「もう飲まなくなった薬が、引き出しの奥にたまっている」「家族が遺したお薬を、どう片づけたらいいのか分からない」——そんな声を、地域ではよくお聞きします。捨てていいのか、トイレに流していいのか、迷ったまま置きっぱなしになっているお薬は、じつは全国のたくさんのご家庭にあります。一度しまい込むと、いつ・どんな目的でもらった薬なのかも分からなくなり、ますます手をつけにくくなってしまうものです。薬は身近なものですが、「いらなくなったときにどうすればいいか」はあまり教わる機会がなく、迷ってしまうのも当然です。和ごころの「薬の適切な手放し方を学ぶ」活動は、地域の薬局や薬剤師会が行う医薬品の回収・相談の取り組みを、広報や会場づくりの面でお手伝いするものです。和ごころ自身がお薬を回収・処理することはありません。「捨てていいのか分からない」その迷いを、地域の薬局・薬剤師へとそっとつなぐお手伝いをします。

この活動とは
地域の薬局や薬剤師会では、ご家庭で使われなくなったお薬や期限の切れたお薬を持ち込める「医薬品回収」の取り組みが行われています。お持ちいただいたお薬は、薬剤師が中身を確認し、適切な形で処理します(回収・処理を行うのは薬局・薬剤師です)。和ごころは、こうした取り組みを地域のみなさんに知っていただくための広報や会場づくりのお手伝いと、「お薬の適切な手放し方」を学ぶ機会づくりを担います。和ごころ自身がお薬を集めたり処理したりすることはありません。あわせて、薬剤師による「飲み残しがなぜ生まれたのか」「これからどう減らせるか」を一緒に考える服薬相談の場も、地域の薬局と連携してご案内しています。これは医療行為ではなく、地域のみなさんと薬局・薬剤師をつなぐための地域活動です。

こんな方に
- 飲まなくなった薬・期限切れの薬が家にたまっている方
- 薬の捨て方が分からず、トイレや流しに流してよいのか迷っている方
- ご家族の薬の整理に困っている方、介護をされている方
- 毎日たくさんの種類の薬を飲んでいて、飲み忘れが気になる方
- 市販薬と処方薬の飲み合わせを、気軽に相談したい方
- 故人が遺したお薬の片づけ方に迷っているご遺族の方
なぜ大切か
飲み残しのお薬(残薬)は、けっして珍しいものではありません。厚生労働省の委託調査では、医薬品が余った経験があると答えた方は約6割(59.9%)にのぼったと報告されています[2]。「病気が治ったと自分で判断してやめた」「種類や量が多くて飲み忘れた」「飲み心地が合わなかった」といった、誰にでも起こりうる理由が背景にあるとされています[2]。つまり残薬は、本人の不注意というより、暮らしの中で自然に生まれてしまうものだと考えられています。
残薬は、ご本人の治療やお金の面にも関わってきます。後期高齢者で在宅の方だけを対象にした古い推計でも、飲み残しの薬剤費はおよそ500億円、そのうち薬剤師による訪問などで見直せる分はおよそ400億円にのぼるとされています[2]。一方で、薬剤師が残薬を整理する取り組みの研究では、整理によって残薬額が約8割(81.1%)減ったと報告された事例もあり[1]、薬局に持ち込まれた残薬の多くが処方の調整につながったと報告されています[2]。専門家が間に入ることで、ムダになりかけていたお薬を活かせたり、これからの処方をすっきり整理できたりする場合があるということです。

残薬が減らせると、飲み間違いや飲み合わせのリスクを見直すきっかけにもなります。古いお薬や似た見た目のお薬がいくつも残っていると、どれが今の自分に必要なのか分かりにくくなりがちです。薬剤師と一緒に手持ちのお薬を「いまのもの」と「もう使わないもの」に整理することは、毎日の服薬を分かりやすくし、安心につなげる作業でもあります。残薬を持ち寄ることは、単なる片づけではなく、これからのお薬との付き合い方を見直す入り口だと考えられています[2]。
そして、見落とされがちなのが「環境」への関わりです。使われなかったお薬や期限切れのお薬を、流しやトイレに流してしまうと、川や水の環境に薬の成分が入り込む一因になりうると指摘されています[3]。実際、世界の調査では数多くの種類の医薬品成分が川や水環境から検出されており、家庭での不適切な廃棄が汚染の一因になっているとされています[4]。さらに、一般的な下水処理だけでは、こうした成分を完全には取り除ききれない場合があると報告されています[3]。ごく低い濃度でも、魚など水の生きものの行動や繁殖に影響しうると報告した研究もあり[4]、「正しく手放す」ことには意味があるとされています。お薬は、体の中ではたらくように作られているからこそ、本来届くべきでない場所——たとえば川や海——に出ていくことには、慎重でありたいものです。

だからこそ、お薬を「家庭ごみにそのまま」でも「流す」でもなく、薬剤師の手を通して適切に処理する道があることを知っていただきたいのです。回収ボックスは、その入り口です。お薬を手放すことが、ご自身の暮らしの整理にも、地域の水を守ることにも、静かにつながっています。
薬局での回収の流れ(参考)
実際の回収・仕分け・処理は、地域の薬局・薬剤師が行います。和ごころは開催日や場所のご案内・広報を担います。以下は、薬局に持ち込んだときの一般的な流れの参考です。

