ズキズキと脈打つような頭の痛みが数時間から数日続く、光や音が眩しく感じる、天気が変わると頭痛がひどくなる——そのような経験をくり返している方は、片頭痛の可能性があります。片頭痛は「よくある頭痛」とひとくくりにされがちですが、緊張型頭痛とは発生メカニズムも対処法も異なります。この記事では、片頭痛と緊張型頭痛の違い、発作を引き起こしやすい誘因、日常でできる工夫と首まわりの筋膜セルフケア、そして受診を考えるタイミングについて、公的機関・学会の情報をもとに解説します。
片頭痛と緊張型頭痛——どこが違うのか
頭痛には一次性頭痛(原因疾患のない機能性頭痛)と、脳の病気など原因のある二次性頭痛があります。日常でよく経験するのは一次性頭痛で、なかでも頻度が高いのが片頭痛 と緊張型頭痛 です[1] 。
国際頭痛学会(IHS)が定めたICHD-3診断基準[1] によると、片頭痛(前兆なし)の診断には次の特徴が求められます。
発作が4〜72時間持続する
「拍動性(ズキズキ)」「片側性」「中等度〜高度の強さ」「日常動作で増悪」の4項目のうち2項目以上
発作中に「悪心・嘔吐」または「光過敏・音過敏」の少なくとも1つ
一方、緊張型頭痛は「頭を締めつけられる・圧迫される感じ」の非拍動性 の痛みで、通常は両側性 、日常動作によって悪化しないことが多いとされています[2] 。光や音への過敏もあったとしても軽度です。
頭痛の専門家による論文(Lu et al., 2024)では、片頭痛は三叉神経血管系の感作(過敏化)が中心的な役割を果たし、CGRPなどの神経ペプチドが重要とされる一方、緊張型頭痛では頭頸部の筋肉の末梢性感作がより関与すると整理されています[2] 。
なお、片頭痛の約4割の患者さんは両側に痛みを経験することもあり[3] 、「片側でなければ片頭痛でない」とは断言できません。自己判断せず、くり返す頭痛は神経内科・頭痛外来へ相談することが大切です。
図1:片頭痛と緊張型頭痛の主な特徴の比較(ICHD-3診断基準をもとに作図)
片頭痛が起こるしくみ——三叉神経と光・音・気圧への過敏
片頭痛の発作中は、三叉神経と脳の血管系(三叉神経血管系)が活性化・過敏化した状態にあると考えられています。三叉神経が刺激されると炎症性物質が放出され、硬膜(脳を包む膜)周囲の血管が拡張し、拍動に合わせた痛みとして感じられるとされています[2] 。
この過敏化の状態にあるとき、普段は気にならないほどの光・音・においが強烈に辛く感じられます。また、中枢神経が過敏になると皮膚への軽い接触さえも痛みに変わるアロディニア(異痛症)が生じることも報告されています。
気圧変化との関係 については、2011年に木本和人ら(Internal Medicine誌)が日本人患者28名を対象に調査した研究があります[4] 。翌日にかけて気圧が5 hPa以上低下した日に片頭痛発作が増加し、対象者の64%が気象関連発作を経験したとされています。気圧変化が三叉神経核の神経発火を増加させる可能性が動物実験でも示唆されていますが、すべての片頭痛患者が気圧変化に敏感なわけではなく、気圧関連頭痛に対する予防治療の臨床試験は現時点では不十分です[5] 。
前兆(オーラ) がある方は、頭痛の30〜60分前に視野の一部がギラギラ光って欠けるような「閃輝暗点」や、手足のしびれ・言語の乱れが60分以内に現れることがあります。前兆は完全に元に戻るのが特徴です。前兆のない片頭痛の方が多数ですが、前兆があると片頭痛の診断がより明確になります。
図2:片頭痛の発生メカニズムの模式図(Lu et al., 2024 [2]の知見をもとに作図)
発作を引き起こしやすい誘因(トリガー)の種類
片頭痛発作には個人差があり、「何がトリガーになるか」は人によって異なります。ただし、複数の研究で多くの患者さんに共通して報告されているトリガーがあります。
ストレスとその解放 :精神的緊張が続いたときはもちろん、週末や連休にストレスが解放されたタイミングでも発作が起きやすいとされています。「休日頭痛」と呼ばれることもあります。
睡眠の乱れ :寝不足・寝過ぎの両方が誘因になります。毎日同じ時間に就寝・起床し6〜7時間程度の睡眠を確保することが一般的に勧められています[3] 。
