「ぐっすり眠っても朝からだるい」「少し動くと疲れてしまい、なかなか回復しない」―そんな慢性的な倦怠感を抱えながら内科を受診しても、「検査は異常なし」と言われた経験はないでしょうか。血液検査や心電図に明らかな異常が見つからないとき、「気のせい」「年のせい」と片づけられがちです。しかし実際には、鉄欠乏・甲状腺機能の変化・睡眠障害・ビタミンB群不足・自律神経の乱れなど、複数の要因が重なって倦怠感を生み出していることが少なくありません。この記事では、慢性疲労・倦怠感の背景にある仕組みを整理し、日常でできるセルフケアと、受診を検討すべき状況の目安をお伝えします。
「だるい・疲れが取れない」は異常なこと?――倦怠感の基礎知識
医学的には、日常生活に支障をきたすほどの持続的な疲労感を「易疲労感(いひろうかん)」や「全身倦怠感」と呼びます。一時的な疲れとは異なり、休息を取っても回復しにくいのが特徴です。
一般的な疲れは、身体・精神への過負荷に対する正常な防御反応です。しかし、適切な休養をとっても6週間以上続くとき、あるいは日常活動の大幅な制限を伴うときは、何らかの背景要因を検討する価値があります。とはいえ、「6週間以内だから問題ない」というわけでも当然なく、症状の重さや経過によっては早めの受診が適切な場合もあります。
倦怠感の原因として挙げられる主なカテゴリは次のとおりです。
栄養・代謝の問題 :鉄欠乏(貧血の有無にかかわらず)、ビタミンB12・B1などのビタミンB群不足、低血糖傾向
内分泌の問題 :甲状腺機能低下症(橋本病など)、HPA軸(視床下部―下垂体―副腎系)の調節異常
睡眠の問題 :睡眠の質の低下、睡眠時無呼吸症候群
自律神経の問題 :慢性ストレスによる交感神経過活動、起立性低血圧
その他の疾患 :筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、うつ病・適応障害、心不全など
これらは独立して起こるとは限らず、「鉄欠乏があり、かつ睡眠の質も低い」「甲状腺ホルモンがわずかに低下した状態で、慢性的なストレスも続いている」といった複合パターンが多くみられます。
図1:慢性倦怠感の背景にある複数の要因カテゴリ(栄養・内分泌・睡眠・自律神経など)
疲れを長引かせる主な要因――鉄欠乏・甲状腺・ビタミンB群不足
倦怠感の背景として特に見落とされやすいのが、「貧血の診断がつかなくても起こりうる鉄欠乏」と「軽度の甲状腺機能低下」です。
鉄欠乏と疲労
鉄は赤血球のヘモグロビンだけでなく、ミトコンドリアでのエネルギー産生(ATP合成)や神経伝達物質の合成にも関与しています。そのため、血色素値(ヘモグロビン)がまだ正常範囲内であっても、貯蔵鉄の指標であるフェリチンが低下している段階で、倦怠感や集中力の低下が現れることがあると報告されています[2] 。
女性の場合、月経による鉄の喪失が続くことで、フェリチンが低い状態が慢性化しやすい傾向があります。鉄欠乏を疑う際は、ヘモグロビンだけでなくフェリチンも合わせて確認することが有用とされています。
甲状腺機能低下と疲労
甲状腺ホルモンは全身の代謝速度を調整しています。甲状腺機能が低下すると、エネルギー産生が全体的に落ち、倦怠感・冷え・浮腫・集中力の低下などが現れます。治療を受けて甲状腺ホルモン(TSH)が正常範囲に戻った後も、依然として倦怠感を訴える患者が一定数いることが、2025年に英国で報告されています。1,251名の橋本病・原発性甲状腺機能低下症患者を対象とした調査では、治療中の患者の89%が「異常な疲労感」の基準を満たしていたとされています[1] 。このことは、ホルモン値の正常化だけでは疲労が完全になくなるわけではないことを示唆しています。
ビタミンB群不足と疲労
ビタミンB1(チアミン)はグルコースからエネルギーを取り出す代謝経路の要となる補酵素です。B12(コバラミン)は赤血球の形成と神経機能の維持に関与します。どちらも不足すると倦怠感・気力の低下・しびれなどが現れることがあります。ただし、明らかな欠乏がない人へのB12補充が疲労に対して有効かどうかについては、系統的レビューの段階では十分なエビデンスが確立されていないとする報告もあり[3] 、慎重な解釈が必要です。まずは食事内容の見直しを基本とし、欠乏が疑われる場合は医療機関での確認が勧められます。
HPA軸と自律神経――コルチゾールの乱れが慢性疲労を招く仕組み
「副腎疲労」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これは現時点では医学的に確立された診断名ではありませんが、そこで語られている「慢性的なストレスが副腎系に負担をかける」という考え方の背景には、HPA軸(視床下部―下垂体―副腎軸)の調節異常に関する研究の蓄積があります。
