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手首・親指の付け根が痛い「ドケルバン病」の仕組みとセルフケア

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.09.15編集方針

手首や親指の付け根に鋭い痛みを感じ、哺乳瓶を持つたびに、スマートフォンをスクロールするたびに不快感が走る――そうした経験はありませんか。この痛みは「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」と呼ばれる手首の腱鞘炎が原因のことがあります。産後のお母さんやパソコン・スマートフォンを長時間使う方に見られるとされており、整形外科を受診すると比較的多く診断される疾患のひとつです。本記事では、日本整形外科学会の情報や国際的な研究をもとに、ドケルバン病の仕組み・セルフケアの考え方・受診の目安をお伝えします。

親指の付け根が痛む「ドケルバン病」とは

ドケルバン病は、手首の親指側にある「手背第1コンパートメント」という腱のトンネルに起きる腱鞘炎です。日本整形外科学会の解説によれば、このトンネルの中を通る長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん)と短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)という2本の腱が、繰り返しの動作によって腱鞘(腱のさや)との摩擦を起こし、腱鞘が肥厚(厚くなること)します。その結果、腱がトンネル内でスムーズに動けなくなり、痛みや腫れが生じると考えられています[1]。

痛みは手首の親指側(橈骨茎状突起のあたり)に現れ、親指を動かしたり、手首を小指側に曲げたりすると鋭くなる傾向があります。瓶のふたを開ける、重いものを持ち上げる、哺乳瓶を持つ、といった日常動作が辛くなることがあります。英語では Fritz de Quervain(スイスの外科医)の名に由来して "de Quervain tenosynovitis" と呼ばれます。

ドケルバン病の手首・親指の腱と腱鞘の位置関係を示す図解
図1:手背第1コンパートメントに走る2本の腱と腱鞘の位置関係(ドケルバン病の全体像)

なぜ腱鞘炎は起きるのか — 腱と腱鞘の仕組み

腱は筋肉と骨をつなぐ繊維性の組織で、腱鞘はその腱を包む管状のさやです。腱鞘の内側には滑膜(かつまく)と呼ばれる層があり、少量の液体を分泌することで腱が滑らかに動く環境を整えています。ドケルバン病では、この腱鞘に炎症ではなく粘液様変性(myxoid degeneration)と線維組織の沈着が起きると報告されています[2]。急性炎症というよりも、繰り返しのストレスで腱鞘の組織が変化し、肥厚するイメージです。

手背第1コンパートメントには、多くの人で2本の腱を仕切る隔壁(septum)が存在します。この隔壁がある場合、コンパートメント内の容積はさらに狭くなり、腱の動きが妨げられやすい状態になります[2]。この解剖学的な特徴が、腱鞘炎の起きやすさを左右する一因とされています。

痛みが生じやすい動作の代表として、次のものが挙げられます。

  • 親指を外側に広げながら手首を橈骨方向(親指側)に動かす動作
  • 重いものを持ち上げるときに手首が内旋(小指側に傾く)する動作
  • スマートフォンを持ちながら親指でスクロールし続ける動作
  • 赤ちゃんを両脇から持ち上げるときの手首の使い方

これらに共通するのは、親指の外転・伸展と手首の尺側偏位(小指側への動き)が同時に起きるという点です。このような複合動作が繰り返されることで、腱鞘への負荷が蓄積すると考えられています。

スマホ・家事・産後ケアが招くリスク

ドケルバン病は、妊娠・産後期の女性と、手指を頻繁に使う職業・生活環境の方に比較的多く見られるとされています。疫学研究によれば、一般人口における有病率は女性で約1.3%、男性で約0.5%と報告されており、女性に多い傾向があります[2]。

産後期における発生については、韓国の大規模疫学研究(160万人以上の妊産婦を対象)が重要な知見を示しています。この研究では、妊娠中から産後1年以内に診断された妊産婦関連ドケルバン病(pregnancy-related de Quervain tenosynovitis, PRDQT)の累積罹患率は約2.1%(34,342人/1,601,501人)と算出されました[3]。また、年齢30歳以上・多胎妊娠・帝王切開・妊娠高血圧症候群・関節リウマチの既往が統計的に有意なリスク因子として示されています[3]。

