障害年金とは何か — 病気やケガで働けなくなった人を支える公的制度
佐藤
ちょっと聞いてほしいんですけど、知り合いが長期入院することになって、「障害年金」を申請したほうがいいって言われたらしいんです。障害年金って、障害者手帳がないともらえないんですよね?
室谷
ほんとに? それ、かなり誤解されてる話で。障害年金と障害者手帳はまったく別の制度なんですよ。障害者手帳を持ってなくても申請できるし、逆に手帳を持っていても障害年金の審査に落ちることもある。審査の基準がそれぞれ独立してるんです(笑)
佐藤
えっ、全然別物なんですか! じゃあ障害年金って、そもそもどんな人が対象になるんですか?
室谷
ざっくり言うと、「病気やケガのせいで生活や仕事が著しく制限される状態」にある人です。身体の障害だけじゃなくて、精神疾患(うつ病・統合失調症・双極性障害など)、内部疾患(心疾患・腎疾患・糖尿病の合併症など)も対象になります。現役世代の方でも受け取れる年金なので、老後だけの制度という思い込みは捨てたほうがいいですね。
佐藤
なるほど、うつ病とかでも受け取れるんですね。制度の種類としては一種類だけですか?
室谷
いや、大きく2つに分かれます。「障害基礎年金」と「障害厚生年金」です。どちらに該当するかは、最初に医師の診療を受けた日(これを「初診日」と言います)に、どの年金制度に加入していたかで決まります。

佐藤
「初診日に加入していた年金」で決まる、というのが大事なんですね。
室谷
そこが一番重要なポイントです。たとえばサラリーマンで厚生年金に加入中に発症した場合は「障害厚生年金」、フリーランスや学生で国民年金の期間に発症した場合は「障害基礎年金」の対象になります。厚生年金加入者は、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金ももらえる仕組みなので、受給額が手厚くなります。
障害基礎年金 — 国民年金に加入していた人が対象
佐藤
障害基礎年金のほうから詳しく聞かせてください。どんな要件がありますか?
室谷
障害基礎年金を受けるには、3つの要件を全部クリアする必要があります。
佐藤
「初診日から1年6ヶ月後」が障害認定日、っていうのが聞き慣れない言葉ですね。
室谷
ここ、みなさんつまずくんですよ(笑) たとえば2024年4月1日に初めて医師の診察を受けたとすると、障害認定日は2025年10月1日になります。ただし例外もあって、脳卒中などで症状が固定した場合は1年6ヶ月を待たずに認定日が早まることもあります。
佐藤
保険料の「3分の2以上」というのは、ざっくりどのくらいの期間ですか?
室谷
たとえば30歳の方なら、20歳から30歳の10年間(120ヶ月)のうち、80ヶ月以上納付または免除されていれば大丈夫です。ただし、令和18年3月末日までに初診日がある方については特例があって、初診日が65歳未満であれば、直近1年間に未納がなければOKというルールも使えます。未納が多くて不安な方は、まず年金事務所に相談してみてください。
佐藤
20歳前に発症した場合はどうなりますか?
室谷
20歳前の年金未加入期間に初診日がある場合は、保険料の納付要件が不要になります。ただし所得制限があって、本人の所得が一定額を超えると年金が全額または半額支給停止になります。ここは少し複雑なので、詳しくは市区町村か年金事務所に確認してほしいですね。
障害基礎年金の金額 — 令和8年4月以降の年金額
佐藤
実際にどのくらいの金額がもらえるんですか?
室谷
令和8年4月分からの年金額は以下のとおりです。
| 等級 | 生年月日 | 年間受給額 |
|---|---|---|
| 1級 | 昭和31年4月2日以後生まれ | 1,059,125円 + 子の加算 |
| 1級 | 昭和31年4月1日以前生まれ | 1,056,125円 + 子の加算 |
| 2級 | 昭和31年4月2日以後生まれ | 847,300円 + 子の加算 |
| 2級 | 昭和31年4月1日以前生まれ | 844,900円 + 子の加算 |
| 子の人数 | 加算額(1人あたり) |
|---|---|
| 2人まで | 243,800円 |
| 3人目以降 | 81,300円 |
佐藤
年間100万円前後なんですね。子どもがいる場合はさらに加算があると。
室谷
そうです。子の加算は、生計を維持している子(18歳に達した年度末まで、または20歳未満で障害等級1・2級の子)がいる場合に加算されます。月換算すると、2級でざっくり7万円ほど。多くの方にとって生活費の一部を補う大きな支えになります。
:::pointbox{title="障害等級1級・2級の状態とは?"}
- 1級: 他人の介助なしでは日常生活がほとんどできない状態。活動範囲がベッド周辺に限られる方など
- 2級: 日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得られないほどの状態。家屋内・病院内に活動範囲が限られる方など :::
佐藤
なるほど。では障害厚生年金の話も聞かせてください。
障害厚生年金 — 厚生年金加入者はさらに上乗せがある
佐藤
障害厚生年金は障害基礎年金とどう違うんですか?
