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男性更年期(LOH症候群)とは?テストステロン低下のしくみとセルフケア

編集:和ごころプロジェクト|公開 2026.07.19編集方針

「なんとなく疲れやすくなった」「やる気がわかない」「夜なかなか眠れない」——40〜60代の男性が抱えるこうした不調は、ストレスや仕事のせいだと片づけられがちです。しかし検査を受けても「異常なし」と言われる場合、その背景に男性更年期(LOH症候群)が関係していることがあります。テストステロンの緩やかな低下が、こころとからだに及ぼす影響について、エビデンスをもとに整理します。

男性更年期(LOH症候群)とはなにか

LOH症候群とは「Late-Onset Hypogonadism(加齢男性性腺機能低下症候群)」の略称です。加齢にともないテストステロン(男性ホルモン)が低下し、さまざまな身体的・精神的症状が現れる病態とされています[1]

女性の更年期が閉経前後の急激なホルモン低下として現れるのと異なり、男性のテストステロンは30〜40代から年に約1〜2%ずつ緩やかに低下していきます[2]。そのため「いつから調子が悪くなったのかわからない」という訴えが多く、受診に至るまでに時間がかかりやすいのが特徴です。

日本メンズヘルス医学会の情報によれば、中高年就労男性の約10%が症状に悩まされているとされ、推定潜在患者数は600万人以上とも言われています[1]。日本人を対象とした調査では、遊離テストステロン値8.5pg/mL未満(境界域以下)に該当する男性の割合が、40代で約10%、50代で約20%、60代で約50%に上るとも報告されています[1]

テストステロンが低下した場合でも、すべての男性に症状が現れるわけではありません。ホルモン値そのものだけでなく、ストレス・睡眠・生活習慣・社会的な役割の変化なども症状の発現に関与すると考えられています。

男性更年期(LOH症候群)の概念図:40〜60代にかけてテストステロンが緩やかに低下していくイメージ
図1:男性のテストステロンは30代から緩やかに低下し始め、50〜60代にかけて症状が現れやすくなります

症状の全体像:こころ・からだ・性機能の3つの領域

LOH症候群の症状は大きく「精神・心理症状」「身体症状」「性機能症状」の3領域に分類されます[1][3]。これらが複合して現れることが多く、症状の幅が広いために「単なる疲れ」「うつ病」「自律神経の乱れ」と見誤られることもあります。

  • 精神・心理症状:気力・意欲の低下、集中力の低下、イライラ・短気、不安感、気分の落ち込み(抑うつ気分)、記憶力の低下
  • 身体症状:疲労感・倦怠感(からだが重い感覚)、ほてり・発汗(ホットフラッシュ)、動悸、関節・筋肉の痛み、筋力低下、内臓脂肪の増加、骨密度の低下、不眠・睡眠の質の低下
  • 性機能症状:性欲の低下、勃起障害(ED)、射精感の変化

LOH症候群の症状評価には、国際的に「AMS(Aging Males' Symptoms)スコア」という17項目の自己評価式の質問紙が広く用いられています[3]。このスコアは精神的・心理的な側面、身体的な側面、性機能の3領域を網羅しており、26点以下が正常、37点以上で中等度、50点以上が重度とされています。LOH外来を受診した患者の約40%が、来院前にメンタルヘルス(精神科・心療内科)に相談した経験があると報告されており[3]、精神症状との重複が多い点を示しています。

60代の日本人男性ではEDの有病率が60%以上に上るという報告もあります[4]。ただし、EDには糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病が関与する場合も多く、テストステロン低下だけが原因とは限りません。

なぜテストステロンが下がると不調が起きるのか:メカニズムと関連疾患リスク

テストステロンは精巣(ライディッヒ細胞)で合成され、筋肉の維持・骨密度の保持・赤血球産生・性機能・気分・認知機能などに広く関与します。加齢とともに視床下部—下垂体—性腺軸(HPG軸)の機能が変化し、テストステロン分泌量が低下していくとされています[3]

テストステロンが低下した状態が続くと、以下のような変化が起こりやすいと考えられています。

  • 内臓脂肪の増加・筋肉量の低下:テストステロンはタンパク質同化(筋肉づくり)に関わるため、低下すると除脂肪体重が減少し相対的に体脂肪割合が増えやすくなります
  • インスリン抵抗性との関連:内臓脂肪増加とテストステロン低下は相互に悪化させ合う可能性が指摘されており、メタボリックシンドロームや2型糖尿病との関連が報告されています
  • 骨密度の低下:テストステロンは直接的・あるいはエストラジオールへの変換を介して骨代謝を維持する役割を担うとされています
  • 気分・認知機能への影響:テストステロン受容体は脳(前頭前野・辺縁系など)にも存在し、意欲・注意・気分調節に関与すると考えられています

