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タオルを絞ると肘が痛い——テニス肘・ゴルフ肘の仕組みと前腕セルフケア

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.06編集方針

「タオルを絞ると肘が痛い」「物を持ち上げるたびに前腕が疼く」——そんな悩みで整形外科を受診すると、「テニス肘」あるいは「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」と診断されることがあります。テニスをしていないのに「テニス肘」と呼ばれることに驚く方も多いはずです。実際、テニスプレイヤーはこの疾患全体の患者のわずか10%前後にすぎず[1]、大多数は家事・育児・パソコン作業・デスクワークなど日常的な動作のオーバーユース(使いすぎ)が原因とされています。

肘の内側が痛む「ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)」も同じオーバーユース系の障害で、外側型の約10〜20%の頻度で見られると報告されています[2]。本記事では、外側・内側の両タイプをまとめて、痛みの仕組み・前腕の筋膜との関係・自宅でできるセルフケア・受診すべきサインについて、一次情報をもとに解説します。

テニス肘・ゴルフ肘とはどんな状態か

「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」は、肘の外側にある骨の突起(外側上顆)に付着する腱に過剰な負荷がかかり続けた結果、腱の変性・微小断裂が生じる状態です[1]。原因として最も多く挙げられるのは、手首を手の甲側に反らす伸筋群、なかでも短橈側手根伸筋(ECRB)という筋肉の腱です。

病変部を顕微鏡で観察した複数の研究では、「炎症細胞(マクロファージ・リンパ球など)がほとんど見られず、代わりに線維芽細胞の増殖・コラーゲンの乱れ・血管新生が目立つ」という特徴が報告されています[1]。つまり急性の炎症というよりも、慢性的な変性(腱症)と考えられており、「腱炎(tendinitis)」よりも「腱症(tendinosis)」という用語が使われることが増えています。

一方「ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)」は、肘の内側(内側上顆)に付着する前腕屈筋群・円回内筋(えんかいないきん)の腱が同様の機序でダメージを受ける状態です。外側型と同じく変性・微小断裂が主な病態とされています[2]。手首を手のひら側に曲げる・前腕を内側にひねる動作(例:ゴルフのスイング、テニスのフォアハンド、投球動作)を繰り返すことで発症しやすく、90%以上が非スポーツ起因(職業・家事・育児)と報告されています[2]

肘の外側と内側の構造、テニス肘・ゴルフ肘が起こる部位の全体図(フラットイラスト)
図1:上腕骨外側上顆(テニス肘)と内側上顆(ゴルフ肘)の位置関係と、関与する前腕筋群の全体像

なぜ前腕の使いすぎで肘が痛くなるのか──腱・筋膜の仕組み

「手首や指を使っているのに、なぜ肘が痛くなるのか」と不思議に思う方は多いです。これは前腕の筋肉と肘の骨の構造的なつながりで説明できます。

手首を反らす(背屈する)伸筋群は、肘の外側上顆を起始部として前腕を走り、手首・指の背側に付着しています。グリップ動作やパソコン操作など、手首・指を繰り返し使うたびに、この伸筋群が収縮・弛緩を繰り返し、その付け根である外側上顆の腱に微小な引っ張り力がかかります。

さらに、前腕の筋肉を包む筋膜(筋肉を包む結合組織の膜)が前腕全体に連続して広がっており、手・手首・肘・肩甲骨にまでつながっています。このため、手首や肩甲帯の柔軟性が低下していると、肘周囲の腱・筋膜への負担がより集中しやすくなると考えられています[3]

外側上顆炎の有病率は一般集団で年間1〜3%と報告されており[1]、発症のピークは30〜60歳代で、性差はほぼなく、喫煙・肥満・1日2時間以上の反復動作・20kg超の重量物取り扱いがリスク因子として挙げられています[1]。内側型は外側型より少なく、全上顆炎の10〜20%とされ、中年男性やスポーツ選手・肉体労働者に多い傾向があります[2]

