道を歩いていて、目の前で誰かが突然倒れたら。スーパーのレジ前で、隣にいた人が急に胸を押さえてうずくまったら。家族と過ごす休日の食卓で、いつもどおりだったはずの人の様子が、ふいに変わってしまったら。考えるだけで、胸がぎゅっとなる場面だと思います。「自分には何もできないかもしれない」「下手に触って、かえって悪くしてしまったら怖い」――そう感じるのは、やさしさの裏返しでもあります。
でも、ほんの少しの知識と、勇気を出すための心の準備があれば、あなたのその場の行動が、誰かのこれからを大きく左右することがあります。和ごころ「救命技術研修(CPR・AED)」は、そんな“もしも”のときに、こわばらずに一歩を踏み出せる自分でいるための、地域のみんなで学ぶ場です。
心臓や呼吸が止まるようなできごとは、特別な人の身にだけ起こるものではありません。持病のない人にも、若い人にも、運動の最中にも、眠っているあいだにも起こりえます。そして多くは、病院ではなく、家庭や職場、駅やお店といった「ふだんの場所」で起きています。だからこそ、いざというときにそばにいるのは、お医者さんではなく、家族や同僚、たまたま居合わせたご近所さん――つまり、わたしたち一人ひとりなのです。この研修は、その「ふつうの人」が、ふつうのままで誰かを支えられるようになるための時間です。

この活動とは
救命技術研修は、心臓や呼吸が止まってしまった人に、救急車が到着するまでのあいだ、その場に居合わせた人(バイスタンダー)ができる手当てを、実際に体を動かしながら学ぶプログラムです。胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)のやり方、AED(自動体外式除細動器)の使い方、そして「これは大変だ」と気づいて119番通報し、人を集めるまでの一連の流れを、専用の練習用人形を使ってくり返し体験します。
むずかしい医学知識を覚える場ではありません。「胸のどのあたりを、どれくらいの強さで押すのか」「AEDの音声ガイドにどう従えばいいのか」を、手と耳とからだで覚えていきます。一度やってみると、テレビや講習の動画で見るのとはまったく違う実感が残ります。和ごころでは、お子さんからご高齢の方まで、運動が得意でない方も参加できるよう、ゆっくり・くり返し・否定しない進め方を大切にしています。
こんな方に
- 家族に高齢の方や持病のある方がいて、「いざというとき」が心配な方
- 小さなお子さんを育てていて、家庭内の事故やのどづまりにも備えたい方
- 職場やお店、自治会・PTAなどで「AEDはあるけれど、使える人がいない」と感じている方
- 昔、講習を受けたきりで、やり方をすっかり忘れてしまった方
- 「人を助けたい気持ちはあるけれど、自信がない」という方
どれかひとつでも当てはまったら、それだけで参加する理由になります。特別な資格も、体力も要りません。必要なのは「知っておきたい」という、その気持ちだけです。

なぜ大切なのか
日本では、病院の外で心臓が止まってしまう人が年間およそ十数万人にのぼり、その多くが家庭や職場、外出先など、ふだんの暮らしの場で起きています。総務省消防庁の統計によると、救急車が要請を受けてから現場に到着するまでの全国平均は約10分とされています[1]。一方で、心臓や呼吸が止まると、時間の経過とともに救命のチャンスは刻々と小さくなっていくことが知られています。つまり、救急隊が来る前の数分間に、その場にいる人が何をするかが、とても大きな意味を持つのです。

消防庁の集計では、一般市民による心肺蘇生が行われた場合の1か月後の生存率は、行われなかった場合と比べて高く、社会復帰(後遺症が少なく日常へ戻れること)の割合でも差が報告されています[1]。さらにAEDによる電気ショックが救急隊到着前に行われたケースでは、生存率・社会復帰率がいずれも大きく高い水準で報告されており、早い段階での手当ての重要性がうかがえます[1]。これらはあくまで統計上の傾向ですが、「その場の一手」が積み重なって地域全体の救命につながっていることを示しています。

国立循環器病研究センターの研究グループは、救急隊が到着した時点でも心停止が続いていた人たちを対象に、市民がAEDを使った心肺蘇生を行った場合と、AEDを使わず胸骨圧迫だけを続けた場合を比べました。その結果、AEDを併用したグループのほうが、その後に脳の働きが保たれた状態で回復する割合が高かったと報告されています[2]。命が助かるかどうかだけでなく、「その人らしい暮らしに戻れるか」という点でも、市民の手当てが役立つ可能性が示されたのです。