コルチゾールは副腎から分泌されるストレスホルモンで、正常であれば朝に高く夜に低い日内変動を示します。慢性的なストレスが続くと、この調節系のバランスが崩れ、基礎コルチゾール値の低下・朝のコルチゾール上昇の減弱・ストレスへの反応性の低下などが現れることがあると報告されています[5] 。こうした変化が、倦怠感・気力の低下・起床時のだるさとして現れる可能性が考えられています。
同時に、慢性ストレスは自律神経にも影響します。交感神経が慢性的に優位になると心拍変動(HRV)が低下し、睡眠の回復機能が損なわれます。睡眠不足はさらにコルチゾールの調節を乱す―という悪循環が生まれやすいのです。
なお、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)は、こうした軽度の倦怠感とは区別される特定の疾患概念です。ME/CFSは、少しの活動でも24〜48時間以上悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とし、6か月以上継続することを基本的な診断要件のひとつとします[4] 。ME/CFSが疑われる場合は、無理な運動療法を避け、専門医への相談が勧められます。
図2:HPA軸とコルチゾール調節の模式図(Tomas et al. 2013 [5] をもとに作図)― 慢性ストレス下ではコルチゾールの日内変動が平坦化し、自律神経バランスも乱れやすい
日常でできるセルフケア――栄養・睡眠・活動量の調整
原因の切り分けは医療機関で行うとして、日常生活の中で取り組める点を整理します。どれか一つで劇的な変化を期待するのではなく、複数の要素を少しずつ整えていく考え方が現実的です。
1. 鉄・ビタミンB群を意識した食事
鉄:レバー・赤身肉・カツオ・マグロ・あさり・小松菜・ほうれん草が鉄の供給源として挙げられます。ビタミンCと同時に摂ると、非ヘム鉄の吸収が高まりやすいとされています。
ビタミンB1:豚肉・玄米・大豆・ナッツ類に多く含まれます。精製された白米・白砂糖の多い食事ではB1が消費されやすくなります。
ビタミンB12:魚介類・肉・卵・乳製品から摂取できます。完全な植物性食のみの場合は不足しやすいため、定期的な検査が推奨されます。
血糖の安定:極端な糖質制限や、空腹を長く続けることは自律神経への負担となる場合があります。規則的な食事を心がけましょう。
2. 睡眠の質を整える
就寝・起床時刻をできるだけ一定に保つことで、体内時計のリズムが整いやすくなります。
就寝1〜2時間前のスマートフォン・PCの使用を控えると、メラトニン分泌が妨げられにくくなるとされています。
寝室の温度・湿度・光環境を整えることも、睡眠の深さに関係するとされています。
いびきが激しい・日中に強い眠気がある場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。SASは倦怠感の隠れた原因として見落とされやすいため、専門機関での検査を検討してください。
3. 活動量の適正化――動きすぎず、動かなすぎず
一般的な慢性疲労(ME/CFSではない)では、過度の安静よりも適度な有酸素運動(ウォーキングなど)が自律神経の調整に有用とされています。ただし、ME/CFSが疑われる場合は、無理な運動が症状を悪化させる可能性があります。
「疲れたと感じる少し手前」で活動をとどめ、疲労の蓄積を防ぐ「ペーシング」という考え方が、ME/CFS患者では有用とされています[4] 。
長時間の座位は自律神経に影響するとされています。1時間に一度は立ち上がり、軽い動きを取り入れるとよいでしょう。
4. ストレスの管理
HPA軸の乱れに対し、特定のリラクゼーション技法(腹式呼吸・ヨガ・瞑想)が自律神経バランスへの好影響と関連するという報告があります。即効性を約束するものではありませんが、継続的な実践が負担軽減に役立つ可能性があります。
睡眠・食事・運動の土台が整っていない状態でのサプリメント補充は、効果を実感しにくい場合があります。まず生活習慣の基本を見直すことが勧められます。
血液検査で何がわかる?――内科受診の流れと確認項目
慢性的な倦怠感が続く場合、かかりつけ医や内科・総合診療科への相談を検討してください。初診では生活習慣・症状の経過・服薬状況などを確認した後、必要に応じて血液検査が行われます。
倦怠感の原因探索で確認されることの多い主な検査項目は次のとおりです。
血算(CBC) :ヘモグロビン・赤血球指数などから貧血の有無・種類を確認
フェリチン・血清鉄・TIBC :貧血を伴わない鉄欠乏の検出に有用
甲状腺機能(TSH・FT4) :甲状腺機能低下症・亢進症のスクリーニング
血糖・HbA1c :糖尿病・低血糖傾向の確認
肝機能・腎機能 :倦怠感を伴うことのある肝疾患・慢性腎臓病の確認
ビタミンB12・葉酸 :巨赤芽球性貧血・神経症状を伴う場合に確認
炎症マーカー(CRP・ESR) :感染症・自己免疫疾患などの炎症が背景にある場合を除外
