「なんとなくだるい」「体が重い」——そう感じながら病院を受診しても、血液検査や画像検査では異常を指摘されなかった、という経験をお持ちの方は少なくありません。倦怠感が続くのに熱もない、原因が分からないという状況は、本人にとって非常に不安を伴うものです。この記事では、倦怠感が続く・熱なしという症状の背景にある主な原因と、それぞれのメカニズムをエビデンスとともに整理します。
倦怠感が続いて熱なし:なぜ「異常なし」と言われるのか
病院で行われる一般的な血液検査は、炎症反応(CRP・白血球数)や貧血(ヘモグロビン値)、肝機能・腎機能などをチェックします。しかしこれらの検査は「明らかな組織障害・感染症・重篤疾患」を見つけるために設計されており、機能的な乱れや軽微な代謝異常 は検出できません。
例えば、貯蔵鉄(フェリチン)の低下は通常の貧血項目(ヘモグロビン)が正常でも生じ、エネルギー産生に関わるミトコンドリアの活性に影響を与えることが報告されています[1] 。また、自律神経のバランス乱れは心電図や血液で数値として出ないにもかかわらず、全身的な倦怠感や疲労感と密接に関連することが分かっています[2] 。こうした「検査の網をすり抜ける」原因が、熱のない倦怠感の正体である場合は多いと考えられています。
加えて、慢性疲労症候群(ME/CFS)という疾患の診断においても、バイオマーカーが存在しないために診断が遅れやすく、米国では診断を受けられている患者は全体の20%未満 とされているという調査結果もあります[3] 。「異常なし」は「問題なし」ではなく、「現行の検査では捉えられていない」を意味する可能性があることを理解しておくことが重要です。
なお、原因不明の体調不良全般については、病院で「異常なし」と言われても体調が悪い理由——機能性身体症候群と自律神経の関係 でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
図1:一般血液検査で見落とされやすい倦怠感の原因(フェリチン低下・自律神経機能不全・機能性疾患など)
原因1:潜在的な鉄欠乏(フェリチン低下)
「貧血ではないのに疲れやすい」という訴えの背景に、貯蔵鉄(フェリチン)の枯渇 が潜んでいることがあります。ヘモグロビン値が正常範囲内でも、フェリチンが低い状態(潜在性鉄欠乏)では、細胞内のエネルギー産生を担うミトコンドリアの機能が低下するとされています。
Yokoi らの系統的レビューおよびメタ分析(British Journal of Nutrition, 2017)では、貧血を伴わない鉄欠乏(IDNA)患者に対する鉄補充療法を検討した6つのランダム化比較試験を解析し、鉄の状態を整えることで倦怠感が統計的に有意に低下する (効果量0.33; p<0.0001)ことが示されました[1] 。鉄はヘモグロビン以外にも、酸素の運搬・DNA合成・神経伝達物質の生成などに不可欠なミネラルです。特に生理のある女性、妊娠後、菜食主義の方はフェリチンが低下しやすい状況にあります。
潜在性鉄欠乏の主な随伴症状としては、疲れやすさ・集中力の低下・爪の変形(スプーン爪)・抜け毛の増加・気分の落ち込みなどが挙げられます。通常の血液検査で「貧血なし」と言われても、フェリチン値を別途確認することが推奨される場合があります(主治医にご相談ください)。食事面では赤身の肉・レバー・あさりなどヘム鉄を含む食品が、ビタミンCと組み合わせることで吸収が促されるとされています。
図2:Yokoi & Konomi(2017)の報告をもとに作図 — 貧血なき鉄欠乏(IDNA)が6つのRCTで倦怠感スコアを有意に低下させることを示したメタ分析の概要[1]
原因2:自律神経機能の乱れと慢性疲労
自律神経は、心拍数・体温調節・消化・血圧など、意識せずに働く身体の制御系です。この調節機能が慢性的に乱れると、「疲れているのに眠れない」「朝から体がだるい」 という症状につながることが知られています。
Escorihuela らの症例対照研究(Journal of Translational Medicine, 2020)では、ME/CFS患者(n=45)と健常対照群(n=25)を比較し、患者群で心拍変動(HRV)が有意に低下していること(SDNN: p<0.001、RMSSD: p<0.001)を示しました。さらに、HRVの低下が疲労重症度スコア(FIS-40)と有意に相関し、交感神経過活動が倦怠感の重症度に関与している と結論づけています[2] 。HRV(心拍変動)とは心拍のゆらぎを示す指標で、副交感神経(リラックス系)が優位なほど値が高くなります。過度なストレス・不規則な睡眠・過労が続くと交感神経優位の状態が慢性化し、身体は常に「戦闘態勢」を維持するため、休んでも疲れが取れにくくなります。
熱のない倦怠感のうち、起床時が最もだるく午後から夕方にかけてやや楽になる パターン、あるいは天候の変化や気圧の変動で症状が変わる方は、自律神経の関与が疑われる場合があります。慢性的な心理的ストレスはHRVを低下させる要因の一つとされており、日記・深呼吸法・軽い散歩など、自分に合った方法でストレスを分散させる工夫を継続することが、自律神経のバランスに寄与する可能性があると考えられています。