- 受付:お持ちいただいたお薬を、そのままカウンターへ。袋やお薬箱ごとで大丈夫です。仕分けはこちらで行います。
- 確認:薬剤師が中身をやさしく確認します。種類や状態、期限を一緒に見ていきます。
- 仕分け:家庭ごみとして出せるもの・専門的な処理が必要なものに分け、環境に配慮した形で処理します。
- 相談(ご希望の方):飲み残しが生まれた背景や、これからの飲み方の工夫を一緒に考えます。市販薬との飲み合わせの不安もお気軽に。
- お見送り:気になることが残れば、かかりつけの医療機関や公的相談窓口のご案内もします。
所要時間の目安は、お薬の量にもよりますが10〜20分ほどです。むずかしい手続きや書類は必要ありません。「ちょっと寄ってみた」くらいの気持ちで大丈夫です。お薬の名前を覚えていなくても、メモを取っていなくても問題ありません。箱や袋ごとお持ちいただければ、薬剤師がそこから読み取ってご案内します。混み合う時間帯はお待ちいただくこともありますが、急いで全部済ませる必要はなく、何度かに分けてお持ちいただいても構いません。
参加の安心

お持ちいただいたお薬の中身について、責めたり問い詰めたりすることはありません。「飲み残してしまった」のは、よくあることだからです[2]。お話しいただいた内容のプライバシーは守られます。持ち帰りたいお薬があれば無理に回収はしませんし、相談だけ・回収だけのご利用も歓迎です。費用はかかりません。なお、この活動は地域の取り組みであり、特定の商品やクリニックをおすすめするものではありません。いま飲んでいるお薬の中止や変更を、この場で判断するものでもありません。気になる点は、かかりつけの医療機関ともご相談ください。お薬の量が多いことや、つい飲み忘れてしまうことを、恥ずかしく感じる必要はまったくありません。むしろ、たくさんの種類を抱えている方ほど、いちど薬剤師と棚卸しをしておく価値があるとされています[2]。どんな小さな疑問でも、その場で気軽にたずねてください。
参加方法
和ごころが、地域の薬局・薬剤師会による回収の開催日や場所をご案内します(最新情報は和ごころからお知らせします)。回収を行っている薬局の開いている時間に、回収ボックスのある窓口までお越しください。お薬は、できれば外箱や説明書と一緒にお持ちいただくと、薬剤師が確認しやすくなります。注射針など鋭利なものが含まれる場合は、安全のため、ボックスには入れず受付でひとことお声がけください。
受付でのお声がけは、たとえばこんな一言で十分です。「家にたまった薬を持ってきました。回収と、ついでに相談もお願いできますか?」——これだけで、薬剤師がやさしくご案内します。ご家族の分やご近所の分をまとめてお持ちいただいても構いません。
やさしい締め
引き出しの奥で眠っているお薬は、あなたの暮らしと、地域の水の環境の、両方に静かに関わっています。一人で抱え込まず、まずは持ち寄ってみてください。「捨てていいのか分からない」その迷いごと、薬剤師が受け止めます。回収ボックスに入った一袋のお薬は、ムダを減らし、水をきれいに保つ小さな行動の積み重ねです。それは特別なことではなく、誰でも今日から始められることでもあります。和ごころは、お薬を手放すその一歩を、地域の薬局・薬剤師とあなたのあいだでそっとつなぐ役でありたいと思っています。あなたのペースで、どうぞお立ち寄りください。
本記事は地域活動の案内であり、診断・治療を目的としたものではありません。気になる症状や強いつらさがある場合は医療機関・公的相談窓口にご相談ください。
参考文献
- 益山光一 ほか(2015)「医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)(平成27年度厚生労働科学特別研究)」厚生労働省 リンク
― 本記事での引用箇所:薬剤師による残薬整理で残薬額が約8割(81.1%)減ったとする事例。 - 参議院事務局企画調整室(2017)「MOTTAINAIで医療費削減 ―家庭・薬局・病院、各ステージでの残薬見直しで財政再建―」経済のプリズム No.163 リンク
― 本記事での引用箇所:医薬品が余った経験のある人が約6割(59.9%)、残薬が生じた理由、後期高齢者・在宅で飲み残し薬剤費 約500億円/訪問等で見直しうる分 約400億円、薬局に持ち込まれた残薬の多くが処方調整につながったとする報告。 - Ortúzar M, Esterhuizen M, Olicón-Hernández DR, González-López J, Aranda E(2022)「Pharmaceutical Pollution in Aquatic Environments: A Concise Review of Environmental Impacts and Bioremediation Systems」Frontiers in Microbiology リンク
― 本記事での引用箇所:使われなかった・期限切れの薬の不適切な廃棄が水環境汚染の一因になりうること、一般的な下水処理では完全には取り除けない場合があるとの指摘。 - Milovac T(2022)「Pharmaceuticals in the Water: The Need for Environmental Bioethics」Journal of Medical Humanities リンク
― 本記事での引用箇所:流しやトイレへの廃棄が水環境への流入経路の一つであること、多数の医薬品成分が水環境から検出されていること、ごく低濃度でも水生生物の行動・繁殖に影響しうるとの報告。