もし肩甲骨や頸部の柔軟性が低下していれば、その代償として肘・手首に余計な負担が分配される可能性があります。セルフケアでは肘だけでなく肩甲帯・前腕を一緒にほぐすことが重要とされるのはこうした背景からです。

どんな動作で痛みが起きやすいか──日常生活での確認ポイント

テニス肘(外側型)で典型的な痛みが出やすい動作には次のものがあります。

  • タオル・雑巾を絞る——手首の回内+伸筋群の強い収縮が起きる
  • 物を持ち上げる——重さに抗って手関節を背屈するため腱付着部に負荷がかかる
  • ドアノブを回す・ペットボトルのキャップを開ける
  • パソコン・マウス操作を長時間続ける——手首を背屈位に保ち続けることで伸筋群に持続的な張力がかかる
  • ラケットスポーツのバックハンドストローク

ゴルフ肘(内側型)で多い動作は以下の通りです。

  • 手首を手のひら側に曲げる(掌屈)動作全般——握力を使うあらゆる動作
  • 前腕を内側にひねる(回内)動作——ゴルフスイング・テニスのフォアハンド・投球動作
  • 包丁・フライパンを持っての調理——内側屈筋群の反復収縮
  • 重い荷物の持ち運び

いずれも「使いすぎ」が根本にあります。一時的な痛みであれば短い安静でおさまることもありますが、継続・悪化する場合は整形外科への相談を検討してください。

テニス肘の変性腱症の病態図:コラーゲン線維の乱れと血管新生の模式図(論文知見の図解)
図2:Buchanan & Varacellaらの報告([1])をもとに作図。外側上顆炎における腱の組織変性——線維芽細胞増殖・コラーゲン乱配列・血管新生を示す模式図

セルフケアの基本──安静・アイシング・ストレッチ・エキセントリック運動

保存療法(手術以外の治療)が原則であり、適切なセルフケアと動作の見直しが中心となります。以下の順序で取り組むことが多いです。

ステップ1:原因動作の制限と安静
痛みが出る動作を一定期間減らし、腱の過剰負荷を取り除くことが最初のステップです。完全な安静は必ずしも必要ではなく、「痛みが出ない範囲の動作は継続する」ことが推奨されています[1]

ステップ2:アイシングまたは温め
急性期(発症直後・熱感・腫脹がある時期)はアイシングが中心で、1回15分程度を目安にします[3]。熱感や腫脹が落ち着いた慢性期には、温熱で血流を促し柔軟性を保つことも考慮されます。急性期か慢性期かの判断が難しい場合は医療機関に相談することをお勧めします。

ステップ3:前腕ストレッチ
外側型では、肘を伸ばした状態で手首を手のひら側に曲げ(掌屈)、伸筋群を穏やかに伸ばすストレッチが一般的に用いられます。内側型では手首を手の甲側に曲げ(背屈)て屈筋群を伸ばします。ストレッチの強度は「気持ちいい程度の張り感」を目安にし、強い痛みが出る場合は中断してください。

ステップ4:エキセントリック運動(伸張性筋収縮トレーニング)
急性期を過ぎた段階で、段階的に筋力トレーニングを加えます。なかでも「筋肉が伸びながら力を発揮する」エキセントリック収縮(伸張性収縮)を取り入れた運動は、外側上顆炎の痛みや筋力に対して有意な改善が報告されているシステマティックレビュー・メタアナリシス(6研究・429名対象)があります[4]。具体的には、軽いダンベルやペットボトルを持って手首を背屈方向にゆっくり(3〜5秒かけて)戻す動作が代表例です。ただし実施方法・回数・負荷は個人差が大きいため、理学療法士や医師に相談しながら取り組むことが望ましいとされています。