女性ホルモンの変化 :月経前後のエストロゲン低下との関連が多くの患者さんで報告されており、片頭痛が女性(特に20〜40代)に多い一因とされています。
気圧・天候の変化 :台風接近・梅雨・急激な気温変化などで発作が増えると感じる方が多くいます。上述の通り、気圧の急落(5 hPa以上の低下)との関連が報告されています[4] 。
飲食物 :アルコール(特に赤ワイン)、カフェインの急な減量、空腹・血糖低下、チョコレートやチーズ、人工甘味料などが挙げられます。ただし、これらは「誘因になることがある」という報告であり、すべての方に当てはまるわけではありません。
光・においの刺激 :強い光(スマートフォン画面・蛍光灯の点滅)や強いにおい(香水・タバコ)が発作のきっかけになることがあります。
「頭痛ダイアリー」をつけて自分のトリガーのパターンを把握することが、発作の予防に役立つと考えられています。日本頭痛学会も頭痛ダイアリーの活用を推奨しています。
発作時と日常でできる一般的な工夫
ここで紹介するのはあくまで一般的な生活の工夫であり、医師の処方薬に代わるものではありません。くり返す頭痛や強い頭痛は医療機関に相談することが大切です。
発作が起きたときの対処の例
暗く静かな場所で横になる :光・音への過敏がある場合、刺激を最小化することで症状の悪化を防ぐ一助になるとされています。
患部を冷やす :こめかみや後頭部を冷たいタオルや氷嚢で冷やすことが、発作時に楽になると感じる方に多く選ばれています。温める・冷やすどちらが合うかは個人差があります。
カフェインの少量摂取 :カフェインには血管収縮作用があり、発作初期に少量のコーヒーや緑茶を摂る方法は一部で知られています。ただし過剰摂取や急な中断はかえって頭痛を招く可能性があります。
市販の鎮痛薬の使用は月10回未満を目安に :市販の鎮痛薬を過剰・頻繁に使用すると「薬剤乱用頭痛(MOH)」を引き起こす可能性があります。使用頻度が増えてきた場合は、医師への相談を検討してください。
日常生活でのコンディション管理の例
規則正しい睡眠リズムを維持する :就寝・起床時間を一定に保つことが一般的に推奨されています。
適度な有酸素運動を習慣にする :定期的な運動(ウォーキングなど)は、ストレス管理と睡眠の質の維持に役立つと考えられています。ただし発作中の強い運動は症状を悪化させることがあります。
水分をこまめに補給する :脱水は頭痛の悪化因子になることがあります。
自分のトリガーを記録する :頭痛ダイアリーアプリなどを活用し、発作の日時・前日の状況・天気などをメモしておくと、医師への情報提供にも役立ちます。
首・肩まわりの筋膜セルフケア——どう関係するか
片頭痛と緊張型頭痛は別の病態ですが、首や肩の筋肉のコリや硬さが頭痛の感じ方に影響する 可能性が注目されています。首肩まわりの筋膜(筋肉を包む結合組織)に硬さや癒着が生じると、後頭部や側頭部への痛みの関連痛(トリガーポイント由来の痛み)が現れることがあります。
2024年に発表されたシステマティックレビュー(Lu et al.)では、緊張型頭痛や頸原性頭痛(cervicogenic headache)に対する筋膜リリース療法が、痛みの強度や生活機能の低下の軽減と関連していた可能性が示されました。片頭痛についても痛み軽減との関連を示した報告はあるものの、エビデンスの質は低〜中程度とされており、より多くの研究が必要です[2] 。
以下は首肩まわりのセルフケアの例です。短期間での変化を保証するものではなく 、これらはあくまで体のこわばりをほぐす一般的な習慣として紹介します。発作中は行わず、安定した時に取り組んでください。
後頭下筋群のやさしいリリース
仰向けに寝て、テニスボール2個をつなげたものや折りたたんだタオルを首の付け根(後頭部の骨と首の筋肉の境目あたり)に当てる。
そのまま体の重みでゆっくり圧をかけ、1〜2分静止する(痛気持ちいい程度の圧で。強い痛みは禁物)。
首をゆっくり上下・左右に動かし、硬さを感じる角度で止める。
肩甲挙筋・僧帽筋のストレッチ
椅子に座り、背筋を軽く伸ばす。
右手を頭頂部にのせ、頭を右斜め前方にゆっくり倒す(左側の首から肩が伸びるのを感じる)。
20〜30秒維持し、反対側も同様に行う。