なぜ産後に多いかについては、複数の要因が考えられています。授乳・おむつ替え・抱っこなど、赤ちゃんのお世話には手首の尺側偏位を伴う繰り返し動作が多く含まれます。加えて、妊娠・出産に伴うホルモン変動(リラキシン・エストロゲンの変化)が結合組織の弛緩や体液貯留を引き起こし、腱鞘の環境に影響すると考えられています[4]。産後の新米のお母さんを対象とした定性研究では、15名の参加者全員が「赤ちゃんを抱き上げるのが難しい」と回答し、DASH障害スコアが50〜80(100点満点)という高い機能障害を示していたことが報告されています[4]。

産後・妊娠中のドケルバン病リスク因子を示す図解(韓国疫学研究のデータをもとに作図)
図2:産後・妊娠中のドケルバン病リスク因子(Chae et al., 2023 [3] をもとに作図)

自宅でできるセルフケアの考え方

ドケルバン病の症状が軽度から中等度の場合、まず試みられることが多い対応として、安静・固定・アイシング・ストレッチが挙げられます。以下はあくまで一般的な情報であり、個人の状態によって適否は異なります。自己判断だけで続けるのではなく、症状が続く場合は医療機関への相談を検討してください。

1. 安静と活動の見直し

痛みのある動作を減らすことが、症状の悪化を防ぐうえで基本とされています。スマートフォンを操作する際は、持ち方を工夫したり、スタンドを使ったりして親指への負荷を減らすことが考えられます。赤ちゃんを抱き上げるときは、親指を広げる「Cカーブグリップ」より、手のひら全体で支える方法に切り替えると手首への負担が変わる場合があります。

2. アイシング(冷却)

急性の痛みや腫れが強い時期には、患部を冷やすことで不快感が和らぐ場合があります。氷を薄いタオルに包み、橈骨茎状突起(手首の親指側の骨の突起)のあたりに10〜15分程度あてるのが一般的です。皮膚に直接氷をあてると低温やけどのリスクがあるため注意が必要です。

3. テーピングとサポーター

サポーターやスプリント(親指と手首を固定するタイプ)は、腱の不必要な動きを制限し、一時的な痛みの軽減に役立つ場合があるとされています。リハビリテーションの文献では、前腕ベース型の母指スパイカスプリント(手首を中立位、母指CM関節30度屈曲・30度外転で固定するタイプ)が活動制限のための固定具として紹介されています[5]。薬局で市販されているリストバンド型サポーターも、症状が軽い段階では選択肢のひとつですが、使用前に整形外科やリハビリ専門職に相談するのが望ましい場合があります。

4. ストレッチ(痛みのない範囲で)

急性期(痛みや腫れが強い時期)が過ぎた後、痛みのない範囲での緩やかな可動域運動が機能回復の一助となる場合があるとされています。以下のような動作を、無理のない範囲で試みることが考えられます。

  • 手のひらを下に向けて前腕を伸ばし、もう一方の手でやさしく手首を伸ばす方向に軽く引っ張る(10〜15秒保持)
  • 親指をゆっくり内側に向けて小指方向に動かし、腱を緩める感覚を確かめる
  • 指全体を開いたり閉じたりするグーパー運動を10〜20回

いずれも鋭い痛みが出た場合はすぐに中止し、整形外科の受診を検討してください。

整形外科での診断と治療の選択肢

整形外科では、問診と触診に加え、フィンケルシュタインテストと呼ばれる身体診察が行われることがあります。これは、親指を握り込んで握りこぶしをつくり、そのまま手首を小指側に傾ける動作で、手首の親指側に強い痛みが誘発されれば陽性とみなされます[1]。日本整形外科学会ではこれを「フィンケルシュタインテスト変法」と呼んでいます。

診断は主に症状と身体診察によって行われます。X線(レントゲン)では腱鞘炎そのものは写りませんが、類似した症状を示す母指CM関節症(親指の付け根の関節の変形)などとの鑑別に使用されることがあります。超音波(エコー)検査は、第1コンパートメント内の隔壁の有無や腱鞘の状態を視覚的に確認する際に活用される場合があります[2]。