ただし、テストステロン値が低いからといって必ず症状が出るわけではなく、症状があっても他の疾患(甲状腺機能低下症、うつ病、睡眠時無呼吸症候群など)が原因のこともあります。症状と検査値の両面から評価することが重要です[3]

日本人男性を対象とした調査における年代別テストステロン低下の割合:40代10%・50代20%・60代50%の棒グラフ
図2:年代別にみた遊離テストステロン境界域以下の割合(日本メンズヘルス医学会のデータをもとに作図[1]

生活習慣でできるセルフケア:運動・食事・睡眠のエビデンス

LOH症候群への対応として、まず基礎として重要なのが生活習慣の見直しです。テストステロン分泌に影響することが報告されている3つの柱——運動・食事(亜鉛摂取)・睡眠について、エビデンスとともに整理します。

1. 運動:特に筋トレ(レジスタンス運動)

複数の研究から、レジスタンス運動(筋力トレーニング)は運動後の急性的なテストステロン上昇をもたらすことが報告されています[5]。特に、大きな筋群を使う複合動作(スクワット・デッドリフトなど)で効果が出やすく、マシントレーニングより自由重量トレーニングの方が運動直後のテストステロン上昇が大きいとされています[5]

ただし「安静時の基礎テストステロン値」を長期的に大きく引き上げる効果については、現状の研究では一定の見解が得られておらず、肥満のある方では有酸素運動も含めたトレーニングで改善がみられる場合があるとされています[5]。即効性を保証するものではなく、継続的な運動習慣が心身機能を維持する土台と位置づけることが実態に合っています。週2〜3回程度のレジスタンス運動を無理のない強度で続けることが推奨されています。

2. 食事:亜鉛の摂取

亜鉛はテストステロンの合成に関わる酵素の補因子として機能するとされており、亜鉛欠乏状態ではテストステロン値の低下が生じる可能性が指摘されています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2025年版」によれば、成人男性(30〜64歳)の亜鉛推奨摂取量は1日9.5mgとされています[6]。令和4年国民健康・栄養調査では、成人男性の平均亜鉛摂取量は約9.1mgとされており、推奨量に届いていないケースがあることが示唆されています。

亜鉛が豊富な食品の例としては、牡蠣(100gあたり約14.0mg)、豚レバー(6.9mg)、かたくちいわし(7.9mg)、かぼちゃの種(7.7mg)などが挙げられます[6]。既に十分な亜鉛摂取ができている方がサプリメントを追加してもテストステロンが大幅に変化するとは限らず、食事全体のバランスを整えることが基本です。

3. 睡眠:量と質が重要

睡眠とテストステロンの関係を調べた研究(Leproult & Van Cauter, 2011; JAMA)では、健康な若い男性が1週間にわたり睡眠を5時間に制限したところ、日中のテストステロン値が10〜15%低下することが確認されました[2]。これは加齢による年間1〜2%の低下をはるかに上回る数値です[2]

テストステロンの分泌は睡眠(特にノンレム睡眠)と連動しており、睡眠の量と質を整えることがホルモン環境の維持に寄与するとされています。就寝時間・起床時間を一定にし、7時間前後の睡眠を確保することが基本とされています。スマートフォンの使用制限・寝室の暗さと温度の管理なども睡眠環境の整備として有用とされています。

診断・受診の流れ:どこに行けばよいか

LOH症候群の診断は、症状の評価(AMSスコア等)血液検査によるテストステロン値の測定を組み合わせて行われます。日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会が定めた診療の手引きでは、遊離テストステロン(FT)値8.5pg/mL未満を治療介入の目安の一つとしています[1][3]

ただし2022年改訂のガイドラインでは、テストステロン値だけでなく症状の存在を重視した柔軟な診断基準が推奨されています[7]。血液検査の値が基準以内であっても、症状が明らかであれば治療対象となる場合があります。

受診先としては以下が挙げられます。

  • 泌尿器科:LOH症候群の診断・テストステロン補充療法(TRT)が行われる中心的な窓口。注射剤(エナント酸テストステロン)は日本では保険適用あり。
  • メンズヘルス外来・男性更年期外来:総合内科・内分泌内科・泌尿器科が連携して診ることが多い。大学病院や専門クリニックに設置されています。
  • 内分泌内科:原発性の性腺機能低下症(精巣・下垂体の疾患)が疑われる場合。
  • 心療内科・精神科:精神症状が前景に出ている場合。LOHとうつ病の鑑別は難しく、協力して診るケースもあります。