室谷
一番大きな違いは「3級」と「障害手当金」の存在です。障害基礎年金は1級・2級しかないんですが、障害厚生年金には3級まであります。2級より軽い障害でも受け取れる可能性があるので、厚生年金加入者のほうが間口が広いんです。
佐藤
3級ってどのくらいの状態ですか?
室谷
「労働が著しく制限される、または労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態」です。日常生活にはほとんど支障がないけれど、仕事については制限がある方が3級に相当します。たとえば、軽い心臓疾患や腎疾患でフルタイム就労が難しい状態などがイメージしやすいですね。
佐藤
「障害手当金」というのも出てきましたが、これは何ですか?
室谷
障害手当金は、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときに受け取れる一時金です。年金ではなく一度きりの支給です。
佐藤
障害厚生年金の年金額はどうなっていますか?
室谷
障害厚生年金は、在職中の給与をもとにした「報酬比例の年金額」が基準になります。
| 等級 | 年金額の計算式 |
|---|---|
| 1級 | 報酬比例の年金額 × 1.25 + 配偶者加給年金額(243,800円) |
| 2級 | 報酬比例の年金額 + 配偶者加給年金額(243,800円) |
| 3級 | 報酬比例の年金額(最低保障額あり) |
3級の最低保障額は、昭和31年4月2日以後生まれで635,500円(昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)です(令和8年4月分から)。
佐藤
1級・2級の人は障害基礎年金と障害厚生年金の両方がもらえるんですよね?
室谷
そのとおりです! ですから厚生年金に加入中に発症した1級の方は、障害基礎年金(約106万円)+ 障害厚生年金(報酬比例×1.25+加給年金)を合算した金額を受け取れます。特に在職中に発症した場合、受給額はかなり手厚くなります。
:::warning{title="制度は改正されることがあります"} 年金額は毎年度改定されます。このページの金額は令和8年4月分からの数値です。最新の金額は日本年金機構の公式サイトで必ずご確認ください。また、制度の要件も法改正によって変わる場合があります。 :::
申請要件の確認 — 保険料納付状況が鍵
佐藤
申請要件で大事な「保険料の納付要件」について、もう少し丁寧に教えてもらえますか?
室谷
保険料納付要件は、障害基礎年金も障害厚生年金も同じルールが適用されます。2つのどちらかを満たせばOKです。
| 確認方法 | 条件 |
|---|---|
| 原則(3分の2要件) | 初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間のうち、保険料納付済+免除期間が3分の2以上 |
| 特例(直近1年要件) | 初診日が65歳未満で、かつ令和18年3月末日までにある場合、直近1年間に未納がない |
佐藤
「初診日の前日」時点で判定するというのが面白いですね。初診日当日ではないんですか?
室谷
そこが重要なんです。初診日の前日の時点で要件を判定するので、初診を受けた後あわてて保険料を納めても遅い。逆に言えば、日頃から保険料をきちんと納めておくことが、いざというときの備えになります。
佐藤
未納が多い場合はどうすれば?
室谷
現時点で未納がある方は、今からでも納付・免除申請を進めておくことが大事です。将来に初診日が来たとき(まだ発症していない場合)に要件を満たせるよう、年金事務所に相談するのがベストですね。
申請の流れ — 窓口はどこ?何が必要?
佐藤
実際に申請するにはどうすればいいですか?
室谷
ステップを整理しますね。

佐藤
診断書は「所定の様式」があるんですね。医師に何でもいいから書いてもらえばいいわけじゃないんですか?
室谷
残念ながらそうじゃないんです(笑) 障害の種類ごとに専用の診断書様式があります。たとえば精神疾患用、肢体の障害用、心臓・腎臓・呼吸器疾患用などが別々にあって、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。医師に「障害年金用の診断書を書いてほしい」と伝えて、正しい様式で書いてもらうことが大事です。
佐藤
「受診状況等証明書」というのも初めて聞きました。
室谷
これは、最初にかかった病院と現在の診断書を書いてもらう病院が違う場合に必要になります。「この日に初めて診察を受けましたよ」という証明書で、初診病院に発行してもらいます。転院していたり、初診からだいぶ経っている場合は必ず確認してください。
:::pointbox{title="申請のポイント — 見落としやすい点"}
- 診断書は障害認定日から3ヶ月以内の現症のもの(遡及請求の場合は障害認定日当時のものが別途必要)
- 障害認定日から1年以上経って請求する場合は、直近3ヶ月以内の診断書も追加で必要
- マイナンバーを年金請求書に記入することで、戸籍謄本や住民票の添付が原則不要になる
- 提出した書類は審査に3ヶ月以上かかる場合もある :::
佐藤
遡って申請することもできるんですか?
室谷
できます。これを「遡及請求(そきゅうせいきゅう)」と言います。障害認定日から申請が遅れた場合でも、障害認定日の翌月分から受け取れます。ただし時効が5年間なので、それより前の分はもらえません。気づいたときにできるだけ早く申請するのが大事です。
年金受給後の注意点 — 更新と停止・失権
佐藤
障害年金ってずっともらい続けられるんですか?
