き、休息や睡眠でも一向に軽減しない
疲れが原因で、仕事・家事・学業など日常の活動量が以前の半分以下になっている
少し動いた後(短い外出・入浴など)に強い疲労が翌日以降まで続く(労作後倦怠感)
動悸・息切れ・めまいが頻繁に起こる(貧血や甲状腺疾患のサインである可能性)
体重の急な変動(増加・減少)や、寒がり・むくみ・皮膚の乾燥が目立つ(甲状腺疾患のサイン)
気分の落ち込み・何も楽しめない・将来への希望がもてないなどの心理的症状が強い
手足のしびれ・感覚の変化・歩きにくさがある(B12欠乏の神経症状の可能性)
発熱・体重減少・リンパ節の腫れなど、疲労以外の身体症状が同時にある
図3:セルフケアの基本を試みても状態が変わらない場合、または上記のサインがある場合は医療機関への相談が勧められます
受診先の目安として、全身的な倦怠感・発熱・体重変動が主な場合は内科 、心理的なストレスや気力の低下が主な場合は心療内科・精神科 、甲状腺疾患が疑われる場合は内分泌科・甲状腺専門外来 が窓口として挙げられます。どこに行けばよいかわからない場合は、かかりつけ内科医に相談するところから始めるのがよいでしょう。
「病院で異常なし」と言われた経験があっても、気になる症状が続いているなら、再度受診して状況を伝え直すことも大切です。詳しくは「病院で異常なし」と言われても体調が悪い理由 もあわせてご覧ください。
参考文献
Orjatsalo M, Alakuijala A, Partinen M(2018) 「Autonomic Nervous System Functioning Related to Nocturnal Sleep in Patients With Chronic Fatigue Syndrome Compared to Tired Controls」J Clin Sleep Med. 14(2):163–171. PMC5786834 ― 本記事での引用箇所:慢性疲労症候群患者では深眠り(N3)中の副交感神経活動が低く、交感神経が高い状態が続くとの知見
Świątczak M et al.(2022) 「Chronic Fatigue Syndrome in Patients with Deteriorated Iron Metabolism」Diagnostics (Basel). 12(9):2057. PMC9498000 ― 本記事での引用箇所:鉄代謝の低下とCFS症状スコアの関連
Grixti L et al.(2025) 「Prevalence and severity of fatigue in treated hypothyroidism: results of a UK survey」Eur Thyroid J. 14(3):e250044. PMC12084796 ― 本記事での引用箇所:治療中の甲状腺機能低下症患者でも持続する疲労が報告されている
González-Caro MD et al.(2022) 「Association of Vitamin B12, Vitamin D, and Thyroid-Stimulating Hormone With Fatigue and Neurologic Symptoms in Patients With Fibromyalgia」Mayo Clin Proc Innov Qual Outcomes. 6(4):381. PMC9352804 ― 本記事での引用箇所:B12値が低い患者群での疲労感の頻度・重症度
厚生労働省研究班(2017) 「ME/CFS臨床診断基準」ME/CFS支援ネットワーク掲載. https://mecfsnet.com/me-cfs ― 本記事での引用箇所:慢性疲労症候群の診断評価項目(倦怠感・睡眠障害・活動後疲労など)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。体調に不安がある場合や症状が続く・悪化する場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。