地域に根ざした研究でも、同じような傾向が見えています。宮崎市地区で行われた調査では、家族以外の居合わせた人による胸骨圧迫や、人通りのある公共の場での手当てが、神経学的に良好な状態での生存と関連していたことが報告されました[3]。これは、「街の中で、誰かが当たり前に手を差し伸べられること」そのものが、いのちを守る力になるということ。だからこそ、特定の誰かではなく、地域のみんなが少しずつ学んでおくことに意味があります。一人だけが詳しくても、その人がいつもそばにいるとはかぎりません。けれど、まちのあちこちに「やったことがある人」が散らばっていれば、どこで何が起きても、誰かが動き出せる可能性が高まります。
そして、こうした手当ての具体的な手順は、日本蘇生協議会(JRC)がまとめる蘇生ガイドラインとして、数年ごとに最新の科学的知見をもとに見直されています[4]。研修ではこの考え方にそって、いまの時代に合ったやり方をお伝えします。なお、市民による心肺蘇生の実施率は年々の取り組みで広がってきた一方、まだ十分とは言えない地域もあると指摘されています[5]。学ぶ人がひとり増えることが、そのまま地域の備えの底上げにつながります。
当日の流れ・内容
研修はおおむね次のような流れで進みます。むずかしい用語はそのつどかみくだいて説明するので、はじめての方も置いていかれる心配はありません。
- はじめに(10分ほど):なぜ「その場の手当て」が大切なのかを、やさしくお話しします。緊張をほぐす時間です。
- 気づく・呼ぶ:倒れている人を見つけたら、まず安全を確かめ、反応と呼吸を確認し、119番通報とAEDの手配を周りの人に頼む――この最初の流れを練習します。
- 胸骨圧迫の体験:練習用人形を使って、押す位置・深さ・テンポを体で覚えます。ひとりで続けるのは大変なので、交代するコツも学びます。
- AEDを使ってみる:ふたを開けると音声ガイドが流れます。その指示にそって、パッドを貼り、ショックのボタンを押すまでを体験します。「思ったよりこわくない」と感じる方がほとんどです。
- ふりかえり・質問タイム:「子どもにはどうするの?」「妊婦さんは?」など、気になることを何でも聞いていただけます。
所要時間はだいたい60分から90分ほど。立ちっぱなしになることはなく、座って見学しながら自分のペースで参加していただくこともできます。腰やひざに不安がある方、車いすをお使いの方には、無理のない姿勢でできる方法を一緒に考えますので、遠慮なくお声がけください。
動きやすい服装でお越しください。床で人形を使う場面があるため、スカートよりズボンのほうが安心です。お子さん連れでの参加も歓迎で、お子さん向けには、まず「大きな声で助けを呼ぶ」「大人を呼びに行く」といった、年齢に合ったできることからお伝えします。小さな手でも押せる胸骨圧迫の体験は、いのちの大切さを感じる時間にもなります。
参加の安心
「うまくできなかったら恥ずかしい」――そんな心配は要りません。この研修は、できる・できないを評価する場ではなく、みんなで失敗しながら慣れていく場です。スタッフは参加者のペースに合わせて、何度でも一緒にやり直します。最初はぎこちなくても、二度三度とくり返すうちに、手が流れを覚えていきます。「思っていたより力がいるんだな」「AEDって、ふたを開ければ声で教えてくれるんだ」――そうした小さな発見の一つひとつが、いざというときの落ち着きにつながります。
また、「実際の現場で手当てをして、もし悪い結果になったら責任を問われるのでは」と不安に思う方もいます。こうした思いやりからの手当てについては、ためらわずに行動できるよう社会全体で支えていこうという考え方が広がっています。研修では、心の負担についてもふれ、行動したあとの自分を責めすぎないことの大切さもお伝えします。なお、本研修で学ぶのは応急的な手当てであり、医療行為そのものではありません。気になる持病や体調については、日ごろからかかりつけ医にご相談ください。

参加方法
参加はどなたでも無料です。事前のお申し込みフォームに、次のようにご記入ください(記入例です)。
- お名前:和ごころ 花子
- 参加人数:大人2名・子ども1名
- ご希望の回:第2土曜 午前の部
- ひとことメッセージ(任意):「祖母と同居しているので備えたいです」
定員に達ししだい締め切りますので、お早めにどうぞ。会場までの道順がご不安な方は、その旨を書き添えていただければ、当日の集合場所をご案内します。ご家族やご近所の方をお誘いあわせのうえ、気軽にお越しください。
おわりに
救命の技術は、できれば一生使わずに済むのがいちばんです。それでも、もしものときに「あのとき学んでおいてよかった」と思える備えがあることは、自分や大切な人を守る、静かな安心になります。完璧でなくてかまいません。ためらいながらでも、誰かのために動こうとしたその気持ちこそが、いちばんの力です。和ごころは、そんなあなたのはじめの一歩を、地域のみんなで応援します。どうぞ、肩の力を抜いて、会いに来てください。
本記事は地域活動の案内であり、診断・治療を目的としたものではありません。気になる症状や強いつらさがある場合は医療機関・公的相談窓口にご相談ください。
参考文献
- 総務省消防庁(2025)「令和7年版 救急・救助の現況」総務省消防庁 リンク
― 本記事での引用箇所:救急車の現場到着までの全国平均時間、一般市民による心肺蘇生・AED実施の有無による1か月後生存率・社会復帰率の傾向。 - 国立循環器病研究センター(2019)「世界初!市民によるAEDを用いた心肺蘇生が、除細動不成功であってもその後の脳の状態によい影響を与える可能性について」プレスリリース リンク
― 本記事での引用箇所:市民によるAED併用群のほうが、神経学的に良好な状態での回復割合が高かったとの報告。 - Tsuruda T, ほか(2022)「Bystander-witnessed cardiopulmonary resuscitation by nonfamily is associated with neurologically favorable survival after out-of-hospital cardiac arrest in Miyazaki City District」PLoS One(PMC9586377) リンク
― 本記事での引用箇所:家族以外の居合わせた人による胸骨圧迫や公共の場での手当てが、神経学的に良好な生存と関連していたとの地域研究。 - 一般社団法人 日本蘇生協議会(2025)「JRC蘇生ガイドライン2025」 リンク
― 本記事での引用箇所:一次救命処置(胸骨圧迫・AED使用など)の手順が、最新の科学的知見をもとに数年ごとに見直されていること。 - 厚生労働省「救急医療 バイスタンダーによる心肺蘇生法実施率」社会保障審議会関連資料 リンク
― 本記事での引用箇所:市民による心肺蘇生の実施率が取り組みにより広がってきた一方、地域差がある現状。