図3:Escorihuela ら(2020)の報告をもとに作図 — ME/CFS患者における心拍変動(HRV)低下と交感神経過活動が疲労重症度と相関することを示した概念図[2]
原因3:甲状腺機能低下と睡眠の質の問題
甲状腺機能低下 は、熱のない倦怠感の原因として見逃されやすい疾患の一つです。甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、全身の代謝を調節するホルモン(T3・T4)を分泌します。機能が低下すると代謝全体が落ち、強い倦怠感・気力の低下・体重増加・冷えなどが現れます。潜在性甲状腺機能低下症では甲状腺刺激ホルモン(TSH)が基準値を超えているにもかかわらず、遊離T4は正常範囲内にある状態であり、軽症では無症状のこともありますが、倦怠感が主訴となる場合があります。
Ruíz-Pacheco らの前向き研究(Biomedicines, 2023)では、原発性甲状腺機能低下症患者92名にレボチロキシン補充療法を実施し、6か月後の疲労スコア(FSS)が53から36へと統計的に有意に低下 (p=0.001)したことを報告しています[4] 。一方で、治療後も約26%の患者には倦怠感が残存し、甲状腺機能以外の要因も関与していることが示されています。
睡眠の質の低下 も倦怠感の見落とされやすい原因です。Maksoud らの系統的レビュー(Healthcare, 2021)が20の観察研究を分析したところ、ME/CFS患者の約91%が「熟眠感のない睡眠」を報告する ことが示されました[5] 。睡眠中の覚醒指数(マイクロアラウザル指数)が全研究で上昇しており、深い睡眠が得られにくい構造的な問題が示唆されています。「十分寝ているはずなのに疲れが取れない」という訴えには、こうした睡眠の質の問題が潜んでいる可能性があります。睡眠の規則性を保つこと(起床・就寝時刻を一定にする・就寝前の強い光を避けるなど)が、体内時計と自律神経の土台づくりに関連するとされています。
図4:甲状腺機能低下(Ruíz-Pacheco ら 2023 [4])と睡眠の質の低下(Maksoud ら 2021 [5])をもとに作図 — 「検査では見えにくい」2つの倦怠感原因の特徴比較
原因4:慢性疲労症候群(ME/CFS)と活動管理のあり方
ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)は、6か月以上続く説明のつかない重篤な倦怠感を主症状とし、休息では回復しないという点が大きな特徴です。Graves らのレビュー(Cureus, 2024)によれば、ME/CFSは米国で83万6千〜250万人 が罹患していると推計され、女性は男性の最大4倍多く罹患するとされています[3] 。診断においてはバイオマーカーが存在しないため、診断を受けられている患者は全体の20%未満に留まると報告されています。
CDCの診断基準では、6か月以上続く原因不明の倦怠感に加えて以下の症状が4つ以上必要とされています:労作後倦怠感(PEM) (軽い活動後に症状が著しく悪化し24〜48時間以上続く)、認知機能の低下(ブレインフォグ) 、起立時症状 (動悸・めまい・ふらつき)、熟眠できない睡眠 。
ME/CFSが疑われる場合、過剰な運動や「頑張り」は症状を悪化させる可能性があるとされています[3] 。症状の範囲内で活動量を一定に保つ「アダプティブ・ペーシング」が、患者にとってより安全な選択肢として注目されています。「今日は調子が良いから多めに動く」という波を作ることが、翌日以降の悪化(PEM)につながりやすいとされています。また、鉄欠乏・甲状腺機能低下がME/CFSと重複していることもあるため、複合的な評価が推奨されます。
図5:Graves ら(2024)の報告をもとに作図 — ME/CFSの中核症状と労作後倦怠感(PEM)のサイクル、アダプティブ・ペーシングの概念[3]
倦怠感が続く・熱なしという状況では、原因によって注意すべきポイントが異なります。以下は、各原因に対して報告されている関連点を整理したものです。これらはあくまで情報提供であり、自己診断の根拠として使うものではありません。
潜在性鉄欠乏が疑われる場合 :赤身の肉・レバー・貝類(あさり・しじみ)などヘム鉄を含む食品を意識することが一般的に推奨されます。ビタミンCを同時に摂ることで鉄の吸収が促されるとされています。鉄サプリメントの自己判断での服用は過剰摂取リスクがあるため、医師への相談が前提です。
自律神経の乱れが疑われる場合 :起床・就寝の時刻をなるべく一定にすることが、体内時計のリズムの土台づくりに関連するとされています。深呼吸法(腹式呼吸)は副交感神経を活性化するとされ、手軽に試せる方法の一つです。起床時に日光を浴びることも概日リズムのリセットに寄与するとされています。
甲状腺機能低下が疑われる場合 :TSHの測定は一般血液検査に含まれていないことがあります。担当医に「TSHも一緒に調べていただけますか」と伝えることが一つの選択肢です。