保存的治療

多くの場合、まず保存的治療が選択されます。代表的な選択肢として次のものが挙げられます。

  • 局所安静・スプリント固定:手首と母指を固定し、腱への負荷を軽減する
  • NSAIDs(消炎鎮痛薬):内服または外用薬(湿布・ゲルなど)
  • 腱鞘内ステロイド注射:第1コンパートメントにコルチコステロイドを注射する方法。研究では、1〜2回の注射でほぼ完全な症状軽減が得られた患者の割合が52〜90%と報告されています[2]。1回目の注射では約50%に効果が見られ、2回目でさらに40〜45%が症状の軽減を報告したとも述べられています[2]。ただし、皮下脂肪の萎縮・皮膚の色素変化などの副作用が生じる場合があります
手術的治療

保存的治療を2回程度試みても症状が持続する場合、第1コンパートメントを切開して腱の通り道を広げる手術(腱鞘切開術)が検討される場合があります[1]。手術は外来で行われることが多く、術後は早期から日常動作の使用が促されます。術後合併症(橈骨神経浅枝の損傷、腱の亜脱臼など)は比較的まれとされていますが、担当医と十分に相談することが大切です。

受診を検討したいサイン

以下のような状態がある場合は、整形外科への受診を検討してください。自己判断でセルフケアを続けることには限界があります。

  • 手首・親指の付け根の痛みが2〜3週間以上続いている
  • 安静にしていても痛みが治まらない
  • 痛みが徐々に強くなっている、または夜間痛がある
  • 手首や親指の付け根に明らかな腫れや変形がある
  • しびれや感覚の異常がある(腱鞘炎以外の原因を除外する必要がある場合があります)
  • 哺乳瓶・コップ・ペンボトルなど日常的な物をうまく握れない、または痛みで落としてしまう
  • 妊娠中または産後1年以内の方で、症状が日常生活に支障をきたしている
  • 糖尿病・甲状腺疾患・関節リウマチなど、腱鞘炎のリスクを高めるとされる持病がある
ドケルバン病の受診を検討したいサインとセルフケアの判断基準を整理した図解
図3:セルフケアの継続と受診の目安 — 主なチェックポイント

参考文献

  1. 日本整形外科学会(2024)「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」症状・病気をしらべる. 日本整形外科学会公式サイト
    ― 本記事での引用箇所:腱鞘の解剖・フィンケルシュタインテスト・治療の概要(保存的・手術的)の根拠
  2. Satteson E, Tannan SC(2023)「De Quervain Tenosynovitis」StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing. NCBI Bookshelf NBK442005
    ― 本記事での引用箇所:有病率(女性1.3%・男性0.5%)・腱鞘の病態(myxoid degeneration・隔壁の存在)・ステロイド注射の効果(52〜90%)・治療の概要の根拠
  3. Chae W, et al.(2023)「Incidence and Risk Factors for Pregnancy-Related de Quervain's Tenosynovitis in South Korea: A Population-Based Epidemiologic Study」Clin Orthop Surg. PMC9880499
    ― 本記事での引用箇所:妊産婦の累積罹患率2.1%(160万人超)・リスク因子(30歳以上・多胎・帝王切開・妊娠高血圧・RA)の根拠
  4. Khama C, et al.(2025)「'I couldn't change his nappy': New mothers' experiences of De Quervain's tendinosis and its impact on occupational performance」Aust Occup Ther J. PMC11966086
    ― 本記事での引用箇所:産後新米母親のDASH障害スコア50〜80・日常動作への影響・産後のリスク因子(ホルモン変動・繰り返し動作)の根拠
  5. Goel R, Abzug JM(2015)「de Quervain's tenosynovitis: a review of the rehabilitative options」Hand (N Y). 10(1):1–5. PMC4349843
    ― 本記事での引用箇所:スプリント固定の種類と形状(前腕ベース型母指スパイカ)・作業療法的アプローチの概要の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合は、整形外科をはじめとする医療機関にご相談ください。記載されている治療法・セルフケアの効果は個人差があり、すべての方に同様の結果をお約束するものではありません。

#腱鞘炎#ドケルバン病#手首の痛み#産後ケア#セルフケア

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