室谷
障害の状態によります。障害年金には「永久認定」と「有期認定」の2種類があります。症状が固定していて改善が見込めない場合は永久認定になることがありますが、多くの場合は1〜5年ごとに「障害状態確認届(診断書)」を提出して更新します。
佐藤
更新のタイミングを忘れたらどうなるんですか?
室谷
提出が遅れると支払いが一時停止されます。提出忘れは絶対避けてほしい。日本年金機構から封書が来るので、届いたら必ず確認してください。
佐藤
受給中に働いてもいいんですか?
室谷
原則として就労は制限されていませんが、更新時の障害状態の評価に影響します。特に精神疾患で受給している場合、就労が「症状の改善」とみなされて等級が下がったり、支給停止になるケースがあります。就労状況の変化があれば、必ず主治医や年金事務所に相談することをお勧めします。
:::warning{title="20歳前障害基礎年金には所得制限があります"} 20歳前の傷病による障害基礎年金には所得制限が設けられています。本人の前年所得が一定額を超えると、全額停止または半額停止になります。受給中でも毎年所得を確認することが必要です。詳細は日本年金機構の公式サイトをご確認ください。 :::
障害年金の受給後 — 国民年金保険料の免除
佐藤
受給が決まったあとに何か手続きはありますか?
室谷
重要な手続きが1つあります。障害基礎年金(1級・2級)または障害厚生年金(1級・2級)を受ける方は、国民年金保険料が法定免除になります。
佐藤
自動的に免除されるわけじゃないんですか?
室谷
自動ではないんです。国民年金第1号被保険者の方は、年金証書が届いたら市区役所または町村役場の窓口に相談する必要があります。これをやっておかないと保険料の請求が続いてしまうので、忘れずに手続きしてください。
佐藤
なるほど! では申請から受給まで全体の流れを最後にまとめてもらえますか?
室谷
ここまでのポイントをまとめると、「初診日の確認 → 障害認定日の確認 → 保険料要件の確認 → 書類収集 → 窓口提出 → 審査 → 年金証書到達」という流れです。早めに動くほど遡及受給の可能性も広がりますし、書類収集には時間がかかることも多い。まず最寄りの年金事務所か市区町村の窓口に相談するのが一番の近道です。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金) |
| 実施機関 | 日本年金機構 |
| 対象者 | 病気やケガにより障害等級1〜3級(種別による)に該当する方 |
| 支給額 | 障害基礎年金 - 1級 約105〜106万円、2級 約84〜85万円 / 年(令和8年4月〜) |
| 申請先 | 障害基礎年金 - 住所地の市区町村役場、障害厚生年金 - 年金事務所 |
| 問い合わせ先 | ねんきんダイヤル 0570-05-1165(平日 月〜金 8時30分〜17時15分) |
| 公式サイト | 日本年金機構 障害年金 |
よくある質問
佐藤
最後にいくつかよくある疑問を聞かせてください。まず、精神疾患でも申請できますか?
室谷
できます。うつ病・統合失調症・双極性障害・発達障害・知的障害なども対象です。診断書も精神疾患用の専用様式があります。ただし精神疾患は症状の変動が大きいため、審査において日常生活能力の評価が重視されます。
佐藤
働きながらでも申請できますか?
室谷
就労の有無だけで受給資格が決まるわけではありません。障害の状態が等級に該当すれば申請できます。ただし就労状況は審査に影響する場合があるので、申請前に年金事務所へ相談しておくと安心です。
佐藤
国民年金保険料を全然払ってこなかった場合は?
室谷
保険料の納付要件を満たさない場合は、残念ながら受給資格がありません。ただし、20歳前の傷病が原因の場合は納付要件が不要です。また、免除を受けていた期間は「免除済み」として納付要件の計算に含まれるので、未納と免除は全く違います。困っている方は免除申請を積極的に活用してください。
佐藤
請求から支給まで、どのくらい時間がかかりますか?
室谷
概ね3〜6ヶ月程度が目安です。書類の不備があるとさらに時間がかかります。書類を丁寧に準備して、一度で完備した状態で提出するのが時間短縮のコツです。社会保険労務士に依頼すると書類作成のサポートが受けられますよ。
関連リンク・書類
| 書類・リンク | URL |
|---|---|
| 障害年金 公式ページ(日本年金機構) | https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html |
| 障害基礎年金の受給要件・年金額 | https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html |
| 障害厚生年金の受給要件・年金額 | https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html |
| 年金請求書ダウンロード(障害基礎年金) | https://www.nenkin.go.jp/shinsei/jukyu/shougai/20180305.html |
| 障害年金の診断書様式 | https://www.nenkin.go.jp/shinsei/jukyu/shougai/shindansho/index.html |
| ねんきんダイヤル | 0570-05-1165(平日8時30分〜17時15分) |