「自分のことは、後回しでいい」。高齢のご家族を介護していると、いつのまにかそんなふうに考えてしまう方が少なくありません。食事の支度、通院の付き添い、夜中の見守り、たびたびの相談ごと。一日のほとんどを誰かのために使ううちに、自分の心が今どんな状態なのか、わからなくなってしまう――そんな声を、私たちはこの地域でたくさん聞いてきました。

がんばっているのに、誰にも「がんばっているね」と言ってもらえない。つらいと感じることに、どこか後ろめたさを覚えてしまう。和ごころの「こころ」は、そんな介護者のみなさんが、肩の荷をほんの少しおろして、同じ立場の人とゆっくり話せる場所をつくりたいという思いから生まれた、メンタルヘルス支援のグループ活動です。

高齢の家族に寄り添う介護者のイラスト
図1:家族の介護に向き合う日々。自分のことは後回しになりがちです

「和ごころ こころ」とは

「和ごころ こころ」は、高齢のご家族を介護している方を中心に、心のしんどさを抱えやすい立場の方が集まり、安心して気持ちを語り合える地域のワークショップ型グループです。専門家による治療や医療行為を行う場ではなく、あくまで地域のなかで支え合う「集いの場」「分かち合いの場」として運営しています。

進行役(ファシリテーター)が場をやさしく整えますが、主役はあくまで参加するみなさんです。話したい人は話し、聞いていたい人は聞いているだけでも構いません。「正しい介護のやり方」を教える教室ではなく、「今日はこんなことがあってね」と、ありのままの一日を持ち寄れる場所です。

セッションでは、簡単な呼吸法や軽いストレッチなど、心と体をゆるめる時間も少しだけ取り入れています。気負わず、まずはお茶を一杯飲みにくるような気持ちでお越しいただけたらと思っています。

車座になって語り合う支援グループのイラスト
図2:同じ立場の人が車座で語り合う、ピアサポートの場

こんな方に来てほしい

次のようなことを感じたことがある方は、どうぞ気軽に足を運んでみてください。「自分なんかが行ってもいいのかな」とためらう気持ちも、よくわかります。でも、その気持ちごと受け止めるための場所です。

  • 高齢の親や配偶者の介護を、主に一人で担っている
  • 気づくと一日中、介護のことばかり考えてしまう
  • イライラしたり涙が出たりして、自分でも戸惑うことがある
  • 眠りが浅い、疲れが取れない日が続いている
  • 家族や友人に「弱音」を吐きづらいと感じている
  • 同じように介護をしている人と、ただ話してみたい

介護の経験が長い方も、始まったばかりで戸惑っている方も歓迎します。すでに介護を終えられた方が、ご自身の経験を分かち合いに来てくださることもあります。

なぜ、介護者の「こころ」が大切なのか

介護者が抱える心の負担は、決して気のせいや甘えではありません。研究の積み重ねによって、介護を担う人が心身の不調を抱えやすいことが繰り返し示されています。

家族介護者と、介護をしていない同年代の人を比較した大規模なまとめ(メタ分析)では、介護者のほうが抑うつやストレスの度合いが高く、主観的な健康感や満たされた感覚(well-being)が低い傾向にあると報告されています[1]。これは特定の誰かの問題ではなく、介護という役割そのものに伴いやすい、ごく自然な反応だと考えられています。

また、家族介護者の不安と抑うつについて多くの研究を統合した分析では、介護者のあいだで不安症状や抑うつ症状がかなりの割合でみられること、そしてそうした心の負担が、介護者自身の生活の質と深く関わっていることが指摘されています[2]。つまり、介護する人の心が守られることは、めぐりめぐって介護される人の暮らしの安心にもつながっていく、という見方ができます。

こうした知見は、「もっとがんばらなければ」ではなく、「がんばっている自分の心を、まず大切にしていい」というメッセージを、私たちに教えてくれます。介護に伴う心の揺れは、あなたの弱さでも準備不足でもありません。多くの人が同じように経験している、ごく自然なことだとされています。和ごころ こころは、そのことを言葉にして分かち合いながら、小さな一歩を地域のなかで一緒に踏み出せる場所でありたいと考えています。

重荷を背負う介護者を表す象徴的なイラスト
図3:介護に伴う心の負担は、誰にでも起こりうる自然な反応とされています

「つながり」が心をやわらげる、と報告されています

では、その心の負担は、どうすればやわらいでいくのでしょうか。ここでも研究は、ひとつの方向を示しています。鍵となるのが「社会的なつながり(ソーシャルサポート)」です。

介護者の不安・抑うつを調べた研究の統合分析では、家族や周囲からの支えが乏しいことが、介護者の心の負担の大きさと関連していたと報告されています[2]。逆にいえば、誰かとつながり、支えられていると感じられることが、心を守る方向にはたらきうる、ということです。

同じ立場の仲間どうしが支え合う「ピアサポート」も、近年あらためて注目されています。家族介護者向けのオンライン・サポートに関する研究を幅広く見渡したスコーピングレビューでは、同じ経験をもつ人とつながることが、孤立感をやわらげたり、情報や気持ちを分かち合う助けになりうることが整理されています[3]。「自分だけじゃなかった」と思えること自体に、大きな意味があるのです。

世界保健機関(WHO)も、高齢期の健康を支える指針のなかで、介護を担う人自身への支援――心理的なサポートや、休息(レスパイト)の機会を含む――の重要性を示しています[4]。介護者を支えることは、いまや世界共通の課題として位置づけられています。