これらのセルフケアは、継続的な首肩のコンディション管理の一助になる可能性がありますが、頭痛そのものへの効果を保証するものではありません。首や肩の痛みがある場合は、自己判断でケアを続けずに専門家に相談することをお勧めします。
受診を検討したいサイン
頭痛は多くの場合、適切な対処で過ごすことができますが、以下のような場合はすぐに医療機関を受診すること を強くお勧めします。これらは脳出血・くも膜下出血・髄膜炎など、緊急を要する病気の可能性があるサインです。
「今まで経験したことのない激しい頭痛」が突然起きた(雷鳴様頭痛)
頭痛とともに高熱・首のこわばり・意識の混濁が伴う
頭痛と同時に手足のしびれ・麻痺・言語障害・視力障害などの神経症状がある(前兆のある片頭痛の場合も、症状が60分を超えたり麻痺が残ったりする場合は要注意)
50歳以降に初めて起きた頭痛、または頭痛のパターンが急に変わった
頭を打った後から頭痛が続いている
市販の鎮痛薬を月10回以上使うようになってきた
頭痛が週に2〜3回以上あり、生活や仕事に影響が出ている
片頭痛の疑いがある場合は、神経内科・頭痛外来・内科などを受診し、専門医の診断を受けることをお勧めします。適切な診断のもと、予防薬・急性期治療薬の選択など個人に合った対策を相談することができます。
図3:すぐに受診すべきサインと日常ケアの位置づけ整理図
参考文献
Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS)(2018) 「The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition」Cephalalgia . ICHD-3公式サイト ― 本記事での引用箇所:片頭痛(前兆なし)の診断基準(4〜72時間・拍動性・片側性・光音過敏など)の根拠
Lu Z, Zou H, Zhao P, Wang J, Wang R(2024) 「Myofascial Release for the Treatment of Tension-Type, Cervicogenic Headache or Migraine: A Systematic Review and Meta-Analysis」Pain Research and Management . PubMed PMID: 38585645 ― 本記事での引用箇所:片頭痛の三叉神経血管系の機序、緊張型頭痛との病態の違い、筋膜リリースのエビデンス(低〜中程度)の根拠
日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会(監修)(2021) 「頭痛の診療ガイドライン2021」(日本神経学会公式). 日本神経学会サイト ― 本記事での引用箇所:日本における片頭痛の年間有病率8.4%・両側性の割合約4割・睡眠6〜7時間の推奨の根拠
Kimoto K, Aiba S, Takashima R, Suzuki K, Takekawa H, Watanabe Y, Tatsumoto M, Hirata K(2011) 「Influence of barometric pressure in patients with migraine headache」Internal Medicine . PubMed PMID: 21921370 ― 本記事での引用箇所:気圧が5 hPa以上低下した際に片頭痛発作が増加(対象者の64%が気象関連発作を経験)の根拠
Maini K, Schuster NM(2019) 「Headache and Barometric Pressure: a Narrative Review」Current Pain and Headache Reports . PubMed PMID: 31707623 ― 本記事での引用箇所:気圧変化と頭痛の関連は研究により結果が異なり、有効な予防治療の臨床試験は現時点では不十分という根拠
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。頭痛の症状が続く場合、または強い頭痛・普段と異なるパターンの頭痛が生じた場合は、速やかに医療機関にご相談ください。