ステップ5:エルボーバンド・サポーターの活用
前腕に巻く「カウンターフォースストラップ(エルボーバンド)」は、外側上顆への引っ張り力を分散させる目的で処方されることがあります[1]。また、手首の伸展位を保つコックアップスプリント(手関節固定装具)も、伸筋群への負担を軽減する手段として用いられます。バンドは「使用中の痛み軽減目的」であり、根本的な回復を保証するものではないとされています。

外側上顆炎の自然経過は比較的良好とされており、保存療法を続けた場合に1〜2年以内に80〜90%の患者で自然軽快が報告されています[1]。ただしこの期間中に適切なセルフケアを続け、原因動作を見直すことが重要です。

受診を検討したいサイン

以下のいずれかに当てはまる場合は、セルフケアの継続よりも先に整形外科を受診して状態を確認することをお勧めします。

  • 安静にしていても肘や前腕に痛みがある、または夜中に痛みで目が覚める
  • 手や指にしびれ・感覚異常がある(神経症状が疑われる)
  • 肘に明らかな腫脹・赤み・熱感がある
  • 痛みが急に強くなった、または肘を動かせる角度が急激に狭くなった
  • セルフケアを1〜2か月以上続けていても症状が変わらない、あるいは悪化している
  • 転倒・強い衝撃など外傷後に痛みが始まった(骨折・靱帯損傷との区別が必要)
  • 発熱を伴う肘の痛み(感染症・関節炎の可能性がある)
  • 小指・薬指のしびれを伴う内側の痛み(肘部管症候群など尺骨神経障害との鑑別が必要)
テニス肘・ゴルフ肘のセルフケアの流れと受診を検討するタイミングの整理図(フラットイラスト)
図3:セルフケアの段階と、受診を検討したいサインの整理図

参考文献

  1. Buchanan BK, Varacallo M (2023)「Lateral Epicondylitis (Tennis Elbow)」StatPearls [Internet]. NCBI Bookshelf
    ― 本記事での引用箇所:テニス肘の疫学(年間有病率1〜3%・テニスプレイヤーは患者の10%)、病態(変性腱症・ECRB)、自然経過(80〜90%が1〜2年で軽快)、保存療法の概要
  2. Li D, Hammad A, Kaiser K (2026)「Medial Epicondylitis (Golfer's Elbow)」StatPearls [Internet]. NCBI Bookshelf
    ― 本記事での引用箇所:ゴルフ肘の頻度(全上顆炎の10〜20%)・90%以上が非スポーツ起因・病態(変性腱症)・内側上顆の解剖
  3. 船橋整形外科グループ(2025)「上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のリハビリテーションについて」ふなせいトピックス. 船橋整形外科病院
    ― 本記事での引用箇所:急性期アイシング(1回15分)・肩甲骨柔軟性と肘負担の関連・リハビリの流れ。外来患者4361人中手術に至ったのは47件(約1%)のデータも参照
  4. Yoon SY, Kim YW, Shin IS et al. (2021)「The Beneficial Effects of Eccentric Exercise in the Management of Lateral Elbow Tendinopathy: A Systematic Review and Meta-Analysis」J Clin Med. 10(17):3968. PMC
    ― 本記事での引用箇所:エキセントリック運動が外側上顆炎の疼痛(VAS)・筋力に対して有意な改善を示した(6研究・429名のメタアナリシス、SMD −0.63[95%CI −0.90〜−0.36])
  5. 日本手外科学会(2023)「手外科シリーズ:外側上顆炎(テニス肘)」日本手外科学会. 日本手外科学会公式サイト
    ― 本記事での引用箇所:保存療法を原則とする治療方針・装具療法(エルボーバンド、コックアップスプリント)の適応に関する学会説明

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。記事内で紹介したセルフケアはあくまで参考情報であり、個人の状態・症状によって適切な対処は異なります。症状が続く・悪化する場合、またはしびれ・発熱など神経・感染系の症状を伴う場合は、速やかに整形外科等の医療機関にご相談ください。

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