これらの検査で「すべて正常」となるケースもあります。その場合でも、倦怠感の自覚は本物です。睡眠の質・精神的なストレス・自律神経の状態など、通常の血液検査では捉えにくい要因の評価が必要になることがあります。症状が続く場合は、かかりつけ医に「睡眠外来」「心療内科」「疲労外来」などへの紹介を相談することも一つの選択肢です。
なお、治療によって数値が正常化したとしても、倦怠感が完全によくなるまでには時間がかかることがあります。甲状腺機能低下症の治療を受けた患者の約8〜15%は、TSH正常化後も持続的な倦怠感を報告しているとされています[1] 。治療と並行して、生活習慣の調整や精神面のサポートが重要な場合もあります。
受診を検討したいサイン
以下のような状態が続く場合は、自己判断で様子をみるよりも、早めに医療機関を受診することが勧められます。
倦怠感が6週間以上続き、日常生活(仕事・家事・外出)に明らかな支障が出ている
少しの動作(着替え・入浴・短い歩行など)の後、24時間以上回復できない状態が繰り返される(労作後倦怠感の可能性)
体重の急激な変化(増加または減少)が伴っている
動悸・息切れ・浮腫(むくみ)・胸痛が一緒にある
38℃以上の発熱やリンパ節の腫れが続いている
皮膚の黄染(黄疸)・尿の色が濃い・便の色が変わった
数週間以上にわたる著しい気力の低下・希死念慮がある
起き上がれない・ほぼ寝たきりに近い状態が続いている
上記のいずれかに加え、過去に受けた血液検査で「異常なし」と言われた後も症状が変わらない・悪化している
内科(一般内科・総合診療科)への受診が最初の窓口として適していることが多いです。症状の記録(いつから・どんなとき悪化するか・睡眠の状況・月経周期や量など)をメモして持参すると、受診がスムーズになります。
図3:慢性倦怠感の「受診を検討したいサイン」と日常セルフケアの整理
参考文献
Grixti L, et al. (2025) 「Prevalence and severity of fatigue in treated hypothyroidism: results of a UK survey」European Thyroid Journal . PMC12084796 ― 本記事での引用箇所:甲状腺機能低下症の治療中患者89%が「異常な疲労感」を満たすという記述、および治療後も倦怠感が持続する患者割合の根拠
Stute P, et al. (2024) 「Effect of Ferric Derisomaltose on Fatigue in Iron Deficiency Anemia Associated With Abnormal Uterine Bleeding」American Journal of Hematology . PMC11803534 ― 本記事での引用箇所:鉄欠乏性貧血の治療で81.6%に倦怠感スコアの有意な変化が認められたこと、ヘモグロビン正常化前でも54%に疲労軽減が認められた根拠
Markun S, et al. (2021) 「Effects of Vitamin B12 Supplementation on Cognitive Function, Depressive Symptoms, and Fatigue: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Meta-Regression」Nutrients . PMC8000524 ― 本記事での引用箇所:明らかなB12欠乏がない人への補充効果は不明確という記述の根拠
Graves BS, et al. (2024) 「Chronic Fatigue Syndrome: Diagnosis, Treatment, and Future Direction」Cureus . PMC11526618 ― 本記事での引用箇所:ME/CFSの労作後倦怠感(PEM)の定義・ペーシングが安全な管理法とされる記述の根拠
Tomas C, Newton J, Watson S. (2013) 「A Review of Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis Function in Chronic Fatigue Syndrome」ISRN Neuroscience . PMC4045534 ― 本記事での引用箇所:慢性疲労患者におけるHPA軸の調節異常(基礎コルチゾール低下・日内変動の減弱)の根拠として引用。図2の作図根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の診断・治療に代わるものではありません。掲載している情報は執筆時点のものであり、最新の医療情報とは異なる場合があります。症状が続く・悪化する場合や心配なことがある場合は、医療機関にご相談ください。