テストステロン補充療法(TRT)は、症状があり検査値が低い場合に選択肢の一つとなります。日本人LOH患者にTRTを実施した研究では、治療を受けた患者の約80%が症状の改善を示したと報告されています[7]。ただしTRTには前立腺への影響・多血症などの副作用リスクもあるため、定期的なモニタリングが必要です。また、近親者に前立腺がんや乳がんのある方、多血症の方などは適応を慎重に判断する必要があります。TRTの開始・継続は医師の判断のもとで行われるものです。

なお、女性の更年期障害について詳しく知りたい方は、関連記事「女性の更年期障害:ホットフラッシュから心の不調まで、からだのしくみとセルフケア」もあわせてご覧ください。

受診を検討したいサイン

以下のような状態が続く場合は、医療機関への受診を検討することをお勧めします。自己判断で放置せず、専門家に相談することが大切です。

  • 強い疲労感・倦怠感が2〜4週間以上続いている
  • 意欲・気力がまったく湧かず、以前楽しめていたことに興味がもてない
  • 気分の落ち込みや不安感が日常生活に支障をきたしている
  • 睡眠障害(入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒)が慢性化している
  • EDが続いており、パートナーや生活の質に影響している
  • ほてり・発汗・動悸が繰り返し起こる
  • 短期間で筋力が著しく落ちた・体重が増えた
  • 骨折しやすくなった、腰背部痛が続く
  • 自傷・希死念慮など精神症状が強い場合は、すみやかに精神科・心療内科または救急に
男性更年期セルフケアと受診目安の整理図:運動・食事・睡眠の3本柱と、症状が続く場合は泌尿器科やメンズヘルス外来へ
図3:セルフケア(運動・食事・睡眠)と受診目安の整理。症状が2〜4週間以上続く場合は専門家に相談を。

参考文献

  1. 日本メンズヘルス医学会(2024)「LOH症候群・男性更年期とは」日本メンズヘルス医学会公式サイト. https://jsmh.jp/loh/
    ― 本記事での引用箇所:LOH症候群の定義・有病率(潜在患者600万人・40代10%・50代20%・60代50%の年代別テストステロン低下割合)
  2. Leproult R, Van Cauter E(2011)「Effect of 1 Week of Sleep Restriction on Testosterone Levels in Young Healthy Men」JAMA 305(21):2173–2174. PMC4445839
    ― 本記事での引用箇所:1週間の睡眠制限(5時間/夜)でテストステロンが10〜15%低下。加齢による年間1〜2%の低下との比較。
  3. Nakagawa H et al.(2025)「Late-onset hypogonadism: current methods of clinical diagnosis and treatment in Japan」PMC PMCID: PMC12279357. PMC12279357
    ― 本記事での引用箇所:AMSスコアの概要・LOHクリニック患者の約40%がメンタルヘルス相談経験あり・症状3領域の分類・日本のガイドラインにおける遊離テストステロン診断基準。
  4. 日本内分泌学会(2024)「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」日本内分泌学会公式サイト(患者向け情報). https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71
    ― 本記事での引用箇所:60代日本人男性のED有病率60%以上。
  5. Vingren JL et al.(2010)「Testosterone physiology in resistance exercise and training: the up-stream regulatory elements」Sports Medicine 40(12):1037–1053. Various Factors May Modulate the Effect of Exercise on Testosterone Levels in Men. PMC7739287
    ― 本記事での引用箇所:レジスタンス運動後の急性テストステロン上昇。自由重量vs.マシンの比較。肥満例での有酸素運動の効果。
  6. 厚生労働省(2024)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html;亜鉛の解説は健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-zn-cu.html
    ― 本記事での引用箇所:成人男性(30〜64歳)の亜鉛推奨量9.5mg/日。亜鉛の食品含有量(牡蠣・豚レバー等)。
  7. Shiratsuchi T et al.(2023)「Predictive factors for efficacy of testosterone replacement therapy for late-onset hypogonadism in Japanese men: a preliminary report」Asian Journal of Andrology 25(5):587–590. PMID: 37147941. PMC10521961
    ― 本記事での引用箇所:TRT対象患者の約80%が症状改善を示したと報告。T/E2比が治療反応性の独立予測因子。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。LOH症候群は他の疾患との鑑別が必要な場合があります。症状が続く・日常生活に支障がある場合は、泌尿器科・メンズヘルス外来などの医療機関にご相談ください。

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