ME/CFSが疑われる場合 :ペーシングが重要とされています[3] 。活動量を体調の波に合わせて一定に保ち、「頑張りすぎる日」と「寝込む日」の繰り返しを避けることが、症状の安定につながるとされています。
図6:熱のない倦怠感の4つの主な原因別特徴まとめ(潜在性鉄欠乏・自律神経・甲状腺・ME/CFS)
受診を検討したいサイン
以下に該当する場合は、自己判断を継続せず医療機関を受診されることをお勧めします。いずれも、背景に治療が必要な状態が隠れている可能性があるサインです。
倦怠感が1か月以上続き、日常生活や仕事に支障が出ている
体重が意図せず減少している(1か月で体重の5%以上など)
動悸・息切れ・胸の圧迫感 が伴っている
リンパ節の腫れ(首・脇・鼠径部) を自覚している
強い抑うつ気分・希死念慮 がある(精神科・心療内科への受診も選択肢に)
倦怠感とともに強い喉の渇きや頻尿 がある(糖尿病の可能性)
関節の腫れ・痛み・皮膚の発疹 を伴っている(膠原病系疾患の可能性)
38度以上の発熱が断続的にみられる ようになった場合
内科・総合診療科・疲労外来などに相談することが出発点となります。受診時には「フェリチン値も測っていただけますか」「TSHも一緒に調べていただけますか」など、具体的な検査名を伝えることも一つの方法です。
参考文献
Yokoi K, Konomi A(2017) 「Iron deficiency without anaemia is a potential cause of fatigue: meta-analyses of randomised controlled trials and cross-sectional studies」British Journal of Nutrition , 117(10), 1422–1431. PubMed PMID: 28625177 ― 本記事での引用箇所:「貧血を伴わない鉄欠乏でも倦怠感が生じ、鉄の状態を整えることで統計的に有意な低下が認められる(効果量0.33; p<0.0001)」の根拠(第2節・第3節)
Escorihuela RM, Capdevila L, Ramos Castro J, et al.(2020) 「Reduced heart rate variability predicts fatigue severity in individuals with chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis」Journal of Translational Medicine , 18(1), 4. PubMed PMID: 31906988 ― 本記事での引用箇所:「自律神経機能(HRV低下・交感神経過活動)と倦怠感重症度の相関(SDNN・RMSSD: p<0.001)」の根拠(第2節・第3節)
Graves BS, Patel M, Newgent H, et al.(2024) 「Chronic Fatigue Syndrome: Diagnosis, Treatment, and Future Direction」Cureus , 16(10), e70616. PubMed PMID: 39483544 ― 本記事での引用箇所:「米国ME/CFS罹患者数83万6千〜250万人・診断率20%未満・ペーシングの優位性」の根拠(第2節・第5節・第6節)
Ruíz-Pacheco MG, Hernández I, Hernández-Estrella G, et al.(2023) 「Severity of Fatigue and Its Relationship with TSH before and after Levothyroxine Replacement Therapy in Patients with Primary Hypothyroidism」Biomedicines , 11(3), 905. PubMed PMID: 36979787 ― 本記事での引用箇所:「甲状腺機能低下症における疲労スコア(FSS 53→36, p=0.001)の統計的有意低下」の根拠(第4節)
Maksoud R, Eaton-Fitch N, Matula M, et al.(2021) 「Systematic Review of Sleep Characteristics in Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome」Healthcare (Basel) , 9(5), 568. PubMed PMID: 34065013 ― 本記事での引用箇所:「ME/CFS患者の約91%が熟眠感のない睡眠を報告・マイクロアラウザル指数が全研究で上昇」の根拠(第4節)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・悪化する場合は必ず医療機関にご相談ください。記載された情報は執筆時点のものであり、最新の医療情報については担当医にご確認ください。