もちろん、集いの場に参加したからといって、介護の大変さそのものがなくなるわけではありません。それでも、「話せる場所がある」「わかってくれる人がいる」と感じられることは、毎日を続けていくための、ささやかでたしかな支えになりうると、私たちは考えています。誰かに話すことで気持ちが整理されたり、他の人の工夫からヒントをもらえたりすることもあります。一人で抱えていた重さを、ほんの少しだけ誰かと分け合う。その積み重ねが、長い介護の日々を支える土台になっていくのだと思います。

多くの手に支えられる人の図解
図4:周囲からの支えや仲間とのつながりが、心の負担をやわらげると報告されています

当日の流れ・内容

初めての方でも戸惑わないよう、毎回ゆるやかな流れを決めています。途中参加・途中退出も自由です。無理に話さなくても、まったく問題ありません。

  • はじまりの時間(約10分):お茶を用意して、ひと息。簡単な自己紹介はしますが、お名前はニックネームでも構いません。
  • からだをゆるめる時間(約15分):椅子に座ったままできる、ゆったりした呼吸や軽いストレッチ。心と体の緊張をそっとほどきます。
  • 分かち合いの時間(約40分):最近あったこと、困っていること、ちょっと聞いてほしいこと。話したい人から、順番にゆっくりと。聞き役だけの参加も歓迎です。
  • 情報のおすそ分け(約15分):地域の介護サービスや相談窓口など、参加者どうしで知っていることを共有します。
  • おわりの時間(約10分):今日の気持ちをひとことずつ。次回の案内をして解散します。

この場で話された内容は、外には持ち出さない――「ここで聞いたことは、ここに置いていく」というお約束を、みんなで大切にしています。安心して本音を出せるよう、進行役が場をていねいに見守ります。

やさしい呼吸法やストレッチを行うワークショップのイラスト
図5:からだをゆるめる時間と、語り合う時間をゆったり組み合わせています

参加してくださる方への、安心のこと

はじめての場所はだれでも緊張するものです。だからこそ、いくつかの「安心」を用意しています。

  • 話さなくてもいい:聞いているだけ、その場にいるだけでも大丈夫です。
  • 評価やアドバイスを押しつけない:「こうすべき」と正解を求める場ではありません。気持ちをそのまま受け取り合います。
  • 守秘を大切にする:話された内容は、この場の外に持ち出しません。
  • 医療行為ではありません:診断や治療を行う場ではなく、地域の支え合いの活動です。専門的なケアが必要なときは、医療機関や公的な相談窓口におつなぎするお手伝いをします。

「ちゃんと話せるか不安」「途中で帰りたくなったらどうしよう」――そんな心配は、どうかしないでください。あなたのペースが、この場のペースです。

参加方法

事前のお申し込みは、お電話または受付フォームから受け付けています。当日の飛び入り参加も、席に余裕があればお受けしています。費用はかかりません(会場のお茶代として、少額のご協力をお願いする回があります)。

お申し込みの際は、次のような内容をお知らせください。記入例を参考にしてください。

  • お名前(ニックネーム可):例)はるこ
  • ご連絡先:例)090-0000-0000
  • 参加希望日:例)今月の第2土曜日 午後の回
  • ひとこと(任意):例)母の介護をしています。まずは様子を見にいきたいです。

会場はバリアフリーで、近くに駐車場もあります。ご家族の介護があってお時間の読めない方は、その旨をお伝えいただければ、無理のない形で調整します。

助けを求めて手を差し伸べる、つながりのイラスト
図6:「ちょっと話したい」その気持ちが、最初の一歩になります

やさしい締めに

介護は、愛情があるからこそ、しんどさも深くなるものだと思います。だからこそ、その心を一人で抱え込まないでほしい。「弱音を吐く」のではなく、「気持ちを分け合う」。そう考えてみると、少しだけ肩の力が抜けるかもしれません。

和ごころ こころは、特別な誰かのためではなく、今まさにがんばっているあなたのための場所です。うまく話せなくても、何も持ってこなくても大丈夫。あなたが「ちょっと行ってみようかな」と思えたなら、それだけで十分です。お茶を一杯、いっしょに飲みましょう。あなたが来てくれるのを、心から待っています。

本記事は地域活動の案内であり、診断・治療を目的としたものではありません。気になる症状や強いつらさがある場合は医療機関・公的相談窓口にご相談ください。気持ちがつらいとき、ひとりで抱えきれないと感じたときは、「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」など、公的な相談窓口もご利用いただけます。

参考文献

  1. Pinquart M, Sörensen S(2003)「Differences between caregivers and noncaregivers in psychological health and physical health: a meta-analysis」Psychology and Aging リンク
    ― 本記事での引用箇所:介護者は非介護者に比べて抑うつ・ストレスが高く、健康感やwell-beingが低い傾向にあるとした箇所。
  2. Del-Pino-Casado R, et al.(2018)「Social support and subjective burden in caregivers of adults and older adults: A meta-analysis」PLOS ONE リンク
    ― 本記事での引用箇所:介護者の心の負担と、社会的支援の乏しさとの関連を述べた箇所。
  3. 家族介護者向けオンライン・サポートに関するスコーピングレビュー(2023)「Online Support for Family Caregivers」(PMC収載)リンク
    ― 本記事での引用箇所:同じ経験をもつ人とのつながり(ピアサポート)が孤立感をやわらげうるとした箇所。
  4. World Health Organization(2017)「Integrated care for older people (ICOPE): Guidelines on community-level interventions to manage declines in intrinsic capacity」WHO リンク
    ― 本記事での引用箇所:高齢期の健康を支えるうえで、介護者自身への心理的支援・休息(レスパイト)が重